機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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第6話

 キラとジークリンデはシンとマユを二人きりにさせる為に、店を出た後別の店に立ち寄り食事を済ませた後、自宅に帰還して二人きりの時間を過ごしていた。

 

「取り敢えずシン君とマユちゃんの再会を祝して乾杯しようか」

「ふっ。そうだなキラ。乾杯」

 

 キラとジークリンデはそう言ってカクテルで乾杯した。

 

「二人の再会の為にあんな場所まで提供するなんて、相変わらず根はお人好しだなキラは。最もそこがいいんだがな」

「ありがとう、ジーク。ジークだけだよそう言ってくれるのは」

「何れお前の妻となるのだから夫を気遣えなくてどうする。私がお前の心の拠り所になってやるから存分に甘えていいんだぞ」

 

 ジークリンデはそう言って、手を広げて私の胸に飛びこんで来いとキラに身体で表現する。

 

「本当にありがとう。そう言ってくれると心が楽になるよ」

 

 プラントの為とはいえ、数々の謀略を仕掛けて犠牲を強いることは性根がお人好しなキラにとって、強烈なストレスを感じる行為であった。しかし、政治の世界で甘えを見せて敵国に隙を見せれば、プラントやそこに住む人達が窮地に陥る事態になりかねない。だから、心を鬼にしてプラントの安全保障を築き上げるべく全力を尽くしている。

 

「それよりも、折角婚約したんだ。そろそろ結婚式を上げたいし婚姻届も出したいのだが……構わないか?」

「まだ早いと思うけどな……。それに結婚式はお互い忙しいからいつになるかわからないよ。僕は次は地球に降りて軍を指揮しないといけないし」

「わかった。結婚式の準備も私がしておこう。出席者達の予定を聞く必要があるからな」

 

 キラと関わりの深い人間は大抵がプラントの重鎮や各分野のスペシャリストが多い。それ故に全員の都合を合わせる為にもそれなりの根回しが必要になるのだ。尤もキラ自身が多忙なので、結婚式を挙げる時間が取れないでいるのだが。

 

 しばらく、キラとジークリンデは二人でお酒を楽しんでいたが、あんまり飲むのは身体によくないので、適当な所で切り上げて寝ることにした。

 

「明日も早いからそろそろ寝ようか。仕事に差し支えがあるとまずいから」

「まだ、9時だぞ。寝るのはさすがに早すぎるから、私とベットを共にしてから寝てくれないか。どうせ重役出勤なのだからな」

「わかったよ。でも、今夜は激しくなりそうだから覚悟はいいかな?」

「望むところだ」

 

 キラとジークリンデは久方ぶりの逢瀬を楽しむであった。

 

 

 東アジア共和国の内戦は時間が経てば経つほど悪化の一途を辿っていた。

 各地で軍閥が台頭して、次の覇者となるべく武力衝突が起こっており、東アジア共和国はすでに形骸かしているといってもいい状態だった。

 キラはこの内戦を利用して徹底的に連合の戦力を削るべく、連合各国から安く買い叩いた旧式兵器を各勢力に売り払ってプラントと自社の懐を温めつつ、情報局と協力して内戦をもっと激化させるように仕向ける。

 

 連合各国は何とか内戦を止めるべく介入を考えていたが、自国の再建がまだ終わっていない段階での介入は難しく、内戦が拡大していくのを見ていることしかできなかった。そして、介入が無理だと悟ると各国は方針を転換して軍閥を支援することで、自国の経済を建て直すことを優先するようになっていった。

 

 大西洋連邦はプラントに利する行為だと各国に釘を刺したが、自国の財閥群が大戦で失った損失を補填する為に積極的に軍閥を支援し始めると、次第に大西洋連邦の態度も内戦で儲けることを重視し始めるようになった。

 

「予定通りだ。東アジア共和国は空中分解寸前だ。これで後はカオシュン周辺の安定さえできれば問題ない」

「キラ参謀長。物資の受け取りのサインをお願いします」

「わかってるって。久しぶりだね、セシリア」

「お久しぶりです。私は今回派遣部隊の補給責任者になりました。どうかよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼むよ」

 

 キラはセシリアと挨拶を交わした後、必要な物資の目録を渡してそれが必要な理由を述べた。それを聞いたセシリアは「わかりました」と言って頷き、キラの仕事部屋を後にするのであった。

 

「それで大陸の様子はどうなの?」

「よくありません。一部の軍閥は我らに支援を求めてきてますが?」

「却下。我が軍に遠征して駐屯する余裕はない。当初の戦略通りこちらに手を出して来た勢力を撃退する」

 

 キラは参謀本部が決めた計画通り、カオシュン周辺の安定を優先させることにしていた。カオシュン襲撃を企む連中を一蹴して一気にこの地域を安定させる。それがプラント最高評議会が決定した東アジア共和国地域に対する方針だった。

 

「必要な準備が整い次第出撃する。無論連中もこちらを攻める準備を進めているだろうが、先手を打って敵遠征軍を拠点ごと破壊する」

「了解しました」

 

 キラの言葉にジークリンデは敬礼で応え、自らも出撃する為の準備を行うべく部屋を出て行くのであった。

 そして、数日後プラント軍はカオシュン攻撃を企む者達を撃破すべく、カオシュンから臨時編成されたヤマト隊(軍勢の数は1個師団相当)は出撃するのであった。

 

 

 

 プラントがカオシュン周辺の安定を目的とした、匪賊討伐を掲げて福建省に出撃したことは無論連合各国の耳に入ったが、各国は具体的な行動を起こさなかった。

 

「プラントは一時的に占領するだけで最終的には引き揚げるといっている。それならうるさく言う必要はないだろう」

 

 大西洋連邦のとある政府高官はそう言い、プラントが本格的に侵略行為をしない限りは傍観する立場を取った。ユーラシア連邦は内戦の影響が自勢力に飛び火しないように国境に軍隊を配備して睨みを利かせたが、積極的な行動を起こすことはなかった。

 一方東アジア共和国政府は反乱勢力の拠点になっているとはいえ、自国の領土が攻撃されることに対してプラントに抗議したが、プラントは「貴国がいつまでたっても反乱勢力を鎮圧できないのが悪い。それどころか我が国の権益まで狙っている不届きな賊を退治するだけだ」と正論で返して東アジア共和国の抗議を退けた。

 

「プラントは賊に対して断固とした対応を取る」

 

 プラントは賊退治という大義名分を掲げ賊の拠点となっている場所に向けて、容赦のない攻撃を開始すると宣言した。

 プラント軍は制空権と制海権を掌握後、容赦のない爆撃を加えて上陸地点の安全を確保した後、MS部隊を上陸させて軍閥の拠点に攻撃を開始した。

 

「連中の所持している兵器は時代遅れの物ばかりだぜ!」

 

 プラント将兵は敵のお粗末な兵器を見て若干呆れつつ、その的当てゲームのように敵機を次々と撃破していく。

 プラント軍は数と質で敵を圧倒して拠点を次々と制圧していき、勝利を確実にした。

 

「目的は達した。後は評議会の政治家に任せる」

 

 プラント軍は政治的成果が得られるまで治安維持を名目に一時駐屯し、周囲に睨みを利かせるのであった。

 

 

 

 

 

 その頃、シンはいつもよりも気合いを入れてテストパイロットを務めていた。

 

「シンの奴。気合いが入っているな。何かあったのか?」

「さあ。でも、いいじゃないですか。気合いが入っているのなら。この調子なら正式なパイロットに採用されるのも近いですね」

「それは参謀本部が判断することだがな」

 

 シンが搭乗しているコアスプレンダーを見ながら、インパルス担当チームはそう呟く。

 今日のシン・アスカはいつもよりも気合いの入れ方が違ったので、何かいいことでもあったのかと思ったが、プライベートのことなので突っ込まないようにしていたのだ。

 

 コアスプレンダーで飛行しているシンは、マユと再会できたことでより一層軍務に励むことにした。マユへの説得は結局自分が説得される形になってしまったが、自分が頑張ればマユを危険な目に合わさずに済むと考えたからだ。  

 

(今度こそ大切な者を守って見せる!)

 

 シンは改めてそう心に誓い訓練に懸命に励むのであった。

 

 

 

 ラクスは父シーゲルに昨今のプラント情勢について話してもらっていた。

 ラクスは歌手活動をしながら政治家になるべく勉強をしており、ヴァルハラが密かに運営する政治塾に通っていた。その政治塾でラクスは優秀な成績を残しており、塾生の中でも特に注目されている人物の1人になっている。

 

「プラントの国内情勢はやはり大変いいのですね」

「ああ。地球圏から復興に必要な資材の受注が多数来ているからね。プラント理事国以外とは仲も悪くないしな」

 

 シーゲルが言った通り、プラントは今地球国家再建の為に必要な物の受注が多く舞い込んできており、プラント企業は好景気に沸いていた。

 

「だが、地球圏の情勢は不安定になる一方だ。ジャンク屋ギルドはジャンクが増えるから悪くないと考える者もいるようだがな」

「それはさすがに少し不謹慎ではないですか? ジャンク屋の方々が戦争をどう捉えているかわかる言葉ですわね」

「彼等も人だということだ。無論我らもな」

「わかっています。政治に必要なのは現実を見据えて行動することですから」

 

 元々聡明だった故に政治塾で勉強して政治が何たるかを学んだ彼女の言葉に、戦前は世間知らずな所もあったが今ではすっかり芯の強い人物に育ってくれたことに、シーゲルは内心では安堵しつつ思わず苦笑してしまう。

 

「それよりもカナーバ氏からお誘いはありましたか?」

「私を推薦する場合、ジャンク屋ギルドに配慮するような行動をやめることが最低条件らしい」

「カナーバ氏達は余程ジャンク屋がお嫌いなのですね」

「ジャンク屋ギルドを特に嫌悪しているキラ君がいるからね。彼からすればジャンク屋ギルドは、さっさと解散させるべき組織に過ぎないらしい」

 

 シーゲルも一度キラに会った色々話してみたが、彼のジャンク屋ギルド嫌いは相当な物であった。おまけに力づくで解散させる為に、軍を派遣すべきだという意見まで出る始末だった。

 シーゲルは説得を試みたが結局平行線で話し合いが終わり、ジャンク屋ギルドに関しては物凄く意見の相違があることだけが確認できただけだった。

 

「キラの意見を変えるのはどうやら無理そうですわね。見た感じは頑固そうに見えませんでしたが……」

「彼にも譲れない一線はあるのだろう。そこが私の意見と相容れないのだがな」

「それは仕方がありません。政治家には譲れない信念を持つことは大切ですから」

 

 ラクスはジャンク屋の件でキラがあまり譲歩していないことを知っていたが、この様子だと父が会合と呼ばれる話し合いに参加するのは当分無理だろうと思った。

 

「キラ達と分かり合う為には、話し合いの機会を持つことが大切です。少しずつやっていくしかありませんわ」

「そうだな」

 

 ラクスはキラ達と分かり合うには時間が掛かると思ったが、いずれ自分もキラと話し合いの機会を設けるべきだと考えるのであった。

 

 この日を境にキラとラクスの話し合いは増えることになるのだが、ジークリンデに変な勘違いをされてしまい、彼女を宥めるのにキラは後日苦労するのであった。

 


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