お止めくださいエスデス様!(IF) 作:絶対特権
おかげでサッサと書き終えることが出来ました!
初代皇帝である始皇帝が造り上げた帝具という四十八の『超兵器』が、シンという大帝国を支えていた。
その大帝国の中興の祖に、シエイと言う名の皇帝がいる。
彼は自らの内政手腕で中弛みによる腐敗が進んでいた帝国を改革により活性化させ、この大帝国の寿命を二百年伸ばしたという評価を受けている英明な皇帝だった。
このシエイが老境に差し掛かった際、とあることを思いついたのである。
『帝具を超える兵器を造ろう』
数百年前。始皇帝がその財力と各地から掻き集めた技術者を酷使して造り上げた四十八の超兵器を超えてこそ、先祖へ誇れるというものではないのか。
彼が造り上げた兵器は、いずれも素晴らしい性能を持っていた。
しかし何れもが帝具に及ばず、或いは帝具と同等の性能を持っていても何かしらのデメリットを持っていたのである。
これらの兵器は皮肉と自虐を込められて『臣具』と呼ばれ、帝国の倉庫に押しこまれることとなった。
先程の地面から生えてきた男が纏っていたのが、この『臣具』である。
性能に劣るか、性能は伍していてもデメリットを持っている、或いはそのどちらもなこの兵器。その劣等な性能の代わりと言っては何だが、使えば死んだり使用拒否を示す物が殆ど無い。
計らずとも性能を下げたら使用制限も下がった、という感じだった。
そしてこの帝国の暗殺者チームは、教師であり羅刹四鬼の一角であるザンバラ男を除き、何れも臣具を装備している。
ザンバラ男は、帝具・一斬必殺村雨。
蹴り飛ばされた男ことガイは、土を操る能力を付与する装着型臣具のレイアースーツ。
黒髪赤目・アカメは、負わせた傷の治癒を不能にする呪いの刀こと剣型臣具の桐一文字。
周りの同年代の少年少女よりも僅かに歳上な長い金髪が麗しい少女・コルネリアは使用者に怪力を与える籠手型臣具の粉砕王。
西風の装飾を持つ白い軍服のような服装をした少年・ナハシュには一時的に使用者の実力を三倍にする剣型臣具の水龍の剣。
短い金髪をした童顔の少女・ツクシには放った銃弾が変幻自在の軌道を描く銃型臣具のプロメテウス。
眼鏡をかけている所為か知的な印象を与える黒髪の少年・グリーンには敵を自在に打ち据えることのできる鞭型臣具のサイドワインダー。
ポニーテールが特徴的な小柄な少女・ポニィには、脚力を上げるヨクトボトムズ。
つまりハクは、帝具一つで上級に分類される優秀な帝具と七つの臣具を相手にしなければならない、ということになっていた。
「ハッ!」
常に多対一における手数の不利さを視野に入れつつ戦っていたハクは、振り抜かれた水龍の剣を半身なって避け、後ろの土から出てきたガイにガッシリと拘束されてしまっていた。
無論、顎をくだかれるほどの力で蹴りぬかれたガイの力は本調子から程遠い。
しかし、彼はこの暗殺者チームの中でも白眉の怪力の持ち主である。矮躯な男一人を羽交い締めにするくらいならば弱っていても楽々可能だった。
そして追撃に振りかざされたのは、治癒不可能の傷を負わせる桐一文字。
現在鎧を纏っていないハクに治癒不可能の重傷を負わせ、ジワジワと追い詰めるというのが、この暗殺者チームの作戦であろう。
羽交い締めにされ、両腕が使えない。
死力を振り絞っているかのような怪力に、抵抗も出来ない。
身体の一部で受けても、治癒不可能の傷が残る。
「葬る!」
殆ど致命傷が約束されたこの瞬間、ハクは恐ろしいまでの冷静さで脚を上げて股を開いた。
普通、男の急所がある箇所を凶器の軌道上に、しかも治癒不可能の傷を負わせる刀の軌道上に晒すなど出来るはずもない。
だが彼は、それをやる。
「何で振り上げられた刀の前で股開けんだよ……!」
右脚のレアメタル製のブーツが桐一文字の刃を防ぎ、ステップを踏むようにして次いで繰り出された威力が左の回し蹴りで脇腹をやられてアカメは横に吹き飛ばされていく。
そうさせた原因に当たる行動に驚きを隠せないガイの肩に軌道を合わせ、ハクは例の武器出しカウンターを行った。
「ガッ?!」
何もないところから出現した刃に左の肩を横から串刺しにされ、羽交い締めにする力を弱めてしまったガイの踝に、ハクの踵が突き刺さる。
バキリと言う鈍い音が、その威力の高さを示していた。
「殺らせない!」
どこか焦るような声と共に薙ぐようにして振るわれた鞭には膝をついたガイの巨体を持ち上げ、これを盾にして防ぎ、鞭使いである小柄な少年の身体を押し潰すように投げつけて動きを止める。
「アカメ、合わせろ」
「わかった、チーフ」
後方で銃を構えていたツクシの銃撃を剣で弾いた瞬間、ハクの攻撃動作が止まった。
そして、これを以って再び攻守が逆転することになる。
桐一文字に、水龍の剣。前者は喰らうとマズイが、後者の攻撃力はさほどでもない。
そう判断したハクは、剣を大きく構えて受けの姿勢に入った。
右手を左胸付近まで移動させ、利き手である左手に持った剣を松明でも持つかのように掲げるというその構えは、彼独特の物であろう。
一見すれば隙だらけだが、相手より速く動ける自信があるならば最強を誇る攻めの構え。
待ち受けて殺すという、防御的ながら極めて攻撃的なその構えは、様々なカウンターを起点とする戦い方を得意とする彼らしいものであった。
「む……」
ハクは僅かに唸り、チーフと呼ばれた少年・ナハシュの振るった刃がその身に届く前に桐一文字を殺しにかかる。
正確に言えば、武器か使い手のどちらかを確実に殺せるような構えをとったのだから、ナハシュに続かんと攻撃モーションに入ったアカメに即死級のカウンターを叩き込もうとしたのだ。
「ッ!?」
だがアカメには、類稀なる危機察知の才能がある。その才能はここに集まった敵味方九人の中でも白眉だった。
半ば本能的に、彼女は脚を壊すような勢いで自らの身体を押し留め、回避に移る。
間合いから、逃れられない。
彼女の脳裏を掠めたのはその死刑宣告に等しい一事であり、最愛の妹のことであった。
自分が死ねば、もう一生妹とは会えなくなる。死ぬわけには、いかない。
しかし、そんな思いだけでは攻撃は避けられない。だれしもが死にたいなどと思っていないが、死んでいる。
そんな思いの強さで状況が左右するのは同格との戦いだけであり、この時点でのアカメの実力はハクよりも数段劣っていた。
普通に死ぬと思われた、その時。彼女の目の前に土壁が展開される。
「俺様も、やられっぱなしじゃない訳よ」
ガイの臣具レイアースーツは土を操ることのできる能力を持ち主に付与するという、下手な帝具よりも強力な能力を持っていた。
それを生かし、土壁を盾としたのである。
この時点で目の前にいる敵の『ヤバさ』を一番、文字通り骨身に染みて理解しているのは、現在グリーンを下敷きにしているガイであった。
彼は不明な質ではない。だからこそその鋭い勘が齎した初見の印象に囚われていたのである。
だが彼は敵の印象とは真逆とも言える強さを受け、無理矢理思考をシフトチェンジした。
「姑息な手を……」
鉱物を混ぜて硬度を高めた土の壁が一秒すら保たずに紙かなんかのように両断され、ナハシュの剣が右手の二本指で止められたのを見たアカメは、肩で息をしながら悟る。
この敵は魔人の類だ、と。
天然の才能で人を越し、本人曰く自然な努力によって他者を捩じ伏せる、生まれ持っての逸般人。
常識を形骸化させ、天才を挫き、凡才を秒殺する魔人の姿が、そこにはあった。
「やはりお前が一番厄介だな」
ナハシュが懸命に力を籠め、剣を二本の指による拘束から解き放とうとしていることを嘲笑うように手首を振って彼を振り払い、水龍の剣を放り投げる。
自分の下位互換である者など相手にならないとでも言いたいのか。
本人にそんな気はなくとも、『厄介な敵から潰す』と言うハクの方針が彼等彼女等に誤解の種を巻いていた。
「やらせません!」
自在な軌道を描くならば、描く前に弾丸を叩き落とす。
そう言わんばかりに射撃を瞬時に西風の柄付きの大剣で叩き落としながら、ハクは目を狙った弾丸を斬り落とした。
「やぁぁぉあ!」
視線が遮られたその隙を見逃さず、コルネリアとポニィが攻撃に出る。
秀でた腕力と、脚力。
万物尽くを打ち砕くと謳われた手甲型臣具の粉砕王を片手で止め、ヨクトボトムスによって強化された脚力を左手の剣を盾代わりにして防ぐ。
もう彼等彼女等にはどうしようもないほどに、この魔人は強かった。
「それは、帝具か」
「臣具、よ……!」
歯を食いしばって粉砕王に力を籠めるコルネリアに悠々話しかけ、ハクは静かに頷く。
「蒼髪の方が力は強かったな」
唐突に粉砕王を抑えていた手を離し、勢い余ってつんのめったコルネリアの腹に拳をお見舞いしたハクは、更に左肩に回し蹴りを叩き込んだ。
利き手ではないにせよ肩を砕かれては、さしもの粉砕王を装備していようが効果的な打撃を与えることは困難である。
「よくもコル姉を!」
怒りのままに繰り出された蹴りに対し、ハクは長い脚を利用した同一の蹴りを繰り出す。
蹴りの勝負では、脚の長さが勝敗を決める。そしてこの男は、長身ではないが黄金比とも言える長い脚とスタイルの良さを持っていた。
「怒るな」
冷静さを欠いた敵に遅れを取る程疲労していないハクのカウンターが顎に突き刺さり、ポニィは意識を飛ばして沈黙する。
ハクはまだ、使ったと言えるほど帝具を使用していなかった。
「フ……」
軽く息を吐き、首を回す。身体に籠もってしまった余分な力を抜くこの動作ですら、強敵の匂いが噎せ返るほどに漂わせる。
ハクはこの時、魔人の如き容赦の無さを産む鉄の精神とドSとの命のやり合いによって完成により近づいてしまった戦闘センスを持つ正しき強敵であった。
「一般兵の方が強いとは、どういうことなんだ……?」
チェルシーの情報と照らし合わせれば彼等の特徴が帝国の精鋭である暗殺者チームと似ている。
故に彼はあの氷タイプと思しき美しい髪を持つ一般兵に対する以上の敬意と戦意、それに伴う容赦の無さを以ってこの戦いに挑んでいた。
帝国の一般兵より訓練された暗殺者チームの方が名前として強く見えるのは、仕方ないことであろう。
しかし、その暗殺者チームはこの体たらくだった。
「……わからんな」
「何がだ、アベコベ野郎?」
遂に仕掛けてきたザンバラ男の刃を受け流し、妖しい刀から距離を取る。
チェルシーから受け取った情報以外に感じた何かしらの不味さというものを、彼はその刃から感じ取っていた。
「何故精鋭のはずの暗殺者チームが、一般兵より弱いのか」
さらりと流し、ハクは剣を松明の如く掲げる最速かつ最大威力を誇るカウンターの構えを取る。
一撃必殺の戦いが、始まろうとしていた。
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