The_Chronicle_of_Marisa   作:霧子のエビの天ぷら

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第13話 傷ついても、何度でも

 「「乾杯」」

 グビグビと喉を鳴らし、一気にジョッキに入ったビールを飲み干す鬼が2人いた。

 「クァーっ!夜に飲む酒もいいけど、昼間っからビールってのも最高だな!」

 「まったくだ。いいツマミといい酒があれば生きていける。このホッケの絶妙な塩加減がたまらないんだ」

 「確かにホッケも美味しいけど……このベイクドポテトのピリ辛感が酒との相性バツグンじゃないか!─ヤマメ、ビールもう1杯!」

 「あいよ。勇儀はどうする?」

 「もちろんもう1杯追加だ!いちいち頼むの面倒だしもうケースごと持ってきてくれよヤマメ!」

 「あ、ずるいぞ勇儀!ヤマメ、私にも1ケースくれ!」

 「はいはい、しっかし2人とも昼間からよく飲むね。翌日胸焼けしても知らないよ?」

 「誰に対して言ってんだっての。そこらの妖怪とは違うんだよ?」

 「それに、それほど酒が飲めるのはいいことじゃないか!2年半前からずいぶん復興してきた証としてこうやって酒を飲めてる……楽しまなきゃ意味が無いだろ?」

 「そういえばあれからもう2年半か……」

 「長かったような、短かったような。あの時は世話になったよ萃香」

 「いいってことさ。勇儀の頼みじゃ断れないし……私としてもここの飲み屋街がまるまる潰れるのは見過ごすわけには行かなかった──困った時は助け合う、決して仲間は見捨てない。そうだろ、勇儀?」

 「……それもそうだな。すまない、忘れてくれ。折角の飲み会だというのに、酒が不味くなっちまう」

 「困った時は助け合う、決して仲間は見捨てない、か……いい言葉だねえ。張り紙に書いてはっておこう。──お待ち遠様、しこたまビール持ってきたよ!とりあえずオーダー分の1ケースはあんたらの足元に置いとくよ」

 「そうだ、ヤマメも一緒に飲まないか?」

 「えぇ!?いや、私まだ営業中だし……」

 「まあまあ、そんなに堅いこと言わずにさ?いいよな、萃香?」

 「もちろんだとも!酒は大人数で沢山飲んだ方が美味しいに決まってる!」

 「うーん……それじゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな」

 奥からビール瓶とコップを1個取り出し、瓶の蓋を開けてコップに注ぐ。

 「うんうん、良い色してる。こいつは美味そうだ……いただきまーす」

 口をつけて飲もうとした時、事件は起きた。

 

 第1にとてつもない爆音。核の暴走とはまた違った、危険性は大きくないが決して誰も寄せ付けまいとする轟音が響き、思わず手に持っていたコップを落としてしまう。

 第2に振動。それはさほど大きくはなかった。しかし、二年半前にもよく似たことが起こり、そのことがまだ記憶に新しかった地底の妖怪たちは何事かとあたりを見回す。

 ざわめきが広まるが動揺と焦りが広まらない。どうやら、事件の会場はどこか遠い場所のようだ。

 「うはー、びっくりした……」

 「まったくだ、鼓膜が破れるかと思ったよ……さ、飲み直そう──勇儀?」

 いつになく真剣な眼差しで音のした方向を見つめ、一切酒に手をつけようとしなかった。

 「……勇儀?」

 「なあヤマメ、2年半前起きたあれのことをまだ覚えてるか?」

 「もちろん覚えてるよ。あの日は私のこの店の新装開店の日だったし」

 「似てると思わないか?」

 「何が?」

 「さっきのあれと、あの時のあれ」

 「………まさか、考えすぎじゃない?」

 「私もそうだとは思いたいんだがな……2年半前のあの大火事が原因でさとりは飛ぶことは愚か、自らの足で歩くことすらできなくなっちまった。今となってはお燐とお空の献身的な介護のおかげで何とかなってはいるが、な」

 「んー……私はあの時ここにいなかったからよくわからないけどさ、気になるなら行ってみたらどうだい?もしかしたら、勇儀のカンが当たってるのかもしれないし、ただの杞憂かもしれない。でもそれは行くまでわからないよ?」

 「シュレーディンガーの猫、だっけ?」

 「そう、あの実験では箱の中にラジウム、ガイガーカウンター、青酸ガスと同時に猫を入れて、一定時間後に猫は生きているか死んでいるかだったけど、今回は箱を地霊殿、猫を地霊殿に住む誰か、ラジウム、ガイガーカウンター、青酸ガスを勇儀の感じている不安だとするならば……」

 「ちょ、それってヤバくない……!?」

 「……うだうだ言ってる暇はないか。すまないヤマメ、ことが片付いたらまた戻ってくる」

 「……分かった、酒と荷物の番は任せな」

 「私も行くよ。勇儀だけじゃ手に余る案件の可能性だって無いわけじゃない」

 「萃香……ありがとう」

 「いいっていいって。困った時は助け合う、決して仲間は見捨てない、だろ?」

 「…はは、一本取られたねこりゃ」

 「無駄口叩く前にさっさと行くよ!」

 

 

 

 

 地霊殿の応接室ではまだ戦いは終わっていなかった。弾幕ごっこは基本的に短期決戦が多い。そのうえ人数差もあるのだから、もうとっくに勝負がついていても不思議ではない、不思議ではないのだが、まだ戦い続けていた。

 「こいつ、聞いてたよりもずっと強いじゃない……まさか4人相手にここまで立ち回れるなんて……」

 「勘弁して欲しいわ……どれだけダメージを与えても立ち上がってくるなんて。まるで妹様とやってる気分……いや、明確な弱点が無い上奇襲し放題なことを考えるとこっちの方がキツいわ。アリス、あと何枚残ってる?」

 「……あと2枚。咲夜は?」

 「枚数は2枚だけど、能力はまだ封じられてるから実質あと1枚と言ったところね。パチュリー様、まだ行けますか?」

 「誰に向かって行ってるのよ。私はまだ行けるわ」

 「わ、私はスペルあと1枚です……」

 美しく煌びやかだった装飾はボロボロに壊れ、綺麗に塗装が施されていた壁には穴が開き、ヒビが走るといった状況だった。

 

 どれだけ攻撃を加えても倒れない。起き上がり、また立ち向かって来る。

 

 その目を背けたくなるような事実が、重く重くのしかかっていた。

 「あっれぇ?もぉ終わりぃ?そっちが来ないならこっちから行っちゃうよ?」

 「チッ……作戦会議の暇はない、か。咲夜!合わせて!」

 「言われなくても……!」

 「《グランギニョル座の怪人》!」

 「奇術《エターナルミーク》!」

 左右からほぼ同時に2種の弾幕が放たれる。

 捉えた、と4人は確信した。

 「深層《無意識の遺伝子》」

 だが、こいしの左右を防御するように張られた弾幕によりいとも容易くはじかれてしまう。

 「なっ!?」

 「全部弾く、か……これでもダメだなんて」

 「じゃあ次私の番ー!」

 にこやかに笑ったこいしは自身の弾幕の一部を踏み台にし、一点をめがけて直線的に突進していく。

 「待って、そっちには……!」

 「パチュリー様、避けて!」

 声に反応して顔を上げたパチュリーの眼前には左足を軸足にしこちらを蹴り飛ばさんとするこいしの姿が映った。慌ててその場から離れようとする。

 「ニガサナイ」

 狩りをする獅子のような獰猛な笑顔を見せる。そして、パチュリーの腹部を足で捉えて蹴り飛ばした。

 「パチュリー様ぁ!」

 小悪魔に体を受け止められるも勢いは止まることがなく、机や椅子を巻き込み壁に激突した。

 「うぇ……ゲホ、ゲホッ……」

 「だ、大丈夫ですか……パチュリー、様……?」

 「……ありがとう小悪魔……ゲホッ……助かったわ。でも、あなたが…」

 「わ、私は……パチュリー様、を守れたら……それで……」

 「小悪魔、パチュリー!」

 「お姉さんも、余所見をしてる場合かなぁ?」

 「!!露西亜、仏蘭西!」

 巧みに糸を操り、人形でガードする体制をとった。しかし、繰り出された鋭い蹴りにより露西亜人形を破壊され、腕にまで蹴りの衝撃が及んだ。トドメを刺さんとして構えた瞬間、遠方からナイフが飛来しこいしの肩に刺さる。

 「これ以上、好きにさせてなるものか……!」

 「咲夜、助かったわ」

 「礼は後で結構よ」

 「能力の方は?」

 「解毒率95%、この状態じゃ使ったら時間の流れから隔離されて二度と戻れなくなる……まだ使うわけにはいかない」

 「あと何分かかりそう?」

 「5分、いや、3分以内に解除してみせるわ」

 「……頼んだわよ、正直いって、今の戦況は最悪よ」

 「勝つことではなく生き残ることを優先する、ね。これはもうなりふり構っていられないわ。解毒でき次第時を止めて脱出する。いいわね?」

 「今のところ、それ以外に手はないでしょう……頼んだわよ」

 「いったいなぁ……折角お姉ちゃんにもらった服が台無しじゃない…」

 「あんたの相手は私よ!」

 12の人形が等間隔でアリスの周囲を回っている。

 「騎士《ドールオブラウンドテーブル》これで、あんたを倒す!」

 「おもしろい、面白いなぁお姉さん!もう10体は壊したのにまだ持ってるなんて!」

 「お褒めに預かり光栄……と言っておきましょうか。──行きなさい!」

 12の人形が同時に小石に向かって襲いかかる。しかし、その動きは横から飛んできた木製の扉によって遮られる。

 「!!今度は何!?」

 「そこまでにしておきな、人形師。これ以上の戦いは無益だ」

 「……あなた、誰……?」

 「星熊勇儀。かつて萃香と同じく鬼の四天王の一角に名を連ねていた者だ」

 「勇儀、こっちは全員無事だよ。息してる」

 「萃香……!?あなたなんで……!」

 「たまたまだ。しっかし、騒がしいと思ったら元凶はあんた達か……まだやる気はあるのかい?」

 「……もう限界よ。仲間はご覧の有様、持ってきていた人形も10体が破壊されて、スペルカードもこれで最後。戦えって言う方が無茶だわ」

 「そうか、ならいい……こいし、お前はまだやる気なのか?」

 「だってこいつらお姉ちゃんを……」

 「何があったにせよ、ここではもう鉾を引け。まだやるってんなら、私が相手になってやる」

 「……なら、勇儀が相手になってくれるんだね?よかったぁ、このままじゃ消化不良で腹の無意識が収まらなかったよ……」

 「どうしても、やるのか?」

 「なに、今更ビビってんの?あなたいつからそんなに腑抜けになったわけ?まあいいわ、ちょっとは楽しませてよ!」

 そう言い、こいしがスペルカードを取り出す。アリスはとっさに弾幕に備えたが、新しいスペルの発動は杞憂で終わった。スペルカードを視認した勇儀が目にもとまらぬ速さでこいしの懐に潜り込んだためである。その勢いを一切殺すことなく繰り出された勇儀の拳により、こいしの体はくの字に折れ曲がり意識をすべて刈り取った。同時に、拳により浮いた状態のこいしの体から吸収しきれなかった拳圧が溢れ地霊殿の床にクレーターを残した。

 

 「一撃、か。流石だね勇儀、ますます強くなったみたいだ」

 「無駄口叩く前に事態の収拾を図るぞ。とりあえず私はこいしを医務室に運ぶ。萃香はそっちの奴らを頼む」

 「あいよ。さて、歩ける奴らは歩いてもらうとして、そこで伸びてる2人は私が持って行こう。話はとりあえず宿で聞くよ」

 「……了解。咲夜、肩貸しましょうか?」

 「……お願いするわ。萃香様、有り難うございます」

 「職業病なのかは知らないけどさ、様付けはやめてくれないかい?なんだかキモチワルイ……萃香って呼んでくれよ。あと、あんたらには後でじっくり話を聞くからね」

 

 

 

 

 「お空、さとり様の容体は?」

 「とりあえず命に別状はないって。……」

 「……まだ気にしてるのか、これはお空のせいじゃない。さとり様もある程度は承知だったはずさ」

 「でも、でも……私、またさとり様を………守れなかった…!!」

 コンコンコン、部屋にノックの音が響く。

 「失礼するぞ、お燐、お空」

 「勇儀、来てたんだ……な、何か用かな?あたいでよければ応対するけど……」

 「とりあえずこいつをベットで寝かせてやりたい」

 「こいつ……って、こいし様じゃん!なんで!?」

 「少し暴れてたからな、殴って気絶させた。臓器にダメージがいかないように配慮はしたつもりだ」

 「……そう、ありがとう勇儀。こいし様はさとり様の隣に寝かせてあげよう…お空、手伝ってちょうだい」

 「わかった」

 

 「これでよし、と。ありがとう2人とも手伝ってくれて。」

 「いいっていいって。そっちの方がこいし様も喜んでくれるだろうし」

 「お燐、お空、一体何があったんだ?なんでこいしが暴れたんだ?こいつがあそこまで冷静さを欠くなんて……」

 

 「……そのことは、私が話しますよ……」

 ゆっくりと重々しくさとりが上半身を起こした。

 「さとり……もう大丈夫なのか?」

 「ええ、いつまでも寝ているわけには行かないでしょう。妹の件……ありがとうございました」

 「いいのか?私、さとりの妹の腹思いっきり殴ったけど」

 「怪我をしないように力を抑えてくれたのでしょう?それに、私の妹の暴走を止めてくれた……ありがたいことです。──そろそろ本題に移りましょうか」

 「……ああ、頼む。一体何が起きたんだ?」

 

 ──少女説明中──

 

 「なるほどねえ、つまり互いに煽りあった結果だってわけか」

 「元はと言えば、私に原因があります。あの人たちの心を、願いを知っていながら踏みにじり、情報をひた隠しにしたわけですから」

 「でもそれでさとりは魔理沙への恩義を若干返せたと思ってるんだろ?」

 「えぇ、身も蓋もない話ですが……お恥ずかしながら」

 「ならいいんじゃないか?当事者がこれで良かったって思ってるのなら、部外者は手を出すべきじゃないさ」

 

 

 「なるほどねえ、大体の話は理解したよ。だからあんたらがここにいて、あんな大騒ぎが起こったのか……」

 「そんなに騒ぎが大きくなってたなんてね……私もまだまだ冷静さが足りないわ、こんなんじゃ、いつまで経ってもあの人に追いつけないな…」

 「帰ったら絶対お嬢様に文句言われるわ……」

 「確かに今回はあんたらが冷静さを欠いて熱くなりすぎたことが原因だ。でもさ、しっかりと反省できているなら次は同じ失敗はしないんじゃないか?」

 「冷静さを欠いてしまったら判断力も落ちるから確信はないけどね……」

 

 

 

 ジリリリリン………ジリリリリンと黒電話が呼ぶ声が聞こえた。

 「電話か……誰からかしらね?お燐、悪いけど電話とってくれない?」

 「はい、どうぞ!」

 「ありがとう。──もしもし、地霊殿ですが」

『お、さとりか?』

 「──魔理沙、何のようかしら?というかどこから掛けてきてるの?」

『永遠亭』

 「……そう、それじゃあもういいのね?」

『ああ、行きたかったところは全部回った。パチュリーたちがそっちいってないか?』

 「ついさっきまでいたわよ」

『今は居ないのか……どこに行ったかわかるか?』

 「勇儀、萃香がどこに向かったのか心当たりない?」

 「あいつらは今萃香が身柄を預かってるからたぶん、中央通り沿いの宿じゃないか?」

 「ふむ、あそこですか……情報提供、感謝します。魔理沙、おそらくですが居場所が判明しましたよ」

『お、そうか。そこの電話番号教えてくれるか?』

 「わかりました。宿の方には私に教えてもらったといえば納得してくれるでしょう。あそこのオーナーとは旧知の間柄ですから。電話番号は、859-XXX-XXXXです」

『おう、ありがとうなさとり。最後の最後まで世話になるよ』

 「気にしないでください。では、お大事に…」

 電話を置き、魔理沙との通話を終了させる。

 「魔理沙にはなんて?」

 「とりあえず宿の電話番号を教えました。どうするかは、彼女次第でしょう」

 

 萃香たちがいる部屋で電話がなった。

 「もしもし?」

『萃香様、お電話が掛かってきています。そちらにお繋ぎしてもよろしいでしょうか?』

 「ん?誰だろ……まあいいや、繋いで」

『畏まりました』

 それから数秒後、さっきの声とは全く別物の声が響く。

『よぉ萃香、久しぶりだな!』

 「魔理沙!?」

 「ちょっと萃香、変わりなさい!──もしもし魔理沙!?あなた今どこにいるの!」

 電話をこっそり聞いていたアリスが萃香から受話器を奪い取った。

『うぉ、うっせ……耳元で騒ぐなよアリス。鼓膜破れるかと思ったぜ』

 「あなたねえ……」

『さっきの質問、なんだっけ?』

 「あなたは今どこにいるのかって聞いてんのよ」

『永遠亭』

 「永遠亭……あなた、また無茶したんじゃないでしょうね?」

『無茶しない私なんて私じゃないぜ。アリスが居るってことは、そこにパチュリーとかも居るんだろ?』

 「……まあね」

『永遠亭の入院患者用病棟。そこの334号室に来てくれ。あって一度話がしたい』

 「すぐ行くわ。……逃げないでよ?」

『逃げねえよ。もう、私の役目は終わったんだ。説教ならそこでしてくれ。鈴仙に無理言って電話を貸してもらってるんだ』

 「…はいはい、じゃあ切るわよ」

 

 「魔理沙、何だって?」

 「永遠亭の334号室に来てくれってさ。話したいことがあるって言ってたわ」

 「で、行くのか?」

 「心配だし、話したいことの内容が気になるわ。咲夜、もう行ける?」

 「いつでも行けるわ。ごめんなさいね、私が不甲斐ないばっかりに……」

 「反省は後にして。残ってる人形に2人を運ばせるから、咲夜は時止めをお願い」

 「……私は、持ってもらわなくても歩けるわよ」

 「パチュリー……」

 「パチュリー様、大丈夫ですか?まだ無理をなさらない方が……」

 「心配ありがとう咲夜。でも、いつまでも寝てるわけにもいかないでしょう?そこの鬼、伊吹萃香……だっけ?」

 「初対面の相手に名前を知られてるなんて、光栄だね?パチュリー・ノーレッジ」

 「……今日はありがとう。助かったわ。後日あらためてお礼を言いたいから、今度紅魔館に来てくださらない?レミィにはこっちから話を通しておくから」

 「……わかった、私はここか博麗神社のどっちかにいるから、日時が決まったら連絡してくれ」

 

 「用件は済んだ?」

 「待たせたわね。いつでも大丈夫よ」

 「それでは参ります。2人とも捕まっててくださいよ。……時は全て私のもの──《咲夜の世界》」

 咲夜の胸元に下げられていた懐中時計が不自然な挙動を見せたかと思うと、4人が時間から隔離された。

 世界から動きを止め、光が、音が、色が一切の例外なく奪われる。すべてが灰色になり、再び動き出す気配はない。

 「相変わらずの精度ね。流石は完全で瀟酒なメイド…」

 「これがなければ今頃私はレミリアお嬢様のメイドではいられなかったでしょう。これぐらい当然ですわ」

 「さっさと行きましょう。時間が止まっているとはいえ、流石にのんびりするわけには行かないでしょ」

 「それもそうね。私はともかく、小悪魔にもさっさと治療を受けさせたいし……」

 灰色になった世界を唯一色が残った存在が闊歩して地下から地上へと上がっていった。

 

 

 

 

 永遠亭前。軽い扉をスライドさせて中に入る。今はどうやら鈴仙が番をしているようで、白いナース服がよく似合っていた。

 「あ、アリスさん……来てくださったんですね」

 「用件はわかるわよね?魔理沙から聞いてるはずだけど……あと何その格好?コスプレ?」

 「あ、あはは……これ、姫様のご趣味で……」

 「うわあ……なかなかイイ趣味してるのね」

 「ごめんなさい、私たちは診療と怪我の治療をお願いしたいのだけど…」

 「あ、わかりました!では診察室3番でお待ちください!魔理沙さんの場所へ案内します。ついてきてください」

 「また後でねパチュリー」

 「すぐに追いつくわ」

 

 コンコンコン、と3回ノックをする。どうぞ、と聞きなれた声が響く。

 「来たかアリス」

 「……魔理沙」

 「とりあえず座りな、話したいことがある」

 真面目な口調で、それでも少し微笑んで魔理沙はそう言った。

 開けられた窓から冬場特有の、乾いた冷たい風が吹いた。




第12話と同時期の話です。
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