The_Chronicle_of_Marisa   作:霧子のエビの天ぷら

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第11話 この世の裏側

 「はぁ……参った、降参よ」

 「え、パチュリー様!?」

 「相手は既に核を準備していつでも打てる状況にある。そのうえこちらの策は全部読まれて事前に潰されてしまう……これじゃ勝ち目ないわ」

 「でも……」

 「理解が早くて助かりますよパチュリー・ノーレッジ。理解力のある客人は嫌いじゃないですよ?」

 「あらどうも、でも私はあんたのことはやっぱり嫌いだわ。それにね、私は魔理沙のことを諦めるつもりは毛頭ないわ」

 「ほう……?」

 「私たちはどんな手を使ってでも魔理沙を連れ戻すと誓ってここまで来た。あなたから情報を引き出せないのならほかのやつから情報を引き出すまでよ」

 「!!お燐、お空、すぐに逃げなさい!」

 「は、え!?」

 「もう遅い……どこに逃げたって無駄よ。あなた達は既に私の術が捉えた」

 大きな音が出て、風が吹き荒び、光がさとり、お空、お燐の三人を包み、淡く発光した。

 「な、なんですかこのもやもや!?」

 「うええ……き、気持ち悪い……」

 「お燐、お空!?この娘たちは関係ないでしょう!このわけのわからない魔法を……ゲホッ」

 ボチャボチャと口から鮮血が溢れた。

 「あらぁ?どうしたのかしら古明地さとりさん?」

 「ちょ、ちょっとパチュリー?あなた一体……」

 「何よアリス、文句ある?私は、どんな手を使ってでも魔理沙の情報を聞き出す。たとえこいつらが物言わぬ肉塊になったとしても──さあ、吐いてもらうわよ」

 空の元に歩を進め首を掴んだ。パチュリーの白い腕が空の首を絞めあげ、骨が軋む音が響く。

 「が……はっ………い、一体……なん、の……」

 「やめて……!その娘は、お空は何も……!!」

 「へえ、それじゃああんたは吐いてくれるかしら?古明地さとり」

 「おい、お前……!さとり様にその薄汚い指を一本でも触れさせてみろ………!!灼熱地獄に、生きたまま叩き込んでやるからな……!!」

 「あらあら、異性のいい猫だこと───そんなに主を守りたいなら、あなたが吐いてくれる?正直いって、殺さないように加減するの大変なのよね」

 「ゲホッ……だ、誰が。誰がさとり様の恩人を……売るもんか……!!あたいは、死んでも吐かないよ……!!」

 「お……燐…?な、何言ってるの、早く……逃げ……っ!?」

 さとりは自らの口にこみ上げてきたものを吐いた。

 それは赤く、一定の粘性と特徴的な匂いを持つ液体──血液だった。それを視認した直後、車椅子に座ったままさとりは意識を失った。

 「さとり様……!?お空、ここはあたいが食い止めるから、あんたはさとり様を安全なところへ……!」

 「で、でも!」

 「いいから早く!じゃなきゃ……さとり様が……!!」

 「こ、こんな煙、核の炎で……!」

 「お空、しゃがんで!」

 

 爆発音にも似た轟音が響き、何者かによって応接室の扉が無理やりこじ開けられる。

 「無意識《弾幕のロールシャッハ》!」

 放たれた弾幕が床を抉り、壁を壊し、魔法陣を粉砕していく。

 「くっ……なるほど、そういえばこいつもいたわね……!」

 「こ、こいし様!」

 「ど、どうしてこちらへ……!」

 「お燐、お空。お姉ちゃんを地下の医務室に」

 「こ、こいし様は……?」

 「私はね、ちょっとこの人達に借りができたの……だから、その借りを返さなくちゃいけないの」

 「ヒッ……!!」

 空が驚き、恐れるのも無理はなかった。こいしの目には、魔理沙を送る前のような光は一切宿っておらず、そこにあるのは底知れぬ闇──怒りと憎しみが支配していることは明白だったのだから。そして、こいしの浮かべる笑顔がより一層その異常性を浮き彫りにしていく。

 「お空、何ぼさっとしてるんだい!さっさと運ぶよ!」

 「お燐!こいし様を置いてけっていうの!?」

 「バカ!あのこいし様を私たちが止められるわけがないだろう……!!今はさとり様にこれ以上危害が及ばないようにすることだけを考えるんだ、いいね!?さとり様、もう少しの辛抱です。少しだけ、少しだけ待っていて下さい!」

 「こいし様……ごめんなさい!」

 ぐったりとしたさとりを抱えた燐は焦りを顔に浮かべ、空は絶対的な力を持っていたのにも関わらず何も出来なかったことに対する悔しさからから両目に涙を浮かべながらボロボロの応接室から出ていった。

 

 「そうか、あんたの能力なら誰にも気づかれることなくここから外に出せるわね…なら、さっさと吐いて貰えないかしら?」

 「……せっかく……」

 「?」

 「せっかくお姉ちゃんに久しぶりのお客さんで、すごく嬉しそうだったのに……」

 「さ、咲夜さんなんかヤバくないですかアレ!?」

 「まさか、こんな礼儀知らずのヤツらだったなんて……私の、私のお姉ちゃんに手をかけるだなんて……!!」

 「コイツはまずいわね……能力が使えるのなら今すぐに逃げ帰りたいわ……」

 「お前ら全員……ぶっ殺す」

 「はっ、上等よ!やれるもんならやってみなさいよ」

 「パチュリー!?あんたなんで煽ってんのよ!」

 「つべこべ言わずに手を貸しなさいアリス。おそらくこいつが魔理沙がどこに行ったのか知っている。そいつをなんとしてでも吐かせるのよ!」

 「バカ、頭に血が上っておかしくなった!?今は逃げるのよ!」

 アリスがそういうとその直後。その言葉がスイッチであったかのようにこいしを中心にして巨大な薔薇の檻が形成され、5人を取り囲んだ。

 「逃げる……?そんなこと許すわけないじゃない。あんた達はお姉ちゃんを傷つけた……その代償は、きっちり払ってもらうわよ」

 「あああああもう!やるしかないか……!!咲夜、小悪魔、手伝って!」

 「え、私もですか!?」

 「こうなったのはあんたの主人が原因でしょ!あんたも連帯責任よ!」

 「ええええええええええええぇぇぇぇぇ………」

 「アハハ、ヤル気になったんだ。そうよねそうじゃなきゃ張り合いがないものね!サンドバッグを嬲るだけじゃつまらないものね!」

 「……私の能力が開放されしだい、それを使って逃げます。それまでなんとかして耐えてください」

 「……了解よ。何分持つかわからないけど、善処するわ」

 「何こそこそ話をしているのかなぁ?なんでもいいけど。ああ、そうそう。私……手加減出来ないしするつもりもないから、やるなら死ぬ気でかかってきなさい」

 狂気と、獰猛性と復讐心に塗れた漆黒よりも深い闇を持つ眼差しを向ける。そして、こいしの足元からこの世のものとは言い難い黒々とした何かが現れ、こいしの足元にとぐろを巻いた。

 そして、4人は理解した。ヤバい、死ぬ気で行かなければ殺される──と。

 「火符《アグニレイディアンス》!」

 「幻符《殺人ドール》!」

 「え、ええっと……火符《アグニシャイン》……!」

 「戦符《リトルレギオン》!」

 「《サブタレイニアンローズ》」

 この弾幕同士の衝突により発生した轟音は旧都の隅々にとどき異常を伝え、同時に激戦の開始のゴングとなった。

 

 

 

 

 「……?」

 「どうしたのよ魔理沙、そっち何かあるの?」

 「いや、何も無いんだが……変な揺れを感じたような……」

 「変な揺れ?どうせ地震でしょ?それよりも、何か用?」

 茶は出されず、互いの距離は遠い。すがすがしいほどの晴天の下で霊夢と魔理沙は数日ぶりに会っていた。

 「あー、いやそのなんだ?えっと……」

 「なんで言い出せないのよ魔理沙、イラッとするからさっさと言ってくれない?」

 「わ、わかったよ!相変わらず短気なヤツだな霊夢」

 「あんたが言わないのが悪い」

 「うぐ……」

 言い返せない。

 「その、だな……地獄に、行きたいんだ」

 「地獄?………なるほどね、そういうことか。なら裏山に入りなさい。歩いていればいずれ会えるわ」

 「……感謝するぜ霊夢」

 「は、何を今更。日頃から私への感謝の念は持ちなさい」

 「何か少しムカつくぜ。殴っていいか?」

 「いいわけないじゃない」

 

 「あんたの病状は大体知ってる」

 すれ違いざまに霊夢にそう言われるが、魔理沙は何も答えない。

 「本当なら今すぐにでも永遠亭に行って治療を受けて欲しい」

 答えない。

 「でもそれが、あんたの意志なら。私はそれを尊重したい」

 決して答えない。

 「だから……死なないでね、魔理沙」

 何も答えないまま、魔理沙は歩き去った。

 

 魔理沙が向かう先の場所を彼女は地獄と呼んでいる。だが正確には地獄ではない。だが、決して結界の外ではない。魔理沙たちがいる世界を《陽の世界》だとすると目的地は《陰の世界》、表の世界だとすると裏の世界、相反し反発する世界と呼ぶのが妥当だと魔理沙は考えている。

 歩くにつれて晴天だった空には霧が濃くなり視界を消していくが、それでも足を止めることは無い。立ち止まらず振り返らず後退せず、一歩ずつ確実に進んでいく。歩き続けておよそ15分、霧が唐突に何の前触れもなく晴れた。魔理沙の目に写った世界は──時間の流れは狂い、元いた場所の法則性は全く感じられず、白と黒が支配してすべての風景が白と黒のツートンで彩られた世界だった。

 「帰って、来たな……」

 誰にも聞かれないようにこっそりと呟いて辺りをキョロキョロ見回す。探している人がいないことを確認すると箒を使わず家々の屋根に飛び移り街で一番巨大な建物目指して移動していった。

 

 それは名前表示のない家だった。家、というにはあまりにも巨大すぎるそれを確認した後、一切躊躇せず閉ざされた鉄門を開き中に入っていった。

 

 「お前が私の元を去ってからこっちの時間で43年と248日経った。お前がいない間はつまらなかったが、戻ってきてくれて嬉しいよ──お帰り、魔理沙」

 「ただ今戻りました。お久しぶりですね、魅魔様」

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