機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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第9話

 パナマ・ポルタ。

 地球連合軍が所持する最後のマスドライバー施設であり、月基地の補給ルートの一つである。ここを死守できるか或いは破壊できるか。連合・ザフト両方の天王山といえる場所であった。

 

 

 パナマに向かう潜水母艦でキラは自分が考えた作戦を、通信モニターで作戦会議に参加しているアスランや、現場で隊を率いる隊長達に説明していた。

 

「フリーダムとジャスティスは大西洋側に回り込んで進撃敵の防衛線を突破して背後に回り込んで、敵防衛線をかく乱する」

 

 キラが考えた作戦はザフト軍主力を太平洋側から進軍させ、敵の注意が太平洋側に向いたらフリーダム率いるMS1個小隊とジャスティス率いるMS1個小隊。計2個小隊で大西洋側から進軍して挟み撃ちにすることだった。

 

『フリーダムとジャスティスの火力で敵背後を派手にかき乱して大西洋側が本命と見せかけ、それによって生まれた隙を主力は逃さず一気に押し切るか……一見挟み撃ちに見えるが実は挟み撃ちに見せかけた陽動作戦か……。随分と力任せな作戦だな』

「そう言わないでよアスラン。グングニール降下地点に辿り着くのが目的なせいか、スピット・ブレイク程の戦力は廻してもらってないんだからさ」

 

 アスランの少し元気がない言葉にキラは思わず苦笑して言葉を返す。

 ザフト上層部は今回のパナマ攻略戦の目的を、以前よりアウグストとキラから提案されていた案に沿って、グングニールによるマスドライバー完全破壊とした。だが、スピット・ブレイク損失回復を優先させる為、今作戦に使われる兵力はキラが言った通りお世辞にも多くはなかった。

 

『ヤマト隊長。この作戦では隊長自身が別働隊による挟み撃ちに見せかけた陽動を行うのですか? 少し危険なような気がしますが?』

「確かに危険だけど、アラスカ基地に僅かに配備されていた連合の量産型MSに対するだけなら問題はないよ。それに危なくなったらすぐに撤退して主力と合流する予定だ」

『わかりました。ヤマト隊長の腕を信じます』

 

 この隊長は前回の作戦でキラとフリーダムの力を見たことがあったので、キラが勝算があると言っているのなら陽動の危険性は問題ないと思ったのだ。

 

「主力部隊が現地に到着しだい作戦を開始する。陽動部隊は主力が展開してから5分後に出撃する」

 

 キラがそう言った後、作戦会議に参加していた者達は頷き敬礼するのであった。

 

 

 パナマ基地では連合の守備軍がザフトがいつ来るのか不安を感じながら過ごしていた。

 上の情報ではアラスカで少し弱体化したとあったが、そんな情報があっても一般兵士からすれば安心できるものではなかった。何せ政治家や軍上層部のすぐに終わるだろうという判断で開戦して以来、一方的に負け続けて下士官や兵士の士気は下がる一方なのだ。ブルーコスモスが民衆の敵意を煽っても、現場の兵士の士気が必ず上がるわけではないのだ。

 

「ザフトの次の目標はここだろ? 大丈夫なのか?」

「新型のMSが配備されているみたいだし、ここは守り切れるんじゃないか? 上の連中もここの重要性はわかっているしな……」

「それならいいが……」

 

 その時双眼鏡で海岸を見ていた見張り兵がある物を見つけて叫んだ。

 

「て、敵襲だ! ザフト軍が来たぞー!」

 

 それはザフト軍のMSが大挙してここに押し寄せる姿だった。

 

 

 

 主力がパナマに侵攻を開始した連絡を受けて、大西洋でキラとアスランも発進準備に入った。

 今回の二人が乗るMSは作戦に合わせて用意された、フリーダム・ジャスティス専用大気圏用強襲装備『タスラム』が用意されていた。今回の作戦は陽動なので派手に暴れる必要があるのでこの装備を付けて出動する。ちなみに『タスラム』を見たキラのは「GNアーマーにそっくりだね」っと内心突っ込みを入れるのであった。

 

「キラ・ヤマト。フリーダム行きます!」

「アスラン・ザラ。ジャスティス出るぞ!」

 

 フリーダムとジャスティスは主力の進軍をサポートする為の陽動を開始した。

 

 

 一方主力部隊に組み込まれたイザーク達は太平洋方面から降下ポイントに向けて進軍していた。

 

「キラの奴め! 俺が倒すはずだったストライクを捕獲するとはっ!!」

「落ち着けよイザーク。決着がつけれなかったのは俺も悔しいが、これで追いかけっこがようやく終わったんだ。この作戦が終了すれば本国に戻れるし、休暇も取れるんだぞ」

「そうですよ。これで足付きとストライクによる被害は出なくて済むんですから」

 

 憤るイザークをディアッカと二コルは宥める。無論彼等にも自分達で仕留めたかったという気持ちはあるが、これで足付きとストライクによる友軍の被害が減るのだから、ザフトにとって悪いことではないのだ。

 

 無論イザークもそれがわからない程愚かではない。頭では理解していても感情は納得していないのだけなのだ。

 

「わかっている! さっさと落とすぞ!」

「了解」

「頑張りましょう」

 

 イザーク達は持ち前の力量で敵を撃破していくのであった。

 

 

 

 

 ザフト部隊の主力であるカーペンタリアから発進した部隊は、連合が構築した強力な防衛線に最初は阻まれていたが、旧来の兵器でMSに勝てるはずもなく徐々に前線を突破していく。

 

「これならヤマト隊長の隊の陽動なんていらなかったな」

「ああ、今回は基地全部を制圧しなくてもいい作戦だし」

「この調子なら降下ポイントまですぐに到達できそうだ」

 

 ザフト将兵の一部に楽観的な空気が流れる。

 アラスカより少ない戦力で攻めているのに、次々と敵戦線を突破できているせいだが、そんな空気を読んだ熟練パイロットは自分より若い兵を一喝する。

 

「馬鹿者! 敵はそんなに甘くはない! ここでミスをすればその代償は我らの血で払うことになるのだぞ!」

「も、申し訳ありません! 気を引き締めていきます!」

 

 一喝されたパイロット達は慌てて気を引き締め、目の前の敵に対処する。その時突如横からビームが横切り友軍機を貫通して火の玉に変えた。

 パイロットがメインカメラでビームが飛んできた方向を見ると、そこにはビームライフルと赤い盾を構えた、青い人型MSストライクダガーが銃口を向けていた。

 

「ビームだと!? それにあのMSは一体!?」

 

 ストライクダガーはそのままビームライフルからビームを連射してきた。その閃光にまたジンが一機貫かれ爆散する。

 

「どうだ! 俺達の底力を思い知ったか! 宇宙人!」

「今まで散々やってくれたな! たっぷりとお返ししてやるぜ!」

 

 ここパナマで遂にザフト製量産型MSと連合製量産型MSが激突した。

 

 

 

『連合は新型のMSを導入したみたいです。中にはデュエルに似た量産型の機体なども確認されています』

「前線の動きは鈍り始めたのかい?」

『はい。このままでは降下ポイントに間に合うかどうか微妙です』

「そうか。キラどうする?」

 

 ジークリンデからの連絡を受けたキラとアスランは、現在大西洋側からパナマに侵入してフリーダムとジャスティスの二機による派手な攻撃を行っていた。海岸線沿いの陸地に連合製の兵器のスクラップが散乱している。

 どうやら原作よりザフトの戦力が削られていないことを連合も把握しているせいか、防衛力を強化しているとキラは判断した。

 

 そして、アスランにどうするか問われたキラは、少し考えた後ある決断を下す。

 

「アスラン。こっちは敵の抵抗が弱くなってきたから君に任せるよ。僕の小隊を加えて陽動を続けてほしい。僕は救援に向かうよ」

「お前のことだから心配はないだろうが、油断はするなよ」

「心配してくれてありがとう、アスラン。じゃあ、ここはお願いね」

 

 キラはアスランとジャスティスにこの場を任せて、フリーダムを苦戦している戦闘区域に向かわせるのであった。

 

 

 

 降下ポイントを制圧する為に進軍するザフトと、それを迎え撃つ連合は新型MSストライクダガーとロングダガー(デュエルダガー)等を駆りだして激しい戦闘を行っていた。

 ストライクダガーがビームライフルでジンを撃破したら、次にジンやシグー、ディンの銃撃にストライクダガーが撃破されるなどしばらくの間一進一退の攻防が続いていたが、その均衡は大西洋側からやって来た一機のMSによって終わりを告げる。

 

 ストライクダガー小隊に突如どこからか降り注いだプラズマビーム砲が直撃し、小隊全機がまとめて爆散した。

 

「な、何だ!? ザフトの増援か!?」

「は、早いぞ!? あのMS!?」

「照準が合わせられない!?」

 

 フリーダムのスピードと火力の前にストライクダガーは次々と破壊されていく。更にキラは敵の手薄な所にハイマットフルバーストを撃ちこんで、味方の進軍に邪魔な障害物を徹底的に破壊していき敵前線を崩していく。

 

「隊長が援護に来てくれたぞ!!」

「敵は怯んだぞ! 押しまくれ! 何としてでも降下ポイントに辿り着くんだ!」

 

 キラとフリーダムの活躍に刺激されたザフト兵は、次々と崩れた敵軍を破壊して戦場を制圧していく。遂に一部の者達は降下地点に到達した。

 

「グングニール降下を確認。設置完了しました。起動を開始します」

 

 グングニールの起動パスワードをザフト兵はMSの指で器用に打ちこんでいく。全てのグングニールのパスワードを打ち込んだ部隊は、グングニールを死守するべく連合のMS部隊を迎え撃つ。

 

『グングニール起動まで10秒。9,8,7,6,5,4,3,2,1,0。起動』

 

 無機質な機械音がそう宣言した瞬間、グングニールが凄まじい爆風と電磁パルスをパナマ一帯に放出した。

 その電磁パルスの嵐の前にマスドライバーは崩壊してしまい、EMP対策をしていなかったストライクダガーやパナマの基地機能は全て沈黙していく。ロングダガー等EMP対策を行っていた一部の機体は敗北を悟り撤退していった。

 

 キラは最後の仕上げに降伏した連合将兵の武装解除を命じた後、念の為に興奮したザフト兵が何かしない様に釘を刺しておくことにした。

 

「僕達の勝利だ。降伏した敵は捕虜になるから丁重に扱う様に。虐殺などしたら軍法会議が待っているぞ!」

 

 キラはアラスカの自爆で仲間を失ったザフト兵が、原作みたいに降伏した連合将兵を虐殺しないようザフト兵にそう命じる。

 ザフトはキラの指揮の元武装解除が終わった連合将兵を輸送船で護送しながら、そのままカーペンタリアに帰還するのであった。

 

 これにより連合は自前のマスドライバーを全て失い、月基地は物資のやり繰りにより一層苦労することになるのであった。




パナマ戦終了。捕虜虐殺は何とか防ぐことに成功しました。

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