機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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第8話

 連合はアラスカ基地をサイクロプスで自爆させることによって、ザフト軍の大半を葬る作戦を実行したが、成功とは言い難い結果に終わった。

 何せ上層部はこの作戦でザフト軍の8割は消滅させるつもりが実質の被害は2割程度だった上、囮にされたユーラシア連邦の大西洋連邦に対する不信感を生じさせてしまったからだ。

 

 無論この作戦を立てた大西洋連邦軍上層部は一気に苦境に立たされる。他の連合軍上層部の非難の視線を受ける羽目になり、連合軍の会議は険悪な雰囲気に包まれることになってしまったのだ。そして、いざ話し合いが始まると怒号と罵声の言い合いとなってしまう有り様となる。

 

「我が軍を囮に使っておきながら何だこの成果は!? 責任者は辞任するべきだ!」

「基地を自爆させた割には大した戦果を得られていないではないか!?」

「次のザフト攻撃を防ぐ方法は無論あるのでしょうな?」

 

 囮にされて部隊が壊滅したユーラシア連邦の軍人達が、大西洋連邦の将官達に怒りや不信の眼差しを向ける。

 だが、この作戦を成功したと言い張らなければ、莫大な金をかけて造った基地を犠牲にした大西洋連邦の面子に関わる。それ故に彼等も反論しないわけにはいかない。

 

「だが、ザフト部隊も無傷ではない。敵の戦力を削ることには成功した!」

「それに今回のことを利用して民衆の戦意を煽ることができた! 厭戦気分を吹き飛ばしたおかげで戦争継続はより一層可能になったのだ! 戦略的には失敗していない!」

 

 大西洋連邦の軍人達はこの作戦の成果を強調する。ここで押し切られれば本国の政治家達に何を言われるかわかったものではないからだ。ユーラシアの軍人達はその言葉に顔を真っ赤にして更に反論する。

 

 結局終わった作戦のことで文句を言い合っても意味はないと各自が判断し事態は収束。次の軍事作戦について話し合いが再開されることになった。

 

「過ぎ去ったことにいつまでも議論の時間を割く暇は我らにない。今はそれよりもザフトの次の攻撃目標であるパナマをどう守りきるかだ」

「ザフトの戦力が大幅に残っている以上兵力をできるだけ集めて防衛に徹するしかないだろう」

「だが、旧式の兵器ではザフトに太刀打ちできんぞ」

「大丈夫だ。我が軍でも遂にMSの量産に成功した。パナマ戦で披露することになっている」

 

 大西洋連邦の軍人から出たMSの量産に成功したという言葉を聞き、各国の軍人達は安堵した。これまでザフトのMSにやられっぱなしだったが故にその喜びも一入だった。

 

「何としてでもパナマは守り通さなければならん。ここで失敗してしまえば我々は戦略の見直しを迫られるのだからな」

 

 大西洋連邦の将官がそう言い会議は締めくくられることになった。

 

 

 

 

 プラントではアラスカ基地が自分達の将兵を巻き込んで自爆したことにより、連合各国に譲歩を引き出せず、オペーレション・スピットブレイクは事実上、失敗に終わった。

 そして、一部の軍人達と結託し独断で攻撃目標を変更したパトリックに対して、激しい非難が評議会で吹き荒れた。その混乱を終息させるため評議会の良識派は、パトリックを表向きは責任を取って国防委員長と参謀総長を辞職することで混乱を治めることにした。

 

「国防委員長と参謀総長の役職を剥奪する」

「……」

 

 この決定にパトリックは目を瞑り、何の反論もせず受け入れた。さすがに今回の作戦の失敗は自分にあると自覚しているので、評議会から下された国防委員長解任に対して、彼は何も文句は言わなかった。

 次に評議会で行われたのはパトリックに変わる国防委員長の選任であった。

 パトリックに変わる新しい国防委員長は、参謀次長であるアウグストが参謀総長を兼ねる形で就任し、最高評議会議長にはアイリーン・カナーバが就任して、プラント最高評議会は新たな体制の元で戦争遂行に動き出すことになった。

 

「国防委員長兼参謀総長就任おめでとうございます」

『ありがとう。娘もお祝いの言葉を送って来たよ。さて次の攻撃目標は今度こそパナマだ。アラスカで疲れているだろうが、こちらの戦力も磨り減った以上君に頼むしか方法がないのだよ』

「わかっています。それよりも捕虜にした連合の軍人達のことを頼みます」

『ああ。幸い君が新たな食料コロニーを建設してくれていたから、君の言う通りそこに護送したよ』

「ありがとうございます。アウグスト国防委員長。彼等はあの基地で起こった真実を知る者達です。後々役に立ちます。彼等から情報をできるだけ入手して、連合内部を分裂させる策に使いましょう」

 

 キラはアークエンジェルとそのクルーを捕獲してカーペンタリアまで連れて帰り、そこで連合上層部がどんな作戦を立てたか詳しく説明させた後、戦時国際法に基づき捕虜として扱い自分が作ったコロニーに護送した。本国に連れて行ったら虐殺される恐れがあるのと、プラントの国民感情に配慮する為の処置であった。

 

『わかった。すでにその手の情報は証言してもらっている。さっそく、ネットや民間の新聞社に情報を流しておいた。それと捕虜にしたアークエンジェルのクルーだが、彼等には精々自分達の食い扶持を生産してもらうとしよう。我らも余裕があるわけではないしな』

「酷い扱いをしなければいずれこちらに靡くと思います。何せ彼等には帰る場所がありませんし」

『そうだな。そろそろ会議が始まるから行かねばならんので切るぞ。援軍も送ったから精々扱き使ってやれ』

「御配慮感謝します。必ずパナマを落として見せます」

『健闘を祈る』

 

 アウグストはそう言って通信を切った。

 キラは連合を追い詰める一手を打てたことに内心歓喜の声を上げる。連合が分裂してくれれば、戦後有利に立ち回れるからだ。

 

「これで互いに殲滅戦に移行する可能性は減った。殲滅戦を完全に防ぐ為にも次のパナマ攻略は欠かせないな」

 

 キラはアスランに対して少し申し訳ないと思ったが、パトリックが首になったことに内心小躍りするほど喜んでいた。これにより、ジェネシスを地球に撃ちこむ命令を下す立場でなくなり、強硬派の勢いが衰え、和平の道が少し開けたからだ。

 連合軍が直接プラント本国へ侵攻するには地球の戦力を、連合の宇宙進出拠点である月基地プトレマイオスに移す必要がある。それを防ぐ為には宇宙へ効率よく物資を打ち上げることができる宇宙港を全て制圧しなければならない。

 

「だが、連合も手元に残っている唯一のマスドライバーを守る為、前回以上に抵抗してくるだろうから、普通に攻めたのでは難しいかもしれない」

 

 パナマのマスドライバーは破壊することが決まっているので、グングニールの降下地点まで制圧できれば勝利できる。その為の戦力も近々送られてくる予定だ。

 

「アスランがジャスティスを受領したから、フリーダムとの連携を駆使して敵戦線を食い破るしかないかな。それと太平洋と大西洋から挟み撃ちにするのも悪くないかも。幸いアラスカでの消耗は最低限に抑えられたから戦力に余裕があるし」

 

 キラは上層部へ出す今回の作戦の報告書をまとめた後、パナマを落とす作戦を頭の中で練りながら、フリーダムの整備状況を確認すべく格納庫へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 アラスカでの顛末と国防委員長の交代を知ったバルトフェルドは、最初呆然とその情報を聞いていたが、すぐに気を持ち直して今後自分達がどうすべきか参謀本部に問い合わせるように、ダコスタに命じて自分は恋人であるアイシャと共にコーヒーで一服していた。

 

「オペレーション・スピット・ブレイクは失敗に終わったそうね。アンディ」

「ああ。詳しいことはダコスタが問い合わせているが、幸い被害は最小限に止めることに成功したようだ。だから、オペレーション・ウロボロスが瓦解することはない」

「じゃあ、私達はこのまま任務続行ということ?」

「そうなるかな。当分はゲリラ相手に治安回復任務を続けることになるだろう」

 

 バルトフェルドはそう言って自分で煎れた豆でブレンドしたコーヒーを飲み、その味と香りを堪能する。

 

「アフリカ戦線はスエズを落とすか、ビクトリアから撤退するまでは維持されるだろうな」

「そうね。そして、ザフトが実質敗退したことでテロやゲリラの行動は活発になるのは間違いないわ」

「しばらくは連中を相手に掃討作戦ばかりだ。気を引き締めていこうか。アイシャ」

「了解したわ、アンディ」

 

 バルトフェルドとアイシャは互いに微笑みを相手へ向け、お互いの意思を再確認するのであった。

 

 

 

 

 グラム社が製造したコロニーに向かう輸送船の捕虜室の中で、捕虜になったマリュー達は束の間の休息を取っていた。

 

「どうやらあの坊主は国際条約を守れる軍人だったようだな。おかげで助かったよ」

「そうね。そのおかげで私達は生活を保障されるのだから」

 

 ザフトに捕えられたとき、ムウとマリューは死を覚悟した。何せ自爆作戦によって同胞を多数失ったザフトが、大西洋連邦の軍人である自分達に対してまともな扱いをしてくれると思う程、2人は楽観的ではなかったからだ。最初は戦って切り抜けることも考えたが、ヘリオポリスを出航したときと違ってハルバートン准将が、傭兵を雇って送ってくれる等都合のいいことが起こるわけがないのだ。

 

「俺達はコロニーで食料生産に従事する捕虜扱いになるそうだ」

「私も他の人からそう聞いているわ。おまけに私達の立場を慮って戦争が終わった後、もし望むのなら雇ってもいいとも言っていたわ」

「何か捕虜の扱いとは思えないな。あの坊主に今度会ったら礼でも言っておこうかね」

 

 言っていたことがどこまで本当かどうかわからないが、捕虜であり帰る場所がない自分達のことをそこまで考えてくれている人物なら、無闇に虐殺や暴行等は行わなれないだろうとムウは思った。

 

「まあ、今はその労働環境がいいかどうかだけ考えよう。とにかく生き残ることを優先しようか」

「ええ、そうね」

 

 ムウとマリューはこれから向かう場所がどの様な環境か気になったが、取り敢えず生き残ることを優先すべく覚悟を決めるのであった。




パトリックの更迭があっさりしすぎたかな? たった約一行半程度だ。でも、自分の行動の結果だから素直に受け入れるだろうと思ったのでそうしました。

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