私がまだ子どもだった時だ。
家族で暮らしていた家に突然男が入ってきて、両親を殺した。男は剣を持っていて、両親を必要以上に斬りつけた。
本当に突然のことすぎて、それをじっと見ることしか出来なかった。
声が出なかった。体がまるで錆びたように動かなかった。
もう両親の形すら残ってないぐらいに斬りつけると、男は私の方を向いた。
目が血走っていた。狂気があった。
その顔を見るとさっきまでなかった怒りが腹の底から押し寄せてきた。対照的に頭はクリアだった。
まるで弾かれたように台所に駆け込んだ。錆のように固まっていた体は嘘みたいに簡単に動き、そして滑らかだった。
ただの包丁を手に取り、ちょうど死角になるように入り口に張りついた。
男が台所に入ってきた瞬間、勢いよく飛び出して、男の脇腹におもいっきり包丁を突き刺した。
男はそれほど大きくなく、どちらかと言うと痩せている方だった。私の体重でよろけて、倒れた。とにかく刺した。
「ああああああああああああああ!」
包丁が刃こぼれして刺さらなくなるまで刺しつづけた。怒りをぶつけて刺しつづけた。
見ると男はもう動かなくなっていた。頭からは血が流れていた。よろけて倒れたときに、打っていたみたいだった。
包丁を床に置き、しばらくぼぅっと男の死体を眺めていた。初めて嗅いだ強烈な血の臭いが体に染み付いていく。殺したと実感が沸くまでにずっと見ていた。実感が沸いた瞬間、強烈な吐き気が襲ってきた。同時に、両親がもういないことを思い出した。
「うっ………うっ…うっ……………」
体の奥から何かがこみ上げてきた。おもいっきり泣いた。
葬式は大人数でで行われた。両親の親友、親戚、家族、友達。皆来た。私は、ぼぅっとその様子を見ることしか出来なかった。もう両親はいない。泣いている人たちを見るとその事を思い出して泣いた。胸には喪失感があった。
葬式では、私に話しかけてくる人はあまりいなかった。私の行為は正当防衛が認められた。葬式に来た人の視線には恐怖や戸惑いがあった。なんでだ?と考えて、ようやく分かった。私が人殺しだからだと。
それが分かると悲しい。別に私は殺したくて殺したわけじゃない。両親の復讐のため、生きるために殺したんだ。こんな視線を受けるために殺したわけじゃない。
でも、その視線を受けて、ようやく気がついた。私は陽の当たる場所には、もう戻れないかもしれないということを。世間は私を、人殺しを受け入れない。
あのとき、もう少し何か出来なかったのか?葬式の間、ずっと考えてた。
男が家に入ってきたときだ。私は錆びたように、じっと見ることしか出来なかった。もしかしたら、あそこで私が何かしていれば、何か違った結末が待っていたかもしれない。誰も死なず家族が、両親が生きていける結末があったかもしれない。
罪を犯した気分になった。
見殺し罪。
そんなものはないけど、あってもいいかもしれない。
葬式が終わったあと、親戚たちとの話し合いになった。誰が私の親をするのか。遺産はどうなるのか。
話は、悪いような、責任の擦り付けあいのような雰囲気になっていった。遺産はほしいけど、それをすると私までついてくる。私はいらない。子どもながらにわかってしまった。
確かに、人殺しなんて家族にほしくないけど、それなら遺産も諦めてほしい。
「いいです、自分で生活します」
私はそう言った。さっきのやり取りを見てると、人そのものが嫌いになりそうだった。
話を強引に押しきった。親戚たちは、遺産が手に入らないことを悔しがっているようだった。ザマァミロ。
親戚を全員見送った後、家に一人の男が訪ねてきた。
背は高く、髪はボサボサ、服はヨレヨレ、くたびれた黒のハットを被っている。一目見れば誰もが、ダメ人間と思いそうな男だった。
「あの男は君が殺ったのか?」
「はい」
席に着いてそうそうそんなことを聞いてきた。答えると男はニヤッとした。そんなことを聞かれるのは初めてだった。答えたくない質問なのに、スッと答えが口から出た。
「へぇ、やっぱりか。でも信じられないな」
「…………」
「まあ、いいや。坊主、突然で悪いが、俺は殺し屋なんだよ」
は?殺し屋?
「そう固くなるなって。別にお前を殺そうっていうんじゃない。そうなら、とっくにそうしてる」
「…………」
「はぁ…、まあ、身構えるなって言うのも無理か…」
肩を竦めた。
「坊主、お前には2つ選択肢がある」
またニヤッとした。なんか力が抜けた。
「一つは、ここで俺に殺されることだ」
「…え?」
男は愉快そうな顔になった。
「実はな、俺の正体がバレたら、そいつを殺さなきゃいけないんだよ。まぁ、自分でばらしといてなんだがな」
さっき抜けた力がまた、戻ってきた。
「…結局、殺しに来たんじゃないか」
「まあ、待て、話は最後まで聞け」
宥めるように言われた。
「2つ目は、俺と一緒に来ることだ」
「…………は?」
また、ニヤッとした顔になった。この顔見ると力が抜ける。
「こっちを選んだら、最低限の衣食住は提供しよう。その代わりもう陽のあたるところでは生活出来なくなるけどな」
「………なんで?」
「あ?」
「なんで、そんなことを?」
男は得意げに言った。自分のことじゃないのに。
「お前には殺しの才能があるかもしれないからだよ」
「殺しの才能………?」
「ああ、そうだ。殺し屋にとって必要不可欠で、でも、多くの殺し屋は持ってない特別な才能さ」
「…………よくわからない」
「これは殺し屋じゃないとわからないからな。もし、この話に乗るんだったら、いつかわかるさ」
「………」
「つまり、スカウトに来たってところだ。まぁ、断ったら殺すけどな」
男をもう一度見る。ハッキリ言えば、全く殺し屋に見えない。どっちかっていうと、物好きな学者とか、どっかの博士とかにいそうだ。
でも、なんか違う。さっきまで会っていた親戚、友人、通りすがりの人。どれも違う。違和感のようなものを感じた。
これは、あいつに、俺が殺した男に似ている。いや、でも違うな。決定的に。…………訳がわからなくなってきた。
「俺の仕事はチョイと特殊でな。殺しの対象は冒険者だ」
「は?」
いきなり重大なことを男は言った。
変な声が出た。その声を聞いて男はニヤニヤした。なんかムカつく。
「冒険者って一口に言っても、それぞれの性格には違いがある。当たり前だけどな。力を良いことに使おうとする奴がいれば、反対に悪いことに使おうとする奴もいる。わかるか?」
頷く。男は話を続けた。
「俺の仕事は、その悪い奴らを殺すことだ。力の悪用を未然に防ぐ、起きてしまった事件を最小限にとどめさせる。そんな感じだ」
「……でも、どうやって?」
冒険者は神の恩恵を受けた人たちだ。そこら辺のチンピラなんて簡単に倒してしまう。
前に冒険者同士の喧嘩を見たことがあるけど、あれは喧嘩っていうよりはどっちかっていうと、殺し合いだった。本人たちにとっては喧嘩なんだろうけど、一般人の私たちにとっては、命をかけているように見えた。
「簡単な話だ。俺も恩恵を受けている」
ホントに簡単な事だった。目には目を歯には歯をなんて言うけど、まさにそれだ。
「誰が恩恵をくれるの?」
「ウラノスだ」
「?」
「ギルドの主神」
「!?」
声にならない驚きがあった。男は私の様子を見て笑った。
「ギルドは、分かっているとは思うが、冒険者やファミリアの管理をやっている。きな臭い情報を集めるには、最も適しているんだ。殺しの情報を集めるには都合が良い。勿論、こんなことは表の世界には出せねぇよ。ギルドは中立を売りにしているからな」
「じゃあ、私の情報も?」
「いや、それは俺独自の情報網に引っ掛かったからだ。流石のギルドも一般人の情報をいちいち集めてたらきりがないからな」
男が喋り終わると、沈黙が訪れた。
不思議と頭に浮かんだのは、両親の笑顔だった。二人ともニッコリと笑っていて、思い出すと幸せな気持ちになる私の日常の象徴。
「どっちを選ぶ?」
先に沈黙を破ったのは男の方だった。
家の中なのに、風が吹き抜けたような気がした。清々しくて、強烈な風が。
「……1つ…」
「あ?」
「1つだけ、聞かせてほしい」
「なんだ?」
男をまっすぐ見る。飄々とした声とヨレヨレの格好からは想像出来ないほど、その目は力強い。芯がある。
「私が、殺し屋になれば、……一人でも多くの悪人を殺せば、誰かが幸せに、…笑ってられるようになるかな?」
体の奥が震えた。
男は私の目を黙って、ジッと見た。
「ああ、約束しよう。お前が殺し屋になることで救われる奴は絶対にいる。プロの殺し屋の俺が保証しよう」
震えがとまった。ストンと落ち着く。
「………やるよ、あんたについていくよ」
私がそう言うと男は最高にニヤッとして
「俺の名前はスー。スー・ボトルだ」
「ハイロ。ハイロ・ネック」
「ようこそ、ハイロ、裏の世界へ」
なんて洒落のきいたことを言った。
~現在のステータス~
ハイロ・ネック
Lv.1
力:I 3
耐久:I 5
器用:H 116
敏捷:H 108
魔力:I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【】
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