The_Chronicle_of_Marisa   作:霧子のエビの天ぷら

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第6話の補足話となります。


Ex-Episode_01 禁薬の真実

 永琳が紅魔館へと慌ただしく出ていった後、診察に来ていた患者の診察も終了したうどんげは、ポットに入れておいた氷水を飲み、一息ついた。

 

 師匠である永琳がでかけているため、下手に薬の調合はできない。かと言って患者が来ているわけでもなく、薬の移動販売の日でもなかった。要するに、暇を持て余しているのだ。

 

 何かやれることはないか、病室を巡回し仕事を探す。

 

 しかし、病室には誰も入院していなかった。完全に無駄骨である。

 

 病室がある区画から離れ資料室へ。ここには過去の患者のカルテが貯められている、永遠亭の中でも入室を許されているのはうどんげ、因幡てゐ、チーフドクターの八意永琳と永遠亭の主である蓬莱山輝夜の4名だけだった。その所とも相まって最近はまともに掃除すらしていないのだろう、床と棚には埃がたまっていた。

 

 「ケホッケホッ………ほ、埃っぽいわねこの部屋……入ったついでに掃除しちゃお」

 

 病院の一角がホコリをかぶっている、なかなかに笑えない冗談だ。そう思ったうどんげはハタキとホウキ、塵取りとを持って掃除をし始めた。

 

(部屋の大きさはそこまで大きくないのが救いといったところかしら?さっさと始めましょう)

 

 掃除は上からやるのが基本だと輝夜が言っていたことを思い出す。布が先端についた棒を上下に振り棚の上のホコリを床へと落とす。次は棚の中だ。クリアファイルで綺麗にまとめられてるとはいえど多少の凸凹はある。そのことに気をつけながら、ハタキで棚の上と同様にホコリを落とす。

 

 その時、ハタキの柄をクリアファイルの一部に引っ掛けてしまい、クリアファイルがホコリの積もった床に落ちた。

 

 ハタキを棚の上に置き、ホコリの積もった床に膝をつき、クリアファイルを拾う。同時に、中身が少し気になったためファイルの中の紙を手に取った。

 

(《蓬莱の薬作成実験の報告書》……?なにこれ、なんでこんなものが?)

 

 紙をめくり、中身を確認する。その内容は、うどんげを驚愕させるのには十分すぎるものだった。

 

 

 

 

蓬莱の薬作成実験の報告書

 

実験、観察者:八意永琳

 

本実験の目的:

1.蓬莱山輝夜の能力、《永遠と須臾を操る程度の能力》を人為的に任意の第三者に顕現させること

2.外部から上記の能力を制御すること

3.上記の効能を持つ薬の開発、および大量生産方法の確立

 なお、本研究は極秘任務であるため、一切の他言および情報の漏洩は無用とする。

 

結果

1.について

 モルモットを利用した動物実験では顕現させることに成功。ただし、対象によって大きな個体差があるようで個体間では最大で10日ほどのずれが生じた。

 どうやら、この薬は適性のようなものがあるようだ。

 

2.について

 結論から言えば失敗した。投薬、電極、魔術等様々な方法を試したが調査個体の脳に侵入することすら出来なかった。意思疎通ないしは洗脳が可能ならば外部からの制御も可能かもしれない。

 

3.について

 上記の効能を持つ薬の開発、及びある程度の量産化は成功したが、大量生産方法の確立は出来なかった。今確立している方法では薬草の合成に数ヶ月ほどかかり使用材料も月にはないものを使用しているため大量生産することが困難と判断。

 

 また、《永遠と須臾を操る程度の能力》の他にももう一つ別の能力《不老不死》が確認できた。

 名前の通り老いることも死ぬこともない能力だ。単純に死ねないというよりも肉体の細胞が異常活性され、傷の類が瞬間的に完治してしまうと言った方がいい。

 なお、製法は別途資料に記載する。

 

 

 

 概要を言うとこんな感じだった。たんたんと綴られた無機質な文字とグラフが並べられた紙が100枚ほど並べられていた。目的を遂行するために綴られた禁薬の裏側と無機質な文字からは何の感情も読み取れない。まるで感情のない機械が打った文章のようだった。

 

 実験レポートを読み終えたとき、さらに続きがあるのに気がついた。どうやら、永琳の日記のようだ。

 

 そこには実験に対する葛藤、苦悩、不安感、上層部に対する不信感が綴られていた。この研究のことを知っているのは永琳と月の一部の上層部だけ、秘密を隠蔽するためにいつ暗殺されても不思議ではなかった。そのことが徐々に永琳を追い詰めていったのがよく分かった。目を背けたかった現実はうどんげの双眸をつかんで離そうとしなかった。

 

 そして、ある1ページに目が止まる。

 

 

 

○月X日

 

 もう限界だ。私はいつまでこの現実に怯えていればいいのだ。月のためを思って協力していたが上層部にとって自分は都合のいいコマであったに過ぎないというのか。あいつらにとって私の存在は最早邪魔なのだろう、一昨日の襲撃がそれを物語っている。ならばどうすればいいか。あいつらに、月の上層部に何とかして一矢報いる方法はないのか。

 

 

○月XX日

 

 あれから一日考えた。月の各地を転々としながら、あいつらに復讐する術を考えた。あいつらが最も恐れていることはなにか、あいつらにとって最も痛手となる一手は何か考えを巡らせた。そして思いついた。

 私が作った薬、蓬莱の薬は輝夜の能力の付与のおまけとして《不老不死》がついてきている。ならば、あいつらにとって最も痛手となる一手は、情報を持っている者、私が死なないことになる。一瞬意識が飛びそうになるほどの激痛を覚えたが、無事に服用できた。これでいい、これで私を利用した奴らは私を殺せなくなる。私という生命体の須臾は永遠に引き伸ばされた。この勝負は、私の勝ちだ。

 

 

 

 

 うどんげは手の震えが止まらなかった。月にいた頃、八意永琳の永久追放処分は都でも大きな話題となっていた。普通なら絶対に生かしはしない罪状をでっち上げられていたのに、何故か永久追放処分だった。この事実の理由がやっと理解出来た。殺したくても、彼女は既に不老不死を得ていたのだ。

 

 その後はおおかた噂で流れていた通りなのだろう。蓬莱山輝夜を拉致、日本の竹林に封印し一般人として隠し育てさせる。定期的に月からの使者という偽りの仮面を被り、成長を確認する。そして、場所を特定した月が奪還の部隊を送り込んだところに潜入、部隊を殲滅した。

 

 竹林の中で育てた老夫婦亡き後はその家を利用し医院を開業、そして今に至る。

 

 全身が震えた。そして涙が溢れた。たった1種類の薬ですべてを振り回された彼女の人生、その茨の道たるや想像に難くなかった。

 

 声を殺し泣きながらも、ファイルを元に戻す。

 

 そして、何も見なかったことにした。このことは墓場まで持っていく、そう決心したのだ。

 

 師匠である永琳が残してあるということはおそらくこれは月に対する切り札となりうるのだろう。

 

 そう思い、うどんげは静かに部屋を後にした。

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