機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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第13話

 地球連合は立て続けにマスドライバーを奪取する作戦に失敗したことで、宇宙での反攻作戦を大幅に修正する羽目になった。おまけに地球上に残っているマスドライバーは、政情不安な状態に陥っているユーラシア東側にあるカオシュンに加え、マルキオ導師に民間用と偽り、ジャンク屋ギルドを利用して作ったギガフロートだけしか残っていなかった。

 前者は未だにザフトの支配下にあり、後者は大西洋連邦が他国に黙って作った物であるため、存在がばれるだけで外交面で面倒ごとが起こる代物なので容易に使えない。

 

 そして、今の状態が如何にまずいか連合上層部は理解しているが故に、何度も会議を開いて対策を検討しているが、なかなかいい案が思い浮かばない状態が続いていた。

 

「一体どうするのだ? このままでは月基地が干上がるぞ」

「それどころか我らは地球に閉じ込められ制宙権を完全に奪われる」

「カオシュン奪還作戦の準備を急がせているが、あの地域はザフトに連敗したせいで政情が不安定になりかけており、その影響が周辺にまで及んでいる。後方拠点をどこにするか決めるだけで日数が掛かってしまうぞ」

 

 上層部の面々の弱気な態度を見て、アズラエルは思わずこの場にいる政府高官達を怒鳴り散らしたかったが、オーブのマスドライバーを確保し損なったことを思いだしそれを飲み込む。

 

「みなさん。何を弱気になっているのですか。この戦勝たねば何もかも終わりなのですよ」

「アズラエル。だが、マスドライバーを奪還できなかったせいで月基地は干上がり、基地機能は著しく低下した。最早宇宙軍は統制をいつまで維持できるか怪しいと責任者は言ってきているのだぞ」

 

 連合の宇宙での活動する為の拠点プトレマイオス基地は、補給物資を地上に依存していたため、今回の作戦の失敗で徐々に各種物資が底を付き始めていた。現在宇宙軍の将兵はザフトよりも餓えや苦しみと戦っている。毎日催促のように補給物資を送ってくれという要請が連合本部に山ほど来ている。

 

「マスドライバーについてはカオシュン奪還を進めていますが、ビクトリアの時みたいに爆破される可能性がある以上、あれの接収準備を進めておきましょう」

「ギガフロートのことか? だが、あれを利用するのは無理だ。連合政府が接収すれば国内の資本家も騒ぐ。それにあれは移動できるから所在すら容易に掴めんのだぞ」

 

 政府高官の1人がアズラエルの意見に対して疑問を呈した。ジャンク屋ギルドはギガフロートの軍事利用を認めない。そして、この施設を造る為の資金は民間の資本家が出しているのだ。大西洋連邦が連合の名を使って接収すればそっち方面で必ずクレームが来る。

 

「もう手を選んでいる余裕はないのですよ。ギガフロートの件は後々他国と交渉することになるでしょうが、万が一カオシュン奪取に失敗したときの保険は必要です」

「確かにそうかもしれんが、ジャンク屋ギルドは国際的に認められた組織。下手に敵に回せば我らの外交的信用が地に落ちてしまうかもしれんぞ」

「それこそ今更です。力ある者に靡くんです。弱い連中はね」

 

 中立国であるオーブを侵略した時強硬に反対しなかったくせに、今更その様なことを気にする高官にアズラエルは内心苛立つ。

 

「……仕方あるまい。アズラエルの言う通り、我らはもう手段を選んでいる暇はない。今優先するべきことは餓えている月基地の友軍を救うことだ。カオシュン奪還作戦とギガフロートを使用できるように交渉に入る。後者は使用が無理だった場合接収する」

「わかりました。軍は両方の作戦プランを練ります」

 

 追い詰められた地球連合はこうして、地球に残っている最後のマスドライバーを奪取する為、軍事行動を開始するのであった。

 

 

 

 最後の中立国オーブが連合の支配下に置かれたことにより、地球に中立国家は存在しなくなったが、ウズミ・ナラ・アスハの娘であるカガリ・ユラ・アスハが、修復が完全に終わっていたヘリオポリスに脱出して、オーブ臨時政府を樹立したことを宣言した。

 これに対して連合はその政権を認めない方針を取ったが、プラントはこれを承認するか否かを決めるべく、政権の中枢にいる者達での話し合いが行われることになった。

 

 オーブ臨時政府についてカナーバやアウグスト、穏健派の議員は急遽キラが所有するビルの一室で、この亡命政権を認めるか否かの話し合いが行われていた。最もビルの持ち主であるキラは、軍人として任務が入っていたので今回の会合を欠席していたが。

 

「カナーバ議長は臨時政府を承認するのですか?」

「私は認めようと考えています。しかし、一部の議員は無視した方がいいと言う者もいますので、結論を簡単に出すのは早計かと考え、会合にこの議題を持ちこみました」

「確かにそうだな。しかし、オーブの獅子があそこまで頑固者だとは思わなかったぞ」

「ああ。自国が滅びるという瀬戸際でも国是を貫くとは……」

 

 ウズミの行動に何人かは呆れていたが、本題から微妙に逸れるのでこれ以上話題にしなかった。

 

「連合への嫌がらせになるから承認した方がいいだろう。別にこちらの懐が痛むわけではありませんし」

「それに応援だけならただです。それで恩が売れるのなら問題ないのでは?」

「承認した方が将来外交のカードとして使えるでしょう」

 

 会合メンバーの大半は、恩を売れる時に売っておいた方がいいという意見に傾きつつあった。その後も色々な意見が交わされた結果、臨時オーブ政府を認めることが会合で決定し、それを以て会合は終了するのであった。

 

 この会合より数日後。プラントはオーブ臨時政府を承認すると発表して、他の親プラント国もこれを承認するのであった。

 

 

 

 

 

 その頃ザフトは制宙権奪取の戦略を達成すべく、『オペレーション・アルテミス』の作戦計画に沿って行動を開始していた。

 この作戦は月基地制圧を最終目的としたもので、その準備を行うための第一段階として連合軍の懐具合を締め上げるべく、ザフトは通商破壊作戦を積極的に展開していた。その総指揮兼現場指揮を任されているのは特務隊に配属になったキラだった。

 

「キラ参謀長。あなたが連れて帰った漂流していた少女ですが、徐々に体力を取り戻しているそうです」

「そうか。それはよかった。少し様子が気になるけど、今は物資不足な連合相手に物資を売りつけ、ぼろ儲けしようと企むハイエナ共の掃討だ」

 

 キラが率いる艦隊は新型核動力MS運用の為に建造された、新型高速戦艦エターナル級一番艦エターナルを旗艦とし、僚艦に鹵獲したアークエンジェルの技術を解析して、その技術を組み込んで新規に建造された、特装型巡洋戦艦アーテナー級一番艦アーテナー、二番艦プレイアデス、三番艦マイアの三隻を中核にナスカ級戦艦6隻を加えた計で10隻で構成された遊撃機動艦隊だ。

 

 機動艦隊が月-地球間を航行していた時、突如レーダーに所属不明の船舶を探知したと報告が入った。

 

「所属不明艦探知。数は2隻。どうやら民間船のようです」

「この宙域はザフトが封鎖していると告知しているにも拘らずか……」

 

 キラはその報告に眉を顰める。ザフトは連合軍に物資を届ける行為をする者に対して、官民問わず容赦なく撃沈、或いは拿捕すると宣言しているので普通なら船舶等航行しているわけがないのだ。

 

(ジャンク屋か或いは月基地の物資不足を知って儲けようと企んでいるどこかの民間の連中だな)

 

 キラは助けたマユ・アスカのことを一旦思考の外に追いだして、司令官として果たすべき義務の為に行動する。

 

「恐らく連合軍の物資不足を利用して一儲けしようとする連中でしょう。ジャンク屋ギルドには我らの意思を既に伝えてあります。我らとの関係を悪化させる行動を簡単に行うことはないでしょう」

「だが、そう決めつけるのは早計だ。ジャンク屋ギルドはジャンク屋の集まりに過ぎない。中には儲けようと正規軍と衝突する輩もいる」

「例のバクゥ偵察型の頭パーツの件ですか……確かに言われてみればそうですね。彼等の理性に期待しすぎるのは危険かもしれません」

 

 キラの言葉にジークリンデは納得して頷く。

 ジャンク屋ギルドは所詮民間の団体。彼等にあるのは自由という曖昧な信念と、ジャンクを回収して金儲けをすることだけなのだ。信用し過ぎれば手痛い火傷を負うことになると考えて気を引き締める。

 

「それじゃあ警告をした後、従わない場合は容赦なく撃沈する。僕はいざとなったらフリーダムで出るから、その時は艦隊の指揮は任せたよ。バルトフェルド艦長」

「了解。それにしても砂漠の次は最新鋭艦の艦長とはな……。お前さんのやることは相変わらず驚かされるよ」

「褒め言葉として受け取っておく」

 

 バルトフェルドは呆れつつも微笑みを浮かべながらキラに言いたいことを遠慮なく言い、キラは微笑みを浮かべてそれを軽く受け流すのであった。

 

 

 

 新たにこの部隊に配属された赤服のエース、シホ・ハーネンフースは、プラントにとって厄介な敵だったストライクを新たな乗機として、この通商破壊作戦に参加していた。

 

「まさか、新たな機体のデータ蒐集の初陣が通商破壊作戦になるなんてね……」

 

 シホは嘗てザフトの天敵だったストライクを操縦していた。彼女がこの機体のパイロットに推挙されたのは、参謀長であり上司のキラの推薦と彼女自身の優秀さ故だが、些か実験機のようになっている乗機に対して、シホは少し不安を覚えていた。

 

「新型バッテリーの搭載、新型のPS装甲を組み込んで節電を実現。連合で活躍していた時よりも、効率よく戦闘できるようになったのは確かにすごいけど」

 

 シホの新たな乗機となったストライクは、新型バッテリーのパワーエクステンダーに加え、電圧調整可能な新型PS装甲を組み込んだことにより、効率のいい運用が前より可能になった。それとストライク単体にアンチビームコーティングを施した実態剣を装備を追加しており、敵艦のデータから入手した統合兵装マルチストライカーパックのI.W.S.P.を少し改造した装備を付けている。

 

「実戦データを取る為には確かに楽な実戦だけど、相手が民間の輸送船なら性能を発揮する前に終わりそうだわ」

 

 シホは今回の任務では実用的なデータを取るのは難しいかなと思いつつ、任務をこなすべく仲間のMSと共に輸送船に近づいていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この宙域に奴は現れるのだろうな?」

『ああ。凄腕の情報屋である俺の情報網に間違いはない。お前さんの目的の人物はその宙域にいる』

 

 ユーラシア連邦所属特務部隊X旗艦オルテュギア。

 そこでその部隊に所属するMSパイロットと、情報屋がモニター越しで会話していた。

 

「情報感謝するぞ。これで長年の宿願を果たせる」

『あんたの望み叶うといいな。健闘を祈っている(単細胞は扱いやすくて助かる)』

 

 情報屋はモニター越しで会話しているMSパイロットの目的を内心バカにしながらも、自分の為に彼を利用する為彼の憎悪を焚けつけ通信を切った。

 

「貴様に言われるまでもない。あれは俺の獲物だ! 待っていろ! キラ・ヤマト!」

 

 憎悪の瞳をこの先の宇宙にいると思われるキラへ向けながら、カナード・パルスは叫ぶのであった。

 


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