街を歩く。
最近は寒くなってきている。吹き付ける風は日に日に冷たくなってきてた。私は冬はあまり好きではない。というか、嫌いだ。夏も、そんなに好きじゃない。でも、冬の方が嫌いだ。
大した理由はない。ただ単に私は寒いのが苦手ということ、両親が殺されたのが冬で、色々思い出してしまうからだ。
両親が殺されてから丁度、一年が経とうとしている。秋ぐらいまでは全くそう言うことを思い出さなかった。でも、この季節になってから急に、栓を勢いよく引っこ抜いたみたいに、家族で居た記憶を思い出すようになった。
ふとした瞬間に、色んな事を思い出す。外から帰ってきたときただいま、と言う。当たり前だけど、誰も居ないし、誰の声も聞こえない。その事に、もう慣れたと思っていた。
実際に、この季節になるまでなにも思わなかった。
でも、最近はただいまと言って返事が帰ってこないことに、心臓をぎゅうっ、と掴まれたような気がする。
そろそろ、服を買わなきゃいけない。去年買った長袖の服は、完全に自分のサイズにあってなかった。着るとピチピチになっていて、これじゃ、寒さを乗り越えられない。こんな寒さの中、ダンジョンに行く以外で外に出かけることになるなんて。
私は成長期を恨んだ。
まだ、雪が降るほど寒くなっていない。でも、街行く人たちは早くも厚手のコートを着ていたり、手袋やマフラーをしていた。多分、その人たちは寒さが苦手なんだろう。
私の格好はと言うと、半袖、半ズボンだ。寒い。とにかく寒い。半袖、半ズボンしかサイズがなかった。
流石に、もう半袖、半ズボンの人は私以外は居ない。目立ってしまうのが分かった。
大通を歩き、しばらくして、細い野路裏に曲がる。そのまま道なりに進むと、別の通りに出る。さっき通った路地裏は、近道になる。
そこは、さっきの大通とは違い、冒険者はほとんど見当たらない。
ここはいくつかの店が建ち並ぶ、商店街のようなところだ。冒険者が居るような、武器屋や、薬品が売ってある場所はない。八百屋に魚屋、ひっそりとした居酒屋に、雑然とした古本屋。
このゆったりとした雰囲気は、年中騒がしい冒険者には合わない。私はここの雰囲気が好きだ。
さっき言った、八百屋や古本屋を通りすぎた所に服屋がある。それほど大きくなく、かといって品揃えは悪くない。値段は普通で、これと言って特徴がない。何故この服屋を選んだかと言うと、家から一番近いからだ。
カラン、カラン。店のドアを開けると、ベルが鳴る。店の中は客がチラホラ。そこそこ繁盛しているようだった。冬物のコートと長袖を適当に見繕う。灰色、黒、紺。手に取ったのは暗い色の服ばかりだった。
そう言えば、殺し屋になってから殺し屋らしいことをしてない。一番らしい事と言えば、アルミラージを殺したときだ。でも、アルミラージは人じゃないから、やってることは冒険者と同じだ。
修行はしている。毎日毎日、気配を探るように生活している。結構広範囲を探れるようになった。でも、スキルを発動させないと使えないのが、残念だ。
殺しをするために訓練している。モンスターはもうこれでもかってぐらい殺してるし、日に日に強くなっていくのが分かる。
でも、人は殺してない。その経験が少ないことが、一番怖い。
服を買って店から出た。カラン、カラン。ありがとうございましたー。気のない店員の声が後ろから聞こえた。
家に向かって歩く。寄り道はしない。買うものも、特にない。
殺気が飛んできた。
反射的に短刀を抜きかけた。
ここが街中だということと、その殺気が私に向けられてなかった、と言うことがなかったら、多分その方向へ斬りかかっていた。
これもダンジョンの潜り続けたおかげだ。ダンジョンでは、気配や殺気を感じ取った瞬間攻撃を始めないと、いつ殺されるかわからない。流石に、街中で怒気を感じたことはあるけど、殺気を感じたのは初めてだった。
距離はそれほど遠くない。目の前の女の綺麗な薄緑色の髪のエルフからだと思う。何人かの男に囲まれている。
不良?ナンパ?
男たちはニヤニヤしていた。エルフの方は男たちをにらめつけていた。
獣のような目だ。少し離れていても分かった。そして鋭い。こんな目で見られたら、普通、怖い。男たちに気づいている様子はなかった。余程、自分に自信のある男たちなのか。それとも、そんなことも分からないアホなのか。
男たちは気づいていない。男たちがエルフに話しかける。エルフが首を横にふった。不機嫌なのが伝わってきた。それでも男たちは話しかけ続けている。ニヤニヤと。
エルフは多分、強い。全身からバンバン殺気が出てる。両親が殺される前の私だったら、多分全力で逃げ出してたと思う。
ついに、エルフが男たちを振りきろうとした。男たちが手を掴む。瞬間、エルフの顔が歪んだ。
振り帰って、腰にある木の棒のようなもので一発。ボキッ。あばら骨が何本か折れたと思う。そんな音だ。
他の男たちが驚いた。そのまま回し蹴り。他の男たちが襲いかかる。脇腹、鳩尾、顔面。男たちは一瞬のうちにうずくまった。エルフが更に攻撃しようと木の棒のようなものを振りかざした。男たちはもう動けない。多分、何人かは骨折している。
流石に、やりすぎだ。
「ちょっと、待ってください」
私が声をかけると、一瞬ビクリとして、私の方を向いた。
「誰だ?……こいつらの仲間か?」
凛とした声だ。良い声。
「いえ、通りすがっただけです」
「……何の用だ」
声音が一気に下がった。警戒している。
「やりすぎじゃないでしょうか?もう、この人たちなにもできませんよ」
それを言うと、エルフはギリッと奥歯を噛み締めた。
「こいつらは、私に、障った!!」
エルフが声をあらげる。通行人が一瞬振り向いたが、そのまま何事もなかったように歩きだした。こういうことは日常茶飯事なんだろう。
エルフのなかには皮膚に障られるのを嫌う者もいるって聞いたことがある。初めてみた。
ここまで極端だとは、予想もしてなかった。
エルフは、ばつが悪そうにうつむいた。
「……すまない。感情的になりすぎた…………」
「大丈夫です」
驚いたけど。
「この人たちもこれに懲りて、こんなことはもう、やらないと思います。だから、これ以上は痛め付けないでください」
「……わかりました。でも、もしこいつらがこういうことをやったら……!」
徐々に口調が柔らかくなって行ったが、最後に、エルフは転がっている男たちをみらめつけた。
うつむいたままだったけど、倒れている男たちには見えていたと、思う。私は殺気が飛んできたから分かった。
ひっ、と短い悲鳴が聞こえた。男たちは震えていた。今ごろ恐怖していた。遅い。
エルフの女性は去っていった。私は男たちの応急手当てをしてから、もうこんなことをしないでくださいね、と言って家に帰った。
家に帰って、買ったばかりの服を着た。コーヒーを淹れて飲む。美味しい。寒さにさらされていた体が暖まる。心地良い。
本でも読もうと思い、本棚がある部屋に行った。全部読んだことがある本だった。両親が死んでから、一人で居ることが多くなったので、本を読む機会が増えた。お陰で、家の本は全部読み終わっていた。今度、本屋に行かないと。
前読んで、面白かった本を片手に、コーヒーをもう一杯飲んだ。
本を読みながら思ったのは、今日ナンパ?されていたエルフのことだった。
獣のような目をしていて、鋭い。獣と言うより、キレやすい野良猫って感じか。キレて殺気を飛ばす奴なんてなかなかいない。怒りで怒気を飛ばすのが精一杯だ。歳は、私より1~2歳年下だと思う。
ん?じゃあ、あの男たちは、世間で言われている、ロリコンってやつだ。生で見たのは初めてだった。男たちは、もう、立派な大人だった。
オラリオには人が集まる。世界の中心とも呼ばれているから当然だと思う。だから、色んな人たちがやって来る。文化が違うし、考え方も違う。育った環境が違うから当たり前だ。だから、交流が生まれるし、対立も生まれる。すべての人たちがわかり会える訳じゃない。わかり会うことを放棄した人たちもいる。
それを考えると、私たちのような殺し屋が居るのも、当たり前のような気がした。
ご免なさい。ストックがきれそうです。と言うことで、更新ペースがおちます
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