機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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評価がどんどん下がってきており、若干凹んでいます。作者のメンタルはガラス細工並みに弱いので……。


第8話

 プラントと現地勢力の間で和平交渉が行われていたが、遂に和平内容に双方が合意して和平が結ばれることになった。

 和平内容はプラントは賠償金を要求しない(商船などの被害は補償する)代わりに、賊を匿っていた件を謝罪して賊を厳重に取り締まることと、再び官民問わず被害が出た場合、すぐさま損害を補償して賊を引き渡すことなどが取り決められた。そして、和平が締結した翌日プラント軍は現地から、順次カオシュンに引き揚げていった。

 しかし、ここで予定外のことが発生した。プラントの賊討伐の動きが引き金となり、東アジア共和国の情勢が著しく悪化。正に混沌ともいってもいい状態になった。その結果東アジア共和国の権威は地に落ち、独自の道を模索する地域や国が現れる始末であり、彼の国の結束は時間が経つにつれ弱くなっていった。 

 

 

 

 地球圏が極東を中心に混乱が大きくなっている頃、プラントではキラとアウグスト、そしてカナーバの3人は国家戦略について話し合う為、会合でよく使用する料亭の一室に集まっていた。

 

「東アジア共和国の崩壊も時間の問題だな」

「ええ。これで各国が独立してくれれば御の字です。無論そうなるように色々と手を回す必要がありますが」

「地球連合の解体の第一歩だな。最初で躓くわけにはいかない。こっちも私が持つ独自の伝手を使って、接触を計っている。日本に至っては独自のMS開発を行っているらしい」

「さすがフジヤマ社を有する国だな。彼等と技術交流を行えばナチュラルを侮る輩も減るだろう」

 

 プラントのコーディネイターは元々存在していたナチュラル蔑視の感情に加えて、大戦に勝利したことでナチュラルを侮る風潮がプラント内で出始めていた。そこで、それを叩き潰すいい口実としてこちらの技術者と地球国家の民間企業との交流をアウグストは考えていた。

 

「それはいい考えだ。こちらからも呼びかけてみよう。他国を侮る風潮が国民に根付くのは好ましくないからな」

「あれだけ連合軍に苦戦したことを忘れて、その様な戯言を吐く輩がいるとは……本当に救いようがありませんね」

 

 カナーバはアウグストの提案に賛成する。

 キラはあの大戦は薄氷の勝利だったのに、現実を見ることもなく楽勝だったと思っているお花畑思考の連中に呆れてしまう。

 

(そんな連中に権力を持たせるわけにはいかない。今まで以上に監視を強める様に情報局と連携しなければいけないな)

 

 キラは監視と教育を強化する必要があると判断し、今度情報局と話し合いの場を持つことにした。

 

「技術交流についてはグラム社でも検討してみます。話を戻しますが日本はこちらに接近する動きがあります。大西洋連邦は連合に残るように説得しているみたいですが、アラスカの一件と今回の件で大西洋連邦が各国を統制できていないことが晒されたので、両国ともあまり聞く耳を持っていないそうです」

「信用できない国家と同盟は組めないからな。特に日本は一度大西洋連邦の中心となっているアメリカに見捨てられている」

「はい。2ヶ国をプラント依りにするには、我らが信用できるということを証明する必要があります。特に日本は信義を重視する国なので付き合いには最適ですが、こちらも誠意を見せる必要があるでしょう」

 

 キラはいざとなればNJCを重要な部分をブラックボックス化した物を、提供する必要があるだろうと考えていた。地球国家の悩みはNジャマーによる電力不足。NJC提供を親プラント国になった暁に提供すればこちらの印象もよくなる。

 

「国家間の交渉は政府の仕事なので、カナーバ議長にお願いすることになりますがいいでしょうか?」

「わかった。プラントの国際的孤立を避けることは必要だと私も考えているからな。しかし、もう少し私達の負担を減らしてほしいのだが?」

「苦労をかけてすみません。しかし、信用と信頼両方兼ね備えている政治家はカナーバ議長とアウグスト国防委員長しかいませんから。他の政治家はコーディネイターの能力を過信する連中が多いので、今一舵取りを任せるのが不安なんですよ」

 

 キラはそう言って二人に頭を下げつつ、2人に頑張ってくださいと激励の言葉を贈る。2人はキラのお願いに何ともいえない顔になったが、彼の言うことは尤もなので頷いた。

 

「せめてヴァルハラが運営する政治塾で育った政治家が表舞台に立てば少しは楽になるですが……」

「まだ、未熟な者は多い。最低でもあと1年は学ばせる必要があるだろう」

「政治塾といえばシーゲル元議長の娘さんも通っていましたな」

「はい。どうやら歌手活動はそこそこに政治の勉強を真剣にやっているようです。門下生の中でも特に成績優秀です」

 

 キラはラクスが自分の政治塾に参加していることを知った時は驚いた。最初は自分達のことを探りに来たのかと疑ったが、調査してみるとどうやら純粋に政治を学びに来ただけだった。それ故に彼女が学ぶ意志がある以上拒否することもできずにそのまま塾に通わしていた。

 

「彼女のカリスマ性に政治力が加わればやっかいですが、この政治塾はヴァルハラメンバーを増やすことも兼ねています。うまく彼女を取り込んで手綱を握ればこちらの有力なメンバーにすることも可能です」

「ふむ。そうなればシーゲル前議長の動きを掴みやすくなるし、クライン派をうまくコントロールできるようになるかもしれん。揉め事は少ないことに越したことはありませんからな……」

 

 キラは多少の監視は必要かもしれないと内心では思っていたが、ラクスをメンバーに加えることも検討すべきと2人に提案し、アウグストはそれを聞いて彼女がこちらのメンバーになるのなら悪くないと考え始める。何せ面倒事が少なくなることはいいことだからだ。

 

(彼女をうまく利用できれば大衆コントロールがしやすくなるしね……)

 

 それに彼女のカリスマ性をうまく利用できれば、世論操作がしやすくなるかもしれないとキラは考えた。原作での影響力を考慮すると悪戯に敵に回すことはないのだ。ちなみにラクスの成績は上位5人に入るほど優秀だったので、キラは「原作キャラ恐るべし」という感想を改めて抱いていた。

 

「連合国家は自国の再建と戦力再編を急いでいますが、民衆の不満を解消するほどには至っていません。一部の国家では責任を我が国に擦り付けることで不満を宥めていますが、それも限界に近づいてきています」

 

 連合構成国家の政府上層部はプラントがやったことを利用して何とか民衆の不満を宥めていたが、一向によくならない生活環境に民衆は苛立ちと不満を募らせていた。連合国の政治家の中には自分の失態までも、プラントのせいだと責任転嫁する者までいるが、その様な政治家は寧ろ国民から白い目で見られている。

 大西洋連邦は何とか国民の不満を政府から逸らすべく、ブルーコスモス思想を利用しようと考えたが、そのブルーコスモスが盟主であるアズラエルの消滅により、組織の再建に忙しくその様な行動を起こす余裕がない状態だった。

 

「ブルーコスモス思想を煽ったら我が国から物資を購入しにくくなるのがわからんのか?」

「一部の政治家にとって国民の生活よりも自分の地位のが重要なのでしょう。尤もブルーコスモスは現在組織の再建に忙しくて民衆を扇動するような行動は慎んでいるようです」

「ブルーコスモスの新盟主は誰がなったのだ?」

「ロード・ジブリールというアズラエル以上に過激な意見を言う人物がなったそうです。最も財力や手腕はアズラエルより遥かに劣る人物だそうです」

 

 キラは原作でのジブリールの行いを思い出しながら、彼の人物をカナーバやアウグストに説明する。

 2人はその説明を聞いて深く考え込んだ後、自分の考えを述べるべく口を開く。

 

「その様な者がブルーコスモスのトップになったのは厄介だな。万が一評議員が彼の情報を知れば、連合討つべしという機運が広まるかもしれん」

「これは思ったより再戦が早くなるかもしれませんね。キラ参謀長。セカンドステージの完成を急いでくれ」

「わかりました。すでに機体は組み上がっています。現在テストパイロットが運転して欠陥や問題がないか随時チェックしています」

 

 セカンドステージMSはセイバーを除いてすでに完成しており、現在は試運転を行っている最中だった。

 

「セカンドステージを運用する為のミネルバ級戦艦ミネルバはどうなっている?」

「すでに8割程完成しています。武装のほとんどはアーテナー級と規格統一を行っているので問題はありません。陽電子砲に関しては地球圏で放っても環境に悪影響を与えない改良型を積んでいますので、地球圏でも充分な火力を発揮することができます」

 

 ミネルバはアーテナー級巡洋戦艦で有用と判断された武装が多数搭載されていた。陽電子砲に至っては環境に悪影響が出ないように改良を施した物を搭載することで、地球圏での運用も視野に入れている代物であり、現在は量産型の艦に搭載すべくコスト削減を目指して改良中である。

 

「アーテナー級巡洋戦艦のコスト削減はうまくいったのか?」

「こちらも武装を減らして防御力を上げることでうまく量産に適した艦に仕上がりそうです。今はMSの生産を優先していますが、こちらも量産体制が整い次第量産を開始する予定です」

 

 アーテナー級巡洋戦艦は万能艦を目指して建造されたので当初は製造コストが高く、少数しか建造されなかったが、グラム社はこの艦を次期プラント軍の主力艦にするべくコスト削減と改良に励んでいた。その努力が実り、ナスカ級と同程度の値段まで下げることに成功し、性能は軒並み向上させることに成功した。試験運用も良好な結果を残していたので建造が始まっていた。

 

「新兵器の製造は順調です。それで戦力再編の方はどうなっています?」

「すでに全体で70%程終わっている。最前線を戦う部隊の旧式MSを徐々にニューミレニアムシリーズに変えている最中だ。地球圏の戦力再編はほぼ終わっているから地球で活動するのに問題はない」

「そうか。それを聞いて政治を担当する者としては一安心だ。これで突発的な出来事に対処しやすくなった」

「宇宙は我らの庭だから旧式でも対処できますしね」

 

 カナーバはアウグストの言葉を聞いて安堵し、キラも地上軍の再編が思ったより進んでいることにほっとした。

 プラントは次の戦場が地球圏と想定しており、地上に駐屯する戦力を整えることを優先していた。

 アウグストもそれは理解しており、宇宙軍を後回しにしてでも地上の戦力再編をしていた。無論宇宙軍の方も疎かにしていないが。

 

「そろそろ料亭が閉まる時間になります。この辺でお開きにしましょうか」

「そうだな。今回は色々と意見交換ができた。本格的な議論は会合で話し合うことにしよう」

「それがよろしいかと。プラントは独裁国家ではあってはならないのですから」

 

 3人は物事を数人で決める体制がよくないことを理解していた。あくまで多くの者達の賛成を得て政策を進めることが、プラントの未来に取っていい結果を生むと思っている。最も世論に振り回されて衆愚政治にならないように匙加減が必要だということもわかっていた。

 

「より善い未来の為にお互い頑張りましょう」

 

 キラのその言葉で今日の話し合いは深夜まで行われることになった。

 

 

 

 

 

「お父様。前から聞きたかったのですが、なぜお父様はカナーバ議長やキラが入っている政治組織に入りたがるのですか?」

 

 そのころキラ達の話し合いの話題に出されたラクスは、父親であるシーゲルと話をしていた。ラクスは自分が前々から疑問に思っていたことを尋ねることにした。

 

「お父様はそれほど権力に執着する方ではないことは私が知っています。プラントも無事に独立した以上中央権力に固執する必要はないかと思われるのですが?」

「私も最初はそう思った。プラントは独立した以上私が政治中央に返り咲く利点はあまりない。寧ろカナーバからは戻らない方がいいと苦言をもらったほどだ」

 

 シーゲルはカナーバが自分に対して、政治中央に戻らない方がいいと言われた理由を薄々感づいていた。だから、当初はこのまま評議員を続けるが、再び中心になることは考えていなかった。

 

「最近彼女たちはザフトを軽視して自分達の組織だけで政治を動かしている。それが国益に適っている以上はうるさく言うつもりはない。だが、このまま彼らに反対する者がいなければ、いずれ取り返しのつかないことになると思うのだ」

 

 シーゲルがヴァルハラに入りプラント政治の奥深くに再び関わることを決意した訳。それはヴァルハラがこのまま権力を独占した結果、政治が腐敗してプラントが危うい状態になるのではないかと考えたのだ。

 

「彼らのやっていることは賢人政治だ。だが、賢人といえど反対する者がいなければ腐敗するしかない。だから、私は当初はこのままで政治参加を望んだが、カナーバに断られてしまった。無論入れなかった理由もわかっている。だから、私は方針を変え彼らの組織に入って上で、時には彼らの政策に反対意見を言える立場になろうとしたのだ」

 

 シーゲルはカナーバ達が作った組織が腐らないように、組織に入って憎まれ役を買って出るつもりでいた。しかし、その目論見は彼を警戒しているキラにより頓挫しており、シーゲルのヴァルハラ入りはほぼ不可能だった。

 

「そうでしたか……。それでは私を彼らの運営する政治塾に入れたのはもしかして?」

「ああ。あそこは彼らの組織の一員になるための資格検査も兼ねている。そこで注目されれば組織に入ることが可能だ」

 

 ラクスのカリスマ性は父親であるシーゲルから見てもかなりのものだ。ラクスがうまく組織に入ればその力で一定の派閥を形成できるだろう。無論足の引っ張り合いは論外だが、そこらへんは娘も政治塾に入っているせいか充分理解できるようになってきているので問題ない。寧ろ彼女が優れていれば優れているほど、現実主義者が多い組織では重宝されるだろう。

 

「お父様。御心配は無用ですわ。キラはいい人ですし、私が行き過ぎたことをしない限りは排除等しないと断言できます。それに彼らもイエスマンばかりが増えることに憂慮しています」

「そうか。お前の成績はいいからな。彼も気になったのだろう」

 

 ラクスはそう言って父を安心させるべく言葉をかける。

 シーゲルはラクスの言葉を聞いて、娘がヴァルハラに入る日は近いと確信した。

 

「私もプラントの未来を守るために頑張るつもりです。その為にもキラに気に入られなければいけませんわね」

「私的に気に入られるのはあの法案が通ってからにしてくれ。最近彼から苦情をもらってしまったからな」

「わかりました。以後気を付けます」

 

 シーゲルの苦言に対してラクスは微笑みを浮かべながら頷いた。

 


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