オラリオの殺し屋   作:金魚が2匹

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話が急に進みます。


二話

家が広い。

本当なら、ここに、両親がいたはずなのに、なんでいないんだろう。

朝起きて、歯を磨き、顔を洗って、食事を一人分作った後、そんなことを思った。両親が殺されてからもう既に一ヶ月が経とうといていた。

最初の数日はさみしいと、ずっと思っていた。なにもしたくないとも思った。でも、いつまでもクヨクヨしてたら、何も始まらない。親戚に頼ることを拒絶した私にとって、今の宛は両親の遺産だけだった。それを使い切ってしまえば路頭に迷うことになる。そんな姿、両親に見せられるかな、と考えるとうまく切り替えられた。

 

でも、何気ない日常の風景で心象に浸ることは多いと思う。掃除してるときなんか、夕食を一人で食べる時とか。まだ、両親がいない環境に慣れてないからだと思う。

 

あの後、スーさんは特に何も言ってこない。でも時々、なんの前触れもなく訪ねてきて

 

「ようハイロ。元気か?」

 

と、心配そうに言って

 

「元気そうだな。いいことだ」

 

と、一人で納得して

 

「じゃあな、俺これから仕事あるから」

 

なんて言って、とっととどっかに行ってしまう。心配してるのか、義務感で確認しに来るだけなのか、よくわからない。いつも私が何か言う前に帰ってしまう。まるで、風のようだ。

 

そんな適当男のスーさんから昨日いきなり、集合がかけられた。

 

「明日の朝、オラリオ郊外の森に集合な」

「いきなりだな」

「いきなりで悪かったな。…あぁ、それと、俺より早く来いよ」

「なんで?」

「それが礼儀だからだ。俺より遅く来てみろ。ぶっ殺すからな」

 

それは、洒落にならない。殺し屋がぶっ殺すなんて言ったらホントに、洒落にならない。ただの脅迫だ。少し、殺気も出てたし。

スーさんは、私を見ると、二ヤっとした。

 

「そうビビるなって。なに、簡単なことだ。俺より早く来ればいいだけだ」

「確かにそうだけど‥‥」

「おっと、そういえば仕事があった。明日のこと忘れるんじゃないぞ」

 

そう言って、ものすごい速さで去っていった。

あ、やばい。時間聞いてなかった。

 

 

「お、ちゃんと俺より早く着いてるじゃないか。関心するぜ」

 

時間がわからないので、結局朝の四時ぐらいから待っていたら、七時ぐらいにスーさんは来た。早起きの習慣がなかったから、起きるのがキツかった。まだ寝ていたい、という誘惑に勝つのは大変だった。

 

「どうしたの?スーさん。目の下に隈ができてるよ」

 

昨日まではなかった隈のせいで何倍も老けて見えた。そう言ったら怒ると思うから口には出さなけど。

 

「あ?まじかよ‥‥。流石に一週間連続不眠は無理があったか」

「‥‥‥一週間連続不眠?」

 

耳を疑った。一週間連続不眠?なんだそりゃ。

 

「ちょっと仕事が立て込んでたからな」

 

ちょっと仕事が立て込んで、1週間連続不眠。どうやら、ギルドは世の中で言われているブラック企業のひとつみたいだ。

行きたくねぇ。

 

「‥殺し屋って皆、そんなに寝れないの?」

「いや、多分こんなに忙しいには俺だけだ」

「なんで?」

「実はな、ギルド直属の殺し屋が俺とハイロしかいないだよ。で、お前はまだ殺し屋になるための経験が足りないだろ?だから、仕事は全部俺一人でやるんだよ」

 

明らかに人が足りてないだろ。

なんか、罪悪感がわく。

 

「なんか、悪い」

「謝られたってどうにもならない」

 

スーさんは肩を竦めた。

 

「お前がはやく一人前になってくれればな」

 

そう言って、スーさんは私の頭をガシガシと撫でた。力加減が雑だ。イテェ。

 

「そう言うことだからハイロ、しばらくお前には修行をしてもらう」

 

そろそろ、そう言う時期かなと思っていた。だから、驚きはなかった。でも、殺し屋の修行ってあんまり具体的に想像できない。

 

「わかった。でも、具体的には何をするんだ?」

 

そう尋ねると、スーさんは自分のカバンを開けて、人差し指をたてながらこう言った。

 

「驚いてもいいが、あんまり大きな声を出すなよ。近所迷惑になるからな」

「はぁ‥‥」

 

ジャラジャラとカバンの中から音がした。鎖の音だ。スーさんがカバンの中に手を突っ込んで鎖でぐるぐる巻きになった何かを取り出した。モゾモゾと動いているのがわかった。

 

「なにそれ」

「待ってろ、今から鎖を解くから」

 

そう言ってスーさんは、慎重に鎖を解いていった。

すると、徐々に鎖で見えなかった部分が見えてきた。

ん?うさぎ?

 

「なにこれ‥‥」

「見ての通り、アルミラージだ」

「…アルミラージ?」

「れっきとした、モンスターだ」

 

このちっこいのがモンスター?

確かに角が生えてて、ただのうさぎじゃないってわかるけど。こいつが攻撃してくるなんて、イマイチ想像できない。

 

「驚かねぇんだな」

「だって‥‥」

「持ってみるか?」

「うん」

 

手足が鎖で縛られたアルミラージを受け取る。かわいい。

アルミラージと目があった。目が潤んでいて、なんというか、可愛そうだ。もうこいつはうちのペットでいいんじゃないかな。

そんなことを思っていると、いきなりその鋭利な角で喉仏を貫こうとしてきた。紙一重で、避ける。アルミラージを投げた。

 

「あ、大丈夫か?」

 

全身から冷や汗が吹き出した。

死。あと少しで死ぬところだった。

息が上がる。両親の死体が鮮明に思い出された。ドロドロの血の匂いですら、まるで今ここにあるかのように感じる。

 

「そういえば、言ってなかったか。アルミラージはその見た目とは裏腹に、好戦的なんだよ。毎年結構な数の冒険者がこいつに殺されてるんだ」

 

私が投げたアルミラージを拾いながら、スーさんは言った。

言っていることはわかるけど、すぐに右から左へ抜けている。

 

「あー、トラウマがまだ抜けきってないか。ほら、ポーションだ。飲めば少しは楽になるぞ」

 

受け取って、一気に飲み干す。すると、恐怖が少しずつ去っていった。

 

「ありがとう‥‥」

「気にするな。それでこのアルミラージを使った修行内容なんだが‥‥、どうする?明日にするか?」

「いや、いい。今日やる」

 

ポーションのおかげでだいぶ楽になってきた。それにポーションは決して安くない。それをもらった手前、ここで帰るのは申し訳ない。

 

「そうか、随分落ち着いたな‥‥」

 

呟くような声がした。

 

「修行内容なんだが、このアルミラージを殺すことだ」

「それだけ?」

「まあ、基本的にはそれだけだな。条件があるが」

「条件?」

「まず一つ目は、素手で殺すことだ」

「素手?ナイフとかじゃなくて?」

「ああ、素手だ。石にぶつけてもいいし、死ぬまで殴ってもいい。とにかく、殺すときにそいつに触れていろ」

「はぁ……、ほかの条件は?」

「死体の解体だ」

「‥‥‥死体の解体‥」

「そうだ。知ってると思うが、モンスターには魔石と呼ばれる石が体内にある。そいつを取り出して、余った死体は細かく分解しろ」

「どうやって?」

「この作業は素手じゃ難しいかなら。ナイフを使っていいぞ。やり方は、勘だ。じゃあ、早速やってもらおうか」

 

そう言って、スーさんはアルミラージを投げてきた。勘ってなんだよ。

 

私の一歩前にアルミラージが落ちた。

私はそれをとって首を持つ。アルミラージと目があった。急に、口の中が乾いてきた。心臓が大きく鳴る。

アルミラージの目はさっきと同じ、潤んでいる。さっきは私の喉仏を狙ったのに、そんなことまるでなかったかのような目。助けを求めている。そんな目しないでくれ。さっきは私を殺そうとしたのに。

力をおもいっきり入れた。

 

 

 

でも、いくら力を入れても死なない。

アルミラージは苦しそうな表情を浮かべている。時々、ギッと声を出している。解けない鎖を必死に解こうと、もがいている。目はさっきより潤んでいて、口からは唾液が垂れてくる。

こんなに苦しそう。こんなに、かわいそう。

でも、死なない。

 

気分が悪くなってきた。苦しんでいる姿を見ると、どうしても両親と被ってしまう。ほとんど無抵抗といって良いほど、簡単に殺された両親。ニッコリと笑顔を浮かべていた両親の顔。

 

その瞬間、体の奥から一気になにかが込み上げてきた。たまらず、アルミラージを投げ出す。そのまま、地面に向かって吐いた。頭が痛い。

 

スーさんはというと、私の様子を木の下に腰をおろして、ジット見ていた。さっきみたいにポーションをくれる気配はない。

 

アルミラージの方を見ると、鎖を解こうともがいている。

ジャラジャラと音がする。必死だ。見ていてわかる。

当たり前だ。さっきまで殺されそうになっていたんだから。いくら好戦的なモンスターと言っても、生物の、生きたいという本能には抗えない。

今、アルミラージは恐怖を覚えている筈だ。じゃないとあんなに必死に逃げようとはしないだろう。捕まれば死ぬ。殺される。止まることのない無限の恐怖がアルミラージを襲っている。ほんとなら、殺したくない。

だって、こんな姿見せられたら、気が狂いそうになる。まるで、私が悪人みたいじゃないか。

 

でも、私はこいつを殺さないといけない。それは、絶対にだ。

アルミラージに近づく。とたんに、暴れだす。それを抑えてもう一度、首を強く掴む。今度こそ、逃がさないために。

首を締めて殺すことはできない。それはさっきわかった。なら、別の手段をとらなきゃならない。

私は、アルミラージをおもいっきり、地面に打ち付けた。

 

「ぎっ、!ぎっぎっ、、、!」

 

打ち付ける度に、アルミラージは声を出していた。打ち付ける度に、生暖かい液体が辺りに飛び散る。唾液とか、血とか。

 

どんどんアルミラージの声は大きくなる。まるで、悲鳴のように。

助けてくれ、もうやめてくれ。聞こえるはずのない言葉が頭に木霊する。

でも、やめない。やめられない。

ここでやめたら、多分、私は一生人を殺せなくなる。

 

ピタリと声が止まった。死んだかどうか確認するためにアルミラージを見る。また、目があった。何回目だろうか。

でも、さっきまでの可愛い顔つきはもうない。片目は完全に潰れている。もうひとつの方の目も、焦点があってない。でも、口が微かに動いている。角は完璧に折れている。

目にはまだ死にたくないという意思があった。

まだ、死んではなかった。

最後に力強く、地面に打ち付ける。バキッと言う音がして、アルミラージは完全に動かなくなった。

 




作者のなかでのアルミラージは、大群で襲ってくるから怖いんであって、一匹ずつだと全く怖くないって感じです。勝手な解釈です。すいません。
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