赤い薔薇は狂い嗤う 作:シルバー・ウィング
「トモコちゃん……君、新手のバーストリンカーでしょ?」
「えっ……。ばーすと……なんですか、ソレ?」
ハルユキの指摘にトモコが一瞬といえども驚愕と焦りをみせたことをハルユキは見逃さなかった。
ああ、やっぱりねー。
トモコとの話をひとまず終え、風呂に入ったハルユキはニューロリンカーで母親の実家のホームサーバーにアクセスし、そのデータベースからハトコのサイトウトモコちゃんなる人物が映る写真を探してみた。ハルユキは突如、妹と三日間一緒に暮らすという一大レアイベントを素直に受け止め、楽しめるほど素直な育て方を受けてはいない。
その途中でバスタオル一枚姿のトモコがバスルームに乱入してくるというハプニングがあり、パニックに陥ったが、結果ハルユキは確信するに至った。
この子、サイトウトモコちゃんじゃないわー、と。
写真と見比べてみてまるで違う。若干ハーフがかった目の前の女の子と写真に写る純和風の顔立ちのトモコ。いくら写真を撮った頃と比べて成長したにせよ、その血筋までは変えられないはず。ぶっちゃけ、写真の女の子がここまでかわいくなるなんて到底思えないし。
そして、この女の子が自分と同じバーストリンカーだと思い至った理由が――
「日焼け」
「え?」
「首のとこ、綺麗に日焼け跡がついているよ。僕と同じくらい。なかなかそこまでは生まれた直後から常時装着していないとならないよ。……ニューロリンカーを」
それに実家の写真と比べても、明らかに君は違うしと言葉を続ける。
トモコを偽る女の子はぴくぴく頬を引き攣らせ、実に複雑な表情を浮かべた――かと思うとこれまでの純朴さの欠片も感じられない不貞腐れたような渋面に固定した。
「ちっ」
バスタオルの両腰に手をあて、強烈な舌打ちを鳴らす。
「ここンチのアルバムは確認したのになぁ。まさか、実家のアルバムまで掘り返すとはアンタ、疑り深すぎンぜ」
「ははっ……どーも」
素直な育て方をされてなくてよかったーとこの時ばかりはその事に感謝しつつハルユキは口を開く。
「まぁ、君がこんなことしたのも僕を踏み台に≪あの人≫にもハッキングを仕掛けるためなんだろうけど、甘いよ。あの人だったら一目見ただけで気づける。まぁ、バーストリンカーとして正面から挑んでも勝てないって思う気持ちはわかるけど。……相手があの≪ブラック・ロータス≫なんだから……」
早く出て行ってくれないかなーと思いながらぶちぶちとそこまで言い終えた――その瞬間。
女の子の気配が再び激変した。……具体的にはお怒りの方向に。
「――おいコラ、今なんつった?」
「……へ? だ、だから、正面から挑んでも……」
「勝てない? あたしが? だからコソコソこんなめんどいリアルハックを仕掛けたってか?」
――違うの?
目線でそう問いかけたハルユキに、女の子は頭からタオルをむしりとると床に叩き付け、人差し指をハルユキに突き付けた。
「舐めんなよ、コラ! 黒の王なんざ、勝とうと思えばいくらでも勝ってやるわ! ――アンタにはまずこの≪スカーレット・レイン≫様の実力をタップリ味あわせることから始めてやる!」
ニューロリンカー取ってくるから大人しく待ってろよ! と言い残し、その場を立ち去ろうとし――風呂場の出入り口の縁に足を引っ掛け、転ぶ。
「ぶへっ!?」
転んだ拍子にパラリと体に巻かれていたタオルが取れてしまい――
「うわあああああああああああああ!?」
「うぎゃ――――――!?」
見てしまった。女の子の全裸を。背面だが。
「……ぶっ殺す」
首だけこちらに向け、ぼそりと告げると女の子はやけになったのかバスタオルを拾わずにそのままリビングに向かっていった。
あれは不可抗力だろおおおおおおっ!
内心絶叫しつつ、ハルユキはどうにか思考を開始する。
スカーレット・レイン。聞き覚えはない。が、おそらく六大
ニューロリンカーを外せば対戦を回避することは可能である。だが、刺客であるならば今後本格的に戦っていくことになるので、情報を集めたほうがいい。レベル4のハルユキならたとえ負けたとしても、ポイントはそこまで減らないはず。
しばし考え、ハルユキは呟く。
「コマンド、ボイスコール、ナンバーゼロワン」
途端、目の前に【登録アドレス〇一に音声通話を発信します。いいですか?】というホロダイアログが浮かぶ。即座にイエス。
コール二回で相手が出た。
『どうしたハルユキ君。こんな時間に』
しっとりと滑らかでつ音楽的な抑揚のあるその声の背景にちゃぷんという水音が重なる。
あー、先輩もお風呂かなぁ……などと一瞬考えてから、ハルユキはコールの相手――加速世界に七人しかいないとされるレベル9のバーストリンカーのうちの一人にしてハルユキの≪親≫である黒の王ブラック・ロータスこと黒雪姫に話しかけた。
「遅くにすみません。ちょっと、教えてほしいことがあって」
『ほう、なんだ?』
「その、先輩は≪スカーレット・レイン≫というバーストリンカーを知っていますか?」
質問の答えは少々長めの沈黙だった。
「……あ、あの、どうしたんですか?」
『……いや、すまん。それは本気で訊いているのだろうな?』
「本気って……もちろんそうです。こんな時間に悪戯電話なんてしませんよ」
『そうか。ううむ、これは私の手抜かりかな。通称ばかり使って名前を教えたことはなかったか。しかしシルバー・クロウ、キミも少々不勉強だぞ?』
「え?」
首を傾げたハルユキの聴覚に、どたどたと廊下を走ってくる女の子の足音が重なり、黒雪姫の涼やかな声が響いた。
「――スカーレット・レイン。そいつはかの≪
「はい?」
目を丸くして固まるハルユキの視界に再び女の子が姿を現した。よほど怒り心頭なのか、下着姿だ。
そしてその首元には真紅の輝き。
にいっと凶暴な笑みを見せた女の子は可憐かつ威圧感たっぷりの声で叫んだ。
「バースト・リンク!!」