機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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第16話

 ザフト側の準備が無事に終わり、『オペレーション・アテナ』の発動が評議会で了承され、ザフトは大軍を持って地球連合軍の宇宙拠点プトレマイオス基地へ侵攻を開始した。

 

 月基地にいた連合軍は総司令部にそのことを伝え、至急援軍を送るか基地放棄を要請したが、どちらも無理だと言われて絶望的な防衛戦に挑むしかなくなった。

 

 

 ザフトがMS部隊を発進させると、連合軍も負けじと迎撃部隊を出撃させる。

 

「連合軍迎撃機展開。ドレイク級20、ネルソン級15、アガメムノン級5、MA200、MS50です」

「出て来たか。たったそれだけということは、こちらの想定以上に連合の懐事情は厳しいようだな。千載一遇の好機ってやつだ」

 

 エターナルの艦長席で敵戦力の情報を聞いたバルトフェルドは上機嫌に言う。敵の戦力の大半がMAのメビウスという点が月基地の連合軍の窮乏を何より示しているからだ。

 

「キラ。お前さんの出番は今回なさそうだぞ」

「その方がありがたいです。僕に頼る風潮が根付くのはよくありませんからね」

 

 キラはバルトフェルドの軽口にそう返し、自軍と連合軍の戦闘を眺める。

 物資不足でまともに整備すらできなくなってきているのか、敵機は動きにキレがなく次々と撃墜されていく。

 

「敵が弱っていることはわかっていたが……あまりにもあっけないな」

「敵が弱いことはいいことです。さっさと敵兵力を殲滅して月基地を制圧しましょう」

 

 敵の防衛線を容易く突破して月基地に襲いかかるザフトMS部隊。

 連合軍はミサイルや高射砲等で必死に迎撃するが、すぐにそれらも撃ち尽くし沈黙するのであった。

 

 ザフトはその隙を逃さずMS部隊は次々と月基地に侵入を果たし、基地内部の制圧を開始する。そして、数10分後に全施設制圧完了と連絡が入り、ザフト本隊も安全が確保されたのを確認して、月基地に入港するのであった。

 

 

 

 ザフトによる月基地制圧は連合軍の月周辺の支配権損失という戦術的損失だけでなく、連合軍が立てていたプラントへの直接侵攻という終戦戦略を頓挫させることになった。

 

 連合上層部はこの事態にショックを受け、戦略の根本的な見直しを迫られることになった。

 

「これで我々の完全勝利は難しくなったといえる。何とかマスドライバーで戦力を宇宙に上げても我らの拠点が存在しない以上、反攻作戦を行うことなどできんからな」

「泣き言を言っている暇はない。何としてでもザフトの再度地球侵攻を防がねばならんのだからな」

「カオシュン奪還作戦が明日発動されるというタイミングで……」

「月基地にいた宇宙軍はどうなった?」

 

 連合上層部は月基地が陥落したと聞き、そこに駐屯していた宇宙軍はどうなったのかを尋ねる。

 

「戦った者は軒並み戦死しましたが、大半は餓えて士気が下がっていたせいか、出撃した部隊が敗れた途端降伏しました」

「そうか……」

 

 予想通りの回答が返ってきたので、一部の者はがっくりと項垂れる。

 

 一方アズラエルは今回の出来事に内心かなり激怒しており、連合軍の不甲斐なさに憤慨していた。

 

(何をやっているんだ! 大体お前達の決断がいつも遅いせいで、敵に先手を取られているんだぞ!)

 

 アズラエルは体面ばかり気にして決断を渋る連中に苛立つが、彼も今の状況が非常に悪いと認めざるを得なかった。

 プトレマイオス基地陥落により、ザフトに制宙権を完全に取られてしまったので、プラントを直接叩き潰す機会は当分訪れないのだ。それどころかザフトに再び地球への侵攻を許すという屈辱的な状況になれば、戦争継続を主張した者の1人して責任を追及されかねない。

 

「……度重なる敗戦に国民には厭戦気分が出始めている。そろそろ手打ちにするべきなのかもしれんな」

「プラント利権を諦めろということか!?」

「そうは言っておらん。何か勝利と喧伝できる成果を上げて講和に持ちこみ、次に向けて戦力を蓄えるのだ」

 

 政府高官の1人が現在の不利な状況を考慮して、この際和平に持ちこんで次の戦争で倍返しする案を提案する。

 

「つまり、今回の戦争でケリをつけるのではなく、次の戦争まで臥薪嘗胆するということですか?」

「そうだ。その為にはザフトに大きな打撃を与えることが必要だが」

「これ以上戦争を続ければ経済が破綻する恐れがある。悪い手ではないな」

 

 会議の流れが和平の方向に傾き始め、アズラエルは若干焦り始める。ここで和平をしてしまえばプラントを放棄することになるのは確実だ。そうなればロゴスの爺さん共に何を言われるか堪ったものではない。

 

「みなさん! あのコロニーは我らの金で作った我らの資本なのです。それを手放して国民にどう説明するつもりですか!?」

「確かにその利益を甘受してきた我らは大損だろう。しかし、国民はあまりプラントの利益を享受しているわけはないのだぞ? 今はコーディネイター憎しで国民をまとめているが、今では和平を望んでいる向こうの意思と連戦連敗していることが徐々に、世論に浸透してきて終戦を求めるデモ行進まで起こっている有様だ」

 

 プラントから利益を最も得ていたのはプラントを作った、理事国の財界と政治の中心にいた者達だ。プラントが独立するとなれば投資した物を失って大損することになるだろう。しかし、国民の大多数はその利益を受けていたわけではないのだ。だから、プラントが独立しても損をするのは自分達ではなく、ブルジョワだけだと思っている者も多いのだ。

 

「何を言っているのですか! 大衆にはプラントが独立したら、自分達がどれだけ損をするかわからせればいいだけのことです。宣伝工作はすぐに行えます!」

「だが、それとて戦果を上げねば結局意味がなくなるのだぞ、アズラエル」

「わかっています。明日行われるカオシュン奪還作戦とギガフロート制圧作戦は是が非でも成功させなければならないんです!」

 

 政府高官達の意見を、何とか戦争継続に持っていくことに成功したアズラエルは、何としてでも作戦を成功させるよう軍に発破をかけることにした。

 

 

 

「アズラエル理事からは何と?」

「何としてでも作戦を成功させよとのことだ」

「随分無茶を言ってくれますね。理事は」

 

 カオシュン奪還作戦を指揮する司令官は思わず溜息が出そうになった。

 絶対成功する作戦等ないし、これまでのザフトの行動からすれば守りきれないと判断した途端、マスドライバーを破壊しかねない。その様な状況でマスドライバーを無傷で奪還するなど不可能に近かった。

 

「あそこは島である以上制海権を握れば連中を袋の鼠にできるが、山が多くて攻め手側は不利だ」

「そうですね。制空権を完全に奪取しない限りは、上陸しても叩き出される可能性があります」

「こちらもオーブとビクトリアでの損耗もある以上、これ以上は戦力を無駄にできないからな。慎重に軍を進める」

「了解です」

 

 連合上層部の焦りと叱咤に現場を支える軍人達は若干呆れつつも、軍人としての責務を果たすべくカオシュン奪還作戦を開始するのであった。

 

 

 

 連合軍とザフト軍の初戦は制海権の争奪戦から始まった。

 連合軍はザフトの水中MSに対応すべく、フォビドゥンを改造して作られたフォビドゥンブルーとその量産型のディープフォビドゥンを繰り出し、グーンやゾノと激戦を繰り広げる。しかし、性能と数で優れる連合側に軍配が上がり、制海権を掌握した連合軍は台湾を完全に包囲できるようになった。

 

 次に連合は制空権を奪取すべくレイダー制式仕様と戦闘機を多数投入したが、地上からの迎撃もあり思う様に制空権掌握は進まなかった。しかし、ザフトがマスドライバーを破壊すれば今回の労力も意味を成さない以上、あまり追い詰め過ぎるのはよくないと軍部は判断して、囲みの一部を解いて逃げ道を用意しておき、敵をあまり追い詰め過ぎないように配慮しながら進軍を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 連合軍がカオシュン攻略を開始した情報は、無論参謀本部に入った。

 

「こちらの予測通り連合はカオシュン奪取作戦を開始した。準備はできているか?」

「幸い敵はこちらが追い詰められてカオシュンのマスドライバーを破壊しないように、逃げ道を作ってくれています。そこを利用して撤退しきれなかった我が軍の残存は脱出を行っています」

「予定通りカオシュンのマスドライバーも破棄する。幸い、我らも自前の物を作る計画を大洋州連合と進めているからな。本格的な着工は戦後になるだろうが、今は戦争に勝つことが最優先だ」

「はい。プラント在住の資本家を説得するのは骨が折れましたが、会合のメンバーの手回しで、独立が最優先だと何とか説得できましたし」

 

 しかし、マスドライバーを全て失うことは、自分達の物資打ち上げ効率を落とすことになる為、参謀本部ではキラの提案である作戦を行うことを検討していた。

 

「ギガフロートの奪取作戦か……ジャンク屋は我らと顔馴染みの商売相手。何とか説得でこちらの海域に待機するということで手打ちにできないか?」

「カオシュンのマスドライバー奪取が失敗すれば、連合は形振り構わずこれを接収するでしょう。そうなれば戦争は長期化する恐れがあります。それにギガフロートを奪取してこちらで利用できれば、マスドライバーを全て失っても財界や資本家も文句は言わないでしょう。それに……」

「それに? 何だね?」

「ジャンク屋ギルドは傘下のギルドが無法なことをしても、罰しないどころか黙認するなど増長しています。この前の我らのレアメタルを勝手に回収して己の物にしました。無論抗議しましたが未だにいい返答を貰えてません」

 

 キラは折角手に入れた貴重なレアメタルを奪われて以来、彼等の特権を利用した無法な行動に腹を立てていた。無論その件はジャンク屋ギルドに抗議をしたのだが、未だに賠償は勿論、謝罪の言葉すら返ってこない有り様だった。

 

「そこで報復としてギガフロートを接収します。ジャンク屋ギルドにはこの件で文句は言わせません。それに戦後の交渉カードとしても使えます」

「ふむ。自前のマスドライバーを確保できれば戦後の復興もやりやすい」

「ジャンク屋との仲を悪くするデメリットよりも、メリットの方が大きい……悪くはありませんね。最もシーゲルがまた何か言ってきそうだが……」

「マルキオ師と親しい彼には悪いと思っていますが、プラントの為だと言って黙ってもらいましょう。それに永久に保有するわけではありませんし」

 

 キラは戦後自前のマスドライバーが完成したら、返却すればいいと妥協案を出してカナーバを説得する。

 カナーバはそれを聞いて頷き、評議会にかけて作戦の承認を取ることに合意するのであった。

 

 

 

 連合軍は慎重に且つ迅速に進軍してカオシュンのマスドライバーに迫ったが、辿り着いた瞬間カオシュンのマスドライバーは最後の打ち上げを行った後、各所に爆発が起こり最後は自らの重さに耐えきれず自壊した。その様子をを目撃した連合軍は唖然とした。

 

「……作戦は失敗だな。やはり、ザフトがここを残しておくわけなかったか」

「こうなるとギガフロート奪還作戦が承認されますね」

「民間人を相手にするのは本意ではないが、こうなっては止むを得ないだろうな。政府上層部も最早後がないと考えているだろうしな」

 

 今回の作戦を指揮していた司令官はそう言いながら、基地の接収を始めるのであった。

 


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