機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト 作:幻龍
キラとジークリンデは現地の治安回復を別の隊に引き継がせた後、カオシュンに一足早く帰還していた。
「あっさり終わりましたね」
「当然だよ。相手はMSを数十機しか持っていない賊だからね。後れを取ったら末代までの恥だよ」
「そうだな。それにしても参謀長はもう次の仕事ですか?」
「うん。新型の開発主導を行っている以上、長くプラントを留守にするわけにはいかないからね。現地での観光はお預けだよ」
新型の開発は自分の主導の下に行われている。最高責任者兼技術者が遠くに出かけていてノータッチ状態が続くのはさすがにまずい。新型機開発の遅れは自分の責任になってしまうのだ。
だから、キラは報告書を纏めたらカーペンタリアに戻ってすぐに帰国するつもりだ。
「私はしばらく参謀長の代理としてここにいる必要があります。ここでの仕事と引き継ぎが終わり次第自分も戻ります」
「悪いけど後は任せたよ。僕は今日中にカーペンタリアへ戻るから」
「わかりました。どうかお気をつけて」
キラは後のことをジークリンデに任せて、報告書を出した後すぐにプラントへ舞い戻るのであった。
プラントが匪賊&海賊討伐を掲げて、彼等が根城にしている拠点へと侵攻してあっという間に匪賊や海賊事粉砕したことは世界各国に伝わった。
各国は「まあ、当然の結果だろう」という反応しか示さず、深く興味を持たなかった。たかが地方の田舎軍隊と統率に欠ける賊集団が、精強なプラント軍に勝てる理由等ないからだ。
「予想通りの結果だな。これで連中は己の身を守る為に軍事力増強へと走らざるを得ないだろう」
「ああ。プラントを失った我々の損害を少しでも補填する為にも彼の国には少々踊ってもらうしかないだろう」
「これで軍需兵器等の需要が見込めるな。さっそく旧式でもいいからMSを買いたいという注文が多数来ている」
「我が国はダガーLに主力を更新しつつあるから、廉価版のストライクダガーは売り払っても構わんだろう。在庫一掃セールが行えるな」
連合各国の経済を裏で支配しながら、政治にも多大な影響を持っているロゴスのメンバーは、自分達の損失を補填する為に大陸の内乱を利用することを考えていた。
何せプラントが独立しただけでなく、電力事情も完全に解決していないため、経済は悪化の一途を辿っており民需は落ち込む一方で回復する気配がない。
だから、自分達は消耗せずに戦争特需で儲けることが可能な他国の内乱は、彼等にとって実においしいビジネスチャンスだった。
「政府は東アジア共和国への支援を検討しているそうだ。ここで地球連合が空中分解するのはまずいからな」
「東アジア共和国政府は未だに強いし、金もある。そこへ武器を売り込んで再び再統一させれば問題ないだろう」
「ああ。だが、すぐに終わっては意味がない。最低でも我らの利益が充分出るまでは内乱が続かなければいかん」
「プラントは既に敵と和平交渉を開始したらしい。いずれ、プラント軍はカオシュンへと引き上げるだろう」
「交渉内容はどうなっている?」
ロゴスメンバーの1人が報告を上げてきた部下に尋ねる。
部下は難しい顔をしながら口を開く。
「犯人の引き渡しと賠償金を支払うことを承知する可能性は高いかと思われます」
「あれと引き換えにか?」
「はい。カオシュンに拠点があるプラントとしては対岸に親プラント勢力がいる方が都合がいいでしょうし……」
「そうなるとユーラシア大陸東は我らとプラントの代理戦争の舞台になるかもしれんな。最もプラントもこの内乱が長く続くとは思っていないだろうがな」
「それはそうだろう。我らが東アジア共和国を本格的に支援すればプラントは傍観に徹するだろうな」
プラントの将兵は強力だが数は多くない。プラントは今回の勢力圏拡大に合わせて戦力再編に取り組んでおり、本格的な介入はしてこないとロゴスのメンバーは見ていた。本格的な激突が避けられるのは連合としてもありがたかった。連合各国も自国の復興と戦力再編に忙しく、この時期に全面戦争等御免だったからだ。
「取り敢えずコープランドの奴に支援を本格化するように進言しておくか」
「うむ。我が国の為にも聡明な大統領は承知してくれるだろう」
ロゴスメンバーの1人は皮肉を口にした。現大統領であるジョセフ・コープランドはロゴスと関わりの深い人間であり、実質彼等の傀儡ともいってもいい人物だからだ。大統領が彼等の要請を断ることなどできるわけがない。
「ここまで事態が深刻になってしまった以上は、精々我らの為に利用するということで異論はないな?」
「ああ」
「当然だ」
「問題ない」
「ないな」
大西洋連邦を影で動かすロゴスもこの内戦を利用して、自分達の失った財の建て直しを図るのであった。
オーブ連合首長国は自爆したマスドライバーやモルゲンレーテの再建を行いつつ、自国の建て直しに奔走していた。何せ一度大西洋連邦によって難癖をつけられて国を焼かれたのだ。その復興は容易ではなく、代表を務めるカガリは休暇を取る暇もなく仕事に打ち込んでいた。
幸い復興資金の方は、いくつかのオーブの技術売却(流失した物を改めて正当に買い取った)で捻出した資金を元にして行っている。
「東アジア共和国で内戦か……我が国も復興を疎かにすれば起こる可能性があるから、注意しなければならないな」
カガリはセイラン家の助力を得ながら、嘗てのオーブを復興するべく奮闘していた。
国を守る為の新たなドクトリンの作成や、それを可能にするための新型MSや新技術開発を推進したり、旧式になってきた一部の兵器を他国に売却するなど色々と自助努力をしていた。
「プラントに多大な借りを作ってしまった以上連合各国と仲良くするのは難しい。オーブ国民も理不尽な理由で国を焼いた大西洋連邦と追随した各国を快く思っていないからな」
カガリとしてはスカンジナビア以外の国との国交回復を実現したかったのだが、オーブがプラントの力で独立を回復したことでプラント寄りで思われていることと、オーブ国民の反連合感情から難しいと判断していた。
「早いとこ各国と正式に国交を回復しなければいけないが、慎重に行う必要があるな。やれやれ、そこまで辿り着くのに茨の道だな」
オーブ代表として政治を行う者としてカガリの悩みは尽きないのであった。
キラはプラントに帰還してすぐに参謀本部への報告を済ませ、その足でアーモリワンの工廠に赴いた。
「新型の開発はどうなっているの?」
「インパルスはテストパイロットの適正がいいのか、いいデータが集まっていますよ。そろそろ本格的な合体テストを行いたいと考えています」
「許可する。インパルスはセカンドシリーズの要だからね。何としてでも完成させないといけない。参謀本部もこの機体には期待しているからね」
インパルスはセカンドシリーズ5機の中で中心となる機体だ。それ故に他の機体以上にインパルス開発の遅れは許されない。
「僕はセイバーの開発に戻るからインパルス開発は頼んだよ。また、様子を見に来るから」
「わかりました。そちらもどうかお願いします」
キラはインパルス開発チームのリーダーにそう言った後、5機の中で唯一自らが深く関与している、セイバーの開発を行っている場所へと向かうのであった。
「キラ会長。おはようございます」
「うん。おはよう。それで開発の方はどうなっている?」
「会長のおかげで順調です。それで他4機の開発は順調ですか?」
「当然だよ。これだけ金をかけてできないなんて言わせるつもりはないからね」
キラはそう言いながらセイバーを組み立てている工廠の様子を見る。
「セイバーはやはり他の4機より完成が遅れそうだね」
「設計を多少変更したからやむを得ないかと……。しかし、完成度はより高まりますので問題ないかと思います」
「本来のセイバーの主翼位置を変更したからね。そのせいでもう一回地球に降ろして大気圏飛行テストをやる羽目になったから仕方ないか」
キラはセイバーの主翼位置をヴァンセイバーと同じにした。その他にもセンサーの改良やファトゥム形態展開可能にする等改良を加えている。
「キラ会長。セイバーのテストパイロットは決まったのですか? 未だにセイバーだけテストパイロットがいないのでは完成したとき他4機との連携訓練等が行えない気がするのですが?」
「この機体のテストパイロットは特務隊のアスラン・ザラに任せるつもりだよ」
「何と! しかし、彼にはジャスティスがあるのでは?」
アスラン・ザラはプラント軍でも有名なエースパイロットだ。核動力機ジャスティスを乗機としていることも有名で、いくらセイバーが最新型とはいえ、核動力を持つジャスティスと比べるとセカンドステージMSでも若干性能的に劣る。彼程のパイロットならそのまま正式なパイロットに任命される可能性は高いが、ジャスティスから乗り換えてくれるとは研究者は思えなかったのだ。
「そこは問題ないよ。何せアスランの乗っていたジャスティスは修理も限界に近づいているからね。そろそろ解体する予定なんだ」
アスランはジャスティスに乗って前大戦で大活躍したが、最後の決戦で機体が中破してしまった上、その活躍に比例して機体に大きな負担を齎していた。その結果、整備で機体の性能を維持するのに限界が近づいてきていた。
そこでキラはアスランに近々開発されるセカンドステージMSのテストパイロットを要請し、そのまま正式なパイロットになってもらうつもりだと伝えており、アスランもジャスティスが近々解体されることがわかっていたので、キラの要請を了承した。
「それなら安心です。機体の完成を急がなければならない理由が増えました」
「その意気だよ。なるべく5機で試験運用を行いたいから完成を急いでね。僕はそろそろ参謀本部に戻るよ」
「了解しました」
キラの言葉を聞いた研究者は、一層気合いを入れて開発に勤しむと言い放った。
キラは研究チームがやる気を出してくれたことに満足気な表情して、開発チームに発破をかけたあと工廠から出て行くのであった。