冒険の後は酒場で一杯 作:朝苗
とりあえず次はもう一つの方を書いてからこっちに取り掛かる予定なので次回の更新は未定です。
二時間ほど、ちびりちびりと酒をなめるように飲んでいると、ダンジョン帰りの冒険者たちが今日も一日無事に帰ってこれたことを喜びながら今日の稼ぎを酒代に変え、英気を養いまた明日ダンジョンに潜っていく。
そんな冒険者たちの顔を見ながら酒を飲むのが俺の一番の楽しみだ。
「アッシュさんは他の冒険者様みたいにお連れ様はいないんですか?」
新しく注文したエールを運んできたついでに給仕のシルが俺にそう声をかける。
「あいつらはめんどくさいとか言って誘っても来ないんだよ、しかも俺の奢りなら行ってやるとか上から目線だからもう絶対誘ってやらないと心に決めてる。」
ほんとうにうちのファミリアは一癖も二癖もあるやつばかりで困る、ファミリアに入団したばかりのころはもう少し素直で可愛げがあったのに。
「はぁ、偶には素直で可愛い後輩とでも飲みたいもんだ」
別に一人で飲むのも楽しいので問題はないのだが、だが誰かと飲むのもまた違った趣があるのだ。
「贅沢は言わんからリューでもいいんだけどな」
ぼそっと一言こぼすと厨房の方から俺にだけ殺気を放つという無駄に高度な技術を使ってリューから抗議が飛んでくる。
聞き耳を立ててないでしっかり働けよと思いながらシルの方を見ると、珍しいことに今日はなんだかそわそわとしていて落ち着きがない。
いつもは酔っぱらった冒険者たちをのらりくらりと対処しつつ酒のグラスを積み重ねさせるんだがいつもの切れがない。
そんなシルの様子をみてこれは何かあるぞと俺の勘が告げている。ギャンブルではポンコツだがこういう何か面白そうなことに関しては百戦錬磨の勘がこれから面白いことが起きるとビンビンに反応している。
その感覚を信じて横目でシルの事を観察していると目標に動きがあった。
酔っ払いどものたむろしているテーブルの間をひょいひょいとすり抜けていき酒場の入り口まで歩いて行くとその場で二言三言話した後で見るからにルーキーだとわかる冒険者の少年を連れて入ってくる。
冒険者は神様から『恩恵』をもらってるからはた目からは想像もつかないほど力があったりするんだが、白い髪と赤い目をしたその少年はその風貌と雰囲気からまさにウサギのような小動物特有のオーラを発していた。
そのままシルは少年をカウンターの角の席に座らせるとミア母さんもシルのお待ちかねのお客に興味があったのかさっそくカウンター越しに話しかけている。
距離があるので詳しい話は聞き取れないが何やら楽しそうな雰囲気と何より俺の勘があの少年が面白いことの台風の渦になると告げている、なのでどうにかお近づきになっておこうと思うのだがミア母さんとシルが近くにいて中々話しかけに行くタイミングがつかめない。
(これは少し強引に仕掛けてみるかな)
このままチャンスを待つのも一つの手だがまどろっこしいのでここは強引に押していく手を取ることにする。
「よう、シルこちらさんはお前の知り合いかい?」
楽しそうに話しているところを悪いと思いながらもエールのジョッキを片手に持ちながら二人に近づいていく。
「楽しそうに話してるじゃないか、俺も仲間に入れてくれよ」
そう声を掛けながら近くのテーブル席にあった椅子を引き寄せ少年の隣をキープする。
急に知らない男から声を掛けられた上に隣に座られたせいで反射的に離れようとするがそちらにはシルがいるため対して距離を取ることができない。
「いや、すまんな。俺はここの常連でアッシュって言うんだけどな。俺が話しかけても適当な相槌ばっかりでろくに話も聞いてくれないシルがたいそう楽しそうに話し込んでいるもんだからちょいと気になってな。
ああ、俺ばっかり話しているな、坊主の名前はなんていうんだ?」
動揺しているすきに一気に情報量を増やした上で最後にそっと聞きたいことを置いておく、そうすると相手は
「あ、僕ベル・クラネルって言います」
このようについ質問に答えてしまうもんなので、これを逃さずに会話を広げていくことでしらないやつとでも簡単に会話を続けることができるという俺の得意技だ。
そんな調子で会話を楽しんでいると浮き彫りになってくるのがこのベルという少年あまりにも警戒心が薄すぎるということだ。
初対面の俺の質問に対して素直に答えている、俺が対して隠さないといけないようなことを聞いているわけじゃないというのも理由の一つかもしれないがそれにしてもこのオラリオでは珍しいくらいの純朴な少年だ。
この都市は『迷宮』に潜れば個人の才能の差はあれど確実に強くなれるし、金を稼げるとい構造なので自然と冒険者のルール、つまり、力が強いやつが偉いという弱肉強食が根底にある。
もちろん『迷宮』を管理しているギルドによって最低限の法は定められているがそれが通用するのもファミリアレベルの話だ、個人に関しては強いやつが偉いし、騙される方が悪いという風潮はある。
だから、こういうベルみたいな駆け出し冒険者は同じファミリアや仲のいいファミリアのやつ以外には気を付けるように教育されてるもんなんだが。
「じゃあ、アッシュさんも冒険者なんですよね!僕あまり他の人のダンジョンに潜った話とか聞いたことなくて。よかったら何か武勇伝とかありますか?」
そのウサギのような真っ赤な目を宝石みたいに輝けせて俺にダンジョンの話をせがむ様子はオラリオの冒険者というより、まるっきり冒険者に憧れている村の少年と言われた方がしっくりと来る。
そして、最近こんなに素直な奴は見かけなくなってしまったので、ほろ酔いのオッサンとしてはねだられるままに楽しく話をしていたのだがそんなところに店の中に団体が入ってくる。
がやがやと騒ぎながら入ってきた一団は男物の服を着ている上に正面向いているのか背中向いているのか分からないうっすい胸をした女神が先頭を歩いているその集団は店の中心の席に座るとそのまま宴会を始めた。
「『ロキ・ファミリア』の皆さんですね、主神のロキ様がうちの店を気に入られたみたいでよく利用して下さるんですよ」
ベルの視線がロキ・ファミリアに固定されているのを感じ取ったシルがそんな風に説明していたが肝心のベルにちゃんと聞こえているのか分からないほどベルは心ここに非ずという風だった。
ロキのところの宴会が始まった後も気になるらしく俺やシルと話しながらも意識の大半はそちらに向かっているのがよく分かった、一体何がそんなに気になるのかとベルの意識の先を探ってみるとどうやらロキ・ファミリアの女性テーブルの中の誰かが気になっているようだ。
ロキ・ファミリアは主神のロキの趣味で様々な種族の美人がそろっているためその中の誰かのファンなんだろうと当たりをつけ、ベルに話しかける。
「ベルはあっちのテーブルなら誰が好みなんだ?」
ベルの肩に腕を回し顔を近づけさせるとシルに聞こえないようにそっとそうささやいてみると
「なっ、えっ。いや僕は別にアイズさんの事なんか……」
一瞬で顔を真っ赤にしながらそこまで言ったところで自分が何を言ったのか理解したのかそのままうつむいて黙り込んでしまう。
そんな初心な反応を面白く思いながらも、さっきのベルの発言を考える。
(よりにもよってアイズ狙いとはな)
『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインはこの迷宮都市でもトップクラスの冒険者だ、しかもロキのお気に入りと公言しているロキ・ファミリアの中でも中核的な存在だ。
(それだってのになぁ……)
対してベルはというと、俺もそれなりに長いこと冒険者をやっているから有名な冒険者はもちろん採取クエストが得意だとかLV2では有望株だとか果てには料理が異常にうまいとかその程度の噂話レベルでも情報が出回ってるなら俺の耳に入るはずなんだがそれもないってことはベルは冒険者としては間違いなく駆け出しのひよっこだというのは分かる。
さらに今さっきまで話をしていた感じからすると所属しているファミリアもあまり大きなところではないのだろう、それがただの憧れならともかくこの反応からするとその線も違うみたいだ。
ベルの(おそらく)初恋の前途多難さを思いながらも俺の質問のせいで開き直ったのかさっきよりも露骨にアイズの方に気を取られているベルを眺めながらこんな甘酸っぱい時代が俺にもあったかなとオッサン臭い感慨を得ていると肝心のロキ・ファミリアの方の宴会はどんどん盛り上がっていく。
その中で獣人の青年が大きな声を上げていた
「アイズ!あの話を皆に聞かせてやれよ!」
思い人の名前が出たのでベルがその話に聞き耳をたてたのが分かる。
どうもアイズはその話に乗り気ではない様だったが気持ちよく酔っぱらっているその青年はそれに気づかずに話を続けていく。
曰く、ロキ・ファミリアが遠征中に出会ったミノタウロス達が上層逃げて行った。
そのミノタウロスを追っていきちょうど襲われていた駆け出し冒険者を助けたアイズが助けた冒険者に逃げられてしまったとか云々
その話を聞いたロキ・ファミリアの面々は酒の席ということもあり不謹慎とは分かっていても笑いが抑えられないようだ、しかし、彼らが笑えば笑うほど俺の隣にいるベルの顔色が悪くなっていく。
そして、その話がアイズから逃げ出した冒険者に対してアイズがどう思うかと言う話になったとたんにベルは我慢ならないというように、あるいは何かに急き立てられるように店から飛び出していった。
「ベルさんっ!?」
飛び出していったベルを追ってシルもまた店を出ていく。
そして、一拍遅れてベルの思い人であるアイズ・ヴァレンシュタインも店を出るが、すぐに主神のロキと共に帰っ来る。
店の中は一連の騒動に気を取られていたがこれ以上興味を引かれることがないと理解すると自然と元のざわめきを取り戻していった。
件の獣人の青年がロキ・ファミリアの面々に簀巻きにされているのを周囲が野次を飛ばしているのを見ながら俺はそんな野次を見ながら楽しんでいる小人族なので少年にしか見えない男に声をかける
「よう、勇者さま。えらくご機嫌じゃないか」
「ああ、アッシュかい。宴会で不機嫌な顔するほど偏屈じゃないつもりだよ僕は」
フランクに返してくるこいつこそがろき・ファミリアの団長『勇者』フィン・ディムナである。
「そいつは結構なこった。楽しそうに酒を飲んでるやつは俺の肴になるから大歓迎だ。そんで今回の遠征の塩梅はどうだい?」
「きわめて順調だったよ……と言えればよかったんだけどね。まあ一筋縄ではいかないのがダンジョンだからね」
正直ここまではぐらかされると思っていただけにこうも素直に弱音を吐かれると面食らう。
と同時にどうも俺なんかに漏らすほどの異常事態があったらしい。
「なんだ、勇者様にしてはずいぶん弱気な発言だな。親指センサーが働かなかったのか?」
「あれも別になんにでも反応するってわけじゃないからね。それをいうなら君の方こそ今日はえらくご機嫌だけど何か琴線に引っかかることでもあったのかい?」
「今日は飛び切り面白そうな奴に会えたんだがな、お前んとこのオオカミ君が騒ぎすぎるから出て行っちまった」
ちらりとファミリアの仲間に宙づりにされている獣人の青年の方を見ながらそういうと
「それはすまないことをしたね、君の注目株なら僕も挨拶しておきたかったんだけど」
「俺の勘が鈍ってなければ嫌でも関わり合いになるんじゃねえの?積極的にダンジョンに挑戦するみたいだしな」
これからまた面白いことになるかもな、と付け加えるとフィンはため息を一つつくと
「君の言う面白いことっていうのは他の人にとっては大惨事ってことは理解しておいてほしいんだけどね」
そんなセリフだけ年齢相応の説教臭さをにじませるので
「予想外のでけえことが起きるから面白いんじゃねえか、神様だけにこのオラリオを楽しませとくのなんかもったいないだろ」
そう笑顔で言い切ると持っていたエールを一気に飲み干すと、話は終わったとばかりにフィンの元を離れるとますます盛り上がっているロキ・ファミリアのところに混ざりこんでただ酒をご相伴になるという高難易度クエストに挑戦する。
この日から俺の予想通りにオラリオと迷宮は面白いことになっていくのだがこの時はまだそれを予感しているのは俺とフィンくらいのものなのだった。
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