冥凰神話   作:吟遊詩人

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一ヶ月近く間が空いてしまった…orz

言い訳させていただくなら、四月から新しい住居へ引っ越すのでその準備に追われていたと言いますか…はい、明らかに言い訳です。申し訳ない…

今回の話、突っ込みどころは多いかもですができればスルーしていただきたいです。

感想お待ちしています。


第三幕 会談

 

スカリエッティのアジトが存在する洞窟内。その中のアジトの医務室に複数人の人影が集まっていた。

 

「………」

 

「~♪」

 

 二人は無言で壁にもたれ掛る焔輝と、椅子の上で胡坐をかいて口笛を吹いているシャム。そして、その周りにはこの二人に警戒と困惑の視線を向けるゼスト達管理局側と、スカリエッティ達だ。ゼストとクイント、メガーヌはスカリエッティに治療を受け、現在はベッドに座った状態だ。

 

「さて…まずは君達のことを教えて欲しいのだが?」

 

 沈黙の空気を破ってスカリエッティが焔輝とシャムに問いかける。この二人は万が一に備え、冥衣を身に着けたままの状態だ。

 

「…ふん」

 

 スカリエッティから投げかけられた質問に対し、焔輝は自ら話そうとはしない。

 

「(はぁ…しょうがないなぁ)」

 

 そんな焔輝に対し、シャムはホンの数十分前のやり取りを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

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「焔輝、おかえり♪」

 

 天井に空いた大穴から焔輝が翼をはためかせて帰還する。そんな彼を笑顔のシャムが出迎えた。

 

<いい加減に放しなさい!よくもマスターを!!>

 

 すると、戻ってきた焔輝の手の中からけたたましい声が聞こえ始めた。

 

「今の声は…レクサスか?」

 

 その声に最も聴き覚えがあったゼストが疑問を口にする。焔輝が溜息を吐きながら手を開くと、其処には待機状態に戻ったレクサスの姿があった。

 

「何かの役に立つかと拾ってきた。喧しいことこの上ないがな」

 

「おっと」

 

 焔輝はそれだけ言うとシャムにレクサスを投げ渡す。

 

「少し、良いかな?」

 

 そこに、若い男の声が響き渡る。声のした方を一同が振り返ると、其処には紫色の長髪に整った顔立ちの男性が立っていた。

 

「ドクター!」

 

 現れた男性――スカリエッティにチンク達が駆け寄って行く。彼女達の言葉を聞いてゼスト達は傷付いた身体で身構えようとする。

 

「ぐ…」

 

「ゼスト隊長!?」

 

 しかし、傷付いた身体では満足に動けずにゼストは苦悶の表情を浮かべ、そんな彼をクイントとメガーヌが心配する。

 

「騎士ゼスト、君が私を警戒する気持ちは解る。だが、まずは君と彼女達の治療が先決だ。君の友人の真意も、君は知りたいのではないかね?」

 

「っ!?」

 

 スカリエッティの言葉にゼストは絶句する。今回の自分達の任務の中で、スカリエッティ側の迎撃が完璧であったことからゼストはある人物――即ち、ゼストと昔からの友人への疑問が渦巻いていた。何より、部下であるクイントとメガーヌを治療したいと言う想いも確かに存在した。

 

「…解った。だが、妙なことをすれば…!」

 

「無論、君達の身の安全は保障しよう。私が治療以外の何かをしようとしたら、その時は遠慮なく私を斬ると良い」

 

 ゼストを一瞥すると、スカリエッティはその視線を焔輝とシャムの二人に向ける。

 

「さて…君達には聞きたいことがあるのだが、もし良かったら話を聞いて貰えないだろうか?」

 

 二人を警戒しているトーレやチンクを尻目に、スカリエッティは焔輝とシャムに歩み寄る。そんな彼に対する焔輝の態度は冷たいものだった。

 

「ふん…俺は貴様等に用はない」

 

 ただそれだけを告げてスカリエッティ達に背を向ける焔輝はこの場を去ろうとする。

 

「ちょっとちょっとストップ!」

 

 しかし、立ち去ろうとする焔輝を引き留めたのは彼の仲間であるシャムだった。シャムは焔輝の手を掴んで引き留める。

 

「少し相談するから待ってて!」

 

 シャムは焔輝の手を引くとスカリエッティ達の視線が届く範囲で、尚且つ二人の声が聞こえない距離を保って内緒話をすることにした。

 

「なんだ、奴らに用などないぞ?」

 

「けど、此処で上手く立ち回れば僕らが活動する拠点を手に入れられるかもしれないだろ?」

 

「む…」

 

 初め、さっさと此の場を去ろうとしていた焔輝がシャムの言葉で押し黙る。現在、二人は無一文だ。所持しているのは身に纏っている冥衣のみ…これでは役目を果たす以前に生活ができない。如何に冥闘士とはいえ生身の人間、食事を摂らなければ腹も減る。そのため、活動拠点の確保は急務だった。

 

「それに、多分彼等を狙ってまた別の転生者が来る可能性も有るよ。なら、彼等の所に置いて貰えば必然的に転生者を見つけやすくなると思うけど?」

 

 シャムの言う通り、此の場に居るスカリエッティと戦闘機人である女性達ナンバーズは「リリカルなのは」と言う物語を知る転生者達からすれば有名な存在だ。先程のコウキのような考えで近付いてくる転生者がいる可能性は高い。シャムは焔輝に対し、そんな転生者達を待ち伏せしようと持ちかけた。悪い言い方をすれば囮である。

 

「…仕方ない、奴らとの交渉は任せるぞ」

 

「解ってるよ、君がそう言うこと苦手そうなのは見てれば解るし」

 

 シャムの提案を了承した焔輝を尻目に、シャムは溜息を吐く。付き合いはまだ短いが、シャムは焔輝がどういう人間かを理解した。無愛想でぶっきらぼう、不器用な人間。それがシャムが見た焔輝と言う人間だった。

 

「(正直、ハーデスが僕を焔輝に付けたのは正解だね。生きるだけなら問題ないだろうけど、他の人間とのコミュ力が低いや)」

 

 自身を焔輝と組ませたハーデスに感心する。だが、其れと同時に自身の手の中から喧しい声が聞こえ始めた。

 

<いい加減に離しなさい!マスターを殺して…ただで済むと思ってるんですか!?>

 

「あ~、五月蠅いな…」

 

 手の中で点滅するレクサスに対し、シャムは先程とは段違いの冷たい視線を向ける。

 

<っ!?>

 

「あのさぁ、確かに僕は焔輝程強くないけど…君を粉々にするぐらいの力はあるんだよ?」

 

 その言葉と共に、レクサスがメキメキと音を立てて軋み始める。

 

<ひぃ…!?>

 

「壊されたくなかったら、少し大人しくしてようか?」

 

 レクサスが静かになったのを確認すると、シャムは焔輝と共にスカリエッティの元に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

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 そうしたやり取りがあってから数十分後、ゼスト達三人はスカリエッティから治療を受けてようやく話をする状態になったのだった。

 

「さて、まずは何を話せば良いかな?」

 

 暫しの無言状態の後、スカリエッティが口を開いた。それは焔輝やシャムよりも、どちらかと言うとゼスト達に向けられたものだった。

 

「…何故俺達を助けた?お前達の戦力を全て投入すれば労せずして俺達を皆殺しにできたはずだ」

 

 ゼストの言う通り、AMFが張り巡らされた施設内ではゼスト隊の面々は悉く無効化されていた。その中でも比較的動けたゼストもチンクだけでなく、トーレも投入されていたらもっと簡単に殺されただろう。にも拘らず、スカリエッティ達が自分達を保護しようとした。ゼスト達にはスカリエッティの真意が理解できなかった。

 

 彼の言葉を受けて、スカリエッティは「もっともだ」と口にしながら笑みを浮かべ、続いて言葉を紡ぎ出した。

 

「生憎と私は無駄に殺生を行うつもりはないよ。これでも医療に携わろうとしている人間なのでね」

 

「…医療?何を言っているの!?貴方が研究しているものは医療とはかけ離れたモノでしょう!クローンを作り出すプロジェクトFに戦闘機人技術…今までどれだけの人が犠牲になったか!」

 

 スカリエッティの言葉を聞いて声を荒げたのはクイントだった。彼女は戦闘機人として生み出された二人の少女を養子にして育てているため、こういった話題に敏感だった。

 

「確かに私はプロジェクトFの技術を生み出し、戦闘機人技術の研究もしていた。しかし、私が研究するものは数年前から別のモノに代わっているのだよ」

 

「…別のモノとは?」

 

 クイントを静止し、ゼストは疑問符を浮かべて訊ねる。

 

「プロジェクトFを応用した医療技術の確立さ」

 

「「「!?」」」

 

 スカリエッティが口にした言葉に、ゼスト達三人は驚きを露わにする。広域次元犯罪者として指名手配されているスカリエッティが医療技術の研究をしているのが信じられないのだろう。それも、クローンを生み出すと言う倫理上の問題から禁止された「プロジェクトF」の技術を使用して、である。

 

「プロジェクトFを応用した…医療技術、だと?」

 

 プロジェクトF――人間の遺伝子を基に、その人間とまったく同じクローンを作るための技術。だが結局完全に同じ人間を生み出すと言う成功例は存在しておらず、些細な点では利き手の違いから、大きな点ではリンカーコアの有無まで様々な違いがある。結局、倫理的な点から管理局によって禁止された技術である。トーレ達戦闘機人にもこの技術が使われている。

 

「…君達の疑問も理解できる。確かに私は数年前まで犠牲を厭わずに戦闘機人技術の研究を行っていた。その私が何故プロジェクトFを医療技術に転用しようと考えたのか…それは今から三年程前の話だ」

 

 驚くゼスト達に対し、スカリエッティは三年前の出来事を懐かしそうに語り始める。

 

「三年前、私達は此処とは別の場所にアジトを構えていてね。私はスポンサーの要望に従って戦闘機人の研究を行っていた」

 

「…スポンサー?まさか、貴方の後ろに誰かいるの?」

 

 予想外のスカリエッティの言葉に今度はメガーヌが疑問の声を上げる。

 

「勿論さ、そもそも…私はそのスポンサーの手でプロジェクトFを用いて生み出された人造生命なのだからね」

 

「な、なんだと!?」

 

 次に驚きの声を上げたのはゼストだ。プロジェクトFや戦闘機人技術の黒幕だと思っていたジェイル・スカリエッティ――彼自身も別の人間によって造られた存在だと知らされたのだから。クイントとメガーヌの二人も驚きのあまり、言葉を失っている。

 

「一体誰だ!お前を生み出した、スポンサーと言うのは!?」

 

 声を荒げ、ゼストはスカリエッティに問い詰める。その彼に対し、スカリエッティは眼を閉じて静かに口を開いた。

 

「…時空管理局最高評議会…時空管理局の設立に貢献した三人の、脳だけになっても生き残ろうとする老害達さ」

 

「な…あ…」

 

「そんな…」

 

「管理局が…」

 

 広域次元犯罪者であるスカリエッティを生み出し、犯罪行為を行うように仕向けたのが自分達の所属している時空管理局――その事実に三人は絶句した。

 

「ちなみに、君達が此処を襲撃することを私達に知らせたのも最高評議会だ。どうやら老人達は君達を実験台にトーレ達の力を見たかったようだね」

 

 驚愕するゼスト達を余所に、スカリエッティは今回のゼスト隊のことについても語る。あらかじめ解っていたからこそ、完全な体勢で迎え撃つことができたのだ。

 

「…この件…レジアスは…」

 

「初めに言うと、レジアス中将も私の協力者の一人だ。だが、今回の件に関しては彼の与り知らぬことだよ。彼も君達の身を案じて、随分と捜査を断念させようとしたようだがね」

 

 絞り出すようなゼストの問いに、スカリエッティは優しい声音で答える。レジアス・ゲイズ――この場に居るゼストの親友であり、時空管理局地上本部の中将に魔力を持たぬ身で上り詰めた傑物である。

 

 レジアスはスカリエッティの背後に居る存在を知っており、それ故にゼストの身を案じて再三に渡って彼等の捜査を断念させようとしていたのだ。

 

「…そうか…」

 

 そんなレジアスの想いは理解している。そして、何故レジアスがスカリエッティに協力しているのかも理解している。一言に時空管理局と言っても一枚岩ではない。時空管理局の発祥の地であるミッドチルダを管轄とする地上本部と、数多の広大な次元世界を管轄とする本局、この二つは長年に渡って派閥争いを続けていた。

 

 だが、本局はその管轄の広さを理由に地上本部から予算や戦力である高ランク魔導師の引き抜きを行っていた。実際、此処に居るゼスト達三人も本局からの引き抜きの誘いが幾度となく行われている。結果、戦力低下によって地上本部の戦力は低下し、非常事態への対応は遅れて地上の治安は悪化。地上本部の評価が低下して本局の評価が上がり、さらに予算と人員を持って行かれると言う悪循環に陥っている。

 

 レジアスはこの悪循環を打ち壊し、地上の治安を向上させるために戦力に戦闘機人を用いるため、スカリエッティに協力していたのだ。

 

「…レジアスの気持ちは解る…だが…!?」

 

 ゼスト自身、地上の戦力低下と治安の悪化は身に染みている。そして、レジアスがどれだけ地上の平和を思っているかも。

 

「(だからと言って…犯罪の片棒を担いでどうする…!?レジアスよ!)」

 

 だが、だからと言って犯罪者であるスカリエッティに協力しているのをゼストは許せなかった。

 

「ふん…目的のために手段を選ばなかったレジアスと言う男のことが許せないか?」

 

 そんなゼストに声をかけたのは、これまでシャムと共に無言を保っていた焔輝が口を開いた。突然口を開いた焔輝にシャムですらも目を見開いて驚いていた。

 

「時空管理局は法の守護者だ!それが犯罪に手を染めるなど…!?」

 

 焔輝の言葉に声を荒げるゼスト。だが、そんな彼に対して焔輝はその拳から黒炎を燃え上がらせ、瞳を怒りの色に染めていた。その焔輝の姿に周りの人間達は身構える。

 

「ちょ、焔輝!?」

 

 シャムも大慌てで焔輝を宥めようとする。此処で焔輝が暴れればシャムでは止められない。まず間違いなく皆殺しにされる。それだけは止めたかった。

 

「惰弱だ…!」

 

 その鋭い怒りを灯した瞳をゼストに向ける。

 

「正義感が強いのは結構だ…だが、力がなければ何も護れない。どれだけ正しい言葉を吐こうが、力がなければ…奪われるだけだ…!」

 

 そこまで語った焔輝の脳裏に、過去の…もっとも思い出したくない光景がフラッシュバックする。流れ出る紅い血、もがくだけで何もできない自分…そして…

 

「…奪われてから己の無力を呪っても…もう遅い…!」

 

 そこまで思い出して、焔輝は歯を食いしばって黒炎を消す。すると背を向けて部屋を出て行く。

 

「ちょ、焔輝!?」

 

 そんな彼をシャムは引き留めようとするが焔輝は止まる様子はない。

 

「…外の空気を吸ってくるだけだ…」

 

 そのまま、焔輝は施設の外へと歩を進めて行った。彼の背中を見送ると、シャムは溜息を吐いて椅子に座りなおす。

 

「あ~、何かごめんね?焔輝が色々言っちゃって」

 

「…いや、俺は気にしていない。確かにそうだ…正しいだけでは救えないものがある、それは解っている…だが、それでも俺は犠牲を容認できん」

 

 地上本部の戦力不足で救えなかった命…それを前線に居たゼストは痛いほど痛感していた。それを理解しても戦闘機人のような、罪のない人間の犠牲の上にある力を容認できなかった。

 

「…良いんじゃない?ゼストさんもレジアスさんも、多分どっちも間違ってないよ」

 

 犠牲を容認できないゼスト、犠牲を容認してでも多くの人々を救おうとするレジアス。シャムにはそのどちらもが正しいように思えていた。

 

「…さて、話を戻しても良いかね?」

 

「あ、ゴメン」

 

「む…すまん」

 

 スカリエッティの一言にシャムとゼストが謝罪の言葉を口にする。そんな彼らにスカリエッティは「気にしていない」と口にしてから三年前の出来事を喋り出す。

 

「先程も言ったように、戦闘機人技術を研究していた私の下に一人の少年が訪れた…いや、訪れたと言うのは少し違うな。偶然にも私達が当時活動拠点にしていた世界に彼が現れ、私は彼を実験材料にしようとしたのだ」

 

「…実験材料…」

 

 スカリエッティが口にした単語にクイントが顔を顰める。彼女がそう反応するのを理解していたスカリエッティは気にせずに話を続ける。

 

「彼は類稀なる魔力を持っていてね、実験材料としては格好の逸材だった。詳しい魔導師ランクは解らないが、魔力だけなら先程のコウキ・キリシマと同等だった」

 

「コウキと…だと!?」

 

 スカリエッティが告げた件の少年の魔力量を聞き、ゼストは驚きを口にする。本来、管理局内でも非常に少ないオーバーSランク魔導師。それと同等の魔力量を持つ少年など管理局からすれば咽喉から手が出るほど欲しい逸材だ。

 

「彼の名は虚宿(とみて)。私は彼を拉致しようとナンバーズを差し向けたのだがね…予想外にも虚宿は接触すると自分から私達の下に出向いて来てね。あろうことか私と話をしたいと言い出したのだよ」

 

 

「それって…かなり危険なんじゃ…」

 

 当時戦闘機人を研究する違法科学者であり、虚宿を実験材料にしようとしていた人物の下に自ら向かう…それは明らかに危険な行為だった。

 

「まぁ、普通に考えればそうだろうね。だが、私自身もそんな行動に出た彼に興味が出てね。虚宿の要望を聞いて一対一で話をすることにしたのだよ」

 

「それが、貴方が医療技術の研究をするようになった切っ掛け?」

 

 メガーヌの問いにスカリエッティは首を縦に振って肯定の意を示す。

 

「彼――虚宿は旅の医者でね。当時まだ十四歳で医師免許も持たずに旅をしながら無償で次元世界を渡って人々を治療しているらしい。管理局でも無免許医として追っているはずだよ?」

 

「…あ!思い出した!確か本局の方から広域次元犯罪者ってことで手配されてたわ!」

 

 クイントが何かを思い出したように手を叩く。やはり無免許の医者と言うのは何処の世界でも違法なのだろう。様々な次元世界を管轄にする本局から犯罪者として手配されているようだ。

 

「(それって、ブ○ック・○ャック?…いや、無償って話だからどっちかって言うと○キに近いかな?)」

 

 そんなスカリエッティの話を聞いてシャムは転生前に見ていた物語の登場人物を思い浮かべていた。

 

「そうして虚宿と話すわけになった訳だが…彼は私の研究――プロジェクトFや戦闘機人技術を知るや、真っ向から医療技術への転用を提案してきてね」

 

 スカリエッティの脳裏に、三年前――虚宿が自身に言った言葉が蘇る。

 

 

――――勿体ねぇな、プロジェクトFに戦闘機人技術…だっけか?それを応用すりゃ、もっと医学を発展できんだろうに

 

 

「私が生み出した…多くの人間が蔑みその技術の別の方向性を示した彼の瞳を私は今でも覚えているよ。建前でもお世辞でもない、まるで子供のような純粋な眼だった」

 

 スカリエッティは実に懐かしそうに過去の出来事を回想する。

 

「思えば、あんなことを言われたのは初めてだった。あってはならない技術だと蔑まれる中で、彼だけがその技術を否定しなかった。もっとも、その犠牲となる人間まで容認はしなかったがね」

 

 それは医者としては当然の反応だった。医者として人を治療する側にとっては、命を犠牲にするのは容認できなかったのだろう。それでも、技術そのものを否定しなかった人間に会ったのはスカリエッティにとって初めてのことだった。

 

「それ以来、私は彼が見ている景色に興味ができて来てね。医者として人を治すことでどんな未来が見えるのか…それが今の私にとって最も興味があることだよ。とはいえ、今はまだ最高評議会の監視下にある状況だからね。戦闘機人の研究も全て止めるわけにはいかないのが現状だ」

 

 実際、このスカリエッティの研究所にはまだ目覚めてこそいないがすでに生まれているナンバーズ――トーレ達の姉妹が五人存在している。

 

「だから私はその五人が目覚めるまでは敢えて最高評議会の下で研究をし、いずれは彼等の下から離れるつもりさ」

 

 その後、「もっとも、最高評議会から流れてくる資金は大半が医療技術の方に流れるがね!」と大笑いで付け加えるスカリエッティ。一方、その話を聞いている中でゼスト達の中にあった彼への疑念は少しずつ薄れていた。

 

「で、その虚宿って子は?」

 

「さぁ?私と話をした後、数日したら再び旅に戻って行ったがね。私も拠点を此処に移したし、恐らく彼もまだ次元世界を医者として旅しているだろうね」

 

 シャムの質問に笑顔で答えるスカリエッティ。そんな彼を見ながらシャムは顎に手を当てて考える。

 

「(ん~…その虚宿って、転生者かな?確定って訳じゃないけど…気には留めといた方が良いか…まぁ、コウキってのと違って無害そうだから狩る必要はないかな?)」

 

 シャムが件の旅の無免許医、虚宿について考えていると突然スカリエッティ達全員の視線が彼の方を向く。勿論、ゼスト達三人も一緒だ。

 

「…あれ?どうしたの?」

 

「いや、私の方は粗方話し終わったので今度は君の話を聞きたいのだが?我々には色々と解らないことがあまりにも多いのでね」

 

 スカリエッティの言葉を聞き、「成程…」とシャムは納得する。現在、此の場に冥闘士のことを知っているのは焔輝とシャムの二人。そして焔輝が退室してしまったので注目がシャムに集まるのは自明の理だった。

 

「そうだね…さっき小宇宙については説明したよね?」

 

「ふむ、まぁ概要についてはね」

 

 小宇宙――全ての人間の体内に存在する宇宙的エネルギー。それを燃焼し、爆発させることによって超人的な戦闘が可能となる。その力は魔導師でも突破できない音速の壁を突破し、上位の者になれば光速の動きが可能となる力。

 

「さっき、小宇宙は誰もが身に付ける可能性があるって言ったけど…習得するにはいくつかの方法があるんだ」

 

「それは、訓練の方法が違うと言うことか?」

 

 シャムの言葉にゼストが疑問を挟む。確かに訓練の方法が指導する側によって違う場合は多いが、シャムが言っていることはそうではない。

 

「ううん、違いって言うのは小宇宙を使う戦士によっての違いさ。訓練で小宇宙に目覚めるのは聖闘士(セイント)の特徴さ。もっとも、だからって冥闘士になる前から小宇宙に目覚めた人間がいない訳じゃないけどね」

 

「聖闘士?」

 

「あ、そっか…そっからだったね」

 

 シャムは冥闘士の特徴や、それ以外の戦士について説明し忘れていたのでその事から説明を開始する。

 

「そもそも、僕達冥闘士は実在する神…死後の世界、冥界の神であるハーデスに仕える戦士なのさ。他にも戦の女神アテナに仕える聖闘士、海の神ポセイドンに仕える海闘士(マリーナ)なんかが小宇宙を使う戦士だね」

 

「…神に仕える戦士…」

 

「まさか、神が実在するとはね…」

 

 これまで、神が実在するなどとは考えていなかっただろう。シャム以外の全員は非常に驚いていた。

 

「…で、聖闘士は長年の訓練で小宇宙に目覚めるんだけど…僕達冥闘士は魔星の宿命に目覚めることで小宇宙に目覚めるんだ。勿論、小宇宙に目覚めた後の訓練次第で強くなることはできるんだけどね」

 

 魔星に覚醒した後により強くなった例を挙げるならば天孤星(てんこせい)ベヒーモスのバイオレートだろう。彼女は魔星に目覚めてから自身を鍛え続け、最終的には冥闘士の最上位である冥界三巨頭(めいかいさんきょとう)の一人の片腕と呼ばれるまでになった。

 

「それで、その冥闘士さんがどうしてこのようなところにいらっしゃったんですの?」

 

 説明をするシャムに対し、ナンバーズの一人である眼鏡の少女クアットロが質問を投げかける。

 

「まぁ、端的に言えばハーデスからの任務みたいなもんだね。数名の邪神が不特定多数の死者をこの世界に転生させたから狩れ…ってね」

 

 軽い感じに自身の任務を語るシャム。もっとも、自分達もハーデスに転生させてもらった身であることや一部が持つ原作知識に関しては伏せたままにしてある。

 

「狩れ…って、まさか…」

 

「うん、文字通り…殺せってことさ」

 

 クイントの言葉に即答で答えるシャム。その返答を聞き、その場の全員が身構えた。

 

「ちなみに、さっき君達を襲ったコウキって奴もその転生者の一人だよ」

 

「…そういう…ことか…」

 

 先程、焔輝が何の躊躇いもなくコウキを殺した理由が納得できた。それは焔輝達にとってコウキが狩るべき対象だったからだ。

 

「あぁ、勘違いしないように言っとくけど…僕達は何も手当たり次第に転生者を狩ろうとは思ってないよ?僕達が狩るのはあくまでも転生者の中でも性質が悪い連中さ。ただ平穏に暮らそうとしてたり、誰かを護るために戦ってる人まで狩るつもりはないよ」

 

 シャムがその場の全員を安心させようと自分達が狩る対象のことを明確に伝える。彼自身、スカリエッティ達と友好的な関係を築きたいのでこの辺りは包み隠さずに伝える。

 

「でさ、ドクタースカリエッティ?僕からの提案なんだけど、お互いに協力関係を結ばない?」

 

「ほう…?」

 

 シャムの提案に対し、スカリエッティは顎に手を当てて思考する。

 

「何故?君達ほどの力があれば私達の協力なんていらないだろう?」

 

「そうでもないさ。確かに戦う力は僕達の方が上かもしれないけど、僕達はこの世界に来たばかりで活動の拠点がないし情報源もない。その点、管理局との繋がりがある貴方と組めば情報を集めやすいしね。

 僕達が狩る対象の性質の悪い転生者は権力のあるところに集まってくる可能性が一番高いからね。何をするにも、権力は重要なのさ」

 

 シャムはもっともらしい理由を口にする。実際はシャムが知る物語の主要人物が多くいるから…なのだが、そんなことを彼等に言えるわけもないのだ。

 

「ふむ…で、私達のメリットは?」

 

「ん~、言わなくても解るんじゃない?余程非人道的なことをしない限りは力を貸すし、彼女達の訓練にも手を貸すよ?…何なら、小宇宙に目覚める手伝いをしても良いし」

 

「…良いのかい?小宇宙に目覚めれば君達に戦いを挑むかもしれないよ?」

 

「ただ小宇宙に目覚めただけの生身の人間じゃ、僕等には勝てないよ」

 

 スカリエッティの疑問をシャムが封殺する。仮に小宇宙を身に付けることができたとしても、冥衣(サープリス)を纏った人間に勝つのは余程の実力差が無ければ不可能だ。その事をシャムは言葉にして彼等に伝える。

 

「そんなに、その冥衣と言うのは特別なものなのかい?」

 

 そのスカリエッティの問いかけに、シャムは笑みを浮かべて頷く。

 

「そうさ、冥衣の他にも聖闘士は聖衣(クロス)を、海闘士は鱗衣(スケイル)を身に纏って戦う。これらの共通の特徴は肉体の保護の他に、装着した人間の小宇宙を高める効果があるのさ。しかもそれらは意志を持ち、選ばれた人間以外には単なる重いプロテクターにしかならないのさ」

 

 つまり、例え冥衣を奪っても宝の持ち腐れ。身に纏っても逆に戦闘力を下げる結果にしかならないのだ。

 

「…成程、理解したよ」

 

「じゃあどうする?僕等は別に断られたからって君達に危害を加えるつもりはないけど…?」

 

「いや、是非とも協力関係を築かせてもらおう。小宇宙の習得は管理局から離れる時も役立つかもしれないし、またコウキのような人間が襲ってこないとも限らないしね」

 

「うん、じゃあこれからよろしくね?」

 

 スカリエッティの答えを聞いて満足したのか、シャムは右手を差し出す。そしてスカリエッティもシャムの手を握り返して握手をする。

 

「さて、騎士ゼスト。君達はどうする?管理局に戻るか、此処に留まるか…それとも何処かの世界に潜伏するかね?」

 

 シャムとの協力関係を築いたスカリエッティは続いてベッドに座るゼスト達に目を向けた。

 

「無論、今すぐに答えを出せとは言わないよ。君達の傷が癒えるまでは責任を持って世話をしよう」

 

「…そんなに長く時間を貰う必要はない」

 

 だが、スカリエッティの提案をゼストは一蹴した。彼の中ではすでに答えが出ていたのだろう。

 

「俺も此処に留まらせてもらおう。管理局に戻ったとしても最高評議会が何か仕掛けてこないとは限らん。かと言って、何処かの世界に潜伏するのも性に合わんしな。

ならば、此処に留まり、お前が誤った道に戻らんかどうかを監視させてもらう。それに…お前と居た方がレジアスに真意を問いただしやすい」

 

 ゼストの出した答え…それはこのままスカリエッティの下に留まる道であった。

 

「ふむ…君達はどうするね?」

 

 スカリエッティはその視線をクイントとメガーヌに向ける。

 

「私も此処に残るわ。隊長一人を残すのも心配だし…あの人達には悪いけど、二度と会えなくなるわけじゃないわ」

 

 そう答えたのはクイントだった。彼女には愛する旦那と、養子として引き取った戦闘機人の姉妹がいる。だが、此処で管理局に戻るのは家族にも危険が及ぶ可能性があるし、何処かの世界に潜伏しても結局離れ離れになるのでスカリエッティの下に居ることを選んだ。

 

「私も此処に残ります。元々、私には娘一人しか家族はいないし…ただ、出来れば娘を…」

 

「ふむ…確かに幼い娘を残しておくのは良くないね。すぐに此方に連れてくるようにしよう」

 

 メガーヌの懸念を察したスカリエッティはすぐにメガーヌの娘をこの研究所に連れてくることを了承した。

 

「しかしドクター…私にはどうもあの焔輝と言う男が心配なのですが…」

 

 そんな彼に対し、トーレは先程退室した焔輝を警戒しているようだった。いや、彼女だけでなく他のナンバーズの少女達も焔輝を警戒しているようだ。

 

「んー…大丈夫だと思うよ?」

 

 しかし、そんな懸念をシャムは否定する。

 

「まだ彼との付き合いは短いけどさ…焔輝はぶっきらぼうだけど、誰彼構わず攻撃するような人間じゃないよ」

 

 そんなシャムの顔には自信満々の笑顔に満ちていた。

 




名前
 虚宿(とみて)
年齢
 十四(三年前の時点で)
容姿
 スカリエッティの回想のみなので不明
魔導師ランク
 魔力ランクはSS+、詳しい魔導師ランクは不明
詳細
 スカリエッティの回想に出てきた流れ者の無免許医の少年。シャムの予測通り邪神に転生させられた転生者。三年前にスカリエッティの生き方に影響を与えた人物。
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