最近、リリなのVIVIDを見てノーヴェの出番の多さにニヤニヤしています。
今回は前後編に分かれています。
では、感想お待ちしています。
「………」
「…ふん…」
ミッドチルダの首都・クラナガン――其処には二人の人影があった。一人は黒の袖なしシャツにジーンズを履いた男、焔輝。そしてもう一人は少々サイズの合っていないトレーナーと短パンを履いた少女、ノーヴェである。
「(何故俺がこんなことを…)」
つい先日、最悪の出会いを果たした二人が何故こんなところにいるか…それは数時間前に遡る。
「買い出しだと?」
テロリストのアジトを壊滅させて研究所に戻った焔輝を待っていたのはスカリエッティからの頼みごとだった。本人曰く「ノーヴェが目覚めたばかりで服や下着が無いので一緒に買いに行って欲しい」と。
「何故俺がしなければならん。他にもいるだろう」
当然、焔輝はこの頼みを聞くつもりはなかった。シャムと違い、スカリエッティ達と友好的な関係を築くつもりのない彼は何故態々自分が…と不満を口にする。
「いやぁ、生憎と他のナンバーズには色々とやって貰うことがあるからね。それに、街中で彼女を狙う輩がいるとも限らない。だから冥闘士の君に一緒に行って欲しいんだよ」
「ならシャムが居るだろう?」
焔輝の疑問ももっともである。シャムは焔輝にこそ及ばないが、魔導師相手であればオーバーSランクが相手でも決して遅れは取らない実力がある。故に、護衛としては十分だった。
「僕はこっちで小宇宙の授業しなきゃなんないからね。僕が行くなら焔輝に授業して貰うよ?」
「…ちっ…」
傍にいたシャムの発言に焔輝は小さく舌打ちした。他の者達への授業も、ノーヴェと共に買い物に行くのも焔輝は遠慮したかった。だが、どちらかを選ばなければならないなら彼は対応する人数が少ない後者を選んだ。
「じゃあ頼むよ?」
「ふん…」
スカリエッティから資金を受け取ると、焔輝は部屋を出ていく。その姿をシャムは僅かに笑みを浮かべてみていた。
「(正直、焔輝にはもう少し心を開いてほしいからね~。授業をやってくれるならそっちでも良かったけど)」
今回のことはシャムの提案であった。少しでも焔輝を馴染ませようと、ナンバーズに関わらずを得ない選択肢を用意したのである。どうか焔輝が少しでも心を開いてくれることを願ってその背中を見送った。
ちなみにこのあと、ナンバーズが冥衣を脱いで私服になった焔輝を初めて見て少し騒いだのは割愛する。
そして現在、焔輝とノーヴェはクラナガンのデパートにある洋服店に来ていた。しかし、服を買いに来たノーヴェは大量の衣服を前に右往左往していた。初めて研究所の外に出たノーヴェにとって知識として知っていても見るのは初めてだった。故に、どうすればいいのか解らないのだ。
「ふん…」
そんなノーヴェの姿を見かねた焔輝は溜息を吐いて彼女に近付いていく。
「なんだよ…」
近付いてきた焔輝をノーヴェが睨む。しかし、当の焔輝にはそんな彼女のことを気にした様子はない。
「此処は婦人服売り場だ。子供服の売り場は向こうだ」
「あ、待てよ!」
子供服売り場に歩き出す焔輝と、その後を付いて行くノーヴェ。その姿は傍目には兄妹のように映っていた。
「…貴様は動きやすいのとスカートみたいなの、どちらが好みだ?」
続いて焔輝はノーヴェに二つの選択肢を提示する。片方は動きやすいショートパンツ、一方はヒラヒラしたスカートだった。
「…動きやすい方…」
「ふむ…」
男勝りな性格に違わず、動きやすい服装を選択したノーヴェ。その選択を受けてさらに焔輝は服を選んでいく。
「サイズはこれくらいか…おい、試着してみろ。すまないが、試着室を借りるぞ」
「はい、此方になります」
ノーヴェに何着かの服を渡すと、焔輝は店員に声をかけて試着室に向かう。一方のノーヴェは焔輝のテキパキした動きに呆然と従い、試着室に入って行く。
「どうだ?サイズがキツイとかはあるか?」
「…大丈夫だよ、ちょうど良い」
焔輝の問いにノーヴェは鏡を見ながら返す。彼女が着ているのは犬のイラストがプリントされたTシャツに、黒いショートパンツ。その近くには同じような服が畳んで置かれていた。
「特別似合わないと言うこともないな…貴様は此の服が気に入らないか?」
「(ふるふる)」
男勝りではあってもやはり女の子であるノーヴェ。可愛い動物のプリント等は気に入ったらしい。焔輝の問いかけに首を振って応えた。そしてそれから、サイズが問題なくノーヴェが気に入った服を数着買って店を出た。
「お前…随分と子供の服買うの馴れてんだな。アレか?お袋が言ってた、子供にしか興味ない野郎か?」
「…あの女はどうでも良いことを子供に教えているのか…」
ノーヴェの問いに、焔輝は溜息を吐いた。彼には曲がり間違ってもロリコンの毛は無い。
「昔、俺には妹が居た。子供の頃からその世話をしていたからな、それだけだ…」
要らぬ疑いをかけられることを嫌い、焔輝は僅かに自身の過去を明かす。
「へぇ…その妹は今何してんだよ?」
「…さぁな…」
「…って、おい!教えてくれても良いだろ!」
はぐらかす焔輝に食らいつくノーヴェ。答えは先程の台詞の中にあったのだが、幼いノーヴェは気付かなかった。
そうして、しばらく歩いていると次の目的地に着いた。其処は、下着売り場だった。
「さて、次は下着だが…これぐらいは自分で選べ。困ったら店員にでも聞け」
「…解ってるよ」
いくら子供とは言え、女性物の下着を選ぶのは嫌なのか焔輝は店の前で待機する。一方のノーヴェも流石に下着を知られるのは恥ずかしいのか焔輝の言葉を了承して店の奥に入って行く。
それから数十分後、下着を購入したノーヴェは焔輝の元に戻ってきた。
「…戻って来たか、とっとと帰るぞ」
「おう…」
焔輝の言葉にノーヴェも頷き、そのまま歩き出す。
――くぅ~~
「「………」」
だが、歩き始めた二人の足を止める可愛らしい音が響いた。その音源は赤毛の少女、ノーヴェのお腹だった。
「…うぅ…」
「…ふぅ…」
顔を紅くするノーヴェと、溜息を吐く焔輝。帰る前に寄り道することが決定した。
「がつがつがつ!」
少し時が進んでデパート内のレストラン。焔輝とノーヴェは其処で昼食をとっていた。目の前に積まれた食べ物は次々とノーヴェの胃袋の中に消えて行っていた。
「…あの女と言い、貴様と言い…いったい何処にその量が入るんだ?」
目の前の光景に焔輝は驚きを通り越して呆れていた。ノーヴェはクイントの遺伝子を持っているだけあって彼女譲りの大食漢だった。明らかに不釣り合いな量の料理がその小さな身体の中に消えていく。
「うっせえな、腹減ってんだからしょうがねーだろ」
そんな焔輝の呟きにノーヴェは若干顔を紅くしながらも箸を止めることなく答える。そして、その数分後には全ての料理が彼女の胃袋に消えて行った。
「食べ終えたのなら、さっさと帰るぞ」
「解ってるよ」
席を立つ焔輝に続き、ノーヴェも席を立って荷物を持つ。そして会計を済ませようとした時だった。
――ガアン!
「動くなお前等!!」
――きゃあああああああ!!
店内に響く銃声と悲鳴、店内には武装した三人の男が入ってきていた。その手にあるのはミッドチルダで禁忌とされる質量兵器「ショットガン」…その凶器を店内の店員や客に向けて威嚇する。
「何だあいつ等!?」
「…ちっ…テロリストか…」
咄嗟に臨戦態勢に入る焔輝と警戒するノーヴェ。それに気付かず、数人の男達は店内の人間達を威嚇する。
「小娘、机の下に隠れてろ…撃たせるつもりはないが、暴発の危険はある」
焔輝はそれだけを告げると男達に向かって歩きはじめる。
「お、おい!」
ノーヴェの静止も効かずに焔輝は真っ直ぐ男達の方に歩いていく。
「なんだ貴様!止まれ、止まらんと…」
――ゴッ!
一瞬、男は焔輝の姿を見失う。そしてすぐに男は意識を手放した。
「温い…」
冥衣を纏っていないために最大の速度こそ出せないものの、焔輝の速さは男達の知覚できる速さを遥かに超えていた。一瞬で顎を強打して脳を揺らし、昏倒させる。そして男が手放したショットガンを人の居ない場所に蹴り飛ばすとすぐに次の標的に向かって動き出す。
「くっ!こい…!?」
引き金を引く前に焔輝はショットガンを叩き落とし、二人目を気絶させる。その動きを眼で追えた者は此の場にはいない。
「ひっ!」
瞬時に武装した二人の男を倒した焔輝に、残った一人は恐怖からショットガンを向けようとするがもう遅い。その行動に入っている間に焔輝はショットガンを奪い、男を壁に叩き付けた。
「お、お前…いったい…!?」
恐怖に歪む男に対し、焔輝は冷酷な表情を向けていた。
「答えろ、貴様等は何人で襲撃してきた?」
濃密な殺気を男に叩き付け、焔輝は問う。その殺気に対し、男は一瞬で理解した。もしも嘘を吐けば即座に殺される。相手は自分達の遥か格上であると。
「よ、五十三人…」
「そいつらの配置は?」
「げ、玄関前と非常口…あ、あとモニタールームに十人ずつ…後は人質を確保するために…デパート内の店に散ってる…た、頼む…命だけは…」
恐怖に支配された男は自らの知っている情報を全て焔輝に告げ、命乞いをする。そんな男に対し、焔輝はその瞳を憤怒に染めた。
「ふざけてるのか?無関係な人間の命を奪うことも躊躇わず、自分の命が危険に晒されると容易く命乞いをする」
男を押さえつける腕に力が入り、その身体から黒炎が立ち上る。
――いやぁ!お兄ちゃん!!
脳裏に映された、涙を流す少女の姿…それは焔輝が最も許せぬ過去。
「貴様等のような身勝手で惰弱な人間に…大切なものを奪われた人間の気持ちが解るか…!!」
「ひ…ひ…!!」
恐怖の余り、男は泡を吹き失禁して気絶する。
「ふん…惰弱だ…」
男の気絶を確認した焔輝は手を放し、男から離れた。
「や、殺っちまったのか?」
「いや、其処まですると目立ちすぎる」
ノーヴェの問いに答えると、焔輝は店員のもとに歩き出す。
「おい、俺が此処を出たらテーブルでバリケードを作れ。出来る限り頑丈にな」
「は、はい!」
有無を言わせぬ焔輝の言葉に店員はすぐさま答えると、焔輝は踵を返して店の外に出ようとする。
「ど、何処行くんだよ!」
追い縋るノーヴェ、しかし焔輝は彼女の方を見ずに答える。
「奴らを制圧する。貴様は此処に居ろ、足手纏いだ」
それだけ告げて焔輝は店を後にした。それを見届け、店員達は客と協力して自動ドアの鍵を掛けようと動き始めた。
「…っ!!」
「あ、君!!」
だが、ノーヴェは焔輝が去った方を見て拳を握る。そして店員の静止も効かずに駆け出した。