赤い薔薇は狂い嗤う 作:シルバー・ウィング
「――≪ヒート・ブラスト・サチュレーション≫!!」
「ぬっ、ひええええええええええっ!!」
「――≪ヘイルストーム・ドミネーション≫!!」
「しょええええええええええええっ!?」
何これ何これ何これ!?
弾雨の嵐を全力飛行で回避しながらハルユキは頭の中で叫び続ける。
スカーレット・レインは遠距離の赤に属される
ハルユキは迫り来る極太のレーザーを避けながら、ミサイルの爆発音に負けない大声で叫ぶ。
「き、君の
レベルこそ8であるが、その威圧感、この火力はレベル9と比べても然程の遜色は無いように思えた。黒の王なんざ、勝とうと思えばいくらでも勝ってやるわ! と啖呵を切ったのもその大火力を見た今となっては頷ける。
「ああ、そうさ! たしかにあたしはめちゃくちゃ強い。たとえレベル9の王サマ相手でも条件さえ揃えれりゃ勝てる。――けどなァ! そんな条件を揃えようが揃えまいが
マジで!?
赤の王。それはつまり、このスカーレット・レインが所属する赤の
立場的に見れば他の五王や黒雪姫と同じということになるが、このスカーレット・レインにここまで言わせる赤の王とは一体……。
「無駄話は終わりだ。――さぁ、フィナーレと行こうか! ≪スパイラル・エンド・フェニックス≫!!」
「っ!?」
考え事をしていたハルユキは反応を遅らせてしまう。
モーションは≪ヒートブラスト・サチュレーション≫に似ていた。だが、二つの主砲から放たれた赤いレーザーは螺旋状に絡まり合いながら進んでいき、やがて一つの巨大な
「え、あ、ちょっと……」
あまりに壮大な光景に空中で腰を抜かしたハルユキにお構いなしにクェエエエエ!! と嘶いた
+++
「――ってなことがありまして、スカーレット・レインは対戦の後、僕に先輩をリアルで会わせることを要求してきたんです」
「……」
昼休み。梅郷中のラウンジにてハルユキがそう話を締めくくると、黒雪姫は固く握った拳を宙に浮かせ――。
この馬鹿者! ドガチャーン!
という怒声とテーブルひっぱたきは危ういところで発生しなかった。その理由はラウンジに他の生徒が数人、昼食のトレイを抱えながら入ってきたからだ。
彼はハルユキと黒雪姫にちらりと視線を向けると、見慣れた光景ながらもどうにも信じられないといったいつもの表情を浮かべ、少し離れたテーブルに席を占めた。
黒雪姫は尚もしばらくやり場のない拳を浮かせたまま深呼吸を繰り返していたが、やがてその手をすとんと卓上に落とす。
「何はともはや……最初に見たとき気づけと言いたいのはやまやまだが……たしかにそんな体当たりなソーシャル・エンジニアリングを、しかも大レギオンの≪大幹部≫が仕掛けてくるなんぞ、想像の埒外ではあるな……」
「ね、ねー、ですよねー」
黒雪姫の大噴火が回避されたことに胸を撫で下ろしながらも、ハルユキはこくこく首を動かした。
「ま、怪我の功名といった面もないこともないしな。レベル8とはいえスカーレット・レインは≪王≫と比べても遜色は無い実力を持つと言われている。それはバーストポイントをいくら積んでも買えない貴重な体験だ。……どうだった、≪プロミネンス≫の№2は」
「無茶苦茶ですよ。一撃で都庁を吹っ飛ばして……」
あの超絶的火力を思い出し、ハルユキはぶるっと身を震わせる。それを見て、黒雪姫はふふっと笑う。
「それこそは≪一極特化アビリティ≫の威力だよ。スカーレット・レインはすべてのレベルアップボーナスを遠距離火力の強化につぎ込んだと聞くからな。そうだ……キミとの対戦で、スカーレット・レインは動いたかい?」
「へ?」
一瞬質問の意味を理解し損ね、ぱちくりと瞬きをする。そこからようやく昨夜の戦闘を思い返し、告げる。
「ええと……動いてません。なんかスッゴイ鳥みたいな必殺技を受けちゃって、呆気なくやられちゃいました」
すると黒雪姫はぱん、と手を鳴らすと感心したように言った。
「ほう、それは大したものだ! スカーレット・レインに≪フェニックス≫を使わせるとはな!」
「≪フェニックス≫?」
「スカーレット・レイン最強の必殺技――≪スパイラル・エンド・フェニックス≫。通称≪フェニックス≫は、追尾性を備えた極大威力の砲撃として知られている。これといった対抗手段も未だ見つけられておらず、加速世界における最強クラスの必殺技の一つだ。……そもそも彼女の場合、それを使う以前に勝ててしまうのだから、早々お目にかかることのない代物なんだぞ」
「はぁ」
いまいちピンと来ていないハルユキに黒雪姫は言葉を続ける。
「つまり、ハルユキ君は彼女にそれを使わせるだけの実力を証明してみせたということだ。それはある意味、彼女を動かすことよりも難しい。誇りを持っていいぞ」
「はあ……」
今一度、昨夜の戦いを思い返してみるが、ハルユキはただスカーレット・レインの砲撃にいいように追いやられていただけなので、やはり今一つピンと来ない。
そんなハルユキを見て、黒雪姫は苦笑した。
「ま、まぁ、それにしても、そんなスカーレット・レインに自分より強いと認めさせる≪赤の王≫はどんだけ凄いんでしょうね。なんというか、もう想像もつきませんよ」
「……!」
≪赤の王≫。その単語を聞いた瞬間、黒雪姫の顔が強張ったのをハルユキは見逃さなかった。
「先輩……?」
さっと血の気が失せ、青ざめたその表情はあまりにも痛々しかった。が、ハルユキが何か言葉をかける前に黒雪姫は小さく首を振ると口を開く。
「そうか。ハルユキ君にはまだ教えていなかったな。二代目≪赤の王≫の名は」
そこに来てハルユキは二年半前、黒雪姫が≪七王会議≫にて赤の王≪レッド・ライダー≫の首を狩っていた事実を思い出した。
ばかばか僕のばかちんが~!
黒雪姫が己の確固たる目的のとはいえ、不意討ちでライダーの首を落としたことを公開しているということをハルユキは知っていたはずだった。
知っていたはずなのにも関わらず、不用意な台詞を述べてしまった自分が恨めしい。
自己嫌悪に陥るハルユキを余所に黒雪姫は言った。
「二代目赤の王の名は≪フレイム・ローズ≫。≪
「
黒雪姫は遠い日の記憶を思い出すかのように目を細める。
「≪フレイム・ローズ≫はライダーが王の時のプロミネンスの№2だったんだ。
「まじすか……」
王より強かったとかどんだけーとハルユキは内心で悲鳴を上げる。
黒雪姫はそんなハルユキを見て軽く微笑むと、表情を戻して言った。
「二人の絆はとてつもなく強固なものでな……ライダーと恋仲にあったのは≪紫の王≫であったが、真の意味で深いつながりを持っていたのは≪フレイム・ローズ≫だった。二人の息の合った掛け合いは見ものでな、≪紫の王≫はいつもやきもちしていたよ……――私はそんな二人の尊い絆をこの両の刃で真っ二つに断ち切ったのだ」
そこに来て、懐かしむような黒雪姫の表情が一転し、声のトーンが落ちる。
「……私がライダーの首を落としたと知ったローズはマスターを失い、混乱の極みにあったであろう
「……」
もはやハルユキは絶句するしかなかった。黒雪姫もまた光を失った目で顔を俯けている。
グシャと髪の毛を鷲掴みにした黒雪姫は言葉を続ける。
「……戦いの最後で私は≪フレイム・ローズ≫と対峙したんだ……彼女は怒りを越えたあらん限りの憎しみを私にぶつけてきた……私を少しでもいたぶり、苦しみを与えようと何度も何度も私を怪物の巣に投げ込み、嬲り殺した。なんとか隙を見て逃げ出すことはできたが、もしあの時、彼女が私をいたぶらず、本気で殺しに来ていたら私は……っ!!」
黒雪姫はその華奢な体を細かく震わせていた。
ハルユキは衝撃を受けていた。肩を震わせる黒雪姫にではない。全てを切り裂く黒雪姫の強さはまさに次元が違うのだ。その黒雪姫をここまで恐怖させた
遠い。レベル10は――加速世界の
なけなしの勇気を振り絞ってハルユキは冷たくなった黒雪姫の手を両手でそっと包み込む。
「先輩……強くなります……僕……今はまだ全然よわよわですけど、いつか先輩を守れるくらい強くなって見せます。だから……」
今のハルユキに出来ることはこれが精いっぱいだった。遠隔狙撃にいいように撃ち落とされる今の≪シルバー・クロウ≫では――。
ハルユキの想いが通じたのかは定かではないが、青ざめていた黒雪姫の白い肌が、僅かに健康的な色合いを取り戻したような気がした。
「……場所を変えようか」
黒雪姫はするりとハルユキの手から右手を抜くと立ち上がる。
「ど、どこへ……?」
どこか二人きりになれる場所へ。
ではなく、黒雪姫の答えは至って実務的なものだった。
「スカーレット・レインへの対応を我々だけで決定してしまうわけにはいかないだろう。こういうことは
「あ……そ、そうですね」
少しばかりがっかりしつつ、黒雪姫に続きハルユキもまた立ち上がり、その後を追う。
人気のない廊下を歩いていると、不意に前を歩く黒雪姫がぽつりと呟いた。
「ありがとう、ハルユキ君……」
その言葉がじんわり、ハルユキの胸に染み渡っていくことを感じながらハルユキは頷いた。
「はい」
*補足
≪スパイラル・エンド・フェニックス≫
・通称≪フェニックス≫。スカーレット・レインレベル8の必殺技。威力は≪ヒートブラスト・サチュレーション≫二発分。その高威力はもちろんのこと追尾性も備えているため、回避することも難しい。原作では未登場。主であるローズからのアドバイスで習得した本作オリジナルの必殺技。
「ええと……動いてません。なんかスッゴイ鳥みたいな必殺技を受けちゃって、呆気なくやられちゃいました」
・シルバー・クロウが想像以上に自分の弾幕を回避したため、業を煮やした由仁子が回避不可の≪フェニックス≫で仕留めにかかったため、原作と違いハルユキが特攻を仕掛ける前に決着がついた。