The_Chronicle_of_Marisa   作:霧子のエビの天ぷら

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第10話 地の底で待つもの

 レンガ造りの暖炉の中で太い薪が燃え、音を立てて火花を散らし、整えられた山を崩して灰を撒き散らす。その様子を虚ろな目で車椅子に座ってじっと眺めている人影があった。

 「失礼しますさとり様、お客様がお見えです。なんでも、さとり様に話しておきたいことがあるとか」

 「お客様……?あぁ、なんだあの娘か……フム、お燐、あなたも参加してくれないかしら」

 「了解しましたさとり様、では応接室の方に……」

 「いえ、今回は相手が相手だし、私の部屋に案内してあげてくれると助かるわ」

 「……??わかりました、ではそのように……」

 お燐と呼ばれた赤髪の女性は、さとり様と呼んだ人影に向けてお辞儀をした後部屋を去っていった。

 「一体何の話をしにきたのかしら……2年半ぶりの再会、楽しくなるといいわね……」

 そっとサードアイを撫でるさとり。2、3回撫でた後に車椅子を器用に操り、暖炉の炎をそのままにして部屋から出ていった。

 

 

 「なあお燐、なんで今回はあいついつもの応接室じゃなくて私室を指定してきたんだ?」

 「あたいにもあの方の真意は図りかねます。考えられるとするならば、あたいとあなた以外に聞かれたくない話でもするつもりなのでしょう。あの部屋にはこいし様も入ってきませんから。」

 「面倒なやつだ、私はそんなに大事を話に来たわけじゃないんだがなぁ」

 「魔理沙さん、そろそろ着きますよ」

 「2年半ぶりの再開、あいつまだ元気にやれてるのかね」

 「一応はまだ生きておられますし、自分の意思で行動していますよ───失礼しますさとり様、お客様をお連れいたしました」

 入っていいわよ、と中から刺はないが温かみも少ない独特な声が響く。お燐はその声を確認した後木製の扉を開け、魔理沙に中に入るように促した。

 「久しぶりね魔理沙、元気にしてたかしら?」

 「お前の方も、まだ生きててほっとしたぜ。久しぶりだな、さとり」

 2人は軽く握手をし、互いの生存を確かめた。

 

 「で、魔理沙、今日は何を話しに来たわけ?──ああ、言わなくてもいいわ、言わなくてもわかるから」

 サードアイを魔理沙の方に向けてそう質問するさとり。その手つきは極めて手慣れている様子だった。

 「あらそう、そういうこと……お燐に同席させて正解だったかもね…」

 「やっぱ便利だなその能力」

 「任意使用ができないっていうだけで迷惑千万よ」

 「あのーさとり様?一体どういうことなのでしょうか?」

 「あぁ、ごめんなさい。あなたを置き去りにしてしまったわね……簡潔に言うとね、魔理沙はここに最期の挨拶をしに来たってことよ」

 「え、最期?最期のってどういうことですか?」

 「そのまんまの意味よ、もう魔理沙はそんなに長くない……だから死ぬ前に世話になった人達への挨拶巡りといったところでしょう」

 「あらら、全部お見通しか……」

 「私はさとり妖怪よ?隠し事は私の前では無力なのだから……あなたはそんなに驚いていないようね、お燐?」

 「いやぁー、あたいたち妖怪と魔理沙さんのような人間ではそもそもの寿命がかなり違いますからね。遅かれ早かれこんな日が来るだろうとは思ってましたけど、まさかこんなに早く来るとは……」

 「運べる死体が増えるんだ、喜ばしいだろう?」

 「知り合いじゃなかったらもっといいんだけどね」

 「…それもそうだな。無神経だった、すまない」

 「あやまる必要なんてないわ。その無神経さがあなたの良さだもの」

 「そ、そうか。褒められてるのか貶されてるのかよくわかんねえな──そういえばさとり、足、大丈夫か?」

 「2年半前の事故の時、あなたに助けられて以来ずっとこのままよ。あの時は助かったわ」

 「……すまない、私が遅かったばっかりに」

 「あの時も言ったけど謝らないでちょうだい、あなたが来てくれなければ、今頃私はあの世行きの片道切符をきっているでしょうから」

 「そうですよ魔理沙さん、あたいだけではどうにもならなかったんですから……」

 「でも、お前はあの日以来ずっと車椅子に……」

 「死ななかっただけ僥倖よ。能力に頼りきって不注意になってた私も悪いのだし」

 

 

 

 

 

 「魔理沙が、死んでいるかもしれない……」

 白玉楼では紫とアリスたちが向き合っていた。

 「そうよ、その死体を見る覚悟、あなた達にはあるんでしょうね?」

 4人はだれも、何も答えなかった。

 「やっぱり答えられない、か……」

 「仕方ないわよ紫、多分この娘たちは魔理沙が生きている状態で連れ戻そうとしてるんだもの、そんなことはもっとも否定したいことのはずよ」

 冷たく、突き放すようにそう言い放つ。

 「……確かにその通りよ。私たちの目的は魔理沙を連れ帰って適切な治療を受けさせ、少しでも長く生きてもらうこと。そのためならどんな事だってするつもりでここまで来てる」

 「でももう迷いはしない、たとえ死体になっていようとも連れ帰るわ。弔いぐらいしてあげたいじゃない。パチュリー、いいわよね?」

 「依存はないし、私も概ね同意見よ──咲夜、こあ、依存はないわね?」

 「私はパチュリー様の意志を尊重いたします」

 「お嬢様が知ったらなんていうでしょうね……お嬢様がいらっしゃらない以上、今はパチュリー様の指示に従います」

 「あらら、以外。あっさり決まったわね」

 「そっちの方が焚きつける手間が省けるってものじゃない?」

 「それはそうなんだけどねぇ……張り合いがないわ」

 「この娘たちにそんなものを求めてはいけないってことでしょう。きっとのらりくらりと避けていくだけよ。かつてそうだったようにね──いいわ、教えてあげましょう。魔理沙がどこに行ったのか……ついてきなさい」

 「ついて来いって、どこに行くのよ?」

 パチュリーが幽々子の行動にいち早く反応し、そう訪ねた。

 「何も言わずについてらっしゃい。そうすればわかるわ」

 振り返らず、歩みを止めず。なにかに遮られることもなく幽々子は何処かへと歩き去った。

 「皆様、どうかここは幽々子様の言うとおりにしてくださいませんか?ああなったあの方は決定した事はそう簡単に曲げないお方です。どうかここは……」

 「言われなくてもわかってるわよ妖夢。この状況で罠を貼って引っ掛けることは出来ないでしょうし万一そうしたらこの場で戦闘が起こりかねない。そうすると人数の多いこちらが有利になる……そんな愚を犯すようなやつじゃない」

 「ありがとうございますアリスさん、ではお早くお進みくださいませ」

 「果たして、藪をつついてでるのは蛇かはたまた……」

 

 

 4人が幽々子を追いかけていき追いついたところには大きな穴が口を開けていた。

 「やっと来た……遅いわよ、ちょっと待っちゃったじゃない」

 「幽々子、この穴は一体……?」

 「落ちればわかるわ。少なくとも、魔理沙はこの中に入っていった」

 「……だそうだけど、どうする?罠って可能性もなくはないけど」

 「場所がわからないにせよ、行くしかないでしょ。この先に魔理沙がいるのなら、たとえそこがあの世であったとしてもね」

 「ここがいわゆる冥界なのに何言ってるんですかアリスさん」

 「覚悟は決まったようね?それじゃあ、妖夢、まとめてお願い」

 「かしこまりました。では──4名様、ご案内!」

 そういうと妖夢は手にしていた4mはあろうかという大太刀を鞘の付いたまま振り回し──4人まとめて穴の中に叩き込んだ。

 「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 誰かの絶叫が体と共に穴の中に吸い込まれていった。

 

 

 「Mission complete.これでよろしいでしょうか幽々子様?」

 「上出来よ妖夢。後でご褒美あげるわ」

 「ありがとうございます」

 「派手にやったわね幽々子……あとが怖いわよ?」

 「あらあら、心外ねえ。私はあくまでもあの娘たちの希望を叶えてあげただけよ。もしそれで反抗してくるようなら返り討ちにしてあげるわ。ね?妖夢?」

 「そうしろと仰るのでしたら私は誰であろうとこの刃を向けます。我が楼観剣と白楼剣に斬れぬものなどほぼないのですから」

 「15年前より随分とランクアップしたわねあなた。昔は斬れぬものなどあんまりないって言ってなかった?」

 「鍛錬を積んでますから。一日として同じ強さの私など有り得ません」

 「そう、それじゃあ妖夢、もし先程の4人が歯向かってくるようならば全員切り捨てることを許可するわ。強くなったあなたの実力を見せてちょうだい」

 「仰せのままに」

 「あ、だからといって来ただけで斬っちゃダメよ?」

 「う………ぜ、善処します……」

 和やかな雰囲気でそのような会話をしながら3人は白玉楼に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 「お?どうしたさとり」

 「魔理沙、そろそろ帰ってちょうだい。次のお客様が来ているみたいだから私はそっちの応対をしなくちゃいけないの」

 「お客?誰だよお前のところに訪ねてくるやつって」

 「心当たりはないわ。でもおおかたロクでもない相手だってことぐらいは予想ができる。最悪、ここが戦場になるかもしれない……」

 「お、おぅ……物騒じゃねえか」

 「だから早く行きなさい。病人のあなたには堪える場所になるわよ。ああ、そうそう。次はどこに行くつもり?」

 「んーそうだな……次はあの人のところに行こうかな」

 「あの人……?ああ、あの人か。確か魔理沙の師匠だったっけ?」

 「そうだな、私が森に住み着く前から魔法学のイロハを教えてくれた恩人でもある」

 「でも、その人に会いに行くってことは」

 「わかっているさ。霊夢にも会わなきゃいけない」

 「大丈夫なの?」

 「あいつのことさ、何も聞かずに通してくれる」

 「ずいぶんと信頼してるのね」

 「伊達に20年以上も付き合ってきたわけじゃないんでね」

 「羨ましいわ、その関係……出口まではこいしに案内させるわ──お燐、こいしを呼んできてちょうだい」

 「私ならずっとここにいるよ?」

 「うわ!?お前いつからそこに!?」

 「魔理沙とお姉ちゃんがここに入ってきた時からずっと」

 「居るなら居ると言いなさいよ……心臓に悪い」

 「はーい、次からは気をつけまーす」

 「本当にわかってるのかしら……」

 

 「お燐、こいしはもうここにいたから、お空を呼んできて迎撃体制を取れるように準備させて。今日も核は調子良いのよね?」

 「先週に比べれば体調も戻ってますしかなり安定しています。流石に全力とは行かないでしょうが……」

 「十分よ。それじゃあ、頼んだわ」

 了解です!とお燐が言うと素早く部屋から出ていき、どこかへ向かっていった。

 「こいし、ずっといたのなら事情は分かるわよね?」

 「もちろん。魔理沙を地上まで送ればいいんでしょ?」

 「その際に魔理沙に降りかかる火の粉は極力払ってちょうだい、方法は任せるわ」

 「へっへっへー、久しぶりにこれは面白い事になりそう!ちょっとワクワクしてきたよ」

 「浮き足立ちすぎないでね?私のお客様なんだから。魔理沙、あとはこいしに付いていってちょうだい。この娘の能力なら気が付かれることなく地上につくことが出来るでしょう──健闘を祈ってるわ。あなたの旅路に幸多からん事を」

 「ありがとなさとり、お前も体は大事にしろよ?」

 「こっちの仕事が終わったらすぐに戻るからね。行こう、魔理沙」

 こいしが魔理沙の手を握る。すると、さとりにはそこから魔理沙とこいしの2人が消えたように見えた。

 「頼んだわよ、こいし……」

 「さとり様、お空を連れてきました!」

 「さとり様、なんですか急用って……地上にお出かけですか?」

 「今回は違うわよ。またその機会があったらお願いするわねお空。よく聞いて、今からここには予定外の客が来る。その人たちと万一戦闘になった場合、あなた達の力で追い払って欲しいの」

 「了解ですさとり様!」

 「うーん、難しいこと良くわからないけど、頑張りますねさとり様!」

 「頼もしいわね2人とも……私がこんな身体じゃなかったら私だけで対応できたでしょうに、ごめんなさい」

 「謝らないでくださいさとり様!」

 「そうそう、私たちは『家族』なんですから」

 「家族、か……そう、そうだったわね。すっかり忘れてしまっていたようね……」

 お燐とお空は互いの顔を見ていたずらっぽく笑った。

 「迎撃の際は私とお燐は支援に回ります。お空にはその力をいかんなく発揮して欲しいの」

 「え、いいんですか?」

 「今回に限り、だけどね。特別にこの地霊殿内部での核の使用を許可するわ」

 「いよっしゃー!燃えてきたー!」

 「ほ、本当にいいんですか?そんなことしたらさとり様とこいし様の家が……」

 「家ぐらい、また建てればいい。今は迫りつつある危機に対応することを考えましょう」

 燃え盛る暖炉の薪がひときわ大きな音を立ててはじけた。

 

 

 「あいつら、大丈夫かな……」

 「心配後無用だよ魔理沙、お姉ちゃんがいるんだもの、きっと上手くいく。そう信じよう?」

 「それもそうだな、すまない。ガラにもなくネガティブなことを言っちまった」

 「気にしないで、細かい発言の1つ2つぐらい、無意識に統合されて消えていくもの」

 「こいし……」

 「お、そろそろ見えてきた!」

 「なんだこれ、ただの岩場じゃねえか」

 「まあまあ、いいから乗った乗った!」

 こいしは嬉々として魔理沙とともに岩の一つに乗った。

 「そろそろかな。カウントダウン、5秒前!」

 「は?一体何の……!?」

 「3、2、1……」

 「おいおいおいおいおい!?せめて質問に……!!」

 「地底式☆超高速エレベーター、発進!」

 「うおおおおああああああぁあぁぁぁぁ…………」

 魔理沙の抗議もむなしく、その悲鳴は地底の天井に吸い込まれていった。

 

 「おーおーおー、やっぱりあれを使ったか。派手にやるわねまったく…」

 「さとり様、お客様がお見えです」

 「わかったわお燐、すぐに向かうから、全員を応接室に案内しておいて」

 「かしこまりました」

 「お空、車椅子を押してくれるかしら?」

 「構いませんよ!私におまかせあれ!」

 

 応接室に案内されたアリス、パチュリー、咲夜、小悪魔の4人は若干イキリたちながらも古明地さとりを待っていた。

 「ねえ猫さん、あいつはいつになったら来るの?」

 「もう少々お待ちを」

 「全く、客人を待たせるなんていい読経してるわ本当に……」

 「アポなしで来訪した私たちにも問題はありますけどね」

 咲夜は紅茶をすすりながら冷静にそう言った。

 ドアノブを捻る音がして、応接室に古明地さとりと霊烏路空が入ってきた。

 「お待たせしました皆さん、遅れてしまって申し訳ありません」

 「遅かったじゃないのさとり妖怪」

 「申し訳ありません、なにぶんこの身体ですので移動にも手間がかかるのですよ」

 「チッ………まあいいわ」

 「なにやらずいぶん苛立っているようですね?能力使わなくてもバレバレですよ?」

 「ここに来るまでにかなり散々な目にあったからね。軽く5年は老け込んだ気分よ」

 「魔女にとっての5年は大したことないのでは?まあいいでしょう。あなた達の用件は……ああ、やっぱりそうでしたか」

 「あなたは理解のできるやつだと思ってるわ。私たちとしても時間が惜しい、さっさと答えてくれない?」

 

 「お断りします」

 「……は?」

 「ですから、お断りします」

 「あんた、自分が何言ってるのか…」

 「もちろん分かってますよ。全て理解した上で私はこの選択を選んだのですから。無論、あなた達の願いもね」

 「じゃあなんで……!」

 「言ったでしょう?全てを理解した上でって。私はこうなる日がいずれ来ることはもう覚悟してました。魔理沙自身は直接口に出してませんでしたが行き先は黙っていて欲しいと心の中では願ってましたよ?それに、私は魔理沙に以前命を救ってもらった恩義があります。極めて僅かですが、その恩義に報いるべき時だと判断した迄です」

 「言うじゃない、だったら……!」

 「実力行使、ですか」

 「人数はこちらが有利、素直に履いた方が見のためだと思うけど?」

 「バカですねえ本当に。そんなんだから魔理沙さんの願いが、魔理沙さんの気持ちが理解出来ないんでしょうね」

 「うわ、すっごくムカつく……」

 「煽ることに関しては天才的ね……妹様連れてこなくてよかったわ」

 「お褒めに預かり光栄ですね。ですが、私がその程度のこと、まさか予測できていないなんて思っちゃいませんよね?」

 「……!!」

 4人の方には、空の制御棒が向けられ、その先端には莫大な熱量の塊が既に装填されていた。

 「まだ打っちゃダメよお空」

 「心得てます。私だってこの10年で上手く扱えるようになったんだから!」

 「さて、私はお空に核の使用を許可しています。この状況でもあなた達はまだ有利だと?」

 「まだ、私が時を止めれば……!」

 「全部予想通りよ」

 「あー悪いねえ。お姉さんの紅茶にだけ特殊な毒を盛らせてもらったよ」

 「毒……!?」

 「一定時間能力を封じる毒さ。本来は暴走したお空を止めたりこいし様用の薬として貰っていたんだけど」

 「くっ……!!」

 「さて、どうします?この状況でも、まだ実力行使に出る勇気がありますか?」

 

 

 天井に吊られたシャンデリアが揺れることでさとりの顔が怪しく照らされ、暖炉の炎がより一層の火の手を大きくした。

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