機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

4 / 40
3話でお気に入りが200件超えたことに驚いている筆者です。




第3話

 プラント本国から派遣された増援部隊はアスラン隊から作戦を提案されてそれを渋々了承し、第八艦隊の索敵エリア近くで待機していた。そして、10分後には敵の索敵範囲に突入することになっていた。

 

「『増援部隊はこのまま連合軍に向かって進撃。敵が向かってきたら迎撃を行った後、順次MS部隊を発進させて敵本体を叩くべし』か。我が隊を囮に使うとは元クルーゼ隊の連中は元隊長殿の教えをしっかりと受け継いでいるようだな」

「艦長。あまりそのことは話題にしない方がいいかと……。国防委員長の耳に入ったら叱責されるだけでは済みませんよ」

 

 アスラン隊からの要請に対して思わず皮肉を口にした増援部隊を指揮する艦長に副長が宥める。

 英雄ラウ・ル・クルーゼの裏切りはザフト内部に大きなショックを与えている。そして、クルーゼを重用していた国防委員長のパトリックは、彼の裏切りで肩身の狭い思いをする羽目になったのでその手の話題はザフト内でしない方がいいのだ。 

 

「ふん。ナチュラル共に通じていた裏切り者に好き勝手させていた国防委員長は何故責任を取って辞任しないのだ? それに国防委員長の息子が今やその隊を引き継いで隊長だぞ? どう考えても今回の作戦はパトリック・ザラの得点稼ぎではないか」

 

 この増援部隊を指揮する艦長は元々あの胡散臭い仮面男クルーゼを信用するに値しない人物とみていた。それ故に彼が裏切り者だと暴露されたときはそら見たかとクルーゼを英雄と言っていた者達に対して散々皮肉を言いふらしていたほどだ。

 

「今回の作戦は参謀本部でも承認が出た以上文句を言っても仕方がないかと。それよりもこれだけお膳立てされたのですから、真面目に働かないとそのアスラン隊のように周囲から顰蹙を買うことになりかねません」

「そんなことはお前に言われんでも分かっている。2個小隊発進。事前に通達した通りに動け。残りのMS隊は先行部隊発進後順次発進して指定の場所で待機せよ」

 

 軌道会戦の狼煙がザフトから上がった瞬間だった。

 

 

 

 

 地球連合軍はザフトのMS部隊接近を感知してすぐに陣形を整えて迎撃準備を開始した。手始めに偵察部隊と思われる小隊を撃破すべく連合お得意の物量作戦を展開。メビウス60機と巡洋艦3隻は数の暴力で敵を押し潰し、先制攻撃を仕掛ける為発進した。

 感知された数は4機だったがジンとメビウスのキルレシオは1:3かパイロットの腕しだいではそれ以上の差をつけられることもあるので、相手の戦力の5倍に値する数を発進させたのだ。無論兵力の小出しでは? と意見する者もいたが、アークエンジェルを無事に降下させるのが目的なので、敵に接敵されないことに越したことはないとハルバートンが判断し先制攻撃することになった。

 

 アークエンジェルが第八艦隊を援護するためMS発進許可を申請してきたが、指揮官であるハルバートン准将はそれを却下し、アークエンジェルはGを地球に届ける為の降下に入るように命じた。

 

「連中が後退していく? どういうことだ? それに偵察部隊だけで本隊が見当たらないぞ?」

 

 先陣を切るメビウス小隊の隊長がザフト部隊の急な後退を見て訝しむ。ザフトは自分達連合軍人より基本的に優れた能力を持つので自分達を劣等種と見下しており、おまけにMSという新型兵器による質の優位を今の所持っている。自分達と邂逅したらまず間違いなく仕掛けてくる。何せザフトの優れた軍人は時に数的有利を凌駕するパイロットも多いのだ。

 それに自分達を発見して一撃も喰らわせずに後退するなど普通はありえないことなのだ。何せ連合はユニウス・セブンに核を撃ちこんでいる為こちらに敵意を持っている者も多いのだ。

 

「メビウス程度に怯む連中ではないはずだ……まさか!? 先鋒部隊全員急いで後退せよ!」

 

 先鋒部隊を率いる隊長は罠だと気付き後退を指示するがすでに遅かった。その瞬間左右上下から弾幕の暴風が降り注いだ。最初のその一撃で60機あったメビウスの20機が撃墜され、10機が損傷する被害を受ける。

 

「完全にしてやられたか!? 全機急いで本隊まで撤退せよ!」

 

 隊長がそう命じるがすでにメビウス隊は奇襲によって混乱しており、組織的な撤退が行えず次々とジンとシグーに撃墜され火炎球となっていった。

 

「ちくしょう!? 追いつかれる!?」

「た、助けてくれ~!?」

「うわああああー!? 隊長ー!」

 

 メビウス部隊は大した対処ができずに次々と宇宙を照らす花火へと変わっていく。隊長は冷や汗が一気に吹き出しながらも自ら死地から撤退を開始した。

 

「くそ!? まんまと罠に引っ掛かるなんて連合の将の質も落ちてきているということかよ!?」

 

 祖国の勝利を疑っていない隊長であったが、それまでにどれだけの被害が出るのやらと自軍の不甲斐なさと上の無能さに思わず歯噛みした。

 

「死にたくなければ全力で撤退しろ! それと上へ罠に掛かったと報告を……なっ!?」

 

 隊長機の目の前にMS用の突撃銃を構えたジンが銃口を向けていた。こうして先鋒部隊の隊長は率いた隊と共に宇宙の塵となって消え失せるのであった。

 

 

 

 

 

「何! 先鋒部隊が全滅だと!?」

「はい。敵の不意打ちを受けメビウス隊は全滅。巡洋艦2隻が撃沈。1隻が鹵獲されました」

「おのれ化物共が!?」

「ザフト軍は徐々にこちらに近づいてきています。如何いたしましょう?」

 

 オペレーターの言葉に指揮官達は司令であるハルバートンに顔を向けて指示を仰ぐ。

 ハルバートンは少し考えた後おもむろに口を開き指示を出す。

 

「我々の目的は敵の撃滅ではなく。アークエンジェルをアラスカに降下させることだ。艦隊は現在の陣形を維持して敵を迎え撃つ」

「しかし、勢いにのるザフト軍相手に防衛線を維持できるでしょうか?」

 

 一人の将官がある不安を口にする。相手は被害なしの士気の上がるザフト軍。こちらは迂闊にも送り出した部隊が全滅してしまい士気低下が著しい数だけが多い軍。

 数は確かに力であるが絶対ではない。実際の戦というのは将才と士気が大きな要素を占めるときもある。第一次世界大戦でのタンネンベルクの戦いではドイツ軍12万に対して、ロシア軍は40万にも関わらず被害はドイツ1万2000人に対してロシアはその10倍ともいえる10~12万も被害を出して大敗している。

 

(このまま守りの体勢で果たしてザフトを撃退できるのであろうか?)

 

 増援が送られてきて第八艦隊の戦力は増えていたが、先程の敗北によって戦闘中に兵士がザフトに対する恐怖を再燃して士気が崩壊して戦闘中に総崩れにならないか心配した。

 

「問題ない。我らの目的はアークエンジェルとG兵器を降ろすことだ」

「しかし、アークエンジェルだけに拘って第八艦隊の被害が大きくなったら我らは宇宙で不利になり戦略に支障が出る恐れがあります」

「第八艦隊の鉄壁の陣形に隙はほぼない。ザフトも形勢不利を悟れば数で劣る以上深入りはしてこないだろう」

 

 第八艦隊の練度はかなりのもので開戦当初に優秀な将兵を多数失った連合の中では貴重な戦力であると同時に、簡単にはやられないという自負が第八艦隊の将兵にもあった。だから、一度攻勢を跳ね返せばザフトは戦力を無駄使いできないので撤退するだろうとハルバートンは読んだ。

 

「陣形はそのまま! ザフトの連中にプロの軍人の実力を見せつけるのだ!」

 

 ハルバートンは将兵を鼓舞しながら指揮を取るのであった。すぐそばに死神が潜んでいるとも知らずに。

 

 

 

 

 

「連絡。『敵先鋒部隊を撃滅す。大魚は罠に掛かった』だそうです」

「予定通りだな。ヴェサリウス並びガモフは発進。標的は第八艦隊と足付きだ!」

 

 艦長であるアデスが全軍に進軍命令を下す。

 そして、一気に第八艦隊に向けて進軍を開始した。

 

「アスラン隊長率いるG部隊から連絡。奇襲に成功したと入りました」

「そうか、我らも頑張らねばならぬな」

 

 アデスは映像でたったの四機ながら次々と敵MAを火球にしたり、敵艦を沈めていくG部隊を見ながらそう呟いた。

 

「しかし、まだ敵の数が多い。このままでは包囲されてしまうぞ。残りのMS部隊発進。四機を援護するんだ!」

「了解です、MS部隊発進準備を開始します」

 

 アスラン隊のほとんどのMSがアスラン達の援護と自分の得物を求めて発艦した。

 

 

 

 

「何とか成功しましたね。アルテミスの時と違い本当にできるか不安だったですけど」

 

 第八艦隊崩壊の序曲は奪取されたブリッツガンダムによる奇襲から始まった。

 ブリッツは本国で用意されていた特殊装備を付けてミラージュ・コロイドによるステルスで敵旗艦の懐に入り込むことに成功し、ハルバートン准将がいる敵旗艦メネラオスを撃沈することに成功した。そして、ミサイルや機雷を大量にばら撒いて傷跡を大きくする。

 

「さっそく撃ちこんできましたか。さっさと退散することしましょう」

 

 ブリッツが付けているのはミーティアの試作として製造されたMS用特殊ブースターであり、ミラージュ・コロイドによる奇襲をする為の奇襲専用装備だ。最もこの装備は試作用に開発された物を改造しただけで本格的な量産は見送られることになったらしい。

 二コルは勿体無いと思ったがミラージュ・コロイドを搭載した機体を量産するのは難しいと技術者から聞いているので仕方がないと割り切った。

 

「後は頼みましたよ。アスラン、ディアッカ、イザーク。僕は一旦補給をする為に戻ります」

 

 二コルはブースターを点火して物凄いスピードで第八艦隊の展開する領域から撤退した。

 連合将兵は旗艦が潰されたことに憤慨したが、今度はイージス、バスター、デュエルが混乱する艦隊へ襲いかかったので、それの対応に追われるのであった。

 

 

 

 

「二コルの奴、派手にやったな」

「あいつにしては上出来といえるか」

 

 ディアッカとイザークは混乱する第八艦隊を見て思ったより戦果を挙げた二コルに感心する。

 

「二人とも二コルがうまくやったんだ、俺達が失敗したらこれまでの成功が無意味になる。絶対に成功させるぞ」

「はっ、貴様に言われるまでもない!」

「(やれやれ)じゃあ、さっさと行きますか」 

 

 アスランは優等生のようなことを言い、イザークがそれに噛みつくといういつもの光景にディアッカはやれやれと思いながら艦隊に突っ込むアスランと張り合うイザークの後に続くのであった。

 

 

 奪取されたG兵器の第2の奇襲が第八艦隊に猛威を振るい艦隊の傷を広げ将兵の士気を下げる。

 そこへヴェサリウスとガモフ率いる部隊が到着し、半ば恐慌状態になっていた第八艦隊を次々と撃墜する。ハルバートが万全を期した陣形は智将であるハルバートン司令の戦死と、彼が主導したMS開発計画のG型MSの威力によって壊滅してしまう。

 アークエンジェルは何とか降下ポイントに到着し、大気圏突入に成功したことで任務は達成されたことを確認した後、生き残っていた部隊はこの戦場から撤退しようとしたが、この数分後到着した囮を行ったザフト部隊との挟み撃ちによって増援にきた部隊諸共全滅し、後に低軌道会戦と呼ばれる戦いはザフトの大勝で終わった。

 この会戦以降地球連合は制宙権確保が難しくなり、ザフトの通商破壊によって輸送船を撃沈される等宇宙での活動に苦労する羽目になった。

 

 

 

 低軌道にて連合軍第八艦隊を殲滅したという情報がザフト参謀本部に届き、今回の作戦を推進した関係者は無事に作戦が成功したことに安堵した。

 

「これで連合の宇宙での活動は鈍る。通商破壊をもっと行うように上へ提案するか」

 

 キラは通商破壊を強化させて月基地を締め上げることを考えた。パナマのマスドライバーが機能している間は焼け石に水だろうが、『パナマ・ポルタ』を破壊できればいずれ無視できない損害になる。

 

(プラント情勢は思ったよりよくないから、常に橋を叩いて渡るつもりで考え行動しないといけない……自分が生きていける場所の確保のためにもここで躓くわけにはいかない)

 

 キラは上に持っていく意見書を書きながら、改めて気を引き締めるのであった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。