ゴォーーーーーーーーー!
凄まじい熱がドームを包み、人の焼ける匂いが周囲に漂う。
「何故だ……!
何故だ!ドミトリ!!
何故、君が、………み………ん……な……を…………」
開拓団リーダー、ドミトリ=カラニコフ。
炎に巻かれた彼の、なんの感慨すら浮かべられていない表情とともに、私の意識は暗闇へと呑まれた。
そしてそれが、火星開拓団 調整役としての俺が、最後に見た光景だった。
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EVOLIMIT
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ガラガラガラ……
「う……、ぅぁ…………。」
目覚めたとき、私の周囲には瓦礫しかなく
以前として、肉の焼ける匂いだけが周囲にはあった。
静かだった……。
聞こえるのは、風と砂、そしてパチパチという、火の燃える音だけだった。
………………………………
……………………
……………
………
俺は、呆然と立ち尽くすしかできなかった。
火星開拓団がこうなるだろうことは最初から、ある程度までは予想されていた。
当然だ。
開拓し尽くした地球と違い、ここには未だ見ぬフロンティアがあったのだ!
どこの国も、そのフロンティアを得るために優秀な人材を選抜し、送り出したのだ。
………………………。
ここまでとは、予想できなかった、ということもある。
開拓団の良心ともいえるドミトリが、我々の敵に回ったことがそれだろう。
あぁ、それが、……それだけが、我々にとっての敗北なのだろう……。
「…………災害の猿達(カラミティ・モンキーズ)は、終息する、か……」
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火星開拓団、第一基地
我々は、皇とタイロンの悪戯から、カラミティ・モンキーズを名乗り始めた。
他の者達には、いくらか思うところがあったのだろう。
シャノンに戒めだと諭されても、割り切れずに、苛立つものも多かった。
……私にとっては、正直、どうでもいい事柄の一つだ。
今まで地球を食い物にしてきておいて、今更、災害になるだのなんだのと、馬鹿馬鹿しいにも、程があると思ったからだ。
そこまで、星にとっての災害になるのが嫌なら、今受けている技術の恩恵を捨て去ってから、言ってもらいたいものだ。
モノを考えもせずに発言するやからは、今にも昔にも変わらずに多いことだけは、猿騒動で実感できたが。
災害の猿騒ぎも、火星開拓の恩恵を得られなかった奴や、その煽りを受けて損害を出した奴らが中心になって、始めさせたものだ。
アホらしいにも程がある。
かくいう私も、出発前には嫌がらせの類をかなり受ける羽目になった。
ネットには、散々なないことないことが書かれ、身に覚えのない寿司やらピザやらの宅配が届き、……
事務所に、ゴキブリの山が郵便として送られてきたこともあった。
郵便の類は、すべて焼却したが。
まぁ、それこそ、たった半年ほどの間に、思いつく限りの嫌がらせが行われた訳だ。
幸いにして、メンバー発表の後、私には選抜メンバーの管理や国家間の折衝などの仕事があったため、直接的に害を受けたことはない。
私は、国連メンバーのひとりであり、政治家でもある。
簡単に経歴を表すと、元々は日本の政治家であり、防衛大臣という地位についたこともある。
その後、国連という機構に入り、日本の常任理事国入りに尽力した。
火星開拓団の話が舞い込んできたのはこの頃だ。
日本も苦節何年かの日々を超え、常任理事国となり、私の仕事もひと段落した頃のことだった。
NASAが火星開拓案を打ち出したのは。
何年も前から温められた案のようで、アメリカとその関係国の動きも迅速だったのを覚えている。
ロシアや中国も釣られるように動き出し、世界は火星開拓一色になった。
かくいう我が国も、他の大国達とは違う戦場、つまり、火星での生活環境の充実のための技術を開発していた。
これらの動きの裏で、火星移民反対運動なども起こるのだが、割愛しよう。
問題は、私も(・・)、この開拓団に加わらねばならなくなったことだ。
本国、日本政府の要請を受けた時は、正直混乱した。
私は普通の政治家である。
経歴もそうなっている。
……………………はずだ。
確かに、私は普通ではない。
私は、いわゆる転生者である。
幼少時には神童などと言われ、チヤホヤされていたこともあるし、二度の前世において、一般人より多くの知識や技術があることも認めよう。
しかし!しかしだ!!
それらは、誰もが知るところではない。
誰も知らない、知るはずのないことなのである
よって、この要請はあるりえないはずなのだ、本来ならば……………。
……そう、本来ならば、だ。
火星開拓に世界は一色になったと言った。
私は、国連で働いているとも言った。
さらに一つ付け加えるのなら、
日本が送りこめる人員の問題がある、いや、あった。
開拓団メンバーに入るには、基本的に開発に必要な技術・体力・精神適正など、様々な要項がある。
日本にも、それらを兼ね備えた人員は多くいた。……民間に…………。
つまり、つまり、だ!
アメリカやロシア、EUなどと違い、政治色の強いというか、半民間人とも言えるような政府の息がかかった人員が居なかったのだ。ーー行きたがらなかったとも言うが……。
そこで選ばれたのが私である。
開拓団メンバーは、世界中から集められるため調整役が必須であるとか言って、俺を押し込んだのだ。
体力も忍耐も人並み以上にあることが、これほど恨めしいと思ったことは、後にも先にもないだろう。
断ろうと思えば断れたのかもしれない。
しかし、私も宇宙に行きたい、火星という星の開拓、というモノには、歳を考えずに興奮したものだ。
行きたい気持ちは、溢れるほどあったと言えよう。
しかし、そう、しかしだ。
なんども反語を使って悪いが、しかし、なのだ。
調整役ってなんだ?
え?もしかして、火星にまで行って、そこでも各国間の政治折衝でもやらせる気なのか?と……しかも一人で。
流石に暴れた。
それはもう、ガキがママにオモチャを強請るかの如く、卑しくダダをこねたさ。
…………見ていた奴は、呆れ果てていたがね?
幸いにも、そのおかげで、アメリカのシャノン=ワードワース、ロシアのドミトリ=カラニコフの両名が補佐についてくれることになった。
それでも3人だが、政府は、彼らの優秀さは保証するとだけ言って、不干渉を決め込みやがった。
ーーーーオボエテロ……
この恨みだけは忘れん。
前世でも今世でも"過労死"なんてゴメンだ。
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出発準備も進み、メンバー全員の顔合わせの時に初めて両名と会った。
ちなみにだが、この時点での3人の年齢が、
シャノン 37歳
ドミトリ 41歳
俺こと、斎藤=恋 29歳
である。
え?俺の年齢だけおかしいって?いや、おかしくない、別に。
防衛大臣を務めたのも結局、1年ほどだったし、3年は国連で働いた。
で、29歳。
年齢と経歴があってないとか言われても知らん。
一応だが、転生者だぞ?
勉学も遊びも散々前世でやっておるわ!
そうそう一般人と同じような経歴を歩んだりはしないな。
苦労もしてはいるが、外見もまだまだ高校生で通じるぐらいだしな!
これはささやかな自慢だ。
3人の初対面
俺とドミトリは現状を理解しあって、お互いすぐに意気投合した。
傷を舐めあった、とも言うが……。
まぁ、それは置いておいて、シャノンだ。
あいつはよく分からん。
一言で言うと"スマート"だろう。
彼以上にこの言葉が似合う者もいないのではないか?
だが、それ以上に開拓団に参加した彼の考え、想いといったものが見えなかった。
開拓団メンバーには、少なからず夢がある。
シャノンの言葉を借りれば、多くは挫折してしまうであろう夢を叶えられた極少数である、とも言える。
かくいう私もそうだ。
人類の発展の未来が見てみたいと、ここに来たようなものだ。
だが、彼はどうだ?
経歴を見れば、それこそ彼ほどの才覚で、成せないことは無いだろう。
身体能力、精神力、技術力、知識についてもそうだ。
下手をすると、私に匹敵するほどの知識と技術がある。
………………化け物だ……。
俺が彼に感じたのは、ただそれだけだ。
経歴だけでは分からなかったが、彼にはカリスマもあり、何よりセンスがある。
人の上に君臨できる人間だろう。
過去の英雄に匹敵する、いや、凌駕できるかもしれないと言ったほどの才覚を、肌で、感じ取れてしまうのだ。
そんなものが、何を目的とするかさえこちらには悟らせないままに、すぐそばを歩くのだ。
…………気味が悪いことこの上無い。
今回の火星開拓団は、
リーダーをドミトリ。
サブリーダーをシャノン。
本国との交渉、現場での各国間の利害調整の実行役として開拓団顧問などという曖昧な地位が与えられてしまった俺。
日本という半端な国に生まれ、後ろ盾としての力もほぼ無しの俺が手に出来た、最上の地位がこれだ。
本来なら、アメリカのシャノンがリーダー役であったはずだが、他国が、アメリカへの反発から棄却され、その同盟国たる日本の俺も、外されることになったのだ。
よって、消去法で選ばれたのが、ドミトリ=カラニコフである。
本人は相当に、嫌がったようだが。
俺に立場を譲りたがっていたが、やはり、アメリカとの関係性から再度、棄却されている。
二度も拒否られるのは、かなり痛い。
このことが後々に響いたのだ。
""人格にも何か問題があるのでは""、ってな。
馬鹿らしいにもほどがある。
やりたくてやっているわけでも無いのにこれだ。
全員が全員、分かっていてやっているのだから、タチが悪すぎる。
まぁ、そんなこんなで出発し、火星での開拓が始まった。
タイロンと皇が、やらかして、、災害の猿たち(カラミティモンキーズ)の名称が俺たちに付いたのは、開拓が始まって、半年か、一年か経った頃だった。
戒めとしての称号を、俺たちは名誉として、その胸に刻んだ。
俺たち自身が、災害になるとは、露ほども思わずに…………。
ーーーそして、マーズサイトと名付けられた鉱石の発見とともに、すべてはひとつの地獄へと坂を転げ落ちていくーーーーー
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…………ゴーーーーーーーゴーーーーーゴーーー………………
強い風の音だけが聞こえてくる。
生存者は、俺を残して、他にはいない。
マーズサイトは身につけている。
コレに対する感情もあるが、所詮は便利な道具でしかなく、恨んでも状況は変わらない。
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歩けども歩けども、廃墟と砂が見えるだけ。
各国のドームは廃墟と化し、開拓者たちの夢の跡と化している。
ーーーだが、俺たちを襲ってきたドミトリの姿すら見えないとは、どういうことだろう?
疑問は疑問のまま、消化できずにいた。
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1週間歩き詰めで、倒れそうだ。
開拓基地には僅かばかりの食料が残されていたがそれで食い繋ぐには限界がある。
生命維持装置の生きているところでもあれば、食物の栽培なども可能になるかもしれないが…………
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<3週間後>
幻覚が見えてきた……
…………
目の前に階段が見える……
ーーどうかしているな……
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<一ヶ月後>
また幻覚が見える。
階段だ。
目の前に階段が見える。
本当にこれは幻覚なのだろうか?
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階段の幻覚は、食物が無くなって1週間たったぐらいから、よく見えるようになった。
最初は幻覚だとだけ思い、無視していたが、2週間3週間と経つうちに、登ろうと思ってしまった。
その時は登れなかったが。
<二ヶ月後>
私はもう、限界にきていた。
いかにマーズサイトの力があろうとも、空腹には耐え切れなかったようだ。
だが、私はこんな結末が欲しいのでは無い。
それでは意味が無い!
俺にはやるべきことがある。
だから、
ーーーー食事など必要の無い体が欲しいーーー
そう、願った。
そう願い、私は登る。
ただただ、全知を目指し、全能をこの身に得るために。
そうだ、私の本当の願いは、この身、この魂に、全知を蓄えることにある。
それまでは死ねないし、消滅などできない。
第一、この身には、まだまだ寿命が残っているのだ。
もったい無いだろう!
思考がぐちゃぐちゃになりつつも、ただただ願いを抱き、階段を上っていく。
ーーあぁ、これは、どこまで続くのだろう?
ーー私は何処まで行くのだろう?
それだけが、グルグル私の中を巡っていた。