Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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今回も隼翼(しゅんすけ)視点です。


Another Episode2

 暖かな春の日差しが差し込む一面ガラス張りの窓辺の席に座って、窓の外に広がる景色を眺める。時折春の風の吹かれて、薄紅色の桜の花びらが空に舞う。

 

隼翼(しゅんすけ)、そろそろ時間だ」

「そうか。じゃあ行くか」

 

 生徒会室を出て、呼びに来た熊耳(くまがみ)と共に講堂へ向かう。

 

「なあ。お前はどうして、星ノ海学園へ来たんだ」

「今さらだな」

 

 本当に今さらだ。

 あの日、全ての能力者が消えた日、近いうちに星ノ海学園へ転校することを、熊耳(くまがみ)たちに告げた。当然のことながら理由を問われたが、俺は答えを濁した。星ノ海学園を買収し、俺を新生徒会長に任命した、理事長の願いでもあったから。

 

乙坂(おとさか)くん。キミに、もうひとつ頼みたいことがある。彼女の、友利(ともり)奈緒(なお)さんのことなのだが」

 

 そうだ。目が見えなかったから探せなかったけど、今なら探せる。まずは帰って、有宇(ゆう)の記憶を呼び覚まして――。

 

「彼女のことだが。今は、そっとしておいてあげて欲しい」

「それは......探すな、と言うことですか?」

「うむ。実のところ所在は判っている。だがこれは、彼の願いでもあるんだ」

宮瀬(みやせ)の願い......ですか?」

 

 中庭へ顔を向けた理事長の横顔は、どこか愁いを帯びていた。

 

「本来過ごせていたであろう日々を生きて欲しい、と願っていた。あまり口にしたくはないが、彼は危険な道を歩いている。それこそ、死と隣り合わせの茨の道だ」

 

 もしものことも――と言うこと。そうだよな。もし最悪の事態になれば、心に深い傷を残すことになる。知らない方が幸せなこともあるのかも知れない。俺が、有宇(ゆう)歩未(あゆみ)を遠ざけたように。

 理事長の言葉に共感した俺は、熊耳(くまがみ)たちへの返答を濁した。前世では俺と同じく、前泊(まえどまり)の記憶操作で家族との関係を断ち切って付いてきたくれたみんなにも、本来過ごせていたであろう日々を送って欲しかったからだ。

 それなのに、熊耳(くまがみ)だけじゃなく目時(めどき)たちも星ノ海学園への進学を決めた。

 

「あの時のお前の目は、俺たちを導いてくれた時と同じ。決意に満ちた目をしていた。だから今度は、手助けをしたいと思った。きっと、目時(めどき)たちも同じ想いだったんだろう」

 

 ――ったく、ほんと最高だな、コイツらは......。

 想えば本当に険しい道だった。特殊能力による力業が使えないことが、あんなにも厳しいことだったなんて、失って初めて知った。本当に特別なチカラだったんだと。それでも熊耳(くまがみ)たちの協力もあって、ここまで辿り着けた。

 

「痛いぞ。突然叩くな......」

「あっはっは、急ぐぞ、プー!」

「まったく、ゲンキンなヤツだな」

 

 そう。なんてたって今日は、星ノ海学園の入学式。

 転校してからの悪戦苦闘の日々を振り返りながら、廊下を入学式が行われる講堂へと向かう。

 講堂の中は、真新しい制服に袖を通した新入生たちが集まっていた。所定の位置に着き、式が始まるのを待つ。新入生の中に弟の有宇(ゆう)を見つけた。向こうも俺に気づいた。軽く手を上げて合図を送ると、ちょっと恥ずかしげに目をそらした。やれやれつれないな、これが思春期ってやつか。兄さんちょっと悲しいぞ? なんてことを冗談交じりを思っていると、司会を務める目時(めどき)がマイクの前に立った。

 

『間もなく星ノ海学園高等部の入学式を行います。新入生ならびに関係者の方々は、着席してお待ちください』

 

 話し声で騒がしかった講堂は徐々に鎮まり、いよいよい入学式が開会。理事長の祝辞から始まり、俺の出番を迎える。

 

『続きまして、生徒会長挨拶。乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)さん、お願いします』

 

 席を立ち、壇上へ上がる。

 

『新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。星ノ海学園生徒会長の乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)です』

 

 決まり文句の祝辞を述べながら、新入生たちを見回す。

 前日に確認した新入生の名簿に載っていなかったのだから、入学式(ここ)に居るはずがない。そもそも顔も分からないしな。出そうになったタメ息を堪え、生徒会長の役目を果たした俺は、壇上を降りて元の席に着いた。

 

『生徒会長ありがとうございました。続きまして――』

 

 その後入学式は滞りなく進行し無事に終えた。

 講堂を出ていった新入生たちを見送って、生徒会室へ戻る。

 

「ふぅ」

 

 席に着き、一息つく。

 

「おつかれ。ほら」

「お、サンキュー」

 

 いつかと同じように、安っぽい缶コーヒーを差し入れてくれた。生徒会室中央のテーブルへ移動し、向か合う形で座る。

 

七野(しちの)たちは?」

「式の後片付けだ」

「そっか、それはまたご苦労だな。あ、悪い、電話だ」

 

 マナーモードにしておいたスマホがテーブルの上で振動した。缶コーヒーを置いて、代わりにスマホを持つ。発信者は――理事長だった。

 

「はい。乙坂(おとさか)です」

乙坂(おとさか)くん。今、大丈夫かい?』

 

 電話に出た時点で大丈夫なのは判っているけど、一応の確認。世間で一般で言うところの社交辞令というやつだ。

 

「はい、大丈夫です」

『それは、よかった。式はどうだったかね? 挨拶のあとすぐに外へ出なければならなかったから少し気になってね』

「滞りなく終了しました。ご心配なく」

『そうか、優秀な生徒会役員たちのおかげで安心だ。しかし、夜空にも夏の星座が見えるようになったが、いささか寒さは残る。体調には気をつけるように、と』

「......判りました、伝えておきます」

 

 スマホをしまって、立ち上がる。

 

「理事長か?」

「ああ。ねぎらいの言葉と、季節の変わり目だから体調に気をつけろってさ。さてと、有宇(ゆう)に用件を伝えに行ってくるか、生徒会室(ここ)は任せる」

「ああ、わかった」

 

 留守にする生徒会室は熊耳(くまがみ)に任せて、有宇(ゆう)の教室へ向かう。

 今の電話は、ただの業務連絡ではない。話題にあった星座は、理事長と決めたキーワード。星ノ海学園だから「星」。まあ、単純な理由だ。夏の星座......つまり、夏頃に帰国の目処が立ったってこと。合わせて俺の行動にも制限が外れたことを意味する。これで本格的に動くことが出来る。急がないとな。

 有宇(ゆう)に用件を伝えるため教室に入ると、異様に騒がしい......というより、ただならぬ熱気で満ちている。何ごとかと思ったら、窓側前方の席に人だかりが出来ていた。理由は気にはなるが、今は用事を優先。人だかりの対角廊下側後方の席へ。

 

有宇(ゆう)、ちょっといいか?」

「あ、兄さん。どうしたの?」

「HRが終わったら、生徒会室へ来てくれ」

「生徒会室に? わかった」

「ところで、これは何の騒ぎなんだ?」

「同じクラスに現役の人気アイドルがいたんだよ。ほら、歩未(あゆみ)が好きなバンドの」

「あぁ~」

 

 騒ぎの中心は、黒羽(くろばね)柚咲(ゆさ)。新入生の名簿の中にいたのを思い出した。騒ぎの理由も納得。「じゃあ、生徒会室で待ってる」と、有宇(ゆう)に念を押して生徒会室に戻り。そして放課後、生徒会室の扉をノックする音が鳴った。

 

「来たか、どうぞ」

「失礼します......」

 

 やや控えめ声と共に扉が開き、有宇(ゆう)が姿を見せた。

 

「よく来てくれたな、有宇(ゆう)

「兄さん、何の用?」

「それはな、有宇(ゆう)。今日からお前には、生徒会の仕事を手伝ってもらうことにした」

「――はあ?」

 

 有宇(ゆう)は、まるで鳩が豆鉄砲でも食ったように目を丸くした。

 

「おい、弟! 次は、これを運べ!」

「は、はいっ!」

 

 資料の束を両手に抱えて走り回る有宇(ゆう)

 

「おい隼翼(しゅんすけ)七野(しちの)のヤツ、お前の弟にパワハラしてるぞ?」

有宇(ゆう)くん、かわいそ~」

「いいんだよ、これでな」

「お茶を入れておきますね」

「ああ、頼むよ前泊(まえどまり)

 

 そう、これでいい。実績を作るには、これが一番手っ取り早い。有宇(ゆう)のことは七野(しちの)に任せて、俺は俺のすべきことをするとしよう。

 

「お帰りなさいませー! (しゅん)お兄ちゃん、有宇(ゆう)お兄ちゃんっ!」

 

 中等部の制服の上にクリーム色のエプロンを着た歩未(あゆみ)が、玄関まで出迎えてくれた。

 

「ただいま、歩未(あゆみ)

「えへへ~」

 

 頭を撫でてやると、歩未(あゆみ)は少しくすぐったそうに笑う。

 

「......た、ただいま」

「って、わっ! 有宇(ゆう)お兄ちゃん、どうしたのでしょーか!?」

 

 ボロボロに疲れきっている有宇(ゆう)を見て、歩未(あゆみ)は心配そうに慌てだしてしまった。

 

「......なんでもない」

有宇(ゆう)には、生徒会に所属してもらうことになったんだ」

「えっ!?」

有宇(ゆう)お兄ちゃんも生徒会に入るのっ?」

「ええっ? いや、そんな話しは......」

「しかも次期会長候補だ。スゴいだろ?」

「はあッ!?」

「それは、とてつもなくスゴいことなのですー!」

「ちょっと待ってー!」

 

 全力で抗議をした有宇(ゆう)だったが、生徒会に所属していれば遅刻や早退をしても内申書に響かないことを話すと、まんざらでもなさそうだった。我が弟ながらチョロいな。ちょっと心配だぞ、有宇(ゆう)

 そんなこんなで、入学式から約二ヶ月経った放課後。

 

「――ということで今日から、こいつらが生徒会の手伝いをしてくれることになった」

 

 有宇(ゆう)は、男女合わせて三人の生徒を連れて生徒会室へやって来た。

 

黒羽(くろばね)柚咲(ゆさ)です、お世話になりまーすっ」

高城(たかじょう)丈士郎(じょうしろう)です」

「なんであたしまで......」

「お姉ちゃん?」

「ちっ。美砂(みさ)......黒羽(くろばね)美砂(みさ)だ」

 

 さすが有宇(ゆう)だな。これから忙しくなるから手伝いを連れてきてくれ、と言ったらピンポイントで旧生徒会役員たちを連れてきてくれた。

 

「三人ともよく来てくれた、助かるよ。俺は、有宇(ゆう)の兄の乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)......って知ってるよな。二人は姉妹でいいんだよな?」

 

「はいっ」と姉妹の妹で、現役の人気アイドルの柚咲(ゆさ)の方が眩しい笑顔で答えてくれた。

 

「オーケー。それじゃあ熊耳(くまがみ)、あとは任せる。俺は理事長室に居るから、何か問題があれば連絡をくれ」

「ああ」

 

 熊耳(くまがみ)にこの場を任せ、理事長室へ向かう。

 理事長室に到着。ノックもせずに中に入る。理事長室の中は誰もいない、もぬけの殻だ。

 

「さてと、始めるか......」

 

 事前に用意したメモを手に、とある場所へ電話をかけた。

 

 

           * * *

 

 

 黒羽(くろばね)姉妹と高城(たかじょう)が、生徒会の手伝いを引き受けてくれてから約ひと月。有宇(ゆう)には使いを頼み。生徒会の仕事になれてきた三人に、入学式の日に熊耳(くまがみ)にしたのと同じ質問をした。

 

「三人はどうして、星ノ海学園を選んだんだ。三人とも実家は、地方だよな?」

 

 一番最初に答えてくれたのは、柚咲(ゆさ)

 

「わたしは、お姉ちゃんがいる学校だったのが一番の理由ですねー」

「じゃあ、その美砂(みさ)は?」

「......あたしは、なんか、この高校に行かないと後悔する。そんな気がしたんだ」

「そう思ったきっかけとかあるか?」

「どうして、そんなこと聞くんだ?」

「なんとなくだよ。嫌なら別に答えなくていいさ。プライバシーに関わるからな」

「......あたしは」

 

 ――おっ! 素直に話してくれるのか、意外だな。

 

「あたしは、中学の頃やんちゃばかりしてた。学校はサボるし。夜は遅くまで出歩くし。そんな時ショウとコウタって奴と知り合って。そいつらは弟みたいなヤツで......」

 

 美砂(みさ)は髪を触りながら、たどたどしくもひとつひとつ思い出すように話し始めた。

 

「ある日ショウが、原付に乗ってきてさ。その時に......ショウと同じ名前の奴に『絶対に、ニケツしない』って、そんな約束をしたような気がして......それが、ずっと頭から離れなくて......。それで――」

 

 話していた美砂(みさ)の声が、少し震えた。

 

「ショウが、原付で事故って......もちろん生きてるけどな。でも......もし、ニケツしてたらって思うと怖くなった......」

 

 美砂(みさ)は、チラッと柚咲(ゆさ)を見る。

 

「そんな時、進路を決めないといけない時期になって。柚咲(ゆさ)が、あたしと同じ高校がいいって言い出して」

「えへへ~っ」

 

 可愛らしく笑う柚咲(ゆさ)柚咲(ゆさ)はシスコンか、有宇(ゆう)と同じだな。何だが親近感を覚えたぞ。

 

「そんな訳で、柚咲(ゆさ)を馬鹿高校に入れるわけにはいかないだろ。だから、必死に勉強した。それで、学校の見学で星ノ海学園(ここ)に来た時、ここだっ! って、直感的に思ったんだ」

「ふーん、女の勘ってやつかい?」

「ああ、何でかわからないけど。あたしは勘が鋭いんだ。それに柚咲(ゆさ)は、東京(こっち)芸能活動(アイドル)をしてるから、ちょうどいいって思ったんだ」

「そっか。高城(たかじょう)は?」

「私は、自分の学力と相談してというのが主な理由です。ですが、美砂(みさ)さんと同じように。なんとなく、この学園で学生生活を送りたいと思ったんです。それに私学なのに学費も格安でしたし」

「それな! 寮も広くて豪華だし、スゲー快適だ!」

「わたしも申請したら、お姉ちゃんと同じお部屋にしてくれたので嬉しいですっ」

 

 なるほど経済面でもか。理事長が星ノ海学園を買収してから、設備とは釣り合わないほど学費も寮費も格安だからな。おかげで今は、受験者数と比例して偏差値も評判もかなり上がってる。

 

「なるほどな。ちなみだけど、音楽とかよく聴く方かい?」

「わたしは、聴くよりも歌うことの方が多いですねー」

「私は、その天使のような歌声を毎日聴いていますっ!」

 

 胸をドン! と叩いた高城(たかじょう)は、ボーカルの柚咲(ゆさ)に向けて高らかに宣言した。

 

「もちろん、新曲も既に予約済みです!」

 

 各店舗の予約券を、これ見よがしに広げて見せた。全部で、十枚近くあるんじゃないか。

 

「あ、ありがとうございます」

「あたしは、高速ツーバスを聴きながらビートを刻んでるぜっ! けど、なんか最近聴いてると変な感じがすることがあるんだよなー」

「おや。美砂(みさ)さんもですか? 実は私もなんです。ハロハロの新曲を聴く度に、以前にも聴いたことのあるような既視感のようなものを――」

 

 やっぱり音楽がファクターか。CDの音源で既視感を覚えるなら、月末の“ZHIEND(ジエンド)”のライブへ行かせれば、有宇(ゆう)は記憶を取り戻せるはずだ。けど気になるのは......少し暗い表情(かお)をしている妹さんの方。まあアイツが帰ってくれば判ることか。

 

「ありがとう。いろいろ聞けかせてくれて。参考になったよ」

 

 あとは、有宇(ゆう)次第だな。任せたぞ、有宇(ゆう)

 

 

           * * *

 

 

「ただいま。封書を預かってきたよ」

「ごくろうさん。理事長には、俺から渡しておく」

 

 受け取った封筒は、一旦机の引き出しの中へしまっておく。

 

「どうした?」

 

 黙りこんでいる、有宇(ゆう)に聞く。

 

「あっ......いや、どうして今時手渡しなのかな、って思って」

「そうだな。向こうの校長先生に、何か言われたか?」

「......しっかりしているって言われた」

 

 少し照れながら、校長に褒められたことを話した。

 

「それだよ」

「え?」

「電話やメールにはない、相手の印象を含めて判断できる。手渡しには、そういう利点があるんだよ」

「なら、生徒会長の兄さんが行った方が......」

「俺は、有宇(ゆう)を信じて使いを任せた。事実、有宇(ゆう)は相手に褒められた。だったら、俺の判断は間違っていなかったじゃないか」

「......ちょっと疲れたから先に帰るよ」

 

 面と向かって言われたことが気恥ずかしかったのか、くるりと踵を返した有宇(ゆう)は足早で、生徒会室を出て行った。俺は再び引き出しを開け、受け取った封筒の封を切り、手紙の内容に目を通した。

 手紙の内容は、俺が理事長名義で出した生徒会主催による、学校交流の提案の返事。返ってきた相手側の手紙は、二通。提案の承諾を伝える旨の返事と、もう一枚は理事長個人へ宛てた手紙が同封されていた。

 

「よし、後は......」

 

 これで、とりあえずの下準備は整った。経過を報告するためスマホを取り出し、理事長へ電話を掛ける。まあ、全部事後報告だけど。この件に関しては、すべて一任されているから問題ないだろう。数回のコールで、電話は繋がった。

 

乙坂(おとさか)です。学校交流ですが、相手側の了承を得られました。さっそく明日、附属の生徒会役員が来校することになりました。それと附属の校長先生から、理事長宛に手紙を預かっています」

『そうか、わかった。ご苦労さま』

「届けますか?」

『明日は、少し時間が取れる。机に置いておいてもらえるかい?』

「了解です。例の件は?」

『うむ、近日中になるだろう。はっきり判り次第、こちらから連絡を入れる』

「判りました。それでは失礼します」

 

 通話を終え、理事長宛ての手紙を理事長室の机の上に置いて、商店街へ寄り道をしてから帰宅した。

 そして翌日。生徒会役員たちを翌朝に呼び出し、国立大の附属との学校交流の話を議題に上げた。

 

「まあ、そう言うことだから。今日の放課後、国立大の附属高校の生徒会が星ノ海学園に来校する」

 

 生徒会一同固まっている。沈黙を破ったのは俺の側近で、親友で、副会長の熊耳(くまがみ)

 

「また唐突だな。毎度のことだが」

「ああ、まったくだっ!」

 

 七野(しちの)が声を大にして同意。

 

「仕方ないだろ。相手の都合上、今日を逃すと来週以降しか空いてないんだ」

 

 本当はこっち、というより俺の都合だけど。可能な限り早いうちに進めておきたかった。教師の許可を貰い、午後の授業を欠席した俺たち生徒会は、客人を迎える準備を大急ぎで進めていた。

 

「兄さん、何してるの?」

「ちょっとな......よしっ、と」

 

 視聴覚室から拝借したオーディオコンポに昨日、商店街のショップで購入したCDをセットしておく。そして、約束の時間が来た。来客用の玄関で、附属の生徒会一行を出迎える。

 

「本日はお忙しいところを、遠くまでご足労いただきありがとうございます。星ノ海学園生徒会長の乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)です」

「こちらこそ、お招きいただきましてありがとうございます。私は――」

 

 お互いに挨拶を済ませ、生徒会室へ案内する。

 生徒会室に入ると、一面ガラス張りの豪華な造りの内装に附属の生徒たちは驚きの表情を見せている。一人を除いて。青いリボンで髪をまとめたポニーテールの女の子は他の女子たちと違って。そう、まるで迷子になってしまった子どものように、若干怯えにも似た表情をしている、この子が......そうなのだろうか。

 

「昨日は、お世話になりました」

「いいえ。ところで、乙坂(おとさか)さんと乙坂(おとさか)生徒会長はご兄弟ですか?」

「はい。隼翼(しゅんすけ)は、僕の兄です」

「やっぱり! 素敵なご兄弟ですねっ」

「あはは、恐縮です。さあみなさん、どうぞおかけください」

「あ、そうでしたね。失礼します」

 

 あのポニーテールの女の子が奈緒(なお)ちゃんだとは確信が持てないまま俺は、有宇(ゆう)と附属の会長の会話に割って入り、対面する形でテーブルに着いて本題の話を始めた。

 

「――では、そのような流れで進めて行きましょう」

「はい、お願いします」

 

 書状と共に内容を添付しておいた甲斐があってか、学校交流会の話は思いの外すんなりとまとまった。予定時間よりも早く話がまとまったため、余った時間で校内を案内することにした。

 

目時(めどき)、みなさんに校内を案内してあげてくれるかい?」

「ええ。どうぞ、こちらへ」

 

 目時(めどき)に続いて附属の生徒たちが立ち上がる。その中のひとり、あのポニーテールの女の子がバランスを崩した。

 

「大丈夫!?」

 

 附属の生徒会長が慌てて声をかけたが、どうやら気分が優れないようだ。

 

「無理しない方がいい。保健の先生を呼んできてもらえるかい?」

「うん、すぐに呼んでくる!」

 

 案内役を頼んだ目時(めどき)に、保健の先生を呼びに行ってもらう。診察の結果は、寝不足が原因による軽い目まいではないかとのことで。ソファーで休んでもらうことになった。他の附属の生徒たちには予定通り学校の見学を、俺と有宇(ゆう)は飲み物を調達するため売店へ。

 

「兄さん......」

「どうした?」

 

 自販機のスポーツドリンクのボタンを押しつつ話しを聞く。

 

「......僕は、あの女子を知っている気がする。昨日すれ違った時から、ずっとそんな風に感じて......」

 

 ――そっか。やっぱりあの子が、奈緒(なお)ちゃんか......。どこか苦しそうにうつむく有宇(ゆう)の肩に軽くポンと手を乗せる。

 

有宇(ゆう)、生徒会室へ戻るぞ」

「......えっ?」

 

 生徒会へ戻ると、ちょうど見学を終えた附属の生徒たちとばったり出会った。奈緒(なお)ちゃんは、まだ気分が良くないらしいため。あとで送っていくことを提案し、解散という流れになった。

 

「すみません、ご迷惑をおかけしてしまって......」

「いや、気にすることはないさ。誰にだって体調が優れないことはある。ところで、音楽をかけてもいいかな? BGMがないと、どうも書類作業がはかどらなくて」

「はい。どうぞ、お構いなく......」

「ありがとう。有宇(ゆう)、かけてくれるか?」

「あ、うん、わかったよ」

 

 有宇(ゆう)はコンポのリモコンを操作して再生させた。

 静かなスローテンポのメロディと、澄んだ綺麗な歌声が響き渡る。

 ――なるほど、これが“ZHIEND(ジエンド)”か。

 心地良い歌声を耳を澄ませて聴いていると、有宇(ゆう)が椅子にもたれように座り込んで顔を伏せた。

 さっきのことと言い、もしかしたらライブじゃなくても思い出せるきっかけになり得るのかも知れない。その証拠に、横になっていた身体を起こした奈緒(なお)ちゃんは、目を閉じて聴き入っている。

 曲が終わった。停止ボタンを押して、取り出したCDをケースにしまい、奈緒(なお)ちゃんに差し出す。

 

「あげるよ」

「えっ? でも......」

「気に入ったんだろ?」

 

 遠慮しなくていいよ、と微笑みかけると躊躇しつつもケースを受け取ってくれた。

 

「......ありがとうございます」

「体調の方も良くなったみたいだな。下まで送ろう」

 

 目時(めどき)に付き添いを頼み、教師の車で彼女を送ってもらう

 

「兄さん、あのCDって......」

「なんだ、有宇(ゆう)も欲しいのか?」

「そうじゃなくて......」

「いらないのか? なんならDVD付き限定版を買ってやるぞ? 経費でな」

「職権乱用じゃないか! 本当に落ちるの?」

 

 ――さてと、俺に出来るお膳立てはここまでだ。

 早く帰って来い。そして、奈緒(なお)ちゃんを迎えに行ってやれ。それは、お前にしか出来ないんだからな......。

 

           *  *  *

 

有宇(ゆう)!」

「兄さん。どうしたの、そんなに慌てて......って!」

 

 帰宅早々、有宇(ゆう)の肩を抱く。

 

「ちょ、ちょっと――!?」

「帰って来たぞ、アイツが!」

「帰って来た? アイツって......あっ、もしかして――」

 

 照れていた有宇(ゆう)表情(かお)が変わった。

 

「ほんとに帰ってきたの!?」

「ああ、無事に帰ってきたんだ。奈緒(なお)ちゃんも、記憶を取り戻した」

「そっか......友利(ともり)も。よかった......」

 

 感無量って感じの表情(かお)をしている。俺も同じ気持ちだ。

 

「いったいなにごとでしょーか? あっ、(しゅん)お兄ちゃん」

 

 お玉を持った歩未(あゆみ)が、キッチンから顔を出した。歩未(あゆみ)を手招きして呼び、空いている方の腕で抱く。

 

「ちょ、痛いって!」

「うぅ~っ、(しゅん)お兄ちゃん苦しいです~......」

「あっはっは! 悪いな。でも約束だったんだ」

「約束? なんのことでしょーか?」

「ああ、それはな――」

 

 愛する家族を、有宇(ゆう)歩未(あゆみ)を――心から抱きしめる。

 ようやく果たすことが出来た、あの日の誓いを。

 長い、長い時を越えて......。

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