松実宥が学校の勉強をしていると、傷心の荒川憩から電話がかかってきた
※若干シリアスな咲-saki-ssです
憩「あのなー宥さん、相談やねんけど」
憩「ウチって死んだ方がいいと思わん?」
宥「…は?」
宥「どうしたの、いきなり」
憩「この前妹がな、死んでん」
宥「…そうなんだ、でも憩ちゃんは死んじゃだめだよ」
憩「いやな、もうめんどくさいねん」
昨年度の全国高校生麻雀大会個人戦二位の荒川憩とは去年の冬休み、
私、松実宥の実家である旅館、松実館の冬休み限定住み込み短期アルバイトに彼女が採用され一緒に働いた経験から、
私達姉妹の共通の趣味である麻雀を通して、時々こうして電話する程度に親しくなった
彼女がよくナース服を着ているのは、病気の妹を看護するためだということを、知ったのはつい最近のことだ
部活を通して初めて会った時は、
今こうして電話口の向こうにいる憩ちゃんがこんなに繊細だとは思っていなかった
この子は悩みを一人で背負い込むからタチが悪い
弱音を吐くのは私の前でだけ
それは私なら憩ちゃんのことを心配をしないと知っているから
これが穏乃ちゃんあたり、いや普通の女の子だったら皆、悩みを打ち明けられれば心配するもの
憩ちゃんにはそうやって心配されることが重荷なのだ
だから私を選ぶ
だけど、私が憩ちゃんの悩みを聞くことで、その心を癒やすことができているかどうかは、限りなく微妙だ
私に思いを吐き出しても楽にならないことを知りつつ話しているなら
私は憩ちゃんにとって独り言を聞いてくれる無機質な壁のようなものにすぎないのだから…
そんな考えがいつも頭をもたげていながら、今日も電話越しに悩みを聞く
その中でも今日のは特に重い話題
宥「ダメ、憩ちゃんにはまだお父さんやお母さんだっているでしょう」
憩「もう合わす顔あらへんよ、うちのせいで死なしたみたいなもんなんやから」
宥「死なせた…?何があったの?」
憩「もともと病気持ちの子やってのは前言ったやろ。それやのにな、側におったウチが発作に気づいてあげられへんかってん」
宥「ご両親はなんていってるの?」
憩「なんも。ずっと泣いてる、それみてたらウチが泣かしてるんやなあって」
宥「憩ちゃんのせいじゃないんじゃないの、状況がよくわからないけど…」
憩「あいつな、我慢しとってん。だからウチ気づけんかった。でもな、飼ってる犬はしっかり気づいとったよ、ウチ、犬以下やねん」
宥「そうだったの…」
憩「うちな、あほやってもうた自分が許せへんねん」
宥「…」
憩「誰かうちのこと殺してくれへんかなあ、あの子の代わりにうちが死んだらよかってん」
宥「そんなこと、言わないで」
憩「ていうか宥さんにやってほしいわ」
宥「それって、殺してほしいってこと?…どうして私なの?」
憩「皆絶対うちに、あんたのせいやないから生きなさい、って言うのわかってるもん」
宥「私だってそう言うよ?」
憩「それは寂しいなあ、宥さんもうちのこと分かってくれへんの?」
宥「自分を責めるのはよくないってことだよ」
憩「またまたー、あんなんなったら誰かてこうなってまうよー」
どうやら
憩ちゃんは私に”死んじゃえばいいよ”って言わせたいらしい
迷惑な話
それで本当に死なれたら私に責任が降りかかるんだ
憩「だってウチみたいな人間なんて死んだほうがええと思うやろ?ほら、宥さんやったら、ほら」
宥「…」
憩ちゃんが、私のことがあまり好きではないことは初めて会ったときからわかっていた
”ほら”と言われて
憩ちゃんが松実館にバイトしに来ていた頃、憩ちゃんに私だけが冷たく当たられていたことを思い出さずにはいられなかった
こうやって電話してくるようになったキッカケも最初は部活の連絡事項だったりで、その最後にいつもちょっとした嫌味を言ってきていたのが
いつのまにか答えにくい話で私を困らせる時間の方が長くなって、それが最終的に目的化した
”用は無いんやけど電話してん”
私の自尊心を攻撃してくることはなかったけど、その電話が一種の嫌がらせなのだと臭わせてきてもいた
だから憩ちゃんは、私が憩ちゃんのことを嫌っていると思っているのだろうけど、それは間違い
どちらかといえば他愛ない意地悪をしてくる知り合い以上親友未満の関係に近いと思っていた上に、
いつも貼り付いた曇りのない笑顔の下で何を考えているかまるで分からなかったから、
私が、大切な妹である玄ちゃんのお友達でもある憩ちゃんに感謝することはあっても
嫌いになるはずがないじゃない
憩「正直に言ってええんやで?」
妹が死んで自暴自棄になっているのが本当だということは声色を聞けばよく分かる
いくら励ましても、死にたい、の一点張りの憩ちゃんに、
思わず、じゃあ死ね、って言いそうになるのを堪える
怒りで頭に上った血液が血管を破る音が電話越しに聞こえたんじゃないかと思ったけど、
その次の瞬間には残酷なくらい冷静になって、頭が働くと、一つの決意ができた
憩ちゃんが私に嫌われることを望んでいるなら、
憩ちゃんのために、憩ちゃんを嫌いになろう
宥「思わないよ」
そう言ったあとの私はもう、すっかり憩ちゃんのことが嫌いになっていた
軽薄な女よ
憩「ええ~~~?なんでなん?うそや絶対~~」
あなたは妹さんが亡くなるずっと前から、その死を予感し、自らもまた死ぬことを考え始めたんだよね
そこであなたは、自分には生きる価値がないという事実を予め作っておくことにした
それが私に対するイジメだったんだよね
そして今、私に死ねと言われることさえできれば、あなたの自殺は完了できる
誰が言ってやるもんですか
何せ、私はあなたのことが嫌いなんだから、協力するはずないでしょう
せいぜい苦しめばいい
これはあなたが仕向けたことでもある
思いを言葉にはせず、憩ちゃんを捕まえていく
宥「憩ちゃん、聞いて。私はね、生きている人には最期まで生きる責任があると思うんだ」
宥「生きていれば大切な人が死ぬことだってある、それも突然に。でもそんなの当たり前のこと」
あなたは癒やされたいと思っているんでしょう
死という癒しを求めているんでしょう
多くの人が、その渇望を乗り越えて生きているのに
情けないとは思わないの
宥「でもそれを受け止めて生きていかなくちゃいけないの」
宥「何故なら、自分のことを生きていてほしいと思っている人がいるから」
宥「今はもう、そう思ってくれる人は居なくても、かつて居たなら、その思い出を糧にして生きてかなくちゃいけない」
憩「…」
宥「生きていれば生きる意味や価値や目的や資格を失うこともある、それでも生きなくちゃいけないの」
宥「意味も価値も目的も資格も、もう一度探せばいいの、取り戻すことができるの」
宥「未来にはあなたのことを待っている人がいる、憩ちゃんはそこにたどり着かなきゃいけない責任があるの」
宥「その途中で分厚い壁が立ち塞がるかもしれない、それも全て乗り越えて前に行かなくちゃいけないの」
憩「…」
憩「……」
憩「…なあ神様、うち、どうすればええんやろ」
宥「立ち直るの」
憩「…あかん、ウチ、空ばっか見てまうねん」
宥「そのままでいい、立ち直るの。勉強をして、麻雀を打つ、ただそれだけでいいの、
泣きながらでいいから全力で取り組むの
それ以外は何も考えなくていい、あなたにとってはそれが罪滅ぼしになるの
苦しむことが罪滅ぼしになるの、あなたにとって生きることが苦痛ならそれを選ばなくちゃいけないの
死んで楽になるなんて、私が許さないから」
憩「…わかった、分かったよ、ありがとうな、宥さん」
宥「来年はインハイ個人戦も優勝してね
出来なかったら、妹さんの分まで私が呪うから」
憩「うん…そうしてな、頼んだで」
宥「じゃあ…結果、楽しみにしてるからね」
憩「うん…」
電話を終えて、時計を見てから勉強を再開した
メガネをかけて、机に向かい、
ペンを走らせていると、頭の中で勉強の内容とさっきの電話でのやりとりが同時に頭の中で処理されていくのがわかった
電話越しに拳を握って熱く語っていた時の気持ちが蘇ったけど、結論が出るとすぐにどうでもよくなった
一言でいえば
甘えん坊なのに
不器用な子だ
きっと憩ちゃんには仲間が必要なのね
解き終わった数学の問題を解答集と見比べて次々に丸をつけてゆく
その作業が終わる前に意味のない思考を決着させることにした
多分、その素敵な仲間は既に憩ちゃんの周りにいる
なぜなら憩ちゃんは親類思いの人だから仲間思いに違いないから
人見知りの私が見ると羨んでしまうくらいに素敵な仲間をたくさんもっているんだろうね
そんなに恵まれているくせに、その仲間を裏切ろうとしてたのが憩ちゃんだ
さっきはああ言ったけど、憩ちゃんにだって選択の権利はあるんだけどね
仲間はどんな選択をしても許すだろう
でも私は許さないよ
だってそれって醜いじゃない 弱くて甘えてばかりじゃない まるで赤ちゃんみたいだもの
素敵な仲間たちも、あなたのために歪まざるをえなくなるから
って私は思うんだけど
私に憩ちゃんを導く力は無い
きっと居るであろう憩ちゃんの仲間が新たな心の支えにさえなれば
それが彼女を成長させて、ひいては麻雀部同士で個人的親交のある玄ちゃんを成長させることにも繋がるだろう
全問正解
一足先に卒業してしまうお姉ちゃんは、また置いてけぼりになっちゃうけど
ずっと見てるからね
次のページをめくって、また黙々と問題を解いてゆく
私にできることも、ただこれだけなのだから
カン!
読んでくれてどうもありがとうございました
初めてssを書きました、とても難しかったです
白望 「二者択一……?」という凄く面白いssを読ませていただいたのですが、小瀬川白望ちゃんが絶望しそうになるシーンにさしかかったところ、
「こら、白望!シャンとしなさいよ」って気持ちになって
とりあえずシロに説教したくなって書いたのがこのssです
なんでシロが憩さんになってるかは分かりません
ミスですね、多分