あの修行の後、心証に浸ることがなくなった。
家を掃除しているときも、一人でご飯を食べるときも、しんみりとした感情になることがなくなった。
あの修行は今も続けられている。と言っても、スーさんは忙しいので、自分でモンスターを調達しにいく。手頃なモンスターを気絶させて、殺す。習慣化してきた。
殺し屋と言うのは、完全に社会との関わりを絶つことはしなくて良いらしいけど、変に目立つのはダメらしい。なので、殺すときはよく辺りを確認してから殺す。
スーさんは、見られないように人の気配を感じとれ、なんて言ってたけど、無理。気配を感じとるって難しい。これ以上ないぐらいに集中して人の気配を感じ取ろうとするけど、一回も成功してない。
モンスターの死体の解体も修行の中に含まれている。取れた魔石は自分の好きなようにして良いと、スーさんから言われていたので、売っている。持ってても使い道がない。
そのお陰で、バイトしなくても、両親の遺産と魔石代を会わせて使えば生活できている。
初めて、あの森でアルミラージを殺したときは、吐きまくった。最初の一匹を殺したあとに一回。そのあと結局、アルミラージを十体は殺したから、少なくとも十回は吐いた。しばらくは、なにも食べられなかった。
今日は珍しくスーさんから呼び出しがあった。集合がかかるのはあの修行の日以来で、半年ぶりだ。
集合場所もあの森ではなく、バベル前になっている。
でも、あそこ人が多いんだよな。見つけられるか少し不安だ。
スーさんはちょくちょく会いに来てくれる。1週間に一回ぐらいのペースだ。時々、お土産を持ってきてくれる。仕事で行く機会があるらしい。なんでも、地方を拠点として活動するやらかもいるらしい。仕事が終ると、すぐに帰らなければならないと、言っていた。お土産くれるときは毎回、ゲッソリしている。あたりまえだけど、疲れているんだ。
「よぉ、ハイロ。元気か?」
スーさんはすぐに見つかった。
「うん。元気だよ」
「そうか、良いことだ」
相変わらず、服がヨレヨレ。髪もボサボサ。いつもと変わらない姿だ。なんか、安心した。
「そういえば、今日は何で集合になったの?」
「そろそろ、武器の使い方を教えようと思ってな」
「?なんで、バベル前に集合なの?いつもの森でもいいじゃん」
「武器を買ってやろうとおもってな」
「…いや、それは…」
申し訳ない。
私の言葉を聞くとスーさんは、ニヤッとした。
「気にするな。武器は自分にあったものを使わないと意味がない。どうせ、お前のことだ。そこら辺の安いテキトーな武器を選ぶだろ?それはもったいない。……まぁ、師匠からの数少ないプレゼントだと思ってくれ。」
「…でも、武器の良し悪しなんてわからないし……」
「ぐずぐず言うな。多分、見れば分かるさ。俺の場合はそうだった」
どうやら、無理矢理にでも買ってくれるらしい。
不器用だなぁ。
「じゃあ、頼むよ」
「おう、任せとけ」
そうして、人混みを掻き分けて、バベルの方に足を進めた。
バベルの中には高価な武器が売ってあることころと、安価な武器が売ってあるところがある。
高価な武器は、その道の職人が作っていて、名実共に一級品。
じゃあ、安価な武器はダメなのか、と言われればそうでもない。
まだ、あまり有名ではない若手の職人が自分の実力を示す場となっている。中には、思わぬ掘り出し物もあるらしい。
「どうだ?良いのはあるか?」
私たちがいるのは高価な武器が売ってある場所だ。ホントに高価で、桁がおかしい。可笑しい。
見たときは笑ってしまった。
本当にこんな高価な武器が買えるのかと聞くと、安心しろ金はある、と言われた。
どんだけ金があるんだよ。
一つ一つ手に取ってみる。確かに、一級品だ。手に取っただけで、素人の私でも分かる。
凄い。
これが、本物。
「うーん。わかんない」
でも、あんま、ピンと来ない。
これだ!と言う一振りがない。確かに素晴らしいんだけど、何かが違う。
「ないか。………なら、上の階にいってみるか?」
「上って、若手の職人のところの?」
「そうだ」
「でも、ここよりいい武器なんてあるの?」
「良い、と言うよりは相性、だな」
「相性?」
「ああ、相性だ。上の階に行ってもここよりいい武器なんてねぇよ。それは確信している。だけど、人と人にも相性があるように、武器にも相性がある。そう言うのは手に取ってみないとわからない。だから、多くの武器を手にとれば自然と相性の良い武器があるさ」
「相性ってそんなに大事なの?」
「大事だぞ。さっきも言ったが、人と人と同じだ。相性が良い奴とじゃないとうまくいかねぇだろ?そう言うことだ」
「へぇ」
「とりあえず、行ってみるか?」
「うん」
私たちは店をあとにした。
上の階は雑然としていた。下の階みたいに整理された感じはなく、まるで倉庫みたいだ。
その代わりに、武器の数が下の階よりも多い。これならスーさんの言っていた相性も、もしかしたら分かるかもしれない。
「適当に見て回っとけ。俺も探してみる」
「分かった」
スーさんは反対方向に向かって行った。
近くにあった剣を手に取る。
違う。これじゃない。
この槍でもない。
こっちの斧でもない。
あれでもないし、あそこのはもっと違う。なかなか、ない。いろんな種類があって、見ごたえはある。でも、これといったものがない。
武器を探して歩いていると、いつのまにか会計の場所まで来てしまっていた。会計の近くにはあまり武器がない。奥の方に行こうとしたら、丁度声が聞こえた。
「これは、ここにおいてよいのか?」
振り返って見ると、そこには黒髪で赤眼の女性が店の人と話していた。女性にしてはしっかりした体のつきをしている。木の箱を持っている。多分、この人は鍛治師だと思う。ここになにかを持ってくるっていうのはそう言うことだ。
女性が作る武器がどんなものなのか気になった。女性に近づく。
「ん?どうした少年」
「その箱、見せて」
「この箱か?もちろんいいぞ」
そういってその女性は箱の中身を見せてくれた。
いくつかの種類の武器があって、その中のひとつの短刀を手に取った。
「!」
スッと手に吸い付く。今までのどの武器もそんな感覚はなかった。
木でできた鞘を取る。見えたのは、輝かしい光を放った刀身。
グラリ、と来た。同時に、ゾクリと感じた。
「どうだ?少年」
自信があるのだろう。胸を張ってニッコリしていた。
「少し、……少しだけ、試しに振るわせて下さい」
「あぁ、いいぞ」
周囲を確認してから一振り。
電流が体を、駆け巡る。全身の鳥肌がたった。
「ほぅ」
隣で女性が私を見ていた。値踏みするかのような目だ。でも、自然と悪い心地はしない。
「もう一回、いいですか?」
気づけば、口調が丁寧になっていた。
「いいぞ。好きなだけ振るえ」
深く、頷く。女性は心地よさそうな顔になった。
ただ振るう。
まだ、武器の使い方なんてわからない。ただがむしゃらに振るう。刃は空気を切り裂き、振るう度に、ヒュッと音がする。ホントに馴染む。溶けていく、溶けていく。深く、深く。時間の感覚が曖昧になる。
これは、凄い。
急に、昂っていた気持ちが、冷水をかけらたかのように、萎んでいった。
気づいてしまった。
私は許されるだろうか。
職人たちは自分の魂をかけて武器を作っている。言ってしまえば、武器は職人の魂そのもの。職人の誇り。心の表れ。
それを、私は人殺しのために使う。鍛治師の多くはモンスターと戦うために武器を作っている。それは、決して人を殺すためのものじゃない。
許されるだろうか。
いや、許されないだろう。職人の魂を汚しているようなものだ。
「どうした?顔色が良くないな」
心配そうな顔でこっちを覗きこんできた。
「変なこと、聞いていいですか?」
「なんだ?言ってみろ」
俯いたまま話す。失礼だけど、顔をあげられない。
「…………例えば、この短刀が、本来とは別のことに使われてたりしたら、………どう思いますか?」
「別のこと、とは………?」
「…うまく言えないんですけど、………本来、ここにある武器ってモンスターと戦うため、倒すために作られるじゃないですか…」
「そうだな」
「ですけど、…それとは別の物を、…別の生き物を斬ったとしたら……」
もし、人を斬ったなら、それは鍛治師にとって………、
「そうだな。……それは、鍛治職人にとっては侮辱以外のなにものでもないな」
「………ですよね」
わかりきっていたことだ。
「ただ………」
女性は言葉を一旦区切った。はっと顔をあげて、言葉を待つ。
女性は、じっくり思案したあと、ゆっくり、言葉を紡いだ。
「ただ、…もし、その武器がその人のためになるのなら、………それはそれで、…ありなのかもしれないな」
フッと不敵に笑った。
この女性はなんて器が広いんだろう。今まで見てきたどの人よりも、カッコイイ。
「名前を聞いて良いですか?」
「私か?私は椿・コルブランドだ」
「椿さんですか。今日はありがとうございました」
「どうだった?私の武器は」
「もちろん、最高です!」
「そうか、それはよかった」
椿さんは、ニッコリと笑った。まるで、花のようだ。その様子を見て、この人は本物の鍛治職人なんだ、と思った。
椿さんって何歳ぐらいなんでしょうね。適当に25~28才ぐらいかなと思ったんですけど。口調がおかしいかもしれません。指摘お願いします。
この椿さんはまだ、駆け出しの頃だと思ってください。
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