「鋼鉄の四肢持つ龍よ。転生の炎をその身に宿し、新たな力をここに示せ!
エクシーズ召喚! 現れろ、ランク7! 《
《真紅眼の鋼炎竜《レッドアイズ・フレアメタル・ドラゴン》》
ランク7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400
鋼鉄の身体。荒ぶる火炎。
紅き眼を持つ可能性の黒竜、その一端がここに顕現した。
その咆哮は大気を震わし、敵対者に重圧を掛け続ける。
「レッドアイズ二体のエクシーズ召喚。いつの間にそんな技を……」
「ああ。だが、これではっきりしたな。この力は間違いなく、コナミ君の前世の影響だろう」
突然のエクシーズ召喚に、観客の三人は驚きの色を見せる。前世に目覚めるまでのコナミは一度もエクシーズ召喚を行ったことがない。これで何よりの証明となった。
「……ふーん」
しかしここに、面白くない顔をする者が一人。素良は新しく飴玉を取り出し、竜を見据える。
「驚いたよ。まさか君が
「……早とちりはよくないな。まだ俺のターンは終わっていない。
《
俺が選択するのは《
《
星6/闇属性/悪魔族/攻2500/守1200
「さらに、このターンの通常召喚権を使い、エビル・デーモンを再度召喚する!」
コナミはカードをディスクから離した後、もう一度同じように配置した。
瞬間、召喚による衝撃波がエビル・デーモンの全身を奔る。再度召喚されたことで、デュアルモンスターであるエビル・デーモンはようやく真の力を発揮できる。
「エビル・デーモンのデュアル効果発動! 一ターンに一度、このモンスターの攻撃力より低い守備力を持つ相手モンスターを、全て破壊する!」
「させるか!」
素良は、それこそ雷にでも打たれたのかのように走り出した。
地を滑り壁を蹴る。その身体能力は、おそらくコナミを凌駕するだろう。一朝一夕で得られるものではない。
「
「だがここで《
「なに――!?」
ドーム状のバリアが《デストーイ・シザー・タイガー》を覆った直後、雷撃に追従して火炎が放たれた。
《ミラー・バリア》の対象は一体のみ。全てを防ぐことはできず、《デストーイ・シザー・ベアー》は電撃に貫かれ、素良は炎に焼かれた。
素良
LP:1300 → LP:800
「っ――全く、どうしてここまで手こずらせるかな……!」
素良は苛立ちを隠さず、コナミとドラゴンを睨みつける。
……《
だが、塵も積もれば山となる。いや、八回喰らえば負けるという時点で、塵と言うには少しばかり大きいだろう。
「《デストーイ》モンスターが減ったことで、シザー・タイガー、シザー・ウルフの攻撃力は下がる!」
《デストーイ・シザー・ウルフ》
攻4400 → 攻4100
《デストーイ・シザー・タイガー》
攻2800 → 攻2500
「バトルだ! 行け、《
担い手の指示を受け、鋼竜は獄炎を吐き出す。周囲一帯に炎が叩きつけられ、《デストーイ・シザー・タイガー》は瞬く間に呑まれてしまった。
素良
LP:800 → LP:500
「《デストーイ・シザー・タイガー》が破壊されたことで、シザー・ウルフの攻撃力はさらに下がる」
《デストーイ・シザー・ウルフ》
攻4100 → 攻3500
「ターンエンド……さて。これで残りのライフは500。シザー・ウルフの攻撃力も3500に戻った。もう後がないぞ、素良」
「……後がない、だって? 冗談言うなよ」
素良は伏せた顔を上げ、コナミを睨む。もはやそこには、デュエル開始時のような笑顔はない。
あるのは狩人の目。楽しむ余地などなく、ただ、目の前の首を狩る。それだけに固執した殺意の目だ。負けることなど有り得ない。そう言わんばかりに己の劣勢を否定する。
「コナミ、どうやら君の目は節穴みたいだね。確かに《デストーイ・シザー・ウルフ》の攻撃力は下がったさ。でもまだ3500もある。レッドアイズを倒すには十分だよ!」
「だが、《
「だったらどうしたっていうのさ。僕のターン!
このままバトル! 行け、《デストーイ・シザー・ウルフ》! レッドアイズ達を葬り去れ!!」
「《
《
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
「またそのカード……いい加減鬱陶しいよ」
「なら、攻撃を止めるか?」
「まさか。何度でも蘇生するなら、その度に蹴散らすまでだよ!
バトル続行! 行け、シザー・ウルフ!」
コナミ
LP:1900 → LP:1200
《デストーイ・シザー・ウルフ》の三回攻撃により、コナミのモンスターが再び全滅した。
破壊と蘇生。このデュエルはその繰り返しだ。素良が蹴散らし、コナミが復活させ、また素良が蹴散らす。
そして、それもここまで。鋼竜は消えた。ここからは
「
戦慄のケダモノよ! 鋭い牙よ! 神秘の渦で一つとなりて、新たな力と姿を見せよ!
融合召喚! 現れ出ちゃえ、全てに牙むく魔境の猛獣! 《デストーイ・サーベル・タイガー》!」
《デストーイ・サーベル・タイガー》
星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000
虎のぬいぐるみの全身が引き裂かれ、剣と思しき刃物が骨組みを再構築する。シザー・タイガーとはまた違う、虎型の《デストーイ》だ。
「《デストーイ・サーベル・タイガー》の融合召喚に成功した時、墓地の《デストーイ》を一体特殊召喚できる!
現れ出ちゃえ、《デストーイ・シザー・タイガー》!」
《デストーイ・シザー・タイガー》
星6/闇属性/悪魔族/攻1900/守1200
「シザー・タイガー、サーベル・タイガーの相乗効果により、《デストーイ》達の攻撃力は合計1500アップする!」
《デストーイ・シザー・ウルフ》
攻3500 → 攻5000
《デストーイ・サーベル・タイガー》
攻2400 → 攻3900
《デストーイ・シザー・タイガー》
攻1900 → 攻3400
「……圧巻だな。流石は素良。これがお前の本気か」
「まるで他人事だね。ちゃんと状況分かってる? この次が正真正銘、君の最期のターンなんだけど?」
「ああ、悪いな。頭では分かっているが、まるで実感がない。どうやら転生者ってのは、俺が思っているよりずっと便利なものだったらしい。二人の人間の価値観を持つと、これまで見えなかったものが次々と見えてくるんだ」
「……絶体絶命だっていうのに饒舌だね。つまり、何が言いたいのさ」
「俺は絶対に負けないってことだよ。
素良の言うことは半分正解だ。確かに現世のボクなら諦めていただろう。だが、前世の俺は諦めていない。それどころか勝利を確信している。
――そんな目をしている連中に、転生者たる俺が負けるはずないとな」
絶対的な自信とともに、コナミは宣言した。
もしも素良に確たる覚悟、負けられない理由があったのなら、コナミはきっと敗れるだろう。度を超えた力は、同じように超えられてこそ意味がある。転生者とは一つの試練だ。『
今の素良にその資格はない。遊び半分で可能性を狩り続けるその姿勢に、あるはずがない。資格がない以上、どうしたってコナミの敗北は有り得ない。
……転生者のデュエルは全て必然。
勝利も敗北も、
「――行くぞ」
――気が付けば。
――
――変貌していた。
髪は逆立ち、瞳はさながら
立場が逆転する。
崇高な狩人は、惰弱な獲物へと成り下がり、
逃げ惑う草食動物は、全てを喰らう肉食動物となる。
「俺の、ターン!!」
カードを引く。それだけで紅い風圧が起こり、全てが震憾した。
「何が……起こってるの……?」
それは誰の呟きだったか。
いや、誰もが呟いただろう。
そんな動揺に目をくれず、コナミはデュエルを進める。
「《貪欲な壺》を発動。
墓地から《
《
《
《
そして、《
……モンスターを裏守備表示で召喚」
「裏守備……?
……なんだ、驚いて損したよ。やっぱり君は狩られる側だ。この状況を覆すことなんてできないよ!」
何かが起こる。そう確信しつつも、素良は虚勢を張る。
「慌てるな素良。お楽しみはこれからだ。
裏守備表示のモンスター――《
《デストーイ・シザー・ウルフ》
攻5000 → 攻0
「っ……攻撃力を0にしたところで、モンスターがいなければどうってこと――」
「《
俺が加えるのは……《
「――……え?」
素良の思考が停止した。コナミが加えたのは紛れもなく、モンスターを“融合”するカードだったのだ。
エクシーズと融合の両刀使い。珍しくはあるが、ありえない事ではない。だが、先ほどのドラゴン――《
「俺は
可能性の竜よ。雷光の悪魔よ。原初の渦で一つとなりて、新たな力をここに示せ!
融合召喚! 現れろ、《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》!」
《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》
星9/闇属性/ドラゴン族/攻3200/守2500
巨大な龍が炎を巻き上げ降臨した。
強靭な肉体と紅い眼光。他を圧倒する召喚エネルギーに、フィールドは荒れ狂う。
広いはずなのに狭い。コナミを除く四人はそんな印象を抱いた。単純にサイズが巨大なだけではない。その威圧感は確かに本能を刺激し、恐怖という名のアラートをこれでもかと鳴らしている。
――破壊。この龍はその一点においてのみ特化している。守りなど知ったことではない。それは
新たなドラゴン、それも融合モンスターの出現に、素良は困惑した。
エクシーズと同等、あるいはそれ以上の力の奔流。どちらも紛れもなく
本来ならどちらか一つ。片方が
――だが刮目して見よ。
立ちはだかるは本物の壁。
それはある種の到達点であり――同時に、限界でもあった。
「っ……考えるのは後だ。それより今は――!」
恐怖を振り切り、素良は
彼の疑問は尽きない。ただ一つだけ分かるのは、このままだと負けるということ。心の奥深くに刻み込まれた
コナミはそれを待たず、悪魔竜に攻撃を命令する。
「バトル! 《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》、《デストーイ・シザー・ウルフ》を攻撃! “ダーク・メテオ・フレア”!」
龍の顎が開き、火炎が放たれる。
否、それは『火炎』の域を超えていた。触れるもの全てを滅却する大砲か。
着弾する直前、素良はカードを拾って発動させた。
「
しかし
抵抗は許さない。そう言わんばかりに。
「《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》が戦闘を行う時、相手はダメージステップ終了時までカード効果を発動できない」
「そんな――っ!」
《デストーイ・シザー・ウルフ》に煉獄が叩きつけられ、その一切が灰塵と化した。
勢いはモンスターだけに留まらず、プレイヤーをも焼き尽くす。
「うわぁぁ――!!」
素良
LP:500 → LP:0
……デュエルが決着し、アクション・フィールドが消えていく。
最後に残ったのは倒れ伏す敗者と……己の力に戸惑う勝者のみだった。
◆
「社長」
スーツの男――中島が呼びかけた。
社長。そう呼ばれた人物は窓越しに街を眺めている。
「分かっている」
そう一言。短くとも簡潔な答え。それで意思は伝わる。
「私の端末でも確認できた。これほどの召喚エネルギー、間違いなく
「はい。以前、社長も伺ったデュエル塾です」
「……何?」
社長と呼ばれた人物――赤馬零児は、ようやく中島の方へ振り返る。
「それはつまり、遊勝塾か?」
「おそらくは。誰の反応かは、まだ特定できていませんが」
「どういうことだ? 私の端末が正しければ、先程のは融合とエクシーズの反応だったが」
「はい。仰る通り、感知された反応はその二つでした。ペンデュラムが一切感知されていない以上、少なくとも榊遊矢のものではないでしょう」
「そうか。他の遊勝塾のメンバーは……」
「これです」
中島は懐から端末を取り出し、画面を投影する。
映っているのは遊勝塾の名簿。人数は塾長・塾生を含めて八人。小規模と言わざるを得ない小さな塾だ。
「……柊柚子。小波ユウ。紫雲院素良。怪しいのはこの三人か。融合エネルギーは紫雲院素良によるものだろうが、エクシーズの出処が読めないな。残り二人の戦績はどうなっている?」
「これまで一度もエクシーズを使用した経歴はありません」
「となると、どちらか二人が覚醒したか……それとも、奴等が現れたか」
「至急、街の警備を増員させます。今後、奴等が本格的に動き出すかもしれません」
「いや、まだ確証がない。下手に動いては刺激するだけだ」
「ですが社長、感知された融合エネルギーは
「なに……?」
エネルギーが二つ。その事実に零児は衝撃を受けた。
これまで何度か巨大な融合エネルギーは感知されていた。だが、それらは常に一つだったのだ。
「これは、紫雲院素良の仲間が遊勝塾に紛れ込んだことを意味しています。様子見の時期はもう過ぎたかと」
「……いや、まだだ。下手に接触して刺激を与えるわけにはいかない。今の我々は力不足だ。だからこそ慎重に行動しなければならない」
「! まだ、続けるつもりですか?」
「ああ。おそらく、紫雲院素良自身は我々に敵意を持っていない。遊勝塾に馴染んでいるのがその証拠だ。ならば現状維持こそが最善。
……問題は他にある。今連中を呼ばれてしまえば、この舞網市は容易に滅ぶだろう。それに、どちらかが覚醒した可能性もゼロではない。ちなみに、その二人の勝率はどうなっている?」
中島は端末を操作し、柊柚子、小波ユウの戦績を確認した。
勝率は決していい方ではない……が、なんとか一定数の勝ち星を上げていた。
「……どちらも、条件は満たしています」
「ならば私から言うことは二つ。
監視を怠るな。何かあったらすぐに知らせろ。
……この反応が敵か味方か、早急に見極める必要がある」
◆
ここまでが一話の時点でぼんやりとあった構成。
素良にエクシーズを見せつけ、追い詰めてキレさせてからの融合。
素良視点だと敵か味方か分からない状態にしたかった。
そしてここが限界でもある。続きが全く書けないでござる。
一応結末としては
①今の自分は既に小波ユウではない。そのけじめとして遊勝塾を去る。
②なんだかんだ言っても所詮は十四の子供。中身だってやっぱり十八の子供。まだまだ大人の助けが必要な年齢。よって、今まで通り遊勝塾で過ごす。
の2パターンがあるのだが、そこに至るまでのルートが作れない。特に②は柊修造による説教フェイズも含めないといけないから尚更。