オラリオの殺し屋   作:金魚が2匹

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五話

 

霧が濃い。

視界が悪く、目では状況を完璧には確認できない。短刀を抜いて、集中する。

 

 

 

「スーさん。ダンジョンの奥に行ってみてもいい?」

 

スーさんがいつものように、私の家を訪ねて来たとき、私はきりだした。

 

「あ?奥ってどれぐらいだ?」

「今までは5階層までしか行ったことがないから、中層の前ぐらいまで行ってみたい」

「てことは、12階層か…。良いぜ。行ってこい。ただし、いきなり12階層に行こうとするなよ」

「分かった」

 

 

 

辺りの気配を探る。

この短刀を使うようになってからは、まるでスイッチを入れるように集中できるようになった。スキルが発現したのも多分、この短刀のおかげだと思う。

気配を探ることも、集中が続く限りできるようになった。

 

 

 

「但し、条件がある」

 

スーさんは、私の家のコーヒーを飲みながら言った。

 

「条件?」

「そうだ」

「それは?」

 

 

 

できるだけ気配を探れる範囲を広くする。気配が探れる限界のところまで広げる。あまり広げすぎると、気配を見落としてしまうことがあるから、それがないギリギリのところまで広げる。

 

 

 

「一つはお前の集中力をあげることだ。お前のスキルを活かすにはこれを訓練しないとダメだからな」

 

 

 

集中するのは、結構体の負担がある。初めてスキルを使った日、つまり、スーさんに短刀の使い方を教えて貰ったときには、それこそ一瞬で疲れが溜まった。肝心なときに疲れて動けない、なんてことにならないようにする。そこの加減が難しい。

 

 

 

「もう一つは、モンスターと戦うとき、できれば一撃で倒せ」

「一撃?さすがに無理じゃない、それ」

「いや、そうも言ってられないんだ。標的は自分よりレベルが高いってことはよくある。そんな相手を確実に殺すには、こっちに攻撃される前に殺すしかない。そのための一撃必殺だ」

 

 

 

モンスターが近づいてきたのがわかる。気配を感じられるのは便利だな。

 

 

 

「いいか、弱点を見極めろ。相手の最も弱いところだ。そこを狙え。余計なことを考えるな、死ぬぞ。ダンジョンは生きているなんて言われるぐらいだ」

 

 

 

やって来たのは、ボロボロの布を申し訳ない程度に身につけたでかい人形の緑の怪物。オークだ。

でかい図体の割りに、そこそこスピードもある、厄介だぞってスーさんが言っていたモンスターだ。

やっぱり5階層のやつとは迫力が違う。でかいから、圧迫感もある。

 

 

 

「弱点って、魔石のこと?それなら胸の位置にあるけど、お金になるから壊したくないな」

「違ぇよ。魔石のことじゃない。人と同じだ。弱点は心臓だけじゃないだろ?首、肝臓、脳に脊髄、舌だって立派な弱点だ。他にもたくさんある。生物ってのは弱点の塊だ。その中でも最も弱い部分を探せ。魔石は抜きにしてだぞ」

 

 

 

オークに向かって走り出す。オークは棍棒のようなものをもっている。私に気づいて少し身構えた。

何処だ。こいつの弱点は何処だ。目?首?胸…は魔石があるからダメだ。何処だ。

走りながら考える。オークとの距離が縮まっていく。オークが棍棒を振り上げる。

脇腹か?いや、一撃必殺にならない。動きを阻害するぐらいにしかダメージを与えられない。

もう、オークまで5Mもない。

オークが棍棒を降り下ろす。右足を軸にして前に回転しながら避ける。

何処だ、何処だ、何処だ。

 

ふと、オークの腹に目が行った。オークの腹はブクブクと太っている。人間にいたら、100%肥満を通り越している。あんなに太っているのは、なんで?単に太っているだけ?それとも別の可能性?

 

どっちか、わからない。

けど、直感がそこだ、と言っている。そこが弱点だと。

でも、この短刀であの腹をどうにか出来るのか?

 

一旦距離を取る。オークはそれを見ると、ドスドスと足音をたてながら、こっちに向かって走ってきた。

 

他の弱点を探す。何処かにないか?他にもないか?

 

棍棒での攻撃を避ける。右に、左に、ときにはしゃがみながら。

 

棍棒がしたから上へ引き上げられた。その瞬間にうまれた、明らかな、隙。

体が勝手に動いた。

切り裂く。刀はスッと腹に入っていった。柔らかい。上に引き上げる。

 

「グアァァッ!、…………」

 

断末魔を上げてオークは倒れた。

弱い。いや、別にこいつが弱い訳じゃない。普通に戦っていたら普通に苦労しただろう。ただ、それを考えても呆気なさすぎる。

これが、弱点か…。

 

 

再び集中する。

すると、辺りにはモンスターの気配が多数。どうやら、戦闘で辺りの警戒が疎かになっていたようだ。

でも、これぐらいなら大丈夫だ。囲まれても、ある程度辺りを警戒しとけば、そこまで命の危険を感じることはない。でも、気を抜かないようにしないと。

私はモンスターの気配がある方に向かって、走り出した。

 

 

 

あらかた、オークや別のモンスターを殺して思った。大量のドロップアイテムや魔石をどうしようか、と。今まではポケットに入るぐらいしかなかったけど、下の階層になって、いきなり量が増えた。これをこのままにしておくのは、もったいない。でも、もって帰るには多すぎる。

五分ぐらい考えて、なにも思いつかなかった。さっきの戦闘で集中力のほとんどを使い果たしてしまったので、頭が機能しない。こんな状態で良い案は浮かばない。

あんまりうかうかしてると、横取りされる。経験がある。殺したモンスターの死体を一ヶ所にまとめておいていたら、いつのまにかなくなっていた。苦労して集めたものが無駄になってしまったあの瞬間を私はきっと、大人になっても覚えているだろう。

 

悩んでいる間に、人の気配が一つ近づいてきた。気配がした方を警戒する。また横取りでもされたらたまらない。

 

ザッザッと足音が次第に近づいてくる。自然と身構える。

霧があっても見える位置にまで来たその人は、なんと椿さんだった。

 

「おう、奇遇だな。いつかの少年」

「……お久しぶりです」

 

この人を前にすると敬語になってしまう。スーさんには普通にタメ口出来るのに。

 

「そう固くなるな。しゃべりづらいだろ」

「……すいません…」

 

やっぱり、敬語になってしまう。

それを聞くと椿さんは、はぁっとため息を吐いた。

 

「少年、見た感じ年もそんなに離れている訳じゃない。敬語はどうにかならんのか?」

「…すいません。椿さんを前にすると、どうしても、こうなってしまって………」

 

椿さんはもう一度ため息を吐いた。

 

「…まぁ、その話はまた今度にしよう。今日は何しに来たんだ?」

「私は特訓のためです。椿さんはどうしてですか?」

 

不思議だ。鍛冶師って言えば鍛冶場でひたすら鉄を打って、その中で今できる最高の一振りを作り出す、そんなイメージしかない。

ダンジョンにいるのは意外だった。

 

「なに、刀の試し斬りだ」

 

手には刀が握られていた。グラリときた。私が持っている刀よりも出来が良い。進化している。思わず、無意識に手を伸ばしてしまった。

ヒョイッと刀を隠された。

 

「あ、…すいません………。あまりにもいい刀だったので……」

 

椿さんはイタズラっぽい顔をしていた。

 

「欲しいか?」

「はい。………すいません」

 

即答してしまった。言ったあと、強烈に後悔した。椿さんはクックックッと笑っていた。

 

「そんなに欲しいなら作ってやろうか?」

「へ?え!ん?!」

 

恥ずかしい。穴があるなら入って、そのまま土を被せて欲しい。そんなことしたら、死んでしまうか。

 

「もちろん依頼料はきちんと払ってもらうがな。どうだ?依頼するか?」

「良いんですか?!」

「もちろんだ」

 

椿さんはニッコリ笑った。

 

「ここでは話しづらい。私の鍛冶場で話そう」

 

それを聞いて、ここがダンジョンだったことを思い出した。

もう、魔石のことなんてどうでもいい。

 

 

 




戦闘シーン書きにくいですね。
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