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「くっ…いったいどういうことだ?何故こちらの情報が…」
トーレ達とコウキが戦っている洞窟のさらに奥、そこに建設された研究所。その中で紫色の髪をした男性と、若干薄い紫色の髪の女性が戦いの様子を見ていた。
「どうしましょう、ドクター?此処は降伏して…」
「いや、駄目だ!彼の眼は情欲に満ちた目だ、あれでは君達がどんな目に遭うか解ったものではない。ましてや、騎士ゼストを見捨てるわけにはいかない!」
ドクターと呼ばれた男性――彼こそがゼスト達の確保対象であり、広域次元犯罪者のジェイル・スカリエッティである。彼は女性――ウーノの進言を退け、コウキに屈することはないと語る。
「(だが…どうする?AMFも効かず、こちらの情報も掴まれている…どうすれば…)」
一方でスカリエッティの内心は複雑なものだ。コウキに降伏するのは論外、かと言って彼に勝つ手段が思い浮かばないのだ。
「…っ!?ドクター!時空に歪みが!!」
「何っ!?」
慌てて画面に映った状況を報告するウーノに、スカリエッティも食い入るように画面を見る。そこには突如現れた黒い穴と、そこから現れた一組の青年と少年の姿が映っていた。
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「ふん…」
時空の穴から出てきた青年と少年――当然、彼らはハーデスによって転生した転生者達だった。その身に纏った闇色のプロテクターが美しく輝き、誰もがその姿に目を奪われている。青年は大きな翼が目立つプロテクター、少年は前の部分の肌が露出した軽装タイプのプロテクターだった。
「成程ねぇ、見事にお取込み中に出ちゃったみたいだね」
軽く鼻を鳴らしただけの青年に対し、少年は辺りを見回して現在の状況を確認する。傷付いたゼストにトーレ達、それと敵対するように立つコウキの姿。
「おい、シャム…転生者はどいつだ?」
「ん…あの銀髪のだよ。多分ね」
少年――シャムはコウキに向けて視線を向ける。彼が知る「リリカルなのは」の知識の中にコウキのような容姿の人物は存在しない。だからこそ、彼が転生者だと考えた。
「へぇ…君達も転生者?けど悪いね、今良いところなんだ。だから、邪魔しないで貰えるかな?」
コウキは青年とシャムに向かって不敵な笑みと共にレクサスを向ける。
「一つ聞くけどさー、君のこの世界での目的って何?」
そんなコウキにシャムは一歩前に出て訊ねた。
「(まぁ、だいたい予想はつくけどね)」
一応訊ねたシャムだが、彼にはコウキがどう答えるかは予測が付いていた。
「決まってるじゃないか!ハーレムだよ、可愛い女の子の身体を全部味わい尽くすのさ!そのために、君達は邪魔なんだよねぇ!」
「(う~わ~、案の定予想通り)」
シャムはコウキの言葉に呆れ、一方でトーレ達女性陣も嫌悪の視線を向けている。
「…下がってろ、シャム」
此処で、先程まで口を閉じていた青年がシャムの前に出る。その瞳はコウキへの敵意で満ちている。
「へぇ、君が僕の相手かい?」
前に出た青年に対し、コウキはレクサスを構えて臨戦態勢に入る。しかし、その表情には自分が負けるはずがないと言う自身で満ち満ちていた。
「(あの反応からして、あいつは僕達がどういう存在か知らないんだろうなぁ…まぁ別に問題ないけど)」
自分達――正確には自分達が纏っているモノへ対して何の反応もないことからシャムはコウキが、その知識がないと当たりを付ける。そしてその予測は正解だった。コウキは転生前、主要人物の大半が女性キャラの作品を好んでおり、逆に男性キャラが大半の作品は一切興味を示さなかったのだ。
「さぁ、何処からでもかかっておいでよぉ?すぐに叩き潰してあげるからさぁ!!」
「ふん…」
「…へ?」
コウキが挑発の言葉を口にし、青年が軽く鼻を鳴らした次の瞬間…彼の姿はコウキの視界から消えた。
「ぼはっ!?」
次に青年が姿を現した時、その右拳が深々とコウキの腹部に突き刺さっていた。拳はコウキのバリアジャケットと肉を貫通し、彼の腹部からはボタボタと血がしたたり落ちている。
「な…あ…?何だ…今のは?」
突如姿を消し、そして現れた青年にコウキは傷の痛みに耐えながら青年を睨む。一方の青年は無言のままコウキの腹部から右拳を引き抜いた。
「…」
一瞬、血に塗れた右拳を見た後に青年は軽く振って血振るいをする。そんな青年の姿を見て、シャムは冷や汗を流した。
「(うわ~、全然見えないや。流石はだね)」
シャムは自身が青年と戦う姿を想像して身震いする。彼にはどうやっても青年に勝てるビジョンが思い浮かばなかった。
「な…にを…したんだ?」
先程の余裕の表情が嘘のように狼狽えるコウキ。彼には先程の青年の動きがまるで見えていなかった。
<魔力反応なし?マスター、転移の類ではありません。また、魔法の使用も見受けられません>
「そんな…馬鹿な!?なら、あんな動きが出来るわけが…」
レクサスの報告にコウキは信じられないものを見るような視線を青年に向ける。一方、それを聞いて驚愕しているのは彼ばかりではない。
「クイント…見えた?」
「…見えなかった…いったい、彼は何を?」
「知りたい?」
疑問符を浮かべるクイント、メガーヌの顔をシャムが覗き込む。
「っ!?(嘘…いつの間に?)」
「(全然見えなかった…)」
突然目の前に現れたシャムの姿にクイントとメガーヌは再び驚愕する。しかしシャムはそんなのはどこ吹く風と二人を担いだ。
「ちょ、ちょっと!?」
「此処じゃ巻き込まれるかもしれないからね。君達の隊長さんの所に運ぶよ?」
二人を担いだ次の瞬間、シャムは瞬時にゼスト達の元まで移動した。彼女達を確保していたコウキは意識が青年に向いていてまるで反応できない。
「はい、到着っと」
「クイント、メガーヌ!」
「「ゼスト隊長!!」」
ゼストの前まで来て、シャムはクイントとメガーヌの二人を優しく地面に下ろす。
「っ…お前達は、いったい?」
眼前に来たシャムに対し、トーレは先程からずっと持っていた疑問を口に出す。その問いに、他のナンバーズやゼスト達もシャムに視線を向けた。
「僕達は冥界の神、冥王ハーデスに使わされた百八の
「ハー…デス?」
「スペ…クター?」
当然、今まで聞いたことのない単語にゼスト達の理解は追いつかない。
「そう、僕の名はシャム。百八の魔星の一つ、
「がふっ!」
シャムの言葉を遮るように、コウキが空気を吐き出す音が響く。一同がその方向に目を向けるとコウキが青年に蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられていた。
「ま、また…消え…」
「…」
忌々しげに青年を睨みつけるコウキ、一方の青年は先程から無言のままだ。
「ねぇ…」
「ん?」
そんな二人を見ながら、クイントはシャムに問いかける。
「どうなってるの?彼が消えた…アレは一体?」
それはこの場に居る青年とシャム以外の人間の心を代弁しているものだった。魔力反応がないのに何故消えるのか?それが魔法技術が当たり前になった世界の生まれであるこの場の人間には理解できなかった。
「別に消えてるわけじゃないよ。ただ、目にも止まらぬ速さで動いてるだけ」
「え?」
シャムの言葉に唖然としたのはメガーヌだ。どう見ても消えているのに、アレがただ高速で動いているだけだけだという。その言葉に一同は耳を疑う。
「僕達冥闘士は体内にある小宇宙(コスモ)を燃やして戦うんだ。まぁ、小宇宙を使うのは冥闘士に限ったことじゃないけどね」
「小宇宙?」
「全ての人間の体内にある宇宙的エネルギーだよ。僕達はそれを燃焼させることで爆発的な破壊力と力を発揮できるんだ」
トーレの問いかけに、シャムは噛み砕いて小宇宙の説明をする。そこにゼストが新たな疑問を浮かべた。
「その…小宇宙というのは…誰もが使えるものなのか?」
「うん。まぁ才能による個人差はあるけど、少なくとも君達の使う魔法程才能任せじゃないよ」
「っ!?」
シャムの口から告げられた言葉に、ゼストは言葉を失う。彼らが使う魔法技術…それは非常に才能に頼ったものだった。魔力を生み出す「リンカーコア」と呼ばれる器官が生まれつき存在しなければ使用できない。
そしてもしリンカーコアを所持していても、保有する魔力の量が才能によって決まっているのである。それ故、膨大な魔力量を持つオーバーSランク魔導師は管理局内でも稀少な存在なのだ。その完全に才能に頼った能力を重視する故に管理局は慢性的な人手不足に陥っていた。
だからこそ、ゼストは言葉を失ったのだ。誰もが使える可能性を秘めた「小宇宙」…それはこれまでの管理局の常識を…そして管理局に蔓延する魔法至上主義を覆すものだった。
「そして、僕達みたいに小宇宙を使う人間の力は素手で空を裂き、蹴りは大地を割る。その速さは最低でも音速に達するんだよ」
驚きの表情を浮かべるゼスト達を見るのが面白いのか、シャムは上機嫌でぺらぺらと自分達のことを喋る。そんなシャムに対し、ゼスト達は驚きの連続だった。
「お、音速…だと?」
次に声を絞り出したのはトーレだった。シャムの言う、音速の速さはトーレ達戦闘機人も、魔導師達も到達していない領域だった。それが「小宇宙」を身につけたものは到達できると言う。しかも、「最低でも」と言うことはその上にも到達できると言うことだ。
「ちなみに僕は音速で動けるけど…彼は違うよ」
シャムはチラリと、コウキと対峙する青年に視線を向ける。
「…どういうこと?」
クイントの疑問に気を良くしたのか、シャムはニヤリと笑う。
「彼の実力は冥闘士の中でも上位クラス…その速さは…光速さ」
もはや、ゼスト達は唖然とする他はなかった。
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「がはっ!」
青年に殴り飛ばされ、コウキが地面に転がる。シャムがゼスト達に対し得意気に自分達のことを語っている頃、青年とコウキの一方的な戦いは続いていた。
「ぐ…お前ぇ!!」
コウキは屈辱に塗れた表情を青年に向ける。
「何なんだ…何なんだよ君は!僕の…僕のハーレムの邪魔するなよ!」
半狂乱になってレクサスを振るうコウキ。しかし、青年は瞬時に懐に入ってコウキを蹴り飛ばす。
「がふっ!」
「俺はそんなことに興味はねぇ」
青年は冷ややかな視線をコウキに向ける。
「俺はお前を冥界に送り返すのが仕事だ。文句なら、向こうでハーデスにでも言うんだな」
「ぐ…ちくしょおおおおおおおおおおおお!!!!」
「っ…!?」
次の瞬間、コウキは自身の周囲に無数の魔力弾を展開。それらを全て地面に叩き付けた。すると辺りに大量の砂埃が舞い上がり、青年の視界を覆う。
「…目晦ましか?」
コウキの行動に青年にとっては単なる目晦ましとしか考えられなかった。一瞬、ゼスト達のうち誰かを人質にとるかとも考えたが、シャムが居る以上心配する必要はない。
「いずれにせよ、砂埃など…俺の前では意味をなさん…!」
青年は冥衣の翼をはためかせて砂埃を吹き飛ばす。
――ドゴォ!!
「む…?」
すると、青年が砂埃を吹き飛ばすのとほぼ同時に爆音が洞窟内に鳴り響いた。砂埃が晴れるとそこにコウキの姿は無く、天井に大穴が開いていた。どうやらコウキはあの穴から逃げたらしい。
「ふん…俺から逃げられると思うな」
青年はコウキを追って穴から青空へと飛び出していった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ、はぁ…げほっ」
天井に明けた大穴から逃げ出したコウキは腹部の傷口を押さえながら必死に管理局の基地まで逃げていた。
<マスター、大丈夫ですか?>
レクサスがコウキに対して気遣いの言葉を掛けるが、コウキの耳にその言葉は入っていない。
「(糞!糞!糞!何なんだアイツは!あんなの僕は知らない!知らないぞ!)」
必死に空を飛ぶコウキ。その脳内はすでに許容できないことでパニックになっていた。
「(何で…全部上手く行ってたのに…何で…何で急にこんな!)」
地上本部のゼスト隊に所属し、部隊が壊滅する時に便乗してクイントとメガーヌを確保。さらにはナンバーズも手に入れてその肉体を味わい尽くす。そして来るJS事件で他の目的の少女達を手に入れると言うのがコウキの考えだった。だが、その計画はものの見事に頓挫した。突然現れた二人のイレギュラーの手によって。
「っ…!?」
空を飛んでいたコウキが停止する。否、停止せざるを得なかった。何故なら、彼の眼前には漆黒の翼をはためかせた青年が居たからだ。
「…その程度の速さで、俺から逃げられると思ったか?」
青年の右手に漆黒の炎が発言する。その黒炎と、青年の発する威圧感にコウキはレクサスに魔力を収束させる。
「く…喰らえ!グラウンドブレイカーあああああああああ!!」
発せられる極太の収束砲――魔法の中でも高等技術に相当するその威力は魔導師の中でも最高クラスのものだ。現に、如何に小宇宙を駆使できる冥闘士でもまともに当たればダメージは免れないだろう。……そう、まともに当たれば……
「はぁ、はぁ…や、やった…?」
自身の最大魔法が当たったと、コウキは安堵する。これであの訳の解らない男は居なくなった。そう考えた瞬間、コウキの希望は打ち砕かれる。
「…成程、大した威力だ。まともに喰らえばダメージは免れんな…」
「っ!?」
声のした方向に目を向けると、其処には無傷の青年が腕を組んで飛んでいた。光速にまで達した青年の速さはコウキの攻撃など止まって見えた。
「おかげで、この世界の魔導師とやらの戦闘法…能力等は量れた」
青年が初めからコウキを殺そうと思えばできた。だが、青年はシャムと違ってこの世界の知識を持っていない。だからこそ、この世界の魔導師の戦いをしっかりと見ようとしたのだ。
「な、なんだ!?何なんだよお前はぁ!!??」
そんな青年に対し、もはや半狂乱になってコウキは目を向ける。そして青年は、この時初めて自身の名を名乗った。
「…ふん…俺の名は
まるで冥土の土産でも聞かせるように、自身の名を告げる青年――焔輝。その両腕には再び黒炎が集まり始める。
「…これで終わりだ、消し炭になれ!コロナブラストォ!!」
「あ…」
焔輝が放った黒炎は真っ直ぐに、コウキが視認できぬ速さでその身を包み込み…断末魔の悲鳴すら上げる間もなく一瞬のうちにその身体を灰すら残らず焼き尽くした。
<マスター?マスタアアアアアアアア!!!!>
唯一、コロナブラストに包まれる前にコウキの手から零れ落ちたレクサスの悲鳴が響く。焔輝はレクサスを回収すると再び洞窟の中へと戻って行った。