機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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第18話

 連合が大規模な攻勢を企んでいることを察知したザフトは、その対策を話し合うべく参謀本部で参謀会議を招集した。

 

「連合は恐らく限界なのでしょう。こちらが民間のマスコミ等を通じて流した情報によって、連合軍が大した戦果を上げられないでいることは、徐々に連合各国の世論に浸透しつつあります。だから、戦争継続か講和どちらになっても決戦で大戦果を挙げることで、自分達が不利にならない状況を作っておくのが目的だと思われます」

 

 キラの意見に何人かが頷く。

 連合の形勢が不利なことは誰が見ても明らかだ。マスドライバーを奪還する所か月基地まで落とされてしまい、多数の将兵を失っている。この損失はいくら圧倒的な物量を誇る連合でも、そう簡単に補填できるものではない。

 

「参謀総長はどう思われますか?」

「私も連合が決戦を望んでいることは確実だと考えている。何せ連合は負け続きだ。連合の中には飢餓が起き始めている国もある。それらの国では反戦運動が活発になってきているからな。ここで戦意高揚を行わなければ連合政府のいくつかは革命で倒れることになりかねない」

 

 連合の中で一番国力がある大西洋連邦は比較的まだ余裕があり、コーディネイター憎しを煽ることで民衆の戦意を維持できいているが、他の国はそうはいかなかった。特にユーラシア連邦では冬に強い寒気が襲来した為、電力不足と合わせて凍死する人間が多く出ており、厭戦気分がかなり高まっている。そこに、ビクトリアのマスドライバー奪還失敗と、プトレマイオス基地陥落によって一気に反戦運動が過熱した。ユーラシア連邦を構成する各国政府は、この運動に手を焼いており鎮めることができないでいた。

 

「連合が決戦を挑んでくるとなるとかなりの戦力を集めるでしょう。こちらは数で劣る以上苦戦は確実かと」

「地球は連合のホームだからな。しかし、宇宙を抑えている我らには降下作戦が使える。降下部隊を連中の後ろに降ろして挟み撃ちすれば問題ないのでは?」

「それは楽観的過ぎる考えだ。連中の予備兵力はかなりのものだ。降下部隊の背後に連中の予備兵力がいたら、逆に挟み撃ちにされる恐れがある」

「それでは例のあれを使いますか? あれを連合軍に打ち込んでそこを襲撃すれば問題なく勝てるかと」

 

 連合軍が決戦を仕掛けてくることを前提に作戦を練るが、物量で勝る連合軍に相手に勝利するのは容易ではないと誰もが判断し、ある参謀が建造中の例の兵器を使うべきではないかとアウグストに進言する。

 

「確かにここで無駄に兵力を消耗するわけにはいかん。戦後のことも考えると兵力温存は必須だが、あれの使用は容易にできない」

「そうだな。あれを使えば余計に連合の反プラント感情を煽るでのはないか?」

「それこそ今更だ。連中は自分達が仕掛けたサイクロプスの破壊を我らの所為にしたのを忘れたか?」

「いや。だからこそ、奴らにその様な材料を与えてはならんだろう。ここは苦しいが我らの今動かせる戦力で何とかするしかあるまい」

「それしかないか……そうなるとエースクラスは全員投入せねばならんな」

「核動力MSもです。本国の防衛にフリーダムとジャスティスを2機ずつ残して、残りは全部投入しましょう」

 

 数で勝る連合軍に正攻法で勝利するには、核動力MSを投入して何か策を考えなければ勝利することは難しい。何としてでも敵軍を各個撃破しなければならない。

 

「タスラムを付けたフリーダムとジャスティスによる大火力で、敵の大軍を薙ぎ払うしかありません。それと降下部隊の投入タイミングも重要です。数で劣る我らが勝利するには、連中を分断して各個撃破するしかありません」

「しかし、連合もそれは警戒しているだろう。敵を分断するのは正直難しいのでは?」

 

 だが、連合軍を分断して各個撃破することの困難さはここいる全員が理解していた。何かいい方法はないかとこの場に集まった参謀全員が頭を捻って考えるが、なかなかいい案が浮かばない。

 

 そこで連合がまずどの拠点を狙ってくるか検討することにした。

 

「敵は恐らくジブラルタルを目標にするでしょう」

「何故そう思うのだ?」

 

 キラの意見を聞いた参謀の1人が疑問を口にする。

 

「連合としてはなるべく勝算の高い戦いをしたいはずです。何せここで負ければ大幅な譲歩を強いられるのは連合各国です。そうなれば戦後の統治に苦労します。だから、大西洋と未だに連合が維持しているスエズ基地から挟み撃ちが可能なジブラルタルは最適な場所でしょう」

「確かにそうだな。敵からすれば挟撃できる場所にあるから、狙いやすいだろう」

「それにカーペンタリアは距離があり過ぎる上こちらの勢力圏内です。そこへ大軍を以て遠征するのは補給の面でもきついはずです」

「道理だな。予測に過ぎないがなかなか鋭い指摘だ。だが、少し様子を見る必要があるだろう。少なくとも軍を動かすのは新しい情報が入ってからだな」

 

 キラの意見はなかなか合理的な物だったが、今はまだ予測の域を出ていないので新しい情報が入るまでは軍の移動は控えることになった。

 

 しかし、肝心の各個撃破をする方法についてはいい案が出てこなかった。

 

「取り敢えずバルトフェルドを再び地上に派遣しよう。彼には苦労を掛けるがな」

「コーヒー豆でも送って機嫌を取っておけば問題ないかと。彼の最近の趣味ですし」

「そうだな」

 

 今回の会議ではバルトフェルドを地上に再び派遣することが決まり、各個撃破作戦の案を各自が考えてくることになった。

 

 

 

 

 キラは会議を終えた後、久しぶりにジークリンデと高級レストランの個室で、彼女と一緒に食事を摂っていた。

 

「どうしたのだ? 久しぶりのデートだというのに元気がないな」

「色々と考えることがあってね」

 

 ジークリンデはキラが元気がないことに気付き、心配そうに声をかける。ちなみにこの個室は防音と防諜が完璧なので、政治家や企業のお偉いさんが話し合いの場に頻繁に使われる場所だ。

 

「もしかして、例のあれか? まだ、決まらないようだな」

「ああ。何せ向こうは数だけは勝っているからね。こっちも敗北が許されないから必死に考えているんだよ」

 

 キラも会議が終わった後、色々と策を練ってみたが降下部隊を後方に降下させて、連合軍を挟み撃ちする以外の方法が思いつかなかったのだ。

 連合軍に数で劣っている以上、持久戦はこちらに不利になる。だから、何としてでもこちらが有利に展開できる場所に最低限誘い込み、一度の戦いで決着をつける必要があった。

 

「ジークも何かいい案があったら言ってね。僕が参謀本部に提案してみるから」

「わかった。だが、今は久し振りの逢引きを楽しむことにしようではないか」

「そうだね。気分転換でもすればいい案が思い浮かぶかもしれないしね」

 

 キラとジークリンデは久方ぶりの逢引きを楽しむのであった。

 

 

 

 一方久しぶりに再会した元ザラ隊は、二コルの提案で一緒に食事をして親睦を深めていた。

 

「アスラン。元気がないな? どうしたんだ? そんな辛気臭い表情をして?」

「イザークそう言ってやるな。アスランは婚約が破談になったんだ。少しは励ましの言葉を送ってやれよ」

「ディアッカも気を使ってください! すみません。アスラン。二人にも悪気はないんです」

「気にしないでくれ。元々ラクスとの婚約は政治的な意味合いが大きかったからな。その結果こうなったに過ぎない」

 

 冷やかすイザークとディアッカを二コルは窘める。アスランは二コルの気遣いに感謝しながら、彼を安心させる為に問題はないと言い切る。

 元々アスランとラクスの婚約は相性以外に、プラントの婚姻統制をプラント市民に受け入れやすくするプロパガンダでもあった。それ故にパトリックが失脚した後、彼の犯した失態が大きすぎたのでシーゲルはクライン派の意向を受けて、婚約を破棄することにしたのだ。

 

「アスランならすぐにいい出会いを見つけられますよ。僕が保障します」

「そうだな。アスランはやたらモテたしな」

 

 二コルはアスランを励まし、ディアッカは嫉妬が混じった言葉を口にするが、アスランのモテ時代を思い出したのか顔を俯せにして落ち込んでしまう。

 

「ディアッカはモテなかったからな」

「そうですね」

「そうだな」

「お前等な! 少しはフォローしてくれよな!」

 

 4人は士官学生時代を思いだしながら、和気藹々と会話を楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 連合本部では一大決戦に向けて準備が進んでいた。

 主力を担うMSと戦闘機の準備に、それを輸送する為の艦船や輸送船の大西洋方面への回航、作戦の構築等を急ピッチに行っていた。

 

「MSの数はおよそ1000機揃えました。リニア・ガンタンクは500両、爆撃機・戦闘機も300機用意しました。それらを護送する艦隊の回航も順調です」

「消耗品の補給もほぼ完了しました。作戦構築も完了。後数週間もすれば準備は完了致します」

「そうですか。これだけの兵力を集めたんですから、是非勝ってもらわないと困ります」

 

 アズラエルは慌ただしく準備追われる連合将兵を見ながらそう呟く。

 

「講和するのはまったくもって遺憾ですが、現状ではやむを得ませんね。やはり、月基地を落とされたのがまずかった」

 

 プトレマイオス基地陥落は連合軍の戦略を根本から瓦解させてしまった。相次ぐ敗北に連合各国では反戦デモまで発生するようになり、中には反乱が起きそうな地域まで出てくる有様だった。一部の連合軍はザフトよりもそちらに警戒をしなければならない状況に陥っている。

 

「まあ、精々軍人達には頑張ってもらいますか。ここで敗北すれば彼等の発言力も低下してしまうでしょうし、それは彼等も望んではいませんからね。彼らの奮闘に期待するとしましょうか」

 

 アズラエルは戦後のことを色々と考えながら、自分の仕事をするべく自室に引き返すのであった。

 


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