機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト 作:幻龍
キラはサイクロプスの事実を確認する為に、フリーダムの火力とスピードを武器に一気に敵戦線を突破することに成功していた。味方にも一気に敵基地へ突入すると伝えてあるので問題ない。昔から訓練しているからこれでも白兵戦闘能力は高いのだ。
「予想通り敵基地中枢は空っぽ。これなら容易に辿り着けるかな」
キラは突撃銃を持って基地内部に潜入していた。無論サイクロプスの起動を確認して証拠を取る為だ。しばらく歩いているとNジャマーが効いているせいかよく聞こえないが、連合の部隊からの増援要請と思われる通信が聞こえる部屋を発見。
「ビンゴ。どうやらここが敵の司令室みたいだ……ここも誰もいないな」
司令室は司令官どころかCICすらなかった。ただ、味方の増援要請或いは撤退指示を仰ぐ通信に、録音された命令が繰り返し発せられている。
コンピューターのコンソールを弄って行くと、画面にサイクロプスの発動シークエンスと規模が映し出される。
キラはこの時の為に用意していたサイクロプスの発動を遅延させるための、妨害プログラムをハッキングを行いシステムに遅延をかける。
ハッキング作業が終わり、発動後約10分後に爆発するようにしたキラは、専用プログラムを回収して懐にしまい、部屋から出て行く。
「どうやら、急いで撤退した方がよさそうだね」
わかってはいたが実際見て体感すると改めて何とも恐ろしくて効率のいい作戦だ。敵の戦力を削るだけでなく、ライバルであるユーラシア連邦の力を削ぐことができ、その上戦後も軍事力の優位を確保できる一石三鳥の戦略だ。
全ての確認と証拠を掴んだ後、キラは急いでフリーダムの元に戻ることにしたが、途中で誰もいないはずの基地に足音が聞こえてきたので近くの部屋に身を隠す。
「誰もいない……どうなってやがる!? アークエンジェルは!?」
(ムウ・ラ・フラガ!? やっぱり基地に舞い戻ってきたか!?)
本来大西洋連邦の将兵は全員避難或いは避難中だったが、ムウだけはアークエンジェルが気になり戻ってきたのだ。そして、基地の異変に気付いてアークエンジェルを助ける為にザフト相手にこれから奮戦する。
ムウはサイクロプスのことを確認した後、血相を変えて司令室から飛び出して行った。それを確認した後キラは元来た道を引き返しフリーダムの置いてある場所に急いで戻り、フリーダムに乗り込み急いで母艦へ帰投するのであった。
一方基地がサイクロプスによって自爆することを知らないアークエンジェルは、この場を死守しようと奮闘していたが、ザフト軍の数が多すぎて友軍が次々と脱落していき徐々に劣勢に陥っていた。
そこへ友軍の戦闘機がアークエンジェルに不時着しようとするのを見つけ、格納庫に避難命令と発火を防ぐ準備をするように慌てて命じた。
「少佐!? 異動になったんじゃあなかったんですか!?」
「艦長は?」
「ブリッジにいますが?」
「そうか。それとストライクの出撃準備をしておいてくれ」
ムウはマードックにそう言ってマリューがいるブリッジに向かった。
ムウはマリューと再開し、上からどんな命令を受けているかマリューに尋ねた。持ち場を死守せよとしか聞いていないことを言われると、ムウはアラスカ基地にサイクロプスが仕掛けられていることを明かす。
マリューそれを聞いた瞬間上層部がどのような作戦を立て、自分達に何を命じたのかを悟り頭の中が一瞬真っ白になった。しかし、ムウの励ましで何とか気を持ち直し、囮としての役割を自分達は果たしたと判断。現場を離脱することを決意し僚艦にもそう命じる。無論この命令は戦線離脱という軍規違反だが、マリューは船員達を無駄死を強要することはできないと思い、軍紀違反である戦線離脱を命令・実行した。
「艦長が決断した以上、俺も気合い入れていきますかね」
ムウは格納庫でストライクに搭乗する。
「少佐! どうか頼みます!」
「任せとけって。俺は不可能を可能にする男だぜ。ムウ・ラ・フラガ! ストライク出るぞ!」
ムウは絶望的な撤退戦を成功させるために己を鼓舞しながら、戦場へ出撃するのであった。
「こちら、キラ・ヤマト。旗艦応答せよ」
『こちらジークリンデです。キラ隊長如何いたしましたか?』
「敵の様子は?」
『敵の抵抗は相変わらず微弱です。これならメインゲートに取りつくのも時間の問題かと』
ユーラシア連邦や大西洋連邦で厄介者扱いされた連中だけしか出撃していないせいか、ザフトの快進撃は停滞していないようだ。まさに罠を掛ける側としては嬉しい状況で今頃大西洋連邦の上層部はゲスの微笑みを浮かべているだろう。
「いいか。よく聞け。先程、敵基地内に威力偵察してきた」
『いくら威力偵察とはいえ、敵の基地まで侵入するなんて無茶しすぎですよ! キラ参謀!』
「小言は後で受けるから、今は言い争いをしている場合じゃないんだ。どうやら僕達は嵌められたらしい。敵の基地はもぬけの殻だった」
『何ですって!? では私達は誰もいない基地を攻めているのですか? 敵が逃げたのならそれは好都合なのでは?』
キラの言葉にジークリンデは驚くが、敵が逃げた程度なら別に問題ないのでは? と思い少し焦っているキラの声を聞き首を傾げる。
「まだ、最後まで話してないよ。基地の地下にサイクロプスが仕掛けられている。このままでは敵基地に深く侵攻した頃合いに起動して、僕達は全滅の憂き目に遭うしかない。だから、すぐに上にこのことを報告して全軍を撤退させるんだ!」
『サイクロプス!? ほ、本当ですか!?』
「本当だ! 敵がやけに弱いのも一部しか迎撃に出ていないせいだ。恐らく今僕達と戦っている敵は捨て駒にされた連中だけだ」
『た、確かにそう言われるとこの弱さに辻褄が合いますが……「責任はいざとなれば僕が取る! だから、上へ連絡を!」わ、わかりました。すぐにその様に対応します』
ジークリンデはすぐに本部にその旨を伝える。
暫くして本部から命令が下り、アラスカ侵攻部隊に対して撤退命令が下される。
『本部は全軍撤退命令を出しました。すぐに各部隊へ通達します。ただし、何もなければ軍法会議にかけるとのことです』
「いざとなれば覚悟するよ。爆発までもう時間があまり残ってない。僕は各戦線を回って撤退を援護する」
『わかりました。どうかお気をつけて』
ジークリンデからの言葉を聞き、キラは彼女に微笑みを向けてモニターを切る。
「ここで死ぬわけにはいかない。何としてでも撤退するしかないな」
キラは通信を切った直後、悲壮感が含んだ声でそう言い、フリーダムを駆って各戦線へ赴くのであった。
ザフト軍に撤退命令が出る少し前。
アークエンジェルはサイクロプスの威力範囲から逃れる為、僚艦と共にザフトの猛攻を凌ぎながら敵戦線を突き破るべく、ひたすら前進していた。
ムウがストライクで援護をしてくれているので艦は致命傷を負わずに済んでいるが、武装も徐々に破壊されており、対空砲火に穴ができるのも時間の問題になってきていた。
「ちっ。基地はくれてやるんだからさ。俺達は見逃してくれよな!」
ムウは次々と襲いかかってくるザフトMS部隊を迎撃しながら、逃げる自分達に容赦ない追撃に対して愚痴を零す。
そこへレーダーが新たな敵影を確認する。
「あれは例のザフト部隊か!? こんなときに現れるなんてついてない!」
ムウは強敵の出現に内心舌打ちする。あの部隊をこの状況で相手にしていたら逃げる時間が足りなくなる。
「アークエンジェル! 主砲で奴らを牽制しろ! 絶対に艦へ取りつかせるな!」
アークエンジェルがゴットフリートをザラ隊に打ち込む。
ザラ隊はその攻撃を難なく躱すが隊はばらけてしまい、更にブリッツのグゥルだけは敵僚艦の攻撃が命中し、爆散。ブリッツが海へ着水する。
ブリッツを落とされて怒ったのかイージスとデュエルはビームを僚艦に撃ち、バスターは94mm高エネルギー収束火線ライフルを放った。G兵器3機の火力に成すすべなく僚艦は撃沈してしまう。
だが、攻撃中の隙を見逃す程ムウは甘くはない。ムウはバスターのグゥルをビームライフルで撃ち抜く。グゥルは内蔵してあったミサイルに引火して大爆発を起こし、火球へと変わる。空中での移動手段を失ったバスターは重力に引かれて海へ落下し、盛大な水しぶきを上げて水の中へ沈んだ。
「ディアッカ!? ストライク! 俺が相手だ!」
「俺は右から攻める! イザークは左からだ!」
「うるさい! こんな奴俺一人で充分だ!」
アスランはイザークに連携してストライクを撃墜すること提案したが、仲のいいディアッカが落とされたことで頭に血が昇っているのか怒鳴り声で断られる。
ストライクに突進していくデュエルを見て思わず溜息をつくが、さっさと足付きを落とさなければならないので、彼を援護すべくイージスをストライクへ向かわせる。
「しつこいね! まったく!」
「落ちろストライク!」
ストライクとデュエル・イージスはしばらく激しい接戦を繰り広げる。
しかし、次第にパイロットの疲労が溜まっていたストライクの動きが鈍くなり始める。その隙を逃さずアスランはグゥルのミサイルとビームライフルをアークエンジェルへ撃ちこむ。
それを見たストライクはアークエンジェルの援護に向かおうとしたが、デュエルの蹴りを喰らってしまい体勢を崩してしまう。そこへイージスが手足のビームサーベルを展開して斬りかかってきたが、ムウはそれをぎりぎりで躱し、逆にスラスターを全開にした体当たりでイージスを海へ叩き落とした。
「アスラン!? ストライクめ!」
デュエルはビームサーベルで斬りかかり、ムウはストライクを横に逸らすことで攻撃を躱しビームサーベルで反撃を行う。しばらく激闘を行った両者であったが、その時ザフト側に新たな命令が下されたことでこの戦いも終わりを告げる。
「撤退だと!? そんな物が!? くっ、折角の好機を目の前にして!」
デュエルは急にストライクと距離を取り、後ろを向いて基地とは正反対の方向へ飛び去って行った。
ムウは周囲をストライクのカメラで見渡してみると、ザフトのMS部隊が次々と何かから逃げるように撤退していくのが見えた。
「まさか、ザフトもサイクロプスに気付いたのか!」
ムウはどんな理由でザフトが気付いたのか疑問に思ったがこの好機を逃す手はないと思い、アークエンジェルに通信を入れる。
『俺はこのまま甲板で援護するから、全速力でこの場から離れろ! 今しかチャンスはない!』
「わかっています! 全速前進! この戦闘地域から離脱します!」
アークエンジェルはザフトの妨害をたまに受けつつ全力でこの場から離脱した。
キラはザフト部隊が撤退を始めたのを見計らって、敵軍への攻撃を止めて自分も離脱を開始した。
「自爆まであと少ししかないな。どこまで撤退できるか……」
撤収している自軍と平行して飛びながら、どこまで被害を抑えることができるか不安に駆られる。万が一半分以上被害を出せば地上軍の立て直しは不可能になり、オペレーション・ウロボロスの戦略は頓挫してしまうからだ。
味方の撤収を確認する為一時停止したとき、キラは見覚えのある艦を見つけた。
「足付き!? 何であそこにいるんだ?」
キラは偶然アークエンジェルを見つけてしまった。
何であそこにいるかわからずキラは少し考え込む。そして、これからのことを考えていた時あの艦を見てあることを思いつき、それを実行することにした。
「ちょうどいい。せっかく見つけたんだから逃す手はないな」
キラはフリーダムの進路をアークエンジェルがいる方へ向けた。
そして、その数10分後サイクロプスが起動して、アラスカ基地は巨大な電子レンジとなった後消滅するのであった。
「何とか脱出できたな」
「ええ」
ブリッジでムウとマリューは、サイクロプスに巻き込まれず無事に脱出できたことにほっとしていた。
アークエンジェルは先の戦闘で損傷した各箇所の補修を行う為に艦が下りられる島に着陸しており、そこで艦の補修が終えるまでクルーに休憩を取らせている。
マリューとムウも休憩を取っており二人で先程のザフトの急な撤退について話していた。
「それにしても何故ザフトは急に撤退したのでしょう?」
「普通に考えたらサイクロプスの存在に気付いたと考えるのが一番納得できるが、連中が知る訳もないしな」
「ええ。一部の味方すら欺いたこの策が容易に見破られるわけはない」
マリューは味方ですら秘密にしていた作戦を敵が知る機会はないし、ザフトの攻勢を見る限りその気配もなかった。
「恐らく誰かが途中で知ってそれを全軍に通達したって所だな。奥深く侵攻していたザフト部隊は撤退に間に合わず自爆に巻き込まれただろうし」
「ええ。あの慌てぶりから見て知らなかったのは間違いないわ」
ザフトの撤退がかなり慌てた物だったのは事実である。だから、自爆範囲外へ逃げるのに間に合わなかった者もいたのだ。
色々悩んでいるマリューに、ムウは笑顔を彼女に向け元気づけるように声をかける。
「まあ、今は無事であったことを神様に感謝しようぜ」
「そうね……最もこれからのことを考えると憂鬱になりそうだけど」
マリューはムウの励ましに少し元気を取り戻すが、今後艦と人員をどうすべきか色々と考えると頭が痛くなった。何せ自分達は軍令違反を行ったのだ。普通に帰還したら待っているのは軍法会議で下手をしたらクルー全員口封じの為に銃殺刑にされるだろう。
「取り敢えず今は休む時だ。今後のことはみんなで考え……レーダーに反応!?」
ムウがそう言った瞬間突如艦のレーダーが敵を感知した。
そして、それはすぐに画面で確認できるまで高速で艦に接近してきた。
「僕はザフト所属、キラ・ヤマトです。あれの詳しい話を聞きたいので御同行願います」
ガンダムフェイスの青い翼をもつMSがこちらまで高速で飛行してきて、アークエンジェルの目の前に滞空してビームライフルの銃口を艦橋に向けてくる。
「かなり若い声だな。まずは……「あなた達を拘束します」問答無用かよ!」
ムウは向こうが交渉する気がないことを悟り、彼は内心舌打ちする。マリューは目の前のMSを操縦しているパイロットに話しかける。
「クルーの身の安全と命の保障はしてくれるのですか?」
「そちらがこちらの言うことを素直に聞いてくれれば。取り敢えず武装解除をお願いします」
「……わかりました。どちらにしろ選択権はこちらにないようですし」
こうしてアークエンジェルとそのクルー達は死地から脱出したものの、その後に現れたザフトに捕まってしまうのであった。
ムウさんが強すぎると思った方が多いと思いますが、超絶ピンチなので彼の火事場のばか力が発揮されました。それとアークエンジェル組の運の強さも味方しました。