例えばもし、その少年に前世があったとして。何かのきっかけに全てを思い出してしまったら、どうなるだろう。
前世の記憶があるということは、こうして生きている
享年が八十なら八十年。六十なら六十年。前世で長生きしていればしているだけ、知識のアドバンテージを得ることができる。
少年の享年は十八だった。デュエル養成校を卒業し、プロの世界へと足を踏み出そうとしていた頃に亡くなった……らしい。
というのも、その瞬間の出来事だけ思い出せないのだ。空白が残った絵のように、あるいはピースが足りないパズルのように、その部分だけが綺麗さっぱり抜け落ちている。おそらく、不幸な事故にでも遭って頭を強く打ったのだろう。事故の影響で記憶喪失。にわかには信じられないが、有り得ないことではない。
ともかく少年は十八で亡くなった。言い換えればこれは、同年代の親友よりも十八年の知識・経験があるということだ。
それだけあればやりたい放題だ。比喩ではない。流石に身体能力はどうしようもないが、それ以外の場面では一騎当千と言ってもいい。
……だが。それはあくまで“能力”に限った話だ。
◆
「今日皆に集まってもらったのは他でもない。ボクの……いや、
少年――
ここ、遊勝塾に集められたのは四人。
わけあって塾長を務めている柊修造。
その娘、柊柚子。
ここの塾生であり榊遊勝の息子、榊遊矢。
そして、紫雲院素良。
小波の態度の変化に、四人は怪訝な顔をした。彼は榊遊矢、柊柚子に続く遊勝塾の最古参メンバーである。一人称は“ボク”で性格も消極的だったが、デュエルの腕は昔から恐ろしく強かった。
だが今はどうだ。消極的な一面は影を潜め、一人称も“俺”に変わっている。演技かとも疑ったが、おそらく違うだろう。
四人を代表し、遊矢は小波に尋ねる。
「どうしたんだよコナミ、急に態度なんか変えて。何かあったのか」
「ああ、あったよ。あったとも。だから皆に相談したくて、こうして集まってもらったんだ」
「タツヤとフトシとアユには言えないことなのか?」
「そうでもないけど……話がややこしくなりそうだったからな。今回は席を外してもらった。
……じゃあ、本題に入るぞ」
コナミは深呼吸した後、四人の顔を一人一人見回した。
典型的な“?”の顔。これがどう変わってしまうのか、コナミは怖かった。だが、ここまできて後には引けない。追い込んだのは他ならぬ彼自身なのだ。
コナミは覚悟を決め、自分の秘密を告白した。
「俺には前世の記憶があると言ったら、皆は信じるか?」
「……はぁ? どういうことだ?」
その突拍子の無さに、修造が思わず呟いた。
他三人は前世と言われてもピンと来ないのか、特に変化はない。
「前世っていうのは……つまり、コナミ君。君は以前この世界のどこかで生きて、亡くなった後に転生したということか?」
「この世界ではないですけど、大体そんな感じです」
「な……なるほど?」
修造は納得したようなしていないような、何とも言えない表情をしていた。
無理もない。急にそんなことを言われても信じられるはずがない。なにせ内容が内容なのだ。馴染み深い三人だからこそ会話が成立しているのであって、他人に言ってもただの電波小僧としか思われないだろう。
「うーん、それって本当なのかなー?」
「おい、素良……」
「えー、だってさー」
素良は新しい飴を取り出し、遊矢の静止を聞かずコナミに問いかける。
「だって、いきなりそんなこと暴露されても信じられないよ。誰だろうとコナミはコナミでしょ?」
「いや、違うな。確かに
「? どういうこと?」
「要するに、コナミは半分消えたってことだよ。
昨日までの俺は確かにコナミだった。遊矢、柚子、そして塾長。三人と一緒にこの塾で育った、ありふれた十四歳の男の子。
でも今は違う。俺は思い出した。思い出してしまった。前世の自分、プロになるまであと一歩だった俺自身のことを」
「うーん……つまり、前世と現世の自分が融合しちゃって、その体には二つの意思が宿ってるってこと?」
「だったら相談なんてしないよ。それって要は、友達が一人増えるってことだからな」
「はっきりしないなぁ。早く結論を教えてよ。コナミは一体どうしちゃったの? で、今ここにいる君は誰なの?」
「そうだな……じゃあ、色に例えようか。前世の
さっき素良が言ったのはつまり、一つの体に白と黒が同居してるってことだ。これらは独立して意思を持ち、明確に区切られている。平たく言えば二重人格。かの伝説の
で、今の俺はグレー。区切りがなく、二つの意思は後戻りできない段階にまで混ざり合ってしまった。ここにいる自分は確かにコナミだけど、既に“俺”でも“ボク”でもない」
「――なるほど、ね」
コナミの説明を一頻り聞き終え、素良は納得した。
紫雲院素良は融合召喚の使い手。この手のオカルトはすぐ理解できる。
「要するに君、
「っ! 素良、貴方――!」
「柚子!」
怒りのあまり手を挙げようとした柚子を、遊矢が止めに入った。力は遊矢の方が上らしく、柚子はその手を振り払えない。
「遊矢、どうして!」
「駄目だ、柚子」
「だって素良、今コナミに酷いこと――」
「柚子」
「っ……」
有無を言わせぬ眼力に柚子は怯む。
遊矢は目力だけで、喚く柚子を静止させたのだ。
「……ごめん素良、コナミ。ちょっと席を外すよ。行くぞ柚子」
遊矢はそのまま柚子の手を引いて、二人一緒に部屋を出て行った。
「あらら……怒らせちゃったかな」
「いや、今のは怒って当たり前だと思うぞ」
「げ、塾長まで?」
「ああ。冗談でも言っていいことと悪いことがある」
「だから、冗談じゃないんだってば。ねえ、コナミ」
「……そうだな」
力無げにコナミは肯定する。
そう、
「まあ、だから相談したんだけどな。俺は一体、これからどうするべきなのかなって」
「どう、とはどういうことだ?」
「前世の自分として第二の人生を生きるべきか、それとも今まで通り“小波ユウ”として生きるべきか」
「……君は小波ユウだ。なら、答えは決まってるだろう。これまで通り柚子達と――」
「つまり、
コナミは初めて怒気を孕んだ声で抗議した。
困惑しつつも、修造は別の案を提案する。
「……だったら、前世の君として生きたらどうなんだ」
「つまり、
「……新しい人生を歩め、と言ったら?」
「
「……はぁ」
当然と言わんばかりの否定に、修造は深く溜息をついた。
「やっぱりそう来たか。相変わらず凄い潔癖症だな、君は」
「すいません。でもわかってください。色々なことが突然浮かんできて混乱してるんです。
家族だけじゃありません。友人だって
柊修造はその悩みを理解できない。転生者なんて言われてもピンと来ないのが普通の反応だろう。
けれど、解決する方法は知っている。転生者といえど所詮は十四の小童。前世の年齢を加算しても三十二。修造にとっては、それでもやはり小童なのだ。
……そんな悩みを他所に、素良は無邪気にコナミに話しかけた。
「じゃあさコナミ。いきなりだけど、ボクとデュエルしてくれない?」
「デュエル?」
「うん。正直、転生者とか言われても全然信じられないし、ピンと来ないんだよね。でもコナミって、前世ではプロを目指してたんでしょ? で、少なくとも昨日までの君よりは強かった」
「ああ、それは確実だ。デュエルの腕に関しては、前世の方が断然強い」
「なら、今の君は昨日までとは比べ物にならないくらい強いってことだよね? じゃあ、僕とのデュエルで証明してみせてよ。ねえ塾長、いいでしょ?」
「うーん……そうだな。なんだかんだ言いつつ、結局それが一番か。よし、ついてこい二人共!」
修造はデュエルの準備をするべく、リングの方へと向かった。素良は半分スキップしながら修造を追う。
「……デュエル、か」
コナミは自分のデッキから二枚のカードを取り出した。
雷を操る悪魔族、《デーモンの召喚》。
可能性の龍、《
「皮肉なものだな。前世で欲しかったカードが現世に、現世で欲しかったカードが前世にあったなんて。でも、ちょうど良かったよ素良」
コナミは、修造を追う素良を見て――
「肩慣らしに相手してやる」
――“これ以上ないほどの上から目線”で、そう呟いた。
遊矢のメンタル(?)が強すぎて誰おま状態だが我は気にしない。
主人公・コナミのデッキテーマは【真紅眼の黒竜】。この時点で大体の展開は予想できるでしょう。
他のテーマ候補は
・【バスター・ブレイダー】
・【カオス・ソルジャー】
・【サイバー】
でした。
初めは【バスター・ブレイダー】にして、コナミの前世は
“対遊矢シリーズ決戦兵器”
として融合次元で製造された失敗作のアンドロイド? ホムンクルス? 的な設定だったのですが、《破壊蛮竜-バスター・ドラゴン》の効果が《バスター・ブレイダー》ありきで、単体では非常に使いづらかったのでボツにしました。
【カオス・ソルジャー】と【サイバー】は物語的に使いづらかった。
特に【サイバー】、お前ちょっと強すぎね? 融合でアホみたいに攻撃力上げたかと思えば、エクシーズであっという間にフィールド制圧しやがって。