機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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数ヶ月で卒業はさすがに早すぎるので最短卒業は1年に変更しました。


第4話

 東アジア共和国内で起こった暴動は遂に本格的な武力衝突に発展した。

 政府は大規模な軍の派遣を決定し、敵対勢力は背水の陣を持ってこの戦争を戦う決意を固めた。特に決起した者達はここで敗北すれば主導者は勿論、下手をすれば民族がまとめて浄化される危険性もあるので必死だった。無論、真の敗北は民族の滅亡という結末だが、このまま座視していても戦後復興の名のもとに搾取された挙句、民族浄化もされてしまうという絶望的な二者択一しかない以上、戦う道しかないと心に誓い独立勢力は一致団結するのであった。

 

 独立勢力は連合各国だけでなく、プラントにも支援要請を行っていた。そして、それを受けた各国はどうすべきか対応に困っていた。

 大西洋連邦は南アメリカで手を焼いており、東アジア共和国・独立勢力両方を支援する余裕がなく、自国の信用に傷がつかない様に理由を並び立てて断った。ユーラシア連邦も宗教問題や民族問題が再燃してそれを抑えるのに忙しく他国にまで干渉する余裕がなかったのだ。

 

「連中は支援を取り付けるのに失敗した! 今がチャンスだ!」

 

 独立勢力が支援を得ることに失敗したのを見た東アジア共和国の一部の者達は、他国が何か言ってくる前に決着をつけるべく、大規模な攻勢の準備を始めた。それを察知した独立勢力は守りを固めつつ、ひたすら支援を求めるべく使者を送り続けて何としてでも支援を得るべく奔走することになった。

 

 プラントにも連日支援要請が届いており、評議会内でも議題に上がるたびに、議員の立場によって意見が分かれる等問題が起きていた。

 

 無論この東アジア共和国問題について話し合うべくヴァルハラは緊急会合を開いていた。

 

「まさか、これほど事態が早く進むとは思ってもみなかったですね」

「ああ。正直これ以上誤魔化すのは難しい。プラントとがこの件についてどういう立場を取るのか、そろそろ明確にしなければならない」

 

 会合の席でキラが困った表情をしながら言い、何人かはキラの言葉に肯く。

 カナーバはこれ以上プラントの立場を曖昧にするのは無理だと言い、その意見に出席者達は全員頷く。

 

「今まで適当にお茶を濁してきましたが、ここまで事態が進めば意味を成しません。早々に立場を明確にしないと我が国の信用に関わります。評議会の方は支援をするべきだという意見が多いそうですが?」

「ああ。その一方で無視すればいいという意見もあるな」

「旧式兵器の売却では独立勢力は満足しませんか……しかし、万が一本格的な支援をする場合でも、軍の派遣は不可能なのでは?」

 

 カナーバや出席者達はそう言いながら国防軍のトップであるアウグストを見る。

 

「戦力再編は現在20%程進んでいます。小規模な軍勢の派遣は不可能ではありませんが、それ以上の兵を出せば、現状戦力再編を行っている最中の我が国には負担になります」

「ニューミレニアムシリーズの量産体制が完全に整うまでにはもう少し時間が掛かります。しかし、念の為に軍の編制は進めておきます。これだけ事態が進めば小規模とはいえ派遣する必要が生まれる可能性もありますし。それと最近カオシュン周辺では怪しい艦船が航行しており、実際襲われた船舶もあります。商船や輸送船等を護衛する必要があるかもしれません」

「軍の再編の方はアウグスト参謀総長とキラ参謀長にお任せするしかありませんな。それでカナーバ議長我々はどの様な立場を取りますか?」

 

 アウグストとキラの言葉を聞いた後、出席者達の視線がカナーバに向く。カナーバは自分の考えを述べる為に口を開く。

 

「私としては支援をしたいと考えて要るが、武力衝突が起こったのは内陸だ。物資の輸送は宇宙から送ることになるだろうから、負担を考えるとそれに似合う条件が向こうから提示されない限りは、本格的な支援には応じない考えだ。ただし、カオシュン周辺の治安は早急に回復するべきだろう。被害が大きくなる前に何とかしなければならんだろう」

「それが一番妥当な案ですね。本格的な支援も情勢次第では検討する必要があるかもしれませんが……。しかし、問題はカオシュン周辺海域の安全確保です。商船や輸送船を襲う賊の連中は対岸を拠点としており、積荷の一部を賄賂として現地の軍閥に渡して存在を黙認されています。しかし、理由もなしに他国を攻撃するわけにもいきませんから、奴らの拠点を軍閥ごと粉砕するには連中が繋がっている証拠が必要です。情報局に命じて証拠集めさせていますので、それが整い次第いつでも攻撃できるようにしておきます。……もう少し戦いの規模が広がればそんな手間は必要なくなるのですが……」

 

 キラはカナーバの意見に賛成するが万が一支援する場合、本格的な補給路を確保する為には内戦が広がる必要があると考えていた。宇宙から物資や義勇軍を降下させて送ることは可能だが、東アジア共和国軍に迎撃される可能性がある上、いざ退却するときに退路がない場合義勇軍が全滅する恐れがあるからだ。だから、せめて内戦の影響がカオシュンの近場まで及べば、周辺地域への安定を目的とした軍事介入が可能になれば、内陸への輸送路を確保すると同時に海賊連中もまとめて攻撃することも可能になる。

 

「しかし、内戦が拡大して収拾がつかなくなるのもまずいのでは? ただでさえカオシュン周辺がキナ臭くなっている所に、更に状況が悪化することになれば経済に影響がでます」

「現地の安定とシーレーンの確保は軍が全力を尽くします。しかし、万が一内戦が広がった場合、こちらに飛び火してくる可能性も0ではありません。そこでカオシュン駐屯軍には念の為に準警戒態勢を取らせる必要があるかと考えます」

 

 キラは経済の影響を気にする面々に、軍がシーレーンの確保には全力を尽くすと言って経済界出身のメンバーを安心させる。そして、内戦が広がった場合に備えてカオシュンに駐屯している軍に準警戒態勢を取らせるように提案する。

 

「確かにキラの言う通りだな……。わかった評議会から準警戒態勢を取らせるように軍へ命令させる」

 

 カナーバはキラの意見に賛成し、他の出席者達もその意見に賛成して頷く。

 

「それではプラントは内戦がこちらの勢力圏にまで及んだ場合、正式な介入を行います」

 

 こうして万が一プラントの勢力圏にまで内戦の影響が及んだ場合、東アジア共和国の内戦に介入することが会合で決定されるのであった。

 

 

 

 シン・アスカは自分の卒業成績を見ながら内心喜びつつ、士官学校の廊下を歩いていた。何せ赤服で卒業することがほぼ確定したも同然だからだ。

 

(赤服はほぼ最短卒業がほとんどだって入学時に校長が言っていたし)

 

 プラントの士官学校の卒業は成績がいい者は早くて1年、悪い者は遅くて数年かかるようにカリュキュラムが組まれている(その分軍人として必要な知識や教養を学ぶための内容は濃くなっており、月月火水木金金の週もある)。

 これはプラントの能力主義と戦力不足を補う為に採用されたカリュキュラムで、要するに「基準に達した者はさっさと戦力にしよう」という方針だ。

 

 その結果シンは態度は微妙だが厳しい教官の教育の結果、何とか外に出せるレベルまで修正されたおかげで、最短で卒業組に入ることに成功していた。

 

「シン。教官が呼んでいたぞ。教官室に来いとのことだ」

「レイ。態々伝えに来てくれたのか。ありがとう」

「気にするな。俺は頼まれたことをしただけだ」

 

 シンと同じ時期に卒業するレイ・ザ・バレルは成績優秀で真面目な性格をしており、彼もまた赤服で卒業することが決まっていた。最も彼を軍に入れていいのかと軍内部で議論されたこともあったが、彼の保護者を務めるギルバード・デュランダルが責任を持つということで、彼の素性については深く追求しないことになった。

 

 シンはレイから伝言を受け取ると、そのまま歩いて教官室に向かった。

 

 

 

「自分に用とは何でしょうか?」

「シン。君の卒業後についてだ」

「卒業後ですか? そういうのは卒業時に配属が発表されるんじゃないですか?」

 

 教官の言葉に疑問を覚えたシンは尋ねる。それを見た教官は顔を少し顰めながら、彼の疑問に答える為口を開く。

 

「私としても今言う必要があるかは知らん。そして、何故君が上の目に止まり選ばれたのか疑問なのだがな。だが、参謀本部の命令である以上、伝える義務がある。それにこれは軍機である。卒業して配属先が発表されるまでは口外は許されんから心するように」

 

 シンに対する教官たちの評価はあまりよくなかった。何せ訓練中によく教官に噛みつくことで有名な問題児だからだ。それ故に教官はシンが参謀本部に注目される理由がわからず、内心少し疑問に感じながらも、参謀本部の命令を目の前の卒業予定の訓練兵に伝える。

 

「シン・アスカ。お前は今開発中の新型のテストパイロットに任命された。詳細は卒業後に知らされることになるが、我らが誇る最新鋭機のパイロットつまり、プラント国防軍の顔になる可能性が高いのだ。今の内にその素行を少しでも改めておくように助言しておくぞ」

「はい! シン・アスカ全力で頑張ります!」

 

 シンは教官から伝えられた内容に武者震いを感じながら、綺麗な敬礼をしてその旨を受諾するのであった。

 

 


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