東方混沌記   作:ヤマタケる

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第146話 High School Student's Ego

学校から(普通に)出た九十九はある場所を目指して歩いていた。それはある人物の仕事場。世界中の人間に夢と希望を与える『約束の地の大冒険』が描かれる場所。

誰に止められることも無く目的の部屋の前についた九十九はドアノブへ手をかけ、それを回した。

 

「おじゃましま〜す……。」

 

「おっそい!」

 

ドアの前には1人の少女が立っていた。

その少女は紫のノースリーブセーターを着て頭にベレー帽を被っていた。

 

「ごめんね?学校からここまで結構な距離があって……。」

 

「あ、やっぱ鬼でも遠いと思うの?」

 

大発見じゃん。その少女はそう言って九十九へ背中を向けた。

 

「ま、上がりなよ。」

 

「うん、そうさせてもらうね。」

 

この部屋の主である彼女こそ、『約束の地の大冒険』を描く超有名JK漫画家である。

九十九はそのまま客間へ案内された。客間は綺麗に片付いていて、彼女のマメさが伺える。

 

「結構綺麗じゃん。いつもはあんなに汚いのにね。」

 

「ま、さすがのあたしでも誰か来る時は片付けるって」

 

「……ふーん。」

 

漫画家の少女の言葉に、九十九は客間を出て彼女の仕事場へと足を進めた。

 

「あっちょっ、仕事場はダメだって!」

 

仕事場の扉を開けると、そこには栄養ドリンク、カップラーメン、カロリー〇イト、ハンバーガーの袋、没案になったと思われるネームが所狭しと散乱していた。

 

「……ねぇ」

 

「はいっ!」

 

滝のような汗をかく漫画家の少女に九十九は小さくも、しっかりと通る声で言った。

 

「掃除、しよっか?」

 

「イエスマムッ!」

 

漫画家の少女はとてつもない速さで掃除用具を取りに行った。

 

「まったく……、いつも掃除は私任せなんだから。」

 

呆れる九十九だか、彼女は心からの笑顔を抑えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女掃除中・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、合格。」

 

「お、おつかれー……。」

 

漫画家の少女が掃除用具を持ってきてから約30分。汚部屋となっていた彼女の仕事場は入居した時の美しさを取り戻していた。

 

「なんであたしは苦労して掃除してんの……?」

 

「汚部屋は絶対許早苗。」

 

「……はい?」

 

「なんでもないよ。」

 

そんなことをしてじゃれ合ったりしながら漫画家の少女と九十九はティータイムを楽しむ。

 

「……んで、今度は何?」

 

ある程度の時間がすぎた頃、九十九がそう切り出した。

 

「あ、やっぱ気付いてる感じ?」

 

「当たり前。こんなにやられたら流石に気付くって。」

 

九十九の言葉にニシシと漫画家の少女は笑った。

 

「まぁそうだよね。……じゃあ本題に行こっか。」

 

先程とはうって変わり、漫画家の少女はチカラ持つもの(爆絶なる者)へと表情を変えた。

 

「九十九はさ、どうして不思議だと思わないの?」

 

「不思議って、なにが?」

 

「スマホのこと。九十九の持ってる白いスマホ。」

 

彼女の言葉に九十九は服のポケットから件のスマホを取り出した。

 

「確か……みんながくれたんだよね。連絡つかないと困るからって。」

 

「そう。」

 

「なんでそれを不思議に思わなきゃいけないの?」

 

「……そっか。九十九はあたしらの常識を知らないんだ。」

 

ガシガシと少女は軽く頭をかき、深呼吸をしてから口を開いた。

 

「……そもそもあたしら『爆絶なる者達』は真の力を使ってる時は一般人との接触を禁止されてるの。影響が強すぎるから。」

 

「影響が……強い?」

 

「そ。カリスマっていえばいいのかな。」

 

少しだけ遠い目をして少女は語る。自身の、仲間たち(爆絶なる者達)の代償を。

 

「『この人の下にいたい』『この人のためなら命すら惜しくない』そんな気持ちをあたしらは強くしちゃうんだよね。たった一言話をしただけでも、ね。」

 

漫画家の少女は複数の存在を思い出していた。

ある名門校に通うオッドアイの少女(爆絶なる者)と会話をしたが故、彼女に付き従い婚約者との約束すらも破棄した1人の少年を。

頭脳明晰な白衣の少年(爆絶なる者)に従い怪盗行為を続ける左腕が注射器である異型の女性を。

ゲームセンターを根城とするゲーマーの少年(爆絶なる者)と対戦し、その圧倒的な強さに惚れ込んだ神や魔人たちを。

 

「だからさ、あたしらにとって九十九はビックリする存在だった訳。真の力を解放してたあたしらと会話しても狂わずに自分を保てるってだけで。」

 

「だから、スマホをくれたのね。」

 

「うん。『爆絶なる者たち』以外で出来た初めての友達だもん。……それ以外の理由もあるけどね。」

 

「それ以外の、理由……?」

 

「……九十九、アンタは利用されてるの。」

 

そこから漫画家の少女は語る。星熊九十九の真実を。

 

「アンタが使ってる能力『Fateを使う程度の能力』は本来のチカラじゃない。本来のチカラの名前は『夢を支配する程度の能力』。眠りの中で見る夢と将来の夢、双方を支配できるチカラ。アンタはそのチカラを逆手に取られた。エリュシオンに負けて圧倒的な強さを求めた。強くなることを『夢』とした。その思いに干渉されて『Fateを使う程度の能力』を押し付けられたってこと」

 

「『夢を支配する程度の能力』……。私の本当のチカラ……」

 

漫画家の少女が放った言葉を繰り返し、己の中にゆっくりと九十九は落とし込んでいく。

今まで能力を使ってきて、感じていた違和感。当たり前の事なのに何故か感じ続けていたそれ。

「極まるのがあまりにも簡単すぎる」

彼女の兄的存在である百々は己のチカラ『全てを完全に再現する程度の能力』を極めるのに10年以上の月日を費やした。それなのに自分はどうだ。

 

たった1度使うだけで全てを把握したではないか。

 

漫画家の少女に指摘され、九十九はその事実に気付く。

 

「押し付けられたってことは、押し付けた相手は誰?」

 

九十九の疑問に、漫画家の少女は手に持っていたティーカップを置き、真面目な雰囲気を醸し出す。

その雰囲気に、軽い気持ちで疑問を投げた九十九も固まる。

じっと九十九を見つめる漫画家の少女はゆっくりと口を開きその答えを出した。

 

「分かんない。」

 

「えっ」

 

空気が壊れ、九十九はギャグ漫画よろしく椅子から転げ落ちた。

漫画家の少女は九十九のその様子をどこから生えてきたのか分からないスケッチブックにスケッチしていた。

 

「そこまで引っ張ってそれ言う?」

 

「いや、分かんないものは分かんないだから。当たり前じゃん。」

 

「いやまぁそうだけど……。」

 

漫画の世界でもラノベの世界でもないんだから、都合のいい事ばっか知ってるはずも無いよね。

九十九はそう自分の中で結論づけた。

 

「色々言ったけどさ、結局あたしは九十九に死んで欲しくない訳よ。それこそ今すぐにでも逃げてもらいたい。でもそれはヤなんでしょ?」

 

九十九はその質問に無言で頷く。

逃げるという選択肢は鬼としても、人としても彼女の中に存在しなかった。1度体験したからこそエリュシオンの恐ろしさを理解している彼女だが、それ故にエリュシオンの能力を知り、対策を取れる唯一の存在でもあったからだ。

 

「だからあたしは何も言わない。その代わりにコレを貸したげる。」

 

漫画家の少女はそう言って自身のスマホに付けているキーホルダーを九十九へ渡した。

 

「後で返してよね。」

 

それは彼女なりの激励なのだろう。そのキーホルダーは彼女の描く漫画の登場人物であり、己の能力が

込められたスマホに付けているのを見るにお気に入りなのだろう。

 

「それって、暗に『生きろ』って言ってるよね?」

 

「あたしはなにも言ってないし?九十九がそう思ってるだけじゃん。」

 

九十九の疑問に取り合わない漫画家の少女。彼女の頑固さゆえに諦める九十九。彼女たちの『普段の光景』がそこには広がっていた。

 

「まだ話してたいけど、もう時間なんだよね。次行く場所は分かってる?」

 

「もちろん。彼の事だからゲームセンター以外無いって。」

 

「ま、アイツとは九十九が1番付き合い長いもんね。」

 

そんなことを言って客間から出ていった漫画家の少女に習い、九十九もまた立ち上がって彼女を追った。

 

「じゃあね九十九。しっかりね。」

 

「コラ。」

 

コツン。と九十九は漫画家の少女の頭を軽く叩いた。

 

「コレ、返すんだから『じゃあね』じゃ無いよ。」

 

「……そっか、そうだね。『またね』、九十九。」

 

「うん、またね。」

 

漫画家の少女は九十九の姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けた。

見えなくなると、彼女は部屋に戻らずそのまま屋上へと向かった。

屋上には2つの影があった。

1つは大きな筆を持った少女。もう1つは小さな筆を持ったタコのような存在。

 

「神絵師降臨とかマジ?……ま、あたしも九十九の為に負けてなんかいらんないっしょ!!」

 

彼女は懐から漫画を書くためのGペンとスマホ取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――見てなさい!あたしのGペンが世界を変えるわ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Gペンにより描き出した世界に彼女と大小の筆を持つ少女とタコは吸い込まれ、そこには誰もいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漫画家の少女と別れた九十九が向かうのは、とあるゲームセンター。『彼』と出会った場所にして、『爆絶なる者たち』と出会うきっかけにもなった彼女にとっての『始まりの大地』。

 

「……変わんないなぁ、ここも。」

 

たどり着いたゲームセンターは彼女の記憶通り、変わらぬ姿のままそこに存在していた。

 

「さて、行きますか。」

 

自動ドアを通り抜け、彼女はあるゲームの元へと向かう。そのゲームのタイトルは『メガロポリス』。アーケード型のSFシューティングゲームである。このゲームにおいて彼女は『彼』を打ち負かし続けていた。

 

「……久しぶり。相変わらずのゲーマーっぷりね。」

 

「そういうお前は結構変わったな、九十九。」

 

椅子に座り、ゲームを続ける少年は振り返ることなく、ゲームに視線を向けたまま言葉を続けた。

 

「座れよ九十九。リベンジマッチの時間だ。」

 

「……私に、勝てると思ってるの?」

 

「おう。今度こそ勝ってやるよ。」

 

少年の向かいに座り、九十九もまた『メガロポリス』を始めた。

 

 

 

 

 

「九十九、1つ聞いていいか。」

 

ゲームのプレイ中、少年がそう切り出した。

 

「何?」

 

少年の操る機体を圧倒しながら、九十九は軽く言葉を返す。

 

「なんでオレたちを名前で呼ばないんだ。」

 

九十九の操る機体がぶれ、少年に反撃の余地を許し始めた。

 

「……別に、理由なんて無いけど。」

 

「いや、あるな。オレたちに悪気があるんだろ。」

 

九十九の機体に、少年の攻撃が当たるようになった。

 

「自分だけ逃げ出し、生き残ったことへの罪悪感。……九十九、お前死ぬ気だな。」

 

九十九の機体が落とされ、少年のゲーム画面に『You Win』の文字が現れた。

 

「……悪い?エリュシオンさえ殺せればもう私に生きる理由なんて無いもの。」

 

「ああ悪い。」

 

少年は九十九の前に立ち、椅子に座ったままの九十九の服を掴み、思いっきり自身の前へ引っ張った。

 

「オレたちはな!お前に死んで欲しくなんてないから能力を、スマホを預けたんだ!!お前に生きていて欲しいから!お前を守るために!」

 

少年たち(爆絶なる者たち)の思いが、九十九へぶつかる。

1人は成績優秀・容姿端美であったがゆえ、いなかった自分に初めて出来た、バカ騒ぎできる友の為に。

1人は仕事バカでつまはじき者の自分にも縁を切ることなく付き合って、偶に捜査の協力もしてくれる友の為に。

1人は殺人鬼の魂を宿したが故に血で染まってしまった己の両手を取り、嫌な顔一つせず接してくれた友の為に。

1人は自身の正体を怪盗と知っても、誰にも言わず変わらぬ態度で日々を過ごしてくれる友であり、自分の好きな相手の為に。

1人は世界的に有名な漫画家だからといって特別扱いせず、どこにでも居る少女として己を扱って遊んで、偶にアシスタントとしても協力してくれる友の為に。

 

「蓬莱の所で『覚悟』を決めたな。マグとメルの所で『過去』を受け入れたな。エルドラドの所で『能力』を認めたな。カナンの所で『真の能力』を自覚したな。アイツらはお前に生きてほしいからこんなお節介を焼いてんだぞ!死んでもなおお前を見守ってんだ!……オレだってそうだ。お前が心配なんだよ、九十九。」

 

1人は初めて生まれた『理想郷の高校生』である己の力に悩み、その力が恐ろしくなりゲームセンターへ篭っていた自分を打ち負かし、『人』であることを認めてくれた友であり、自分がゲームで1度も勝ったことの無い『目標』の為に。

 

「あぁ、そうさ。コレ(・・)はオレたちによるただのお節介だ。そうだろ、みんな。」

 

自身の後ろへ向けられた少年の言葉に、九十九は勢いよく振り返る。

 

「えぇ、その通りですわ」

 

「そうね、悔しいけどその通りよ」

 

「あぁ、お前の言う通りだ」

 

「君の仰る通りさ」

 

「まぁね、アンタの言う通りっしょ」

 

そこには戦闘をしたのか、ボロボロの姿で真の力を解放した友の姿があった。

蓬莱(青の少女)はその手にもつ蓬莱の玉の枝が折れ、髪飾りは片方が無くなり纏まっていた髪の毛はストレートに変わっていた。

メル(緑の少女)は探偵としての証とも言えるマントが無くなり、魂を操ることの出来るルーペにヒビが入っていた。また、動けないのか彼女はマグに抱えられていた。

マグ(緑の少年)もメルと同じくマントを無くし、武器であるナイフが数本自身の腕に刺さっており、ズボンが破れそこから青く染まった肌が見えた。

エルドラド(黄金の少年)は己の半身以上を赤く染った黄金で包み、血を無理やり止めていた。また、顔を隠す仮面が半分ほど欠けていた。

カナン(漫画家の少女)は体の所々が黒く染っており、上手く動けないのか自身の能力により生み出したキャラクターに肩を借りていた。

 

「みんなッ!何をして……?」

 

5人の前に移動し、九十九の目の前に現れた少年によって九十九は言葉を失った。

ニヤリ。と目の前の少年は、アルカディアは笑う。

 

(抑止)は外れた。あとは九十九、お前次第だぜ?」

 

(爆絶なる者たち)の手から六つのスマートフォンが九十九の元へと集い、彼女の周囲を浮遊する。

 

(抑止)?アルカディア、何を言ってるの?」

 

「やっと名前を呼んでくれたな、九十九。簡単なことだ。お前の真の能力を潰し偽りの能力を押し付けてたヤツらをぶっ飛ばしたんだよ。」

 

アルカディアの説明と共に、全てのスマートフォンから力が九十九へと流れる。

 

「お前に本来の力を目覚めさせるため必要なことだ。辛いかもしれないが耐えてくれ。」

 

九十九の身体中に痛みが走る。耐えきれなくもないギリギリのラインを攻めてくるような痛みだ。

 

「九十九、お前は『夢』を支配するもの。地球(ほし)の神々の理想郷だ」

 

アルカディアの声がギリギリ超える中九十九の意識が薄れていく。

 

「またな、九十九。今度はゆっくり話でもしようぜ。」

 

九十九はその場から溶けるように消えた。

 

「目覚めたか。……じゃあみんな、最後の仕事だ。大丈夫か?」

 

アルカディアの言葉に爆絶なる者たちは頷く。それを確認したアルカディアは手に戻ってきたスマホを掲げる。

 

「コイツを倒せば九十九は解放される。行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――電脳世界で勝負と行こうか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として現れた一人の男に、爆絶なる者たちは襲いかかっていく。

その男は、正義の味方から反転した悪の敵。腐り落ちた鉄の心を持つ『霊長の抑止力』の奴隷。

アルカディアは、爆絶なる者たちは友のため残りカスの力を使い、戦いに挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夜中、九十九は目を覚ました。周囲を見渡すと、情報共有に出ていたユニが眠っていた。

恐らく結構な時間が経っているのだろう。

そう結論づけ、彼女は顔に違和感を覚えた。涙の後があったのだ。

懐かしい友との会合を夢に見た彼女。心のどこかで彼らとの話を求めていたのだろうか。考え方の変わった今となっては分からない。それでも、この涙が証拠にはなるのでは無いか。

九十九は来たる決戦のため、もう一度眠りについた。その顔はとても満足そうな、見た目に即した少女の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九十九が眠りについたあと、彼女の持つ白いスマートフォンが勝手に起動した。

その画面には文字が浮かんでいた。

『Dream Land』と。

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