関内学園との試合のあと、更衣室で着替えを済ませ、
星ノ海学園高等部と隣接の中等部の前に差しかかった時、試合後の俺と
「そう言えばさ。お前、いったいどんな能力を使ったんだ?」
「さぁ」
「さぁ、て⋯⋯」
実はあの試合、俺は自分の有する特殊能力をいっさい使わなかった。それは
「⋯⋯やっぱり、予知能力なんじゃないのか? ナックル打ってたし」
明確に答えないと疑われることは道理なのだが、言えること言えないことは誰にだってある。そんな訳で、どうはぐらかそうと考えていると、
「使っていませんよ」
「はあ?」
「
「いやでも、能力を使ったって肯定してたよな?」
「ああ、あれは⋯⋯そうですね。正確には、能力の副産物といったところですよ」
「どういう意味だ? ますます訳が分からないんだが」
「そのまま言葉通りの意味ですよ」
実際話した通りだから、嘘は一切ついていない。
「あたしたちが持つ特殊能力は、何かしら不完全なところが在ることは、あなたも自覚あるっしょ? それを補うために身に付けたチカラ⋯⋯と、言ったところではないでしょうか」
「ん~、半分正解ですね」
「だから、訳が分からないんだが?」
「つまり、能力とは別で。努力の賜物ってことですよ」
「あなたとは正反対っすね」
「ぐっ、どうせ僕は、カンニング魔だよ!」
そして、他愛ない世間話をしながら歩くこと数分、星ノ海学園の併設マンションに到着。
「着きましたね。では、ここで失礼しますね」
「ん? ああ、そういえば
「ええ。本業の都合上、自宅でなければ効率よく作業出来ませんから。特別に許可は得ています、麗しの生徒会長さまに」
「そっか、じゃあまた明日」
「はい、お疲れさまでした。
二人に別れの挨拶をし、くるりっと踵を返す。そして、併設マンションに背を向けて、最寄り駅へ歩き出そうとしたところを、
「待ってください」
「はい、なんでしょう?」
「あたしも今から、夕食の買い出しに行きますので話ながら行きましょう」
買い物に行くスーパーは、最寄り駅への道中にあるため一緒に店まで行くことになった。
「
「うーん、そうっすね。普段は、お弁当で済ませる事が多いです。けど、食べたい
「そうなんですね」
「あなたも、一人暮しっすよね? 普段食事は、どうしてるんですか?」
「時間がある時は作ってましたけど。最近あまり時間が取れないので、外で済ますことが多いですね」
星ノ海学園へ来てから教鞭に特殊能力者対策と、転校前からは考えられないほど多忙で濃密な日々を過ごしている。そのため前のように自炊する余裕もなく、帰宅前に自宅のタワービル内に暖簾を構える店で済ませることが半分日課になっていた。
「そうですか」
彼女にとっても想定外な事案だったとはいえ、俺が教鞭を執ることに時間を割いていることを気にさせてしまった。少しバツが悪い、そんな微妙な空気が俺たちの間に流れる。
「でも、それはきっと充実しているって事なんでしょうね」
「ん、そうなんすか?」
「はい」
これは彼女への気づかいじゃない、本心だ。退屈だった日常に比べて本当に時間の流れが早く感じる。ちゃんと伝わったのか、彼女の表情が少し和らいだ気がした。
話している間に、目的のスーパーへ到着。入り口の前で足を止めた俺は、改めて彼女に向き合い別れの挨拶する。
「それでは、ここで失礼しますね。お疲れさまでした」
「は? あなた連れっしょ? 最後まで付き合ってください。さあ、行きましょう」
「え? はあ、わかりました......」
有無を言う隙もなく、押し切られる形で結局一緒にスーパーに入店。買い物カゴを片手に下げ、食材を物色。惣菜売り場へ向かわないところを見ると、夕食は自炊するようだ。
「何を、お求めになるんですか?」
「そうっすねー。最近いっぱい運動したので、お肉にしようと思います」
にくっ♪ にくっ♪ と、楽しそうに精肉コーナーへ向かって歩く、
「どっれにしようかなぁ~っ」
「ごきげんですね」
「だってぇ~! 肉、最強じゃないですかっ!」
目を輝かせながら本当に嬉しそうに笑顔で答え、再び商品に視線を戻した。赤みと指しの入った牛肉のパックを手に取り見比べている。
「うーん、どっちも捨てがたいっすね。今日は、ちょっと奮発しよっかな~っ」
「あれー?
「――ん?」
不意に名前を呼ばれた
「やっぱり、
「
「はいっ! あゆなのですー!」
「どうして、ここに?」
「警備員さんの目を盗んで、買い物に来た所存でござる!」
「そうなんだ~、何を買いにきたの?」
「お肉とお野菜。それと、日用品でござる! 近くのコンビニでは種類が限られますし、何より割高ですのでっ!」
彼女の手には、四つ折りにされた特売のチラシが握られていた。ちらっと買い物カゴに中を見ると、日持ちする食材や容量の多い徳用の洗剤などが目に入った。
「そっか~、
「えへへ~」
「でも、危ないですから。今度からは、ひとりで来ちゃダメだよ?」
「はっ! 承知しましたっ!」
――ビシッ! と敬礼。
「それでもう、お買い物は済んだの?」
「え~っと、あとは
――
「そっか、じゃあ少し待っててもらえるかな? お買い物が終わったら一緒に帰りましょう」
「はいっ! あの~、ところで、そちらのお兄さんは?」
初対面の俺を見て、
「この人は、あたしや
「
「はいっ!
「挨拶は済みましたね。じゃあ買い物が終わったら、入り口の近くで待っててね。あたしたちも、すぐに行きますから」
「はいっ! お待ちしておりますっ!」
お互いに買い物が済んだあと合流する約束をして、
「快活な妹さんですね」
「はい、いつも笑顔で可愛らしいです。さて、あたしたちも急いで買い物を済ませちゃいましょう。にくっ、にく~っ!」
買い物カゴの中に次々と肉を入れていく。カゴの中は、あっという間に数種類の肉でいっぱいになった。そこでふと疑問に思い質問する。
「野菜は買わないんですか?」
「えぇ~っ!? 野菜っすか~?」
野菜が嫌いなのか、露骨に嫌そうな顔をした。
「ちゃんと食べないと栄養バランスを崩しますよ?」
「あなたが、食べてくれるならいいですけど~」
「
「むぅ~っ」
「ふくれてもダメです」
「......わかりましたっ、食べますっ! 食べますよっ! 食べればいいんっしょ!?」
プイッ、と拗ねて顔を背けてしまった。
さて、どうしたものか......。そういえばあの時、美味しそうにケーキを食べてたな。よし、これでいこう。
「あとでケーキ買って上げますから、機嫌直してください」
「......
「もちろん、最初からそのつもりですよ」
「マジですかっ? 早く野菜売り場に行きましょーっ」
ケーキで釣る作戦、成功。
機嫌が直った
「これで、よしっ! っと、さぁ会計を済ませましょー」
「なに作ろっかな~?」と、悩んでいる
「お待たせしました。待たせちゃってゴメンね」
「いえいえ、全然待ってないですー」
「そっか、それでは帰りましょう」
「はいですー!」
「
「はい、なんでしょうかー?」
「荷物を貸してください」
「えーっ!? いえいえ、そんなこと――」
「
戸惑う
それを見て観念したようのか
「すみませんです~」
「いいえ。さぁ、行きましょう」
スーパーを出てすぐには帰らず、セキュリティ上あまり遠くへ出られない
と、そんな感じで一通り見て回って、洋菓子屋の前に差し掛かったところで、
「
「えっ、ケーキっ!?」
ぱぁーっ、と表情が明るくなった。と思ったら、今度はすぐにショボーンとうなだれた。コロコロと表情が変わるとても感情が豊かな娘だ。
「でも、余分なお金持ってないのです......」
「大丈夫っすよー。このお兄さんが、奢ってくれるそうなので」
紹介してくれた時と同じように俺を指差した。
「――そんなっ! 荷物も持ってもらってるのにっ!」
「私がケーキを食べたいんですよ。でも一人では、お店に入り難いので、
「でもでもっ」
それでも遠慮する
「では、こうしましょう。今度、
「あゆの料理でいいんですか?」
「
「う~ん......わかりました! 必ずやご馳走いたしますっ!」
「決まりですね。楽しみに待っています」
「はいなのですー!」
「では
「
「いっぱいあって悩むのです~」
「う~ん......」と唸りながら、色とりどりのケーキが陳列されているショーケースとにらめっこ。まだ少し時間がかかりそうだ。
「
「はい、これっす!」
彼女が指差した先にあったのは、少し小さめのホールケーキだった。それでもひとりで食べるにはいくぶん大きい。
「食べられますか?」
「大丈夫っすよー。あたし一人で食べる訳ではないのでっ」
「そうですか」
きっと明日、学校に持っていって祝勝会でもやるつもりなのだろう。この時はそう思っていた。と言うか普通はそう思うだろう?
「
「まだ迷ってます~」
「どれで迷っているんですか?」
「これとこれ」と言って、赤いイチゴが乗ったショートケーキと季節のフルーツで彩られたタルトを指差した。
「では、二つとも買いましょう」
「えぇーっ! 二つともっ!?」
「はい、一つは
「半分こすれば両方食べれるっすね」
「
「
そう今日の試合は、
「ありがとうございますーっ!」
「いいえ、どういたしまして」
店を出て併設マンションへの帰り道で
「でねっ、あゆは、ゆさりんが大好きなのですぅー!」
「ゆさりん? ......って、
「
「
「なるほど、そういうことですか」
アイドルに疎い俺に教えてくれた。
「ゆさりんは、歌も上手なのですぅ!」
「歌ですか?」
「はい、ハロハロですー!」
『How-Low-Hello』通称『ハロハロ』。十代の若者を中心に圧倒的人気を誇るバンド。
そのボーカルを務めるのが
「
「
「はい、それはもうドン引きするぐらいっす」
「へぇー、そうなんですか」
言われてみれば試合前、
「ただいまでござる!」
「――
「ごめんなさいです。お買い物に行ってました......」
「こんばんわー」
「
「あたしだけじゃないっすよ」
「......って、
思いもよらぬ二つの顔に、
「いや~、実は買い物の途中に
「そうなんですよ。心配をさせてしまって申し訳ないです」
「いえっ!? お二人は、あゆのために――」
「これはお詫びのケーキっすっ。
「お前たち......」
「はい、これは
「......すまない」
――あまり叱らないであげてください、と小声で頼むと「わかった」と小声で返ってきた。
「ではあたしたちは、これで失礼しまーす。またね、
「それでは失礼します」
「
見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
そうして次は、
「
「お兄さん思いの良い妹さんですね」
「はい、あたしの妹にならないかな~」
「あっ、ここです」
「そうですか、では荷物を......」
「少し待っていてください」
そう言うとカギを開け部屋へ入って行った。玄関前の手すりに身体を預けて待つ。少しして扉越しに――どうぞー、と彼女の声が聞こえた。
「......失礼します」
少し躊躇してドアを開けると、私服に着替えた
「荷物、ありがとうございました」
「いえ、はい、どうぞ。では私はこれで......」
買い物袋を渡して帰ろうとすると
「あがっていってください。ケーキのお礼に夕ご飯をご馳走します」
「いや、さすがにそれは......」
そう言われても......さすがに一人暮しの女の子の部屋に上がるのは抵抗がある。
「
目を細めて軽く威圧感を感じる声で言われてしまうと......。
「......いただきます」
俺には、他の選択肢はなかった。