ナザリックへと消えた英雄のお話   作:柴田豊丸

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頂きに挑む:分水嶺

「何の種類の生き物だ、お前は……!」

 

 計算され、十分な強度を持っている筈の闘技場の石壁が打撃で抉れる。例え万全の状態でなくとも、この程度の建造物に傷を付けるくらいの所業は武王にとって容易な事だ。

 

 それを行う為にどの程度の時間が掛かるか、それを行った結果どの様な結末を迎えるか等の点を無視すれば、武王はこの世に存在する大抵の物体・生物を独力で破壊できる。棍棒一本で城を瓦礫の山にする事だって物理的には可能だ。

 

 だが、少し程度は落ちるものの、全く同じ事が対戦者にも言えた。

 

 武の極限を体得し、秘奥を体現して見せた武芸者二名が己の技量と膂力を存分に発揮し、骨身を削り続けている。

 

 トップスピード自体はほぼ変わっていないが、非人間的構造を露にした事で人外の姿勢、挙動、行動を実現させたイヨ・シノンに対し武王が狙ったのは、反撃の機を待つ時間稼ぎ。この状態での勝負は死を招くという判断の下での積極的防勢──障害物の無い闘技場において相手の優れた運動性能を封殺する限られた手段、壁際に追い詰め動き回る為の空間そのものを奪う策。

 結果的に言えば武王のその行為は、裏目に出た。

 

 四足にて壁面を立ち回るイヨ・シノンが壁を蹴って武王に飛び掛かり、また一つその身を打ち据える。

 

 地面という平面上を動き回るのみならず、場内をぐるりと囲んで円を成す縦の壁。それをも足場とする事で、取り得る軌道のバリエーションは劇的に増加する。

 

 元よりイヨは足場の悪条件を一定程度まで無視し、また移動と行動にボーナスを得る【仙理の運足Ⅰ】を保有していた。スキルレベルⅠの状態では壁面及び水面を足場に出来る程の強い補正は無いが、イヨは筋力と【アーマー・オブ・ウォーモンガー】の強度に物を言わせて石壁に指を貫き込んで強引に動き回る。

 

 直ぐにコツを掴んだ。重力が地面に押し止めてくれる前提での普段の足運びでは落ちる。壁面を走るには蹴りよりも寄せだ。這いまわる様に全身を壁に寄せ、足裏全体の摩擦力を生かして身体を引き寄せる。

 

 元よりスキルによる若干の補正とある程度の勢いさえあればイヨは十二歩まで壁面を走れるのだ。手指足指の力で時折固定を入れれば落下はしないし、尻尾の力はイヨのステータス上の筋力値を参照しているのでイヨの全身の自重をものともしない。鉤爪部分を壁に打ち込めば其処を起点に胴体を振り回して飛ばす事も出来る。

 

 武王のセンスがイヨの奇手を理解しだした時、天秤は今一度王の側に傾く。ならば続けざまに新手を叩き付け続け、慣れさせないのが勝利への道だ。

 

 壁面を疾駆するその様は虫か爬虫類の如し。ただし、その五体から発せられる暴力は竜や巨人のそれに近しい。

 

 壁面を走り、壁面を跳ね、壁面を滑り、唐突に落下し、空中に居る所を捉えたかと思えば壁に打ち込んだ尻尾で自身を引き戻し、武王の身体をすら足場とする。

 

 壁、地面、武王の身体。三方向の三面を足場としたイヨの動きは最早ゴムボールの乱反射に近い。

 

 絶え間なく反転し回転する空の青と地面の褐色、常に下方に掛かる重力、人間という生物の設計上本来しない筈の動きを高速で連続する事で平衡感覚が狂っていくが、そもそもイヨは自分史上初めての四肢切断状態でも戦闘行動を続行できるほど精神性と感覚が柔軟で優れている。

 

 異常を来した感覚と混乱する脳を思考と感覚で紐解いて現在の正しい自分の姿勢を把握。イヨは一瞬でコツを掴んだ。目で見ようとしないが要点だ。一方向に掛かり続ける負荷、重力の掛かり方を肌で感じそれを指標にする。なんなら頭は振り回されない様に顎を引いて出来るだけ固定しておけばいい。目は焦点を結ぶことを放棄して見える範囲をただうすぼんやり見ておけばそれで事足りる。

 

 最大限高めた三十一レベルの身体能力と磨き抜いた戦闘感・観・勘はイヨの身体の中で水の様に空気の様に満ち満ちて滞りが無い。勝利以外の全てから──生死すら──脱している。

 

 囚われのない自由で自然な精神状態を保ったまま、自分のプラスになるものだけをその時々に合わせて好きに執着出来る。

 

 本来人間に無い部位を自由自在に操作するにはある種の特異な能力、適性が必要であり、イヨは器用な方ではあったがユグドラシル時代、その一部の特異能力者に該当しなかった。新たなる身体部位、非人間的器官という真価を今完全無欠に発揮できているのは、それが真なる肉の身体、イヨ・シノンを構成する生身だからである。

 

 脳内演算機も体内ナノマシン、ニューロン・ナノ・インターフェイスも、コンソールもゲームサーバーも仮想空間も──操作するイヨと操作される身体を幾重にも隔てていたそれら全てが取り払われているからこそ。

 五感の内過半に制限を受けたユグドラシルの頃では絶対に出来なかった。篠田伊代の、イヨ・シノンの全てを尽くした全力の戦闘。

 

 全ては現実だからこそ、肉の身体だからこそ。

 

 ユグドラシルにおいて十八禁に触れる行為は厳禁だ。ものによっては十五禁もアウト。それらはエロ方面は勿論グロ方面においてもほぼ同じ事。ユグドラシルにおけるグロとは、精々ゾンビゲーさながらのグロキモなアンデッドたちくらいである。

 相手のプレイヤーを切ったからと言って鮮血が噴き出したりしないし、断面から黄色い脂肪層、赤い肉が見えたりしない。内臓が零れ落ちることも無い。手足も基本捥げない。そもそも攻撃を受けても装備の耐久値が削れて壊れたり赤いダメージエフェクトが表示されHPバーが削れるだけで、装備や肉体の見た目に一つ一つの傷は反映されないのだ。

 それぞれの種族に設定された弱点部位、人間種では頭や首、心臓部などを攻撃されるとクリティカル扱いでダメージが大幅に増えるだけだ。HPがより大きく削れるだけ。骨や内臓、筋線維の一つ一つは諸々の計算が増え過ぎて無駄に複雑になり容量を喰うので省略されている。キャラクターたちの体内を覗いても血は流れていないし内臓も筋肉も無いのだ。ゲームだから。そういうゲームじゃないから。そこを無駄に作り込んでも意味が無いから。

 

 思い出して欲しい、ユグドラシルは基本的にはキャラクターの表情すら動かない為エモーションアイコンを使って意思疎通を補助するゲームだったことを。

 

 ダメージは単純に両者のステータス、装備、スキルなどの諸々の値を参照した攻撃力と防御力の比べ合いで決まる。だから足の小指の先っちょを攻撃されても胴体のど真ん中を攻撃されても、クリティカルでないならばダメージが変わらないという様な事も往々にして起こり得る。キャラクターたちが生きているのは滞りなく全身に血液が回っているからでも各種臓器が健全に働いているからでも呼吸によって酸素を取り込んでいるからでもなく、HPが残っているからだ。

 

 毒や酸欠、酩酊などによってまともに動けなくなったり死亡したとしてもそれはそういう状態異常に晒され悪影響やダメージを受けたというだけであってそれらの状態が言葉通りに正しく再現されているからではない。

 

 であるからこそ、イヨがかつて狙った『相手の目から指を差し込んで頭部を内側から吹っ飛ばす』や『体内で爆発を起こし筋肉や血管、内臓に効率的に損傷を与え四肢を捥ぐ』というのは現実ならではの戦い方なのだ。

 

 どれだけ強かろうと大抵の生き物は心臓に穴が開けば死ぬ、脳が吹き飛べば死ぬ、手指がなければ武器は持てず、足指が無ければ移動力は半減以下だ。問題は強いほど基本頑丈で生命力がある為、攻撃側はそれ相応の攻撃力を要求されるという事だが。

 

 やっぱリアルって最高である。

 

 ゲームとは殴り心地も殴られ心地も違う。 肉の身体と痛覚を備えた種族としてユグドラシルプレイヤーがこの世界に来た場合、肉体的精神的苦痛はそのポテンシャルを発揮する上で最大の障害になるだろう。イヨもそう感じた。元々我慢強いという自負はあったが──大会によっては骨が折れていても欠場しなかった──果たして今までに経験のない想像を絶する苦痛を実体験しても尚、自分の我慢強さは通用するのか。

 

 数値として確保された強さを使いこなせるのか。それは恐らく、イヨが終生追い続ける命題であろう。イヨはこの世界の存在とは違う、その基盤はユグドラシルのデータに基づいて定められた総計レベル三十一の人工物である。

 

 それこそゲームを見れば分かる。全く同じスペックのキャラクターを操作していても、プレイヤーの腕次第でその戦闘力は天地程も開く。

 

 だからイヨは頑張って練習しているのである。

 

 ただ単に真剣を用いて限りなく実戦に近い鍛錬をしていると言うだけではなく、イヨは日頃の練習で幾度となく実体験を繰り返し殴られ心地切られ心地刺され心地焼かれ心地──肉体のあらゆる部位における損傷とその影響を知り尽くしている。

 『腹に刃物が刺さって筋肉が断裂し臓器から出血して口から血を吐く』状態がどの様な怪我でどの程度で死ぬのか知識だけではなく体感からも完全に把握できるのだ。どの筋肉どの腱がどの動きに、どの内臓がどの程度傷付くとどれ程で運動性能や生命の維持に支障を来すのか──何度も何度も経験するという最も確実な方法で学んだ。

 

 地球でならば人生で一度や二度経験できるかどうか。そしてその一度や二度の経験で高確率で死亡してしまい、仮に生き残ったとしても重篤な後遺症が残り、後の人生に多大な影響があるだろう大怪我をどれだけでも後腐れなく経験できるこの世界の環境はイヨの様な強さを追い求める者にとって理想郷。

 

 イヨは戦える。

 折れようと砕けようと潰れようと焼け焦げようと戦える。その様に練習し経験し鍛え上げ確かにそれが可能だと証明して見せたのだ。それが可能なように傷を負う方法を積み重ねた実体験の果てに体得したのである。

 

 イヨは死ぬまで戦える。

 骨が折れようと砕けようと内臓が潰れようと体表が焼け焦げようと戦える──HPがどれだけ減っても、どんな死の淵にあっても最後の一ドットが残っている限り変わらず戦い続けるゲームのキャラクターのように。命ある限り戦える。

 

 その様に求めて自分自身を作り上げた。勝つ為に、世の為人の為自分の為に、単純により強くなれる事が嬉しくて。

 

 人類史上自らの手で幾百幾千を殺し、人はどうすれば死ぬのかを知り尽くした医者や武芸者、兵士は沢山いるだろう。

 だが自らの身体で幾百幾千回死に歩み寄り死に寄り添い、臨死の恍惚さえ舐め飽きるまでに受傷、喪失、流失、欠損に熟達した人間が何人いるだろうか。少なくとも物理法則と人間の治癒力体力そして医療技術の都合上、地球では一人もいないだろう。

 

 現在のイヨ・シノンの前に仮にユグドラシル時代のイヨが敵として立ちはだかったとするならば、後者のイヨは例えレベル的優勢があったとしても現在のイヨに手も足も出ず叩きのめされる。

 例え近しいスペックがあったとしても、既にその腕前は隔絶している。

 

 今のイヨ・シノンは名実ともに自分史上最強のキャラクターでありプレイヤーであり武芸者であり、人体心身酷使道の達人である。

 

 全き互いをぶつけ合う試合ならではの感覚。武王を打ち据える触感、切り裂く筋肉の柔らかさと硬い骨の感触すら心地良く、返す刃で傷付く自身の身体、打ち曲がる骨格と出血する内臓、流出する血液、一瞬たりとも安定する事の無い変化が常に新しい状況への対応を迫る。その充実で心が華やぐ。

 

 全力の競い合い。身に充満する痛みと苦しさ、その全てを味わい尽くし、脳から溢れる快感と苦鳴を飲み下しながら、満面の無表情でイヨは舞う。

 

 叩かれれば叩かれるほど鍛え上げられる。

 追い込まれれば追い込まれるほど磨き上げられる。

 苦しければ苦しいほど冴え渡る。

 傷付けば傷付くほど輝きを放つ。

 一瞬の決意がただひたすらに不変で不屈。

 必要なだけ柔らかく必要なだけ硬い。

 

 苦しい事は避けたい、辛ければ逃げたい、楽であれば楽であるほどに好ましい、大変ならば妥協したい。生物として当然のその心理、本能の欲求を永遠無限に際限なく踏み躙って何処までも進む──勝利の為に。

 

 武王の体表面を飾る爆炎と噴き出す流血の彩りは連続して重なり合い最早全身を覆うほど。

 

 十三秒。武王とイヨが壁際で死力を尽くしたその時間は、此の域の戦闘においては余りにも長く。

 元を言えば武王がイヨの機動力を制限すべく壁際に追い詰めた事から端を発したその戦闘は、その開始と同じく武王の動きによって終わりを迎えた。武王が引いたのだ。

 

 試合を動かしているのは武王──というにはその様は余りにも。

 

「武王が──武王が逃げた!」

 

 無名の一観客が叫んだその一声にこそ、的外れでこそあれ見る者の素直な感想が現れていた。自ら離れるのと、敵の攻勢に押されて逃れようとするのは大きく違う、と見る者は思うだろう。

 

 攻撃手段の増加、機動力の増加、体重の増加はそのまま攻撃能力の高まりであった。延長した間合いを、斬撃や刺突という新たな攻撃手段を──イヨは【ドラゴンテイル】によって獲得できるあらゆる長所利点の全てを活かし尽くしていた。

 

 武王の全身に刻まれた戦傷と、其処から漂う焼けた血肉の臭い、垂れ流される血液がその証だ。例え武王と同程度のレベルであったとしてもオーガやジャイアントならばとっくに死んでいるか、最低でも瀕死の致命傷だろう傷の数々。睾丸が片っぽ潰れている時点で一般的にはとんでもない大怪我だし戦うどころか動き回るだけでも論外なのだ。

 頭が半分に潰れてもなんら問題なく元通りになるトロールならではのしぶとさと言えた。

 

 無論イヨは炎を用いて攻撃していたが、それでも傷がそのまま残る訳ではない。焼けた部分以外は失血すらも再生するのであるから。

 

「余りにも見事だ──などと上からモノを言える状況では最早あるまいな」

 

 武器も下げて直立したまま、武王が口を開く。

 

 試合中にお喋りするのは主義に反すると言うか、常識的に考えて駄目でしょというのがイヨの価値観なのであるが、

 

「……何を抜け抜けと」

 

 これが例えば会話による時間稼ぎであれば、イヨはどんな言葉を投げかけられようと無視していた。だがこれには応じる、応じざるを得ない。

 

 何故ならこれは王の慈悲であり、賛辞であるから。

 武王は間違いなく、ついさっきまで追い詰められていた。イヨが王を追い詰め、打ち破る寸前であった。

 

 だが、今は違う。

 

「ここまで追い詰められたのは久し振りだし、武王と呼ばれるようになってからは初めてだ」

 

 武王は今も深く傷ついている。処置せぬまま時間が経てば弱って死ぬくらいにはズタボロだ。その負傷の程度は今やイヨより遥かに大きい。彼我の状態を比べ、優勢なのはイヨの方だと間違いなく言える。

 

 しかし、有利なのは武王の方である。

 

 何故ならば、彼は既に時間を稼ぎ終わり、既に準備が整っているのだから。

 イヨは押し切る事が出来なかったのだ。イヨ・シノンの怒涛の如き乱撃連撃を前にして、武王は己の戦士としての命を守り切った。四肢は勿論手指足指、首に背骨──表面の肉や臓器はともかく、決着を付けるのに最低限必要な物は全てが揃っている。

 

 そう、全てが。

 

「俺はお前の素性も種族も知らん。どの様な経緯で人間の社会の中で人間として生きていく事にしたのかも知らんが──その戒めを破っても、俺との戦いに全力を出してくれた事は誉れだ、イヨ・シノン」

「お言葉はありがたいですが、誤解が一つ。私は紛れもなく人間です」

「魔法詠唱者でも無いのに尻尾の生える人間がいるか? ついさっきまでの動きにしても人間離れしているし、流石に、この期に及んでそう言い張るのは無理だと思うぞ。第一、お前の変身は精度は兎も角やり方が下手くそだ。何のこだわりがあるのか知らないが、素直に内側も女にするか外見をもっと男らしく寄せろ。偽装にしても無駄に特徴的だぞ」

 

 トロール的に奇天烈かつ不細工なイヨの外見が少女のそれである事は武王にも理解でき、しかし武王は殴った感触でイヨの性別──骨格や内臓配置──が男である事も確信していたらしい。そしてそれは外見と性別の不一致で周囲から違和感を覚えられるだろう、と。

 トロールである俺がそう感じる位だから人間からしたらその設定は目立つし無駄に注目を集めるだろ、と武王が真面目に忠告する。

 

「私は紛れもなく人間で男なのですがー……」

「……今のお前の外見の元となった人間がいて、その女との間になんらかの約束──誓いか何かがあるのか? その女はお前の恩人か? それとももう死んだのか?」

 

 武王なりに最大限『何処から如何見ても破綻している嘘をそれでもなお貫き通そうとするに足る理由』を推察しての言葉であった。彼の価値観は人間とは異なるが、死者との約束や恩義などの事情があればこうした不自然を敢えて続ける理由にもなるかと考えたのである。

 女の外見を模倣しつつ強いて男だと名乗り続けるのはその女に対する何らかの感情故か、とも。

 イヨの顔が【アーマー・オブ・ウォーモンガー】の頭部装甲で覆われていなかったら、一種の慣れを漂わせて困った様に眉をしかめるイヨを見て武王は自分の勘違いを悟っただろう。

 

「まあ、その辺の事情は正直どうでもいいが──この俺の足元に、否、喉元にまで迫った強者がどんな形であれ素性を偽って世渡りをしている事は釈然とせん。お前の持つ強さはお前にまつわるあらゆる問題を粉砕する筈だぞ。もっと堂々と生きても良いんじゃないか? 事情も知らず他人の生き方にケチを付ける気は無いが、それが俺の偽らざる本音だ」

「その辺のあれこれは後で良いじゃないですか。殴り合う時間はちゃんと殴り合いましょうよ。勿体ないですよ」

 

 イヨはぴしゃりと言った。別に話し続けた所でイヨだけが一方的に不利になる訳では無いのだが──武王の身体は常に失血などによる変調と再生を繰り返している、つまりは安定していない為イヨと同じく体力と気力を消耗する──殺し合いならば兎も角試合中に会話などで有利不利の天秤の傾きを変えたくない。

 それはイヨの勝ち取る勝利、齎される敗北の価値を変質させてしまうからだ。

 

「ああ、すまないな。無駄な時間を過ごした。俺達には言葉より尚雄弁な会話の方法があるというのに。もうこれ以上は再生しないと分かったし、もしかするとこれが最後で最期だと思うとついな」

 

 言下に、動かない筈の武王の右腕が持ち上がり、左腕と共に棍棒を握り締めた。

 




ちょっと文字数少な目でした。次と次は一万文字を少し超える位になる予定です。明日と明後日も更新予定です。

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