Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

9 / 65
Episode7 ~選択肢~

 関内学園との試合のあと、更衣室で着替えを済ませ、奈緒(なお)乙坂(おとさか)と三人で通学路を歩いている。さっきまで黒羽(くろばね)も一緒に星ノ海学園向かいのコンビニでアイスを食べていたのだけれど、仕事の打ち合わせが入ったと急遽連絡があり、車で迎えに来たマネージャーと一緒に仕事場へと向かった。現役の人気アイドルというのは、実に多忙なようだ。

 星ノ海学園高等部と隣接の中等部の前に差しかかった時、試合後の俺と福山(ふくやま)の会話について、乙坂(おとさか)が訊いてきた。

 

「そう言えばさ。お前、いったいどんな能力を使ったんだ?」

「さぁ」

「さぁ、て⋯⋯」

 

 実はあの試合、俺は自分の有する特殊能力をいっさい使わなかった。それは奈緒(なお)から「納得して能力を使わないこと約束させたい」と試合が決まった放課後に聞いたのもあるけれど。実戦で、()()特殊能力を使うには正直まだ、精度に自信がなかったからだ。

 

「⋯⋯やっぱり、予知能力なんじゃないのか? ナックル打ってたし」

 

 明確に答えないと疑われることは道理なのだが、言えること言えないことは誰にだってある。そんな訳で、どうはぐらかそうと考えていると、奈緒(なお)が助け船を出してくれた。

 

「使っていませんよ」

「はあ?」

宮瀬(みやせ)さんは、能力を使っていません。あれは、実力(ガチ)です」

「いやでも、能力を使ったって肯定してたよな?」

「ああ、あれは⋯⋯そうですね。正確には、能力の副産物といったところですよ」

 

 奈緒(なお)の言葉に補足を入れたが、乙坂(おとさか)はますます困惑してしまったようで、眉間にシワを寄せながら首をかしげてしまった。

 

「どういう意味だ? ますます訳が分からないんだが」

「そのまま言葉通りの意味ですよ」

 

 実際話した通りだから、嘘は一切ついていない。

 

「あたしたちが持つ特殊能力は、何かしら不完全なところが在ることは、あなたも自覚あるっしょ? それを補うために身に付けたチカラ⋯⋯と、言ったところではないでしょうか」

 

 奈緒(なお)の推察はいい線をついている。しかし、完璧ではない。当たらずも遠からず。

 

「ん~、半分正解ですね」

「だから、訳が分からないんだが?」

「つまり、能力とは別で。努力の賜物ってことですよ」

「あなたとは正反対っすね」

「ぐっ、どうせ僕は、カンニング魔だよ!」

 

 乙坂(おとさか)の自虐でオチが付き、三人とも自然と笑みがこぼれた。

 そして、他愛ない世間話をしながら歩くこと数分、星ノ海学園の併設マンションに到着。

 

「着きましたね。では、ここで失礼しますね」

「ん? ああ、そういえば宮瀬(おまえ)は、ここに住んでいないんだったな」

「ええ。本業の都合上、自宅でなければ効率よく作業出来ませんから。特別に許可は得ています、麗しの生徒会長さまに」

 

 奈緒(なお)に顔を向けて言うと、彼女はどこか得意気な表情(かお)をしていた。

 

「そっか、じゃあまた明日」

「はい、お疲れさまでした。友利(ともり)さんも、また明日」

 

 二人に別れの挨拶をし、くるりっと踵を返す。そして、併設マンションに背を向けて、最寄り駅へ歩き出そうとしたところを、奈緒(なお)に呼び止められた。

 

「待ってください」

「はい、なんでしょう?」

「あたしも今から、夕食の買い出しに行きますので話ながら行きましょう」

 

 買い物に行くスーパーは、最寄り駅への道中にあるため一緒に店まで行くことになった。

 

友利(ともり)さんは、自炊されるんですか?」

「うーん、そうっすね。普段は、お弁当で済ませる事が多いです。けど、食べたい料理(もの)が置いてなかった時は、自分で作ります」

「そうなんですね」

「あなたも、一人暮しっすよね? 普段食事は、どうしてるんですか?」

「時間がある時は作ってましたけど。最近あまり時間が取れないので、外で済ますことが多いですね」

 

 星ノ海学園へ来てから教鞭に特殊能力者対策と、転校前からは考えられないほど多忙で濃密な日々を過ごしている。そのため前のように自炊する余裕もなく、帰宅前に自宅のタワービル内に暖簾を構える店で済ませることが半分日課になっていた。

 

「そうですか」

 

 彼女にとっても想定外な事案だったとはいえ、俺が教鞭を執ることに時間を割いていることを気にさせてしまった。少しバツが悪い、そんな微妙な空気が俺たちの間に流れる。

 

「でも、それはきっと充実しているって事なんでしょうね」

「ん、そうなんすか?」

「はい」

 

 これは彼女への気づかいじゃない、本心だ。退屈だった日常に比べて本当に時間の流れが早く感じる。ちゃんと伝わったのか、彼女の表情が少し和らいだ気がした。

 話している間に、目的のスーパーへ到着。入り口の前で足を止めた俺は、改めて彼女に向き合い別れの挨拶する。

 

「それでは、ここで失礼しますね。お疲れさまでした」

「は? あなた連れっしょ? 最後まで付き合ってください。さあ、行きましょう」

「え? はあ、わかりました......」

 

 有無を言う隙もなく、押し切られる形で結局一緒にスーパーに入店。買い物カゴを片手に下げ、食材を物色。惣菜売り場へ向かわないところを見ると、夕食は自炊するようだ。

 

「何を、お求めになるんですか?」

「そうっすねー。最近いっぱい運動したので、お肉にしようと思います」

 

 にくっ♪ にくっ♪ と、楽しそうに精肉コーナーへ向かって歩く、奈緒(なお)の後を付いていく。

 

「どっれにしようかなぁ~っ」

「ごきげんですね」

「だってぇ~! 肉、最強じゃないですかっ!」

 

 目を輝かせながら本当に嬉しそうに笑顔で答え、再び商品に視線を戻した。赤みと指しの入った牛肉のパックを手に取り見比べている。

 

「うーん、どっちも捨てがたいっすね。今日は、ちょっと奮発しよっかな~っ」

「あれー? 友利(ともり)のお姉ちゃん?」

「――ん?」

 

 不意に名前を呼ばれた奈緒(なお)は振り返って、声の主を確認した。目の前に居たのは、買い物カゴいっぱいに商品を乗せたカートを引いた、ロングヘアで小柄な女子。誰かに似てるような、そんな気がした。

 

「やっぱり、友利(ともり)のお姉ちゃんなのですー!」

歩未(あゆみ)ちゃん?」

「はいっ! あゆなのですー!」

「どうして、ここに?」

 

 歩未(あゆみ)と呼ばれた少女に不思議そうに訊ねると、彼女は、とても得意気に胸を張って答えた。

 

「警備員さんの目を盗んで、買い物に来た所存でござる!」

「そうなんだ~、何を買いにきたの?」

「お肉とお野菜。それと、日用品でござる! 近くのコンビニでは種類が限られますし、何より割高ですのでっ!」

 

 彼女の手には、四つ折りにされた特売のチラシが握られていた。ちらっと買い物カゴに中を見ると、日持ちする食材や容量の多い徳用の洗剤などが目に入った。

 

「そっか~、歩未(あゆみ)ちゃんはえらいね」

 

 奈緒(なお)が褒めながら頭を撫でると、歩未(あゆみ)は嬉しそうに顔をほころばせる。

 

「えへへ~」

「でも、危ないですから。今度からは、ひとりで来ちゃダメだよ?」

「はっ! 承知しましたっ!」

 

 ――ビシッ! と敬礼。

 

「それでもう、お買い物は済んだの?」

「え~っと、あとは有宇(ゆう)お兄ちゃんの歯ブラシで終了でござるっ」

 

 ――有宇(ゆう)お兄ちゃん......乙坂(おとさか)の妹さん。

 

「そっか、じゃあ少し待っててもらえるかな? お買い物が終わったら一緒に帰りましょう」

「はいっ! あの~、ところで、そちらのお兄さんは?」

 

 初対面の俺を見て、歩未(あゆみ)は首を傾げる。俺を指差した奈緒(なお)が、紹介してくれた。

 

「この人は、あたしや歩未(あゆみ)ちゃんのお兄さんと同じ生徒会の一員です」

宮瀬(みやせ)(しょう)です。よろしくお願いしますね、歩未(あゆみ)さん」

「はいっ! 乙坂(おとさか)歩未(あゆみ)ですっ! よろしくお願いしますっ! 有宇(ゆう)お兄ちゃんが、いつもお世話になっています!」

「挨拶は済みましたね。じゃあ買い物が終わったら、入り口の近くで待っててね。あたしたちも、すぐに行きますから」

「はいっ! お待ちしておりますっ!」

 

 お互いに買い物が済んだあと合流する約束をして、歩未(あゆみ)と別れ買い物を再開。

 

「快活な妹さんですね」

「はい、いつも笑顔で可愛らしいです。さて、あたしたちも急いで買い物を済ませちゃいましょう。にくっ、にく~っ!」

 

 買い物カゴの中に次々と肉を入れていく。カゴの中は、あっという間に数種類の肉でいっぱいになった。そこでふと疑問に思い質問する。

 

「野菜は買わないんですか?」

「えぇ~っ!? 野菜っすか~?」

 

 野菜が嫌いなのか、露骨に嫌そうな顔をした。

 

「ちゃんと食べないと栄養バランスを崩しますよ?」

「あなたが、食べてくれるならいいですけど~」

友利(ともり)さんが食べないと栄養にはなりませんよ。ここの会計は出しますから、ちゃんと食べてください」

「むぅ~っ」

「ふくれてもダメです」

「......わかりましたっ、食べますっ! 食べますよっ! 食べればいいんっしょ!?」

 

 プイッ、と拗ねて顔を背けてしまった。

 さて、どうしたものか......。そういえばあの時、美味しそうにケーキを食べてたな。よし、これでいこう。

 

「あとでケーキ買って上げますから、機嫌直してください」

「......歩未(あゆみ)ちゃんの分もいいっすか?」

「もちろん、最初からそのつもりですよ」

「マジですかっ? 早く野菜売り場に行きましょーっ」

 

 ケーキで釣る作戦、成功。

 機嫌が直った奈緒(なお)は、野菜売り場で野菜を次々とカゴに放り込んでいく。適当かと思ったら葉野菜、根菜、緑黄色野菜とバランスよく選んでいた。

 

「これで、よしっ! っと、さぁ会計を済ませましょー」

 

「なに作ろっかな~?」と、悩んでいる奈緒(なお)とレジに並んで会計を済ます。それにしても......随分買い込んだものだ。清算済みのカゴの中の食材は、明らかに一人分を越えて二・三人分はあるように思える。手分けして食材をレジ袋に詰め、入り口に向かうと約束通り、歩未(あゆみ)が大きな買い物袋を両手に下げて待っていた。

 

「お待たせしました。待たせちゃってゴメンね」

「いえいえ、全然待ってないですー」

「そっか、それでは帰りましょう」

「はいですー!」

歩未(あゆみ)さん」

「はい、なんでしょうかー?」

 

 歩未(あゆみ)に向かって、手を差し出す。

 

「荷物を貸してください」

「えーっ!? いえいえ、そんなこと――」

歩未(あゆみ)ちゃん」

 

 戸惑う歩未(あゆみ)に、奈緒(なお)はうなずいて見せた。

 それを見て観念したようのか歩未(あゆみ)は、彼女の身長に不釣り合いな大きな買い物袋を預けてくれた。

 

「すみませんです~」

「いいえ。さぁ、行きましょう」

 

 スーパーを出てすぐには帰らず、セキュリティ上あまり遠くへ出られない歩未(あゆみ)を連れて、ディスカウントショップや本屋などを見て回った。二人とも楽しそうだったから、こっちもなんだか嬉しくなる。さすがに女性物の下着も置いてあるショップに連れていかれた時は気が気じゃなかったけど。

 と、そんな感じで一通り見て回って、洋菓子屋の前に差し掛かったところで、奈緒(なお)は足を止めた。

 

歩未(あゆみ)ちゃん、ケーキを買って帰りましょう」

「えっ、ケーキっ!?」 

 

 ぱぁーっ、と表情が明るくなった。と思ったら、今度はすぐにショボーンとうなだれた。コロコロと表情が変わるとても感情が豊かな娘だ。

 

「でも、余分なお金持ってないのです......」

「大丈夫っすよー。このお兄さんが、奢ってくれるそうなので」

 

 紹介してくれた時と同じように俺を指差した。

 

「――そんなっ! 荷物も持ってもらってるのにっ!」

「私がケーキを食べたいんですよ。でも一人では、お店に入り難いので、友利(ともり)さんと歩未(あゆみ)さんが一緒に来てくれると入りやすいんですけど、一緒に入っていただけませんか?」

「でもでもっ」

 

 それでも遠慮する歩未(あゆみ)に俺は、ある提案を持ちかけることにした。

 

「では、こうしましょう。今度、歩未(あゆみ)さんの手料理をご馳走していただけますか? 今日のケーキは前払いということでいかがでしょうか?」

「あゆの料理でいいんですか?」

歩未(あゆみ)さんの料理がいいです」

「う~ん......わかりました! 必ずやご馳走いたしますっ!」

「決まりですね。楽しみに待っています」

「はいなのですー!」

「では歩未(あゆみ)ちゃん、入りましょうっ」

 

 奈緒(なお)は歩未の手を取って洋菓子屋に入っていった。その後に続いて店内に入る。店内は甘い匂いで満ちていた。

 

歩未(あゆみ)ちゃん、どれにしますか?」

「いっぱいあって悩むのです~」

 

「う~ん......」と唸りながら、色とりどりのケーキが陳列されているショーケースとにらめっこ。まだ少し時間がかかりそうだ。

 

友利(ともり)さんは、お決まりですか?」

「はい、これっす!」

 

 彼女が指差した先にあったのは、少し小さめのホールケーキだった。それでもひとりで食べるにはいくぶん大きい。

 

「食べられますか?」

「大丈夫っすよー。あたし一人で食べる訳ではないのでっ」

「そうですか」

 

 きっと明日、学校に持っていって祝勝会でもやるつもりなのだろう。この時はそう思っていた。と言うか普通はそう思うだろう? 奈緒(なお)の注文を確認したところで、今度は歩未(あゆみ)に訊ねる。

 

歩未(あゆみ)さんは決まりましたか?」

「まだ迷ってます~」

「どれで迷っているんですか?」

 

「これとこれ」と言って、赤いイチゴが乗ったショートケーキと季節のフルーツで彩られたタルトを指差した。

 

「では、二つとも買いましょう」

「えぇーっ! 二つともっ!?」

「はい、一つは歩未(あゆみ)さんの。もう一つは、乙坂(おとさか)さんの分。これで二つです」

「半分こすれば両方食べれるっすね」

有宇(ゆう)お兄ちゃんの分もっ!?」

歩未(あゆみ)ちゃんのお兄ちゃん、今日は大活躍だったんっすよ」

 

 そう今日の試合は、乙坂(おとさか)のお陰で勝ったと言って間違いない。そのお礼の意味も込めて、と説明すると多少葛藤しながらも納得してくれた。

 

「ありがとうございますーっ!」

「いいえ、どういたしまして」

 

 店を出て併設マンションへの帰り道で歩未(あゆみ)は、乙坂(おとさか)が大活躍したことが相当嬉しかったらしく「自慢の兄であること」や「夕食は必ず一緒に食べること」が乙坂家の掟などいろいろなことを教えてくれた。そんな彼女の話を奈緒(なお)は、ずっと優しく微笑みながら聞いていた。

 

「でねっ、あゆは、ゆさりんが大好きなのですぅー!」

「ゆさりん? ......って、黒羽(くろばね)さんのことですか?」

黒羽(くろばね)? ゆさりんは、西森(にしもり)柚咲(ゆさ)でござるっ!」

西森(にしもり)は、芸名っすよ」

「なるほど、そういうことですか」

 

 アイドルに疎い俺に教えてくれた。黒羽(くろばね)ではあまりにもアイドルっぽくないとのことで、西森(にしもり)という芸名になったらしい。

 

「ゆさりんは、歌も上手なのですぅ!」

「歌ですか?」

「はい、ハロハロですー!」

 

『How-Low-Hello』通称『ハロハロ』。十代の若者を中心に圧倒的人気を誇るバンド。

 そのボーカルを務めるのが西森(にしもり)柚咲(ゆさ)こと、黒羽(くろばね)柚咲(ゆさ)。彼女のおっとりとした見た目から、バンドのボーカルというのはちょっと想像できないな。

 

高城(たかじょう)も、彼女のファンなんですよ」

高城(たかじょう)さんも?」

「はい、それはもうドン引きするぐらいっす」

「へぇー、そうなんですか」

 

 言われてみれば試合前、黒羽(くろばね)絡みで妙なテンションになっていたなと思い返しながら歩いていると、二人が生活している併設マンションに到着。

 歩未(あゆみ)に案内されて乙坂(おとさか)家に着き、彼女はインターホンを押した。ゆっくり扉が開き、家の中から彼女の兄――乙坂(おとさか)が顔を出した。

 

「ただいまでござる!」

「――歩未(あゆみ)っ! どこに行ってたんだっ!?」

「ごめんなさいです。お買い物に行ってました......」

 

 歩未(あゆみ)の横から、奈緒(なお)がひょいと顔を出す。

 

「こんばんわー」

友利(ともり)!?」

「あたしだけじゃないっすよ」

「......って、宮瀬(みやせ)も!?」

 

 思いもよらぬ二つの顔に、乙坂(おとさか)は驚く。

 

「いや~、実は買い物の途中に歩未(あゆみ)ちゃんに会いまして、連れ回しちゃったんですよー」

「そうなんですよ。心配をさせてしまって申し訳ないです」

「いえっ!? お二人は、あゆのために――」

「これはお詫びのケーキっすっ。歩未(あゆみ)ちゃんと食べてください」

 

 歩未(あゆみ)の言葉を遮るように奈緒(なお)は、乙坂(おとさか)にケーキが入った箱を押し付けるように手渡した。

 

「お前たち......」

「はい、これは歩未(あゆみ)さんの買い物袋です」

「......すまない」

 

 ――あまり叱らないであげてください、と小声で頼むと「わかった」と小声で返ってきた。

 

「ではあたしたちは、これで失礼しまーす。またね、歩未(あゆみ)ちゃん」

「それでは失礼します」

友利(ともり)お姉ちゃん、宮瀬(みやせ)お兄さん、ありがとうございましたですー!」

 

 見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。

 そうして次は、奈緒(なお)の家へと向かう。彼女もこの併設マンションで生活しているため、階は違えど歩いてすぐのところに部屋があるらしい。

 

歩未(あゆみ)ちゃんは、いつも可愛いなぁ~」

「お兄さん思いの良い妹さんですね」

「はい、あたしの妹にならないかな~」

 

 奈緒(なお)の部屋の前に到着。

 

「あっ、ここです」

「そうですか、では荷物を......」

「少し待っていてください」

 

 そう言うとカギを開け部屋へ入って行った。玄関前の手すりに身体を預けて待つ。少しして扉越しに――どうぞー、と彼女の声が聞こえた。

 

「......失礼します」

 

 少し躊躇してドアを開けると、私服に着替えた奈緒(なお)が立っていた。

 

「荷物、ありがとうございました」

「いえ、はい、どうぞ。では私はこれで......」

 

 買い物袋を渡して帰ろうとすると奈緒(なお)は、とんでもない事を言い出した。

 

「あがっていってください。ケーキのお礼に夕ご飯をご馳走します」

「いや、さすがにそれは......」

 

 そう言われても......さすがに一人暮しの女の子の部屋に上がるのは抵抗がある。

 

歩未(あゆみ)ちゃんのご飯は食べられても、あたしの作るご飯は食べられない、と?」

 

 目を細めて軽く威圧感を感じる声で言われてしまうと......。

 

「......いただきます」

 

 俺には、他の選択肢はなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。