赤い薔薇は狂い嗤う   作:シルバー・ウィング

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第2話

 「参ったわね……頭が痛いわ」

 

 赤の軍団(レギオン)共有のローカルネット空間にて他のメンバーと待ち合わせ、そこから同時加速した暁月華与ことフレイム・ローズは椅子に座った状態で頭を押さえていた。

 空間に設置された円卓にはブラッド・レパードを始めとする≪三獣士(トリプル・レックス)≫や大幹部のマーマレード・スナイパー、さらにはスカーレット・レインの姿がある。

 しばし唸っていたローズであったが、やがて口を開く。

 

 「――一応、もう一度、確認しておくわ。まず、破壊されていたはずの≪災禍の鎧≫の復活。その持ち主がウチの軍団(レギオン)のメンバーの一人、≪チェリー・ルーク≫。不可侵条約を破って他の軍団(レギオン)の領土に侵攻、既に何人かのバーストリンカーを永久アンインストールに追い込んでいる……で間違いない?」

 

 ローズの確認に頷いたのはスナイパーだった。

 

 「ああ。≪情報屋≫にも確認したし、間違いねーだろ」

 「やっぱり、そう……」

 

 スナイパーの言葉にローズは疲れたかのように重くため息を吐く。

 

 「色々突っ込みたい所は満載だけれど、まぁまずは置いといて、軍団(レギオン)としてやらなきゃいけないことがあるわ」

 「≪断罪≫か?」

 「ええ……」

 

 裏切りの黒を除く六王が結んだ≪相互不可侵条約≫。他の軍団(レギオン)のバーストリンカーが他の軍団(レギオン)の領土に入ることを原則として禁止するその条約だが、万が一、軍団(レギオン)に所属するバーストリンカーが他の軍団(レギオン)のバーストリンカーを永久アンインストールに追い込んだ場合、同様の仕打ちを本人、もしくはその軍団(レギオン)に所属する好きなバーストリンカーに与えてもよいという条項が存在している。

 目には目を、歯には歯をという考えの野蛮な復讐法であるが、その条項が適用されない場合が一つだけあった。

 それはその加害者であるバーストリンカーを、その軍団(レギオン)内で粛清――すなわち処刑するということ。

 レギオンマスターの持つ特権である≪断罪の一撃(ジャッジメント・ブロー)≫によって、その者のブレイン・バーストを永久アンインストールに処せれば、前記の条項は適用されないのである。

 つまりローズは自分の軍団(レギオン)に所属する無関係なバーストリンカーを守るためにチェリー・ルークを断罪しなければならない立場にあるのだ。ローズが頭を痛めている理由はこれである。

 いくら条約とはいえ――いくら≪鎧≫によって理性を失い、狂ってしまっているとはいえ、自分に従い、今まで共に戦い抜いてきた仲間を断罪などしたくはない。だが、レギオンマスターとしてローズは私情を挟むわけにはいかない。

 

 「……そろそろ狩場も()になってくる頃ね。――プロミネンス所属のバーストリンカーはチェリー・ルークの現在位置を見つけ次第、私に報告して。言うまでもないことだけど、戦闘は絶対に避けるように。万が一、襲われたら死にもの狂いで逃げるよう伝えて。わかってるとは思うけど念のために中立フィールドに入る際はセーフティーを忘れないように――「ちょっと待ってくれませんか?」

 

 途中でローズの台詞に割り込んだのは、今までひたすら顔を俯け、沈黙を貫いていたレインだった。

 

 「なにかしら、レイン?」

 

 皆の視線が集まる中、立ち上がったレインは自らの胸に手を当てて告げる。

 

 「チェリーの居場所の特定はあたし一人にやらせてくれませんか? もちろん、ちゃんとローズさんには報告しますから」

 「でもレイン。たしかルークはアナタの……」

 「だからこそです。アイツのことはあたしが一番知ってる。だからこそあたしがなんとかしなくちゃいけないんです……」

 

 それに、とレインは言葉を続ける。

 

 「やはり≪鎧≫を探すのは危険を伴います。下手に大人数を動かさないほうがいい」

 「俺は反対だ」

 「あ?」

 

 言葉を発したのはスナイパーだった。スナイパーは軍団(レギオン)内の全権を託されているローズに向けて告げる。

 

 「ただでさえチェリー・ルークの処分は緊急を要するんだ。いくらお前がルークを知っているからと言ってもお前一人では時間がかかりすぎる。――他の軍団(レギオン)もいつまでも待ってくれるわけじゃないんだぜ?」

 「そうかもしれねぇ――けど!!」

 「それにレインはルークの≪子≫だ。下手に私情を挟まねぇ保障がどこにある?」

 「ッ!」

 

 沈黙。レインが鋭く息を呑み、その場の全員が言葉を失う。

 そう。≪災禍の鎧≫に汚染されたバーストリンカー、チェリー・ルークはこのスカーレット・レインにブレイン・バーストをコピー・インストールした≪親≫なのである。先ほどローズがレインに告げようとした言葉もその事についてである。

 ローズは原初にブレイン・バーストを配布されたいわゆる≪オリジネーター≫故、親がいない。しかし、己の半身を失う悲しみは知っている。

 だからこそレインの気持ちはわかる。≪鎧≫の支配下からルークを救いたいのだろう。そのためにもまず自分一人でルークを探し出したい。他人に見つけられ、自分はなにもできないままローズに断罪されたくないのであろう。

 だが、スナイパーの意見がもっともであることもわかる。他の軍団(レギオン)はいつまでも待ってはくれない。早くしなければ、全く罪のないバーストリンカーが犠牲になってしまうのだ。

 どうするか。頭を捻らせていると、不意にブラッド・レパードが口を開く。

 

 「ローズ、お願いが」

 「なに?」

 「一週間だけ彼女に時間を与えてあげてほしい。一週間経ってもレインがルークの情報を入手できなければ他のメンバーも動かせばいい」

 「パド……」

 

 レインがレパードをじっと見つめる。

 ローズはしばらく考えるそぶりを見せた後、やがてゆっくりと頷いた。

 

 「――いいわ。一週間だけ時間をあげる。皆もそれでいい?」

 「ローズの決定なら文句はねーよ」

 

 反対していたスナイパーを始め、≪三獣士(トリプル・レックス)≫も肯定した。

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 行きつく先には絶望しかないのかもしれない。

 それでも()()を与えてくれた皆にレインは感謝の想いを伝えられずにはいられなかった。

 

 

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