The_Chronicle_of_Marisa   作:霧子のエビの天ぷら

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第2話 不在神前のお茶会

 ふわふわと飛ぶ箒にまたがることで空中を飛ぶ。もう20年以上やっているいつものことだ。日が少し昇り、暖かくなったとはいえど季節は冬。上空はまだまだ底冷えする気温だった。

 

 飛行の途中、森の上空で魔理沙は知り合いに出会った。

 「あ、魔理沙、おはよう」

 「おはよう妹紅、お前朝早いな。どうしたんだ?」

 彼女の名は藤原妹紅。里の自警団の一員であり、一時期男ではないかと疑われたのを気にしてか、酔った勢いで全部脱いだという逸話を持つ蓬莱人──不老不死の人間である。

 

 「自警団の仕事終わりでね。今から慧音に報告しに里に帰るところさ」

 「ホォー宴会で酔った勢いでマッパになった変態副団長サマは仕事は真面目にしてるのか………関心関心」

 「テメェ……喧嘩売ってんのか……?」

 額に青筋を浮かべ、頬をひきつらせながら妹紅は言った。今にも掴みかかりそうなところを必死に抑えてると言った感じがする。

 「おお、こわいこわい。弾幕勝負なら受けて立つぜ…と言いたいところなんだがな。私は今日は忙しいんだ、お前にかまってるヒマはないんでね!じゃあ、慧音によろしく言っといてくれよ!またなー」

 「あ、おい!………行っちまった……相変わらずだなあいつも。14年前の永夜事件の時以来だが、あの時以上に逃げ足速いな。────さて、私も帰るか」

 上空で軽くのびをした後、魔理沙と会話する前と同じように、寺子屋を目指して飛んでいった。

 

 場所は変わって博麗神社。幻想郷最東端に位置する神社。参拝道は整備されてはいるものの、場所が場所ということだけある上、普段は力を持った妖怪がたむろする妖怪神社として名を馳せてしまっているために人間はほとんど来ない。

 

 かといっていつも妖怪がいるというわけではなく、(ほぼ常駐している一部の例外を除いて)普段は巫女以外には誰もいないという少し侘しい神社である。

 

 減速し、雪が程々に積もった神社の敷地内に魔理沙は着陸した。

 

 「霊夢ー、遊びに来たぞー。居るなら返事しろー!」

 

 それからおよそ30秒が経過し、寝起きと思われる彼女が奥から出てきた。

 

 「ふわぁ〜………おはよう魔理沙、早いのね」

 博麗霊夢。幻想郷の管理者の一角、現博麗の巫女にして魔理沙にとって数少ない人間の親友。年齢は魔理沙と同じで、昔からよく気があっていた。

 「おう、大切な友達との約束をすっぽかすわけにはいかないからな。飛んできたぜ」

 「ドヤ顔してるところ悪いけど、あんた今まで歩いてきたことあったかしら?いつも飛んで来てるように感じるけど?」

 「うっ………それは無しだろ霊夢」

 「じゃあ行動を改めることね。───ま、上がりなさい。積もる話もあるでしょう。この寒さは体に良くないわ」

 「そういえばお前さ、もう若くないんだし、そろそろ後継者見つかったのか??」

 「まだよ」

 「おいおい、大丈夫かよ?もう若くないんだぜ?」

 「ほっといても優秀な子は紫が勝手に拉致(つれ)てくるでしょ」

 「確かにあいつならやりかねんな、神隠しの主犯だし。でもさぁ……」

 「なによ」

 「止めようとは思わないのか?拉致とか誘拐とかって犯罪だろ?」

 「面倒だからパス」

 「………」

 

 博麗神社の中は一人で生活するには過剰なぐらいに広い。にも関わらず、掃除が様々な箇所に行き届いているのは霊夢の生真面目さを表しているということだろう。

 「おまたせ。緑茶しかないから緑茶だけどいいわよね?要らないっていうなら下げるわ」

 「いや、大丈夫だ。遠慮なくもらうぜ」

 

 ズズズ………とお茶を飲む2人。手元にはお茶請けが用意されていた。

 「そういえば魔理沙、あんた何しにきたわけ?まさかお茶飲みに来ただけじゃないでしょうね?」

 図星。

 「……そ、そんな訳ないじゃないか。ちゃんと話したいこともあったんだ」

 冷や汗ダラダラである。霊夢はジト目をしていかにも疑っているという感じである。

 「………ま、いいわ。で、何のようかしら?」

 「最近異変らしい異変もなくて暇だからな、鈍らないようにこんど弾幕ごっこしないかって誘いに来たんだよ。非想天則ルールでの弾幕ごっこをな」

 「あんたとの弾幕ごっこ、か。懐かしいわね。最後にやったのっていつだったかしら?たしか、依姫と豊姫のところに殴り込みに行った時の腕試しが最後だったから……」

 「ざっと7年振りといったところだな」

 「え、もうあれから7年も経つの?早いわねえ、時間の流れって。あの時はありがとうね魔理沙、助かったわ。」

 「いいってそんな昔のこと。私が好きでやったことだし、それに私は今日は昔話をしに来たわけじゃないんだ。遊びに約束を取り付けに来ただけなんだぜ」

 「ほんとにそれだけなのかしら……怪しいわ。まあいいわ、ここ最近萃香は地底に行ったっきりだし、針妙丸も輝針城組の同窓会からまだ帰ってきてないしね。私も暇なのよ、受けるわその勝負」

 「契約成立、だな。いつにする?」

 「私としてはいつでもいいのだけど?あなたがいいなら、別に今からでもいけるわ」

 「準備がいいねえ、それじゃあ早速、と行きたいのはやまやまなんだがな」

 「ん?どうしたのよ。八卦路家に置いてきたとかいうんじゃないんでしょうね」

 「んなことするかっての。私は今日は忙しいんだ、だから1週間後でどうだ」

 「1週間後、ね……了解よ。時間は13時00分、場所はここでやるわ。遅れないでね。」

 「あったりまえだろ?私を誰だと思ってるんだ。約束は必ず守る」

 

 博麗神社境内。雪は既にやんでしばらく経ち、雪解け水が多くなってきた頃、魔理沙は再び、箒に跨って宙に浮いていた。

 「それじゃあ、また1週間後な。楽しみにしておくぜ」

 「それはこっちのセリフよ。楽しみにしておくわ、魔理沙」

 「私が勝ったらその日の夕食奢れよ?」

 「じゃあ私が買ったらお賽銭入れてちょうだい。時間、忘れんじゃないわよ?」

 「わかってるって!13時00分だろ?霊夢こそ、寝坊すんなよ?じゃあな」

 そう言い残し、博麗神社を後にした。

 

 魔理沙が見えなくなってからおよそ30秒後。霊夢は境内でただ1人、険しい表情を浮かべていた。そして誰もいないところへ、誰も聞いていないはずなのに声をかける。

 「………そこから覗いてる妖怪さん?コソコソしないで、いい加減に出てきたらどうかしら」

 何も無かったはずの空間に切れ目が生じ、中から金髪のなにやら怪しげな格好をした女性が出てくる。

 「あらら、バレちゃってたか……さすが私の愛しの霊夢ね。あなたぐらいよ、どこにいても私がどこにいるのかわかるのは」

 「誰があんたの愛しのよ。変な事言ってるとボコるわよ。第一、あんたの気配は露骨すぎてわかり易いのよ。あれじゃ見つけてくださいって言ってるようなものだわ。それを見越してたんじゃないの?紫」

 八雲紫。幻想郷のもう1人の管理者。神隠しの主犯にして、幻想郷発足当時から永きにわたってその座に座り続けている大賢者。

 「ご明察、そこまで見抜けるのはそういないでしょう。異変が長い間起きていないけど、腕の方は鈍ってないようね。さすが私の愛しの霊夢、御褒美にキスをしてあげましょう」

 

 

 

 〜少女フルボッコ中、少々お待ちください〜

 

 

 

 

 「さーて、今日の仕事終わったし、寝ましょ寝ましょ」

 「酷いわ霊夢!私はこんなにもあなたのことを愛しているのに!」

 「え、なに?もう一発夢想封印食らいたいって?しょうがないわねぇ……」

 「ヤメテクダサイシンデシマイマス」

 「弾幕ごっこのスペルカードで死ぬわけないでしょ。───で、何しにきたの?」

 「あらやだ、聞かなくてもわかりきってることでしょうにわざわざ聞くなんて。霊夢のこと見に来たに決まってるじゃない」

 「そう……それじゃあ来たついでに一つ質問いいかしら」

 「どうしたのよ、改まっちゃって。何でも聞いてちょうだい」

 「魔理沙のことなんだけど、紫はどう思う?」

 「質問に質問を返す行為はあまりしたくないのだけど、この場合は仕方ないわね。あなたにも全く同じ質問をするわ。霊夢、あなたは魔理沙のこと、どう見てる?」

 「……端的にいえば、物凄く腹立たしいわね」

 「その心は?」

 「魔理沙のやつ、わざと病状を隠してる。言わなきゃバレない、迷惑はかけないとでも思ったのかしらね?だとしたら、ずいぶんナメられたものよ」

 「へぇ……魔理沙のことをすべて見抜いているかのように言うのね」

 ゆかりが少し目を細めて言った。

 「もちろんよ。20年以上一緒にいる仲なのよ、わからない分けないじゃない。私が魔理沙のことでわからなかったことは今の1度もないわ。多分、これからもずっとね」

 

 

 「それじゃあ私は帰るわね」

 「あー、はいはい。さっさと帰りなさい。ただでさえうちは妖怪神社として評判なの、おかげでお賽銭が減って困ってるわ。あんたみたいなのがいるとまたそんな評判がたっちゃうじゃない」

 「あらら、これは失礼。──気をつけてね」

 「………気をつけてね、か。誰に向かって言ってるんだか」

 

 紫がいなくなった後、霊夢はただ1人で境内に残され佇んでいた。白い息を吐き、誰も来ない参拝道を睨みつける。

 「あのバカ、なんで病気のこと言わないかな……言わないことで迷惑をかけないつもりなのかしら?だとしたら、私を侮りすぎてるし、大馬鹿者よ。言わない方が迷惑だっての……!!」

 そう呟いた後踵を返し、霊夢は無人の神社の中に入っていった。

 

 そのつぶやきは降り積もる雪の中に吸い込まれ、ほかの誰にも聞かれることは無かった。

 

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