「ありがとう、テリー」
割烹着姿の女性が居た。
「おやすみ、はやて」
「・・・おやすみな、エレナさん」
春の暖かい季節のおかげで寝るときに寒さで苦しむ事が無くなった。そんな春の一日。
八神はやてSide
最近ずっと寝るのが恐い、次に目覚めたときには今まであった事全てが無かった事になっているかのしれないなんて考えてしまう。
もしも一人ぼっちになったら私はきっと耐えられないだろう。
他にも怖い事をいろいろと夢で見てしまい、寝る事が出来なくなってしまった。
「こないだ借りたあの本が原因やな。おかげで寝不足や。こんなんじゃ梨花ちゃんの前にも出れんな、あはは・・・」
元気を出すために笑ってみても効果なし。これは本格的に不味い気がする。時間にしてもう0時を過ぎていた。
「10時にエレナさんにおやすみを言ったんやから、もう2時間過ぎてもうたんか。本でも読もうかな」
そう言って例の本を手に取る。寝不足の原因の本を読み始める。
寝れなくなってしまうほど怖いのに続きが気になる。全く懲りていない事を自覚していながらも読まなくては居られない。
もしかしたらこの本を読み終われば気持ちよく寝れるかもしれないという期待も少しあるのだ、何の根拠も無いけれど。
今日は朝まで起きている事を覚悟した私。
恐い話をいくつも集めてまとめた本、全部合わせて9巻にもなる分厚い小説を偶然見つけたのは大体2週間くらい前の事。
梨花ちゃんの小学校の入学式があった次の日だった。
図書館の人にお願いし9巻全てを借りてきた。新しいジャンルを試してみようと言う、ちょっとした好奇心だった。
作者さんの先が全く予想できない引き込まれるような書き方と内容の面白さから、それはもうハマってしまった。
借りたその日に1巻は軽く読み切ってしまったほどだ。
その日は寝ても特に何も起きなかったけれど、次の日。
さすがに眠かった私は本を読む事無くベットに入って目を閉じた。
しかし、なぜか一時間ほどで目が覚めてしまった。
目を覚ました私は背中に感じる不快感に気が付いた。
どうやら寝ている間にたくさん汗をかいたようでパジャマがびっしょりと濡れていた。
不思議に思ったけれど風邪を引いてはいけないとすぐに着替えてからもう一度目を閉じた。
また次の日、あれからきちんと寝たはずだったけれどなんだかすごく寝不足だった。
砂糖とコショウを間違えて入れてしまう位には寝不足だったから。
あれは今までの人生の中でも一番の失敗だ、梨花ちゃんには酷いモノを食べさせてしまった。
梨花ちゃんは気にしないでと言っていたけれど、そんなこと出来るはずも無く必死に謝った。
梨花ちゃんが帰った後、エレナさんが私のミスに気が付いていたと言ってきた。
気付いてたなら教えて欲しいと言ったら「これも修行、次は間違えなければいい」と言ってきた。
次なんて、と思ったけれど何とか声に出さなかったけど「おやすみ」も言わず自分の部屋に戻ってしまった。
明日ちゃんと謝ろう、そう決めてからベットに入った。
その日からきちんと寝ているのに疲れない日が何日か続いた。
5巻を読み終わったその日の事、私は夢を見た。
私はこことは違う世界で『八神 はやて』として暮らしていた。
その世界の『私』は私の様に足に障害があって車椅子に乗っており、常に1人だった。
一緒に暮らしてくれる家族が居ない、『私』の誕生日を祝ってくれる友達が居ない、笑い合える他人が何処にもいない。お家の中で何時も一人だった。
外に出ても『私』は一人だった。道路には車が走り歩道では沢山の人が行き交う外でさえ一人だった。
『私』を見てくれる人を求めて彷徨う、その内、前を歩く男の人に車椅子でぶつかってしまう。
「す、すみません!」と謝った『私』をその男の人はまるで視界に入っていないかのように、無表情でまた歩き出してしまう。
この世界では誰一人として『私』に関心を持ってくれる人はいないのだと理解するにはたったそれだけで十分過ぎた。
結局のところ、この世界の『私』は誰とも関わる事なく一人静かに生き絶えてしまうのだった。
『私』の結末を見終わった後、私は目覚めた。目からは涙が溢れて止まらなかった。
たった一人で生きて行くなんて耐えられないほどの苦痛だ、少なくとも今の私では無理だ。
あんな生活を続けていたらきっと壊れてしまうだろうと思った。
他人と触れ合う時の心の温かさ、そんなものを知ってしまった私は決して人との関わりを無くす事は出来ないのだ。
もしも最初から1人きりだったなら、それが普通だと思い込んで普通に生きていたのだろうか。
―――コワイ。一人ハ、コワイ
丁度8巻を読み終わった。時計の針はもう3時をまわっていた。外はまだ薄暗い。
8巻のラストはすごかった、まさか今までの話が全て繋がっていたなんて。しかも1巻からずっとあったあれがラストの最大の伏線になっていたなんて誰が考えただろう。それに・・・
しばらく興奮していた私はのどが渇いた。何か飲もう、と思った私はキッチンに行くためにベットから降りようとして気が付いた。
身体が動かない、さっきまでは普通に動いていたのに。こ、これって
「かなしばり!?小説の一巻の中盤に主人公に起こるあれか。確かあれって」
一巻の中盤、小説の主人公はベットの上で横になっていると突然、謎のかなしばりに襲われる。何とか動こうと頑張っている所で外の方から(廊下から) ペチャ、ペチャという奇妙な足音が聞こえてくる。足音はどんどん近くなっていき、不意に止まる。ドアが勝手に開かれるがドアの前には誰もいなかった。それを見た主人公は金縛りが解けている事に気が付いて、急いてドアへと向かった。ドアには特に変わった所が無かったが、廊下に赤い何かが付いていた。それを良く見てみると字だと分かった。そこにはこう書かれていた
『ゴメンナサイ、部屋ヲ間違エマシタ』
次の日、ニュースで一人の男がとても奇妙な死に方をするという事件が起こった事を知る。なんでもその男は全身の血を全て抜かれていたそうだ。
この話はそれほど重要ではなかったけれどとても怖かったのは覚えてる。
かなしばりは未だ解けない、動けない私は必死に目を瞑った。
ペチャ、という音が聞こえた気がした。
「ひっ!」
ペチャ、ペチャ、ペチャ
「あ、あ 」
今度ははっきりと聞こえた、音が近づいてくる。
エレナさんは無事だろうか、エレナさんの身に何かが起こったのでは、エレナさんは・・・。
恐い、この音の正体が私の予想通りだったらどうしよう。
怖い、私はこのまま何も出来ずにいるのだろうか。
ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ ・・・
音が止まった。
コワイ、怖い、恐い。・・・梨花ちゃん助けて!
ドアが開く音がする。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ「はやて?」ぁぁ!!!・・・え?」
温かい、大切な家族の声が聴こえた。
目の前には心配そうに私を見ている割烹着姿のエレナさんが居た。
「え、エレナさん、ホントに・・・?」
「怖い夢でも見た?大丈夫、何も怖いことなんてない、何かあっても私が守る」
「あ、うぅ。うわぁぁぁぁぁあぁぁん!!!」
エレナさんの優しい言葉に私は泣いてしまった。
私は大丈夫だ、と安心してしまったんだと思う。
少し経って何とか落ち着き泣き止んだ私はエレナさんにさっきの音について聞いてみた。
「エレナさん、さっきペチャって水溜りを踏んでいるかのような音が聞こえたんやけど」
「何の事?一時間ほど前から起きてたけれどそんな音なんて聞こえなかった。気のせいでは?」
気のせい、だったのだろうか・・・。
「それじゃあ、お休み」
「おやすみなさい、エレナさん」
エレナさんが自分の部屋へと返っていった。
途端にさみしくなる私の部屋。あぁ、梨花ちゃんの声が聞きたい。
梨花ちゃんに私の話を聞いて欲しい、梨花ちゃんとお話がしたい。
梨花ちゃんは起きているだろうか、電話してみようか。
梨花ちゃんなら起こしても笑って許してくれるだろう、梨花ちゃんは私の事を分かってくれるから。
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プルルルルル、と携帯の着信音が鳴り響く。
梨花は宿題のノートを閉じて電話に出た。
「もしもし?」
『梨花ちゃん』
「はやて?どうかしたの?」
はやての消えてしまいそうな声に梨花はどうしたのかと声をかけた。
『怖かったんや、突然動けなくなって変な音が聞こえて本当に怖かった。ずっと梨花ちゃん梨花ちゃんって心の中で叫んでいたんよ』
「ごめんね、はやて。気が付いてあげられなくて」
『え?』
「はやてが怖い思いをしているのに、必死に私の事を読んでいたのに気が付いてあげられなくてごめんね」
『え、あ、いや!違うんや!梨花ちゃんはなんも悪くない。私がもっとしっかりしてれば。・・・それより梨花ちゃん!』
「何かな、はやて」
『梨花ちゃんは今、なにしてるん?』
「私は宿題をしてるよ」
『そっか、それじゃあ邪魔してしまったようやな。梨花ちゃんそれじゃあ』
「はやて、大丈夫。何も怖いことなんてないよ、今度は絶対私が守るから」
『―――っ!・・・ありがと、梨花ちゃん。おやすみ』
「うん、おやすみなさい」
この日、はやては久しぶりにぐっすりと眠る事が出来た。
鎖で縛られた本が カタカタ と震えていた事には誰も気が付く事は無かった。
闇の書さん何してるのっていう回かな?
夢の中のはやてさん…ほぼ原作と一緒ではあるが闇の書が無い。じゃあどうして足が動かないんだと言われても 夢だから と答えるしかありません。悪夢を見たはやてさんでした。
はやてさんが電話をかけたのはおそらく3時30分位の事でした。
今回はここまで。
問題児シリーズ、今アニメやってるじゃないですか。一目見てファンになりました←(嘘です、連載してる問題児シリーズの第1話を見てハマりました)
面白いですよ(まだ3話見てません)