勇者と魔娘の3年間   作:碓氷 修夜

18 / 30
☆登場人物
トビ…中央国秘密部隊ハクジュンの成員。影で暗躍し、どんな命令でも断らない。しかし、その姿勢はやる気のなさが漂っている。


ゼード…ピース依頼事務所の所長。過去に勇者として魔王を倒した経験あり。

ミュゼ…魔族の娘。今はピース依頼事務所に住み込みで働いている。


case:13.6  傾 -カタムキ- /後編

「どうして……どうして私を殺そうとするのですか……!?」

 

 

両腕が翼の、あれはハルピュイアだろうか。後ろが岩壁で、もう逃げ場のなくなった少女を血眼になった男が追い詰め、今にも剣を振り下ろそうとしていた。

 

「モンスターは危ないからだ!!放っておいたらきっとまた……!!!だから殺られる前に殺るだけなんだ!!!」

 

「わっ……私はそんなことしません!」

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!モンスターの言うことなんて信じられるか!!!」

 

ハルピュイアは壁を背にしてへたり込み、何とか落ち着かせようと説得をしているが、男は聞く耳など持ち合わせていないようだ。それ以前に男の頭の中では、モンスターは全ての悪の根源という固定観念ができてしまっているようだった。だから、初めから何を言っても無駄なのである。

 

その時、背後から聞こえた小石を踏みこねた音がして、男が過剰なまでに反応する。それは、まさに男が腕に力を籠めた瞬間であった。

 

「いやー、捜しましたよ。こんな暗中模索状態でよく見つけられたもんです、俺。つーか、見るからにこれですよね?もし違っててもこいつでいーですよね?」

 

霧の中から妙に間延びした声が近づいてきた。トビだ。

癖なのか、いつものように左手で耳の上辺りの側頭部を掻きながらうっすら笑みを浮かべている。無理もないだろう。ミヴィルの地に足を着けてから丸二日、ずっと捜し回り、やっとこうして犯人を目の前にできたのだ。大陸のほぼ1/4から、見た目も分からない相手を捜し出すのは、砂漠でナマケモノに遭遇するくらいの確率であっただろう。

 

「誰だ!!お前もモンスターか!!?」

 

「てめーの目ん玉は見た物全部をモンスターにする呪いにでも掛かってんですかね?……とりあえず二つ、質問良いですか?まず一つ。てめーは最近噂のモンスター襲撃犯ですか?」

 

尋ねておきながら相手の反応を見る前に質問に入る。それに対して、男は狂乱しながら持っていた剣を振り回す。……端から狂っていると言えばそうなのだが。

一歩間違えば、傍で腰を抜かしている彼女の肉体の一部を抉り取ってしまいそうだった。

 

「モンスターは殺さなくちゃいけないんだ!!居るだけで危ないんだ!!!」

 

「言葉通じてます?……でも、てめーが犯人で間違いなさそうですね。じゃー二つ目――」

 

トビは最後まで言い切る前に、口角を僅かに上げる――そう認識した時にはもう既に体勢を下げていた。腰を落とす、というよりもしゃがみ込むと言った方が分かりやすいかもしれない。それくらい彼は低く姿勢をとると、瞬きした0.2秒にも満たない隙に、姿をくらましていた。

 

 

「――すみません。やっぱ質問、一つだけでした」

 

居なくなったと脳が認識する前に、彼が先程の言葉の続きを紡いだ。少女がその声を聴いたのは、自分の真上からだった。トビはいつの間にか男とハルピュイアの間に立っていたのだ。現に目の前に居るのに、さっきまで居た場所からここまでの足音、風の音、呼吸音、何もかもが聞こえなかったのだ。

状況が上手く掴めず呆然としていた彼女は、やっと聞こえてきた別の音で正気に返った。ゴトンと何か重たいものが地面に転がる音――。

 

「あ、見ねー方がいーかもですよ?てめーにとっちゃトラウマ直行モノなんで」

 

そう言いながら後ろに居た男の背中を向こうに突き飛ばし、少し横にずれて自分の身体で彼女の視界を遮った。押された男はよろめくような足音は立てず、無抵抗に地面へ倒れ込んだ。どうしてなのかは、視界いっぱいの彼で窺い知ることができない。

しかし、トビが遮断する僅かな時間の隙間に、彼女は何が起こっていたのか目撃してしまっていた。転がり落ちたのは――たった今まで自分を殺そうとしていた殺人者の頭――。そして、彼の右手にはいつの間にか一本のクナイが握られている。その刃にはべっとりとした赤い液体が付いており、今尚切っ先から地面に零れ落ちている。

一瞬の出来事を遅れて理解してしまった彼女の顔が、みるみる青ざめていく。それはついさっきまで、間近で剣先を向けられていた時よりもだ。表情の変化に気づいたトビは苦笑いして斜め下を向く。

 

「すみませんね。これが俺の仕事なもんで。一応、てめーや俺に掛かんねーように配慮したつもりですよ?あれって服とかに付くとなかなか落ちねーですから。

……あっ。色々言いてーことはあると思いますが、先に報告だけ済ますんでちょっと待っててください」

 

彼はパンツのバックポケットから小型の無線を取り出すと、どこかに向けて連絡を取り始めた。

 

「あーあーあー。聞こえてやがりますかー?トビです。例の件終わりました。全然見つかんねーんですもん、大変でしたよ。……はい……はい。あー、それでやった時にですね、モンスターちゃんも一緒だったんですよ。殺される前だったんでピンピンしてますけど……どうします?…………りょーかいです。じゃー、犯人も…………あ、そっちはいらない?はい、分かりました。まさか続けざまに命令とか……りょーかいでーす。無いんなら、のんびりゆったり帰りますよ。じゃー、報告お願いします」

 

ただただ怯える彼女を横目に、彼は平然と通信をし終えた。彼女に視線を戻すと、大きなため息をついて頭をガジガジと掻き乱す。

 

「えーっと、聞くだけ無駄だと思うんですが、この後どーするつもりですか?こっちの話では保護しろっつーことになっちまったんですが……」

 

「わっ……私は…………」

 

少女は震えながら必死に応答する。答えなければ自分も同じ目に遭うと思っているのだろうか。そんなことをするつもりはないのだが、言ったところで信用などされないだろう。

しかし、そんな彼の予想を裏切る回答を彼女は寄越した。

 

「あなたについていきます」

 

「……いーんですか?」

 

確実に拒絶されるだろうと思い込んでいた彼は、驚いてへらへらしていた表情を固まらせる。彼がここまで動揺するのは珍しいことであったが、それを理解できる者はこの場には居なかった。勿論、彼女が知る由もない。

 

「……こちらとしては非常にありがたいんですが、別に無理強いしてるわけじゃねーですよ?断ったところで、取って食うつもりなんてねーですから」

 

「無理などしていません。命を救っていただけたのですから、当然の答えです。このような状況下ではありますが、私は冷静に判断しているつもりです」

 

「それはそれでどーなんですかね……?あんなこと起きたら、普通はそんなこと思えねーと思うんですけど。つーか、さっきも今も、目の前に居るのは殺人鬼には代わりねーですからね?」

 

彼はまるで脅すように話し掛ける。命令通りなのだから、素直に受け入れれば良いものの、これではまるで拒んでいるようだった。

しかし、彼女の意思は変わらないらしく、真っ直ぐな目で彼を見つめ返してくる。

 

「……それでも……それでもあなたは、私にとってヒーローなのですから」

 

「…………」

 

 

「……何だこりゃあ!?」

 

その場の空気をぶち壊すかの如く、素っ頓狂な声が後ろから聞こえてきた。無精髭を生やし、くたくたな茶色のスーツを着た男。更にその後ろには、彼の部下と思われる男女が合わせて7人。声を上げたのは先頭の男のようだった。

 

「これ、てめぇがやったのか……?」

 

「これはこれは、ザックダランの警察さん方。随分とおせー到着で」

 

「……質問に答えろよ」

 

「そーですよ。てめーらが仕事してくんねーんで俺に回ってきちまったんです。もっと早く解決してくれてれば、俺はのんびりできていたんですよ、コ……コロ……何でしたっけ?」

 

「コロンナーチだよ。オラも忘れっぽい方だけど、人の名前くらい覚えとけよ」

 

「そーそー、コロンナーチ警部ももーちょっと頑張ってくださいね。……それともこっちに対する嫌がらせですか?」

 

コロンナーチはトビの嫌味を無視し、地面に倒れているモンスター襲撃犯を見下ろしている。その顔は怒っているのか、悲しんでいるのか、なんとも複雑な表情だった。

 

「それでですね、"それ"、こっちじゃいらねーみてーなんで、そっちに処理は任せます。元々、てめーらの仕事みてーだったから当たり前なんですけど。ただ、このモンスター娘ちゃんはこっちで預かります。事件と関係ねーでしょうから問題もねーと思いますよ。……それとも、重要参考人として俺から奪っていきます?」

 

「……分かった。好きにしろよ」

 

そう答えると、トビは笑顔で会釈をした。頭を上げると、座り込んでいたハルピュイアを立たせ、共に霧の中へと消えていった。

 

 

「警部!追わないんですか!?あいつも殺人犯なんですよ!」

 

姿が見えなくなるや否や、部下の一人がコロンナーチに訴え掛ける。しかし、彼は動こうとはせず、部下たちに一言だけ告げた。

 

「容疑者はこちらで殺害したからこの案件は終わりだよ」

 

ただ、それだけ。彼は踵を返すと、部下たちを掻き分けるように歩き出した。だが、それにどうしても納得できなかった一人が、彼の袖を掴んで引き留める。

 

「何故ですか!?目の前で起きた事件をみすみす見過ごせって言うんですか!?」

 

これに対して彼は返答しなかった。どれだけ揺さぶられても動じず、ただじっと前を見つめていた。そして、反対に言い寄った部下へ質問を浴びせる。

 

「……てめぇが警察になった理由は何だよ?」

 

「犯罪が起きない平和な世界が作りたかったから、ですが……それが今と何の関係があるんですか?」

 

「素晴らしい志望動機だよ。……で、その進捗状況は?」

 

「全然ですよ!今も殺人が起きたじゃないですか!その犯人を野放しにしろって言うんですか!?」

 

「じゃあ――」

 

そこで一旦言葉を区切ると、袖を掴まれたまま部下の両肩に手を乗せる。そして、鼻と鼻がくっつくのではないかというくらいまで顔を近づけた。

彼の視線が部下の両目を射貫く。

 

 

「――――今ここで起きたことは全部忘れろ」

 

 

「じゃーこっからは"いつも通り"にお願いします」

 

セントクルスに戻ってきたトビは、人目を避けつつ城へ帰ってきた。しかし、今回は忍び込むような真似はせず、きちんと正面からだった。ハルピュイアが一緒に居たからだろうか。王宮へモンスターを連れ込んだため、周囲の貴族たちからは奇妙な目で見られている。だが、決してこれが初めてではないため、わざわざ声を掛けて叱責してくる者は居ない。

彼は城内にある礼拝堂へ赴くと、そこで待機していた司祭たちにハルピュイアを任せた。

 

「命を救っていただいただけではなく、ここまで……わざわざありがとうございます」

 

「俺は命令通りに動いてただけですよ。てめーを連れ帰ったのも、指示があったとはいえ、てめー自身が選択したことですから。つーか、俺はてめーには何もしてねーですよ?」

 

「それでも、私を助けていただいたことには変わりないですから」

 

「……そーですか。そろそろ俺は帰りますんで、後は好きにしやがってください」

 

「はい、ありがとうございました」

 

頭を深々と下げる彼女を背にして、トビは礼拝堂の大きな扉を開いた。隙間からは太陽の光が刺すように照り込んでくる。一瞬、その眩しさに目がくらんだが、すぐに慣れて身体を擦り込ませるようにして外へ出る。

扉を閉めようとして振り返ると、彼女はかなり律儀な性格だったようで、まだ頭を下げたままだった。その姿に彼は思わず胸がチクリと痛んだ。まだ良心があったことに驚くのと同時に、私情が捨てきれていない自分に嫌悪感を抱いた。

 

そして、扉の閉まる音で隠れるように彼がポツリと言葉を零した。

小さすぎて、確実に彼女の耳には届かなかった。

 

 

「…………てめー自身の選択です。後悔なんてしても無駄ですからね」

 

 

自分の部屋に戻ったトビは、ベッドで横になって天井を仰いでいた。窓がないため、昼間でも明かりを点けなければならないのだが、今は何も置いていない。そのため、ここは外とは違って真っ暗だった。何も見えない。

唯一、意味なく上に伸ばしている右手がぼんやりと見えるくらいだろうか。手のひらを閉じてみても、当たり前だが何も掴めない。彼は大きくため息を吐くと、伸ばしていた腕さえも降ろして、じっと虚空を見つめていた。

 

無気力で何もする気になれない彼の頭には、あのハルピュイアの言葉が延々と響いていた。

 

 

『……それでも……それでもあなたは、私にとってヒーローなのですから』

 

 

突然、彼は笑い出した。

まるで狂ってしまったかのように。

あの独特な笑い声で。

 

「くぅひゃっははは!!俺がヒーローですか!これは傑作ですね!あのモンスター娘ちゃん、殺人狂を殺してやった代わりに、俺を笑い殺す気なんですか!?こんな血に染まったヒーローなんてどこに居やがるんですかね!!」

 

下が調理場で尚且つ、料理の準備でスープを煮たり、肉を焼いたりしていなければ、料理長が心配になって声を掛けてきていただろう。それくらい、大声で笑い転げていた。

数分間経って、漸く笑いが治まる。ずっとだったので、トビは笑い疲れてしまっていた。そして、深呼吸をしてから寝返りを打った。疲れ切って冷静になったのか、もうその顔に笑みはない。

 

そして本音なのか冗談なのか分からないが、吐き捨てるように言葉を呟くとそのまま眠りに落ちていった。

 

 

「……俺は自分の選択を間違えていなかったら、ヒーローになれていたんですかね?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

10月26日。空一面を鉛色の雲が覆っている。涼しくなってきたのに合わせて、日の光も望めない今日は、薄着では風邪を引いてしまうくらいだった。かく言うトビも、普段のラフな過ごしやすい恰好を諦め、そこそこちゃんと着込んでいた。オフホワイトのフード付きデニムPコート、ブラックのジップパンツ。動きやすいスニーカーを着用していた足元も、今はダークブラウンのロングマウンテンブーツに様変わりしている。これからの時期は、こういった厚手のファッションに移行していくのだろう。

 

そんな彼はセントクルス城、東門前にあるマーグー広場のマーケットを訪れていた。この広場で開かれているマーケットには、全国から人や物が一斉に集まり、普段お目にかかれない掘り出し物などが並べられていたりもする。

しかし彼は、何か目ぼしいものがあって足を運んだのではない。ただ目的もなく歩いて、店先を覗き、気になる物があれば購入するといった、気ままな散歩だった。見て回るだけで、時間が経つのも忘れるほど楽しいのであった。家具などにも興味はあるが、何しろ自室が調理場の天井裏という限られたスペースしかないので、結果的に衣服やちょっとした小物へ金が流れるのだった。本当に何もすることがない日は、度々こうして遊びに来るのであった。……命令がない限り暇なはずの彼が来るかどうかは、本当に気まぐれでしかないのだが。

こうして見ると、トビ本人はファッションなど微塵も興味はないと語っていたが、『服なんて3着あればローテ』すればいいと言っていた某所長と比べものにならないほど、衣服に対する関心は高いのだろう。

 

先にも述べた通り、ここは人間界の収束地と言ってもいいくらいに、様々なものが集まってくる。物だけでなく人も集まってくるのは、彼と同様に珍しい商品を求めにやって来るのだ。様々な人種、ましてや一見人間と区別のつきづらいモンスターも忍んでやって来るぐらいだ。

人間とモンスターの交流は、専ら南部にある"ターミナル"で行われる。ターミナルは人間界と魔界の両方に存在し、巨大なワープホールで繋がっている。このワープホールは、魔族四天王の一角が管理しているらしい。そのため危険性を説いている人も少数ではないが、現に二つの世界が繋がったおかげで、それぞれの特産物が簡単に手に入る。今や大切な取引相手になっているせいで、一概には危険視しづらい。それでも尚、毛嫌いしてモンスターを憎んでいる人も半数近く存在している。

そんな有能なターミナルでも、互いの世界の物品を全て収集するのは非常に困難だ。不可能と言ってもいい。だからこそモンスターは、両者の軋轢が完全に取り払われていなくて、安全が保障されていなくても、ここを訪れる価値があるのだ。

 

人間と容姿が丸っきり違うのは論外だが、似ているモンスターにもどこか必ず相違点があるものだ。尻尾や翼が生えている者や、肌の色が異なっている者など。だからマーグー広場に訪れる際は、少しでもそれを隠して人間に溶け込む努力をしている。帽子を深く被って尖った耳を隠したり、マスクをして飛び出た犬歯を隠したり、最悪全身をローブで覆っていたり。……ここまでするとかえって目立ってしまうのだが。

 

そんな中、ぶらぶらしていたトビはあるモンスターに目が留まった。"彼女"も例に漏れず、モンスターである証をカモフラージュをしていたが、彼はその容姿そのものに見覚えがあった。折角なので、おもむろに近づいて品定め中の彼女に声を掛けてみる。

 

「どうもー」

 

「わっ!?……びっくりしたじゃない。急に現れないでよ」

 

驚いた彼女は、凄い勢いでトビへ振り向いた。その勢いで掛けていたサングラスが、僅かにずり落ちる。人間ではありえない目――彼女の眼は白目の部分が金色に光っていた。その特徴があるのはミュゼだった。

余談だが、瞳が金色というのは人間でも存在するが、モンスターの中でも結膜部分が金色なのは、ミュゼと他数種類しか居ない。

猛禽類やオオカミなど肉食系が持つ金色の目で彼女が睨んでくる。まるで至福の時が邪魔されたのかのように不機嫌である。

 

「ゆっくり歩いて来ましたけど?」

 

「アンタは気配感じないから気味が悪いのよ。……何か用?」

 

気配を消す、というのは別に存在感がないわけではない。影が薄い人は存在感がないとよく言われるが、彼の場合は"存在そのものを消す"のだ。意識はしていなかったようだが、自然と気配を殺していたのだろう。

 

「いやー本日も良いお日柄ですね」

 

彼は曇り空を見上げながら、わざとらしく告げた。これは彼の癖で、本題に入る前に一往復無駄な会話を挟むのだ。大抵向こうが訝しがって話を問い掛けてくるので、こちらから切り出さずに済むのだ。……今のミュゼのように、露骨に心底嫌悪感を抱かれて会話が途切れなければ、の話だが。

 

「……ゼード君から聞いてないんですか?」

 

「何が?」

 

「いや、俺がてめーのこと誘拐しますよって話です」

 

「あぁ、聞いたわよ。聞いた、というかボロボロのあいつから聞き出した、の方が正解かしら?」

 

「怒ってます?」

 

「何を?」

 

「俺があれを半殺しにしたことです」

 

「別に?やられたあいつが悪いんでしょ」

 

「……相変わらずドライですねー。モンスターってのは皆そうなんですか?」

 

「さあ?比較的そうなんじゃない?…………ただ、魔族はその代わりに、随分と執念深い――とかだったら面白くない?」

 

ミュゼはふふっと笑う。しかし、その直前までの表情はトビでさえも震え上がりそうになった。

――冷酷な目。冗談なのか、本気なのか、今の彼女から読み取ることはできない。

 

「どっちにしろ、モンスター……つーか、てめーの頭は狂ってんですか?」

 

「あら、心外ね。どうして?」

 

「こっちが愚直にも、攫いますって犯行予告してやったにもかかわらず、こんなとこに居るんですから。セントクルスにわざわざ来てくれるなんて、自ら攫ってくださいっつーことのよーなもんですよ?」

 

「じゃあ今攫えば?白昼堂々、往来のど真ん中で、誘拐でもなんでもしてみればいいじゃない。ね、"秘密部隊のトビさん"?」

 

「……帰り際、人目のねー所でっつー可能性とかは考えねーんですか?」

 

「なら、そうすればいいじゃない。できるもんなら、ね」

 

散々煽り立てられたトビは、こめかみに青筋を立てたり、顔面の筋肉が痙攣したりと爆発寸前だったが、何とか大きく息を吐いて激情を押し留めた。ここで騒ぎを起こしても、分が悪過ぎるからだ。

 

「…………なんかそーいうところあいつに似てきましたね。一つ屋根の下、一緒に暮らしてれば、そーもなりますか」

 

「……今まで数えきれないくらいアンタの言葉で悲しみを背負ってきてたけれど、その言葉が一番傷ついたわ……」

 

「まー本意じゃなく閉じ込められてる気持ちも分からなくねーですよ?」

 

「別に人間界に居るってのも悪くないけどね。喧しいお目付役も居ないし。アンタこそ、その……ハクジュンだっけ?それ気に入ってないの?天職なのかと思ってたわ」

 

「…………皆が皆、どこぞの誰かさんみてーに気楽じゃねーっつーことですよ」

 

「……そうね。あそこまで気楽だと逆に尊敬するけれど」

 

彼は思わずため息を吐く。顔を上げると、彼女の方と動きがシンクロしていたことに気付いた。どうやら名前は出していないが、思い浮かべた人物は同じだったようだ。自分の悩みなど"彼"を見ていると、呆れに変わるようであった。

 

「ところで、てめーは何しに来たんですか?まさか、わざわざ俺を煽るためだけに来た訳じゃねーですよね?」

 

「どんだけ自意識過剰なのよ。違うわよ、買い物。私にだって楽しむ権利はあるでしょ?」

 

「買い物って、そっちじゃできなかったんですか?」

 

「いっつも同じラインナップを見ても面白くないでしょ。だからこっちに来たの。買う物は決めてないけどね」

 

「無意味に来たんですか?てめーも大概暇ですね」

 

「……そっちこそどうなのよ?」

 

「俺はウィンドウショッピングです」

 

「…………アンタ、特大のブーメラン頭に突き刺さるどころか、もぎ取られてそこに転がってるわよ」

 

「まーまー、そんな邪険にしねーでくださいよ。今日のところはこっちも誘拐なんて物騒なことは考えてねーですから。どうですか、これから一緒に買い物なんて?」

 

「お断りよ。今日は一人でのんびりしたい気分なの」

 

「あらら、フラれちまいましたか。……あ、もしかしてプレゼントの厳選でしたか?そりゃー失礼しました」

 

トビは今日が何日かを思い出して、あっさりと引き下がる。そもそも、社交辞令のつもりで誘っただけであって、受け入れられてしまっていても困惑していただけだろう。もしもの場合は、向こうの承諾後、こちらから願い下げを入れるつもりだった。

一方のミュゼは何のことだか分からないようで、頭の上に疑問符を浮かべていた。

 

「プレゼント?一体何のこと?」

 

「またまたー、かまととぶっこいちゃって。ゼード君へのプレゼントでしょう?」

 

「何でまたあいつなんかにプレゼントなんて贈らなきゃいけないのよ?」

 

「だって、明日27日は彼の誕生日じゃねーですか。誕生日プレゼント、略して誕プレってやつですよね?」

 

初めのうちは、彼女がただしらを切っているだけだと思っていた。しかし、本当に初耳だったのだとこの質問で感じ取る。返答はなかったが、目を丸くして、あたかもたった今知ったかのような表情を見せているからだ。

 

「……え?マジですか?初めて知りました?ご存じなかった?何か月も一緒に暮らしているのに?」

 

「……うっさいわね」

 

「あのー、外野がとやかく言う義理じゃねーことは分かってますが、そんくれーのことは最低限知ってて当然だと思いますよ?赤の他人って訳じゃねーですし。それとも、すんげー仲悪いんですか?普段家で何話してるんですか?」

 

「あーもう、悪かったわね。初めて知りましたよ!でも、多分向こうも知らないからお相子よ?」

 

「お相子というか……もう……ねぇ…………?」

 

「はいはい、悪かったって言ってんでしょ」

 

内心、笑いを堪えるのに必死だった。さっき煽られた仕返しとばかりに、不意に露わになった穴を攻め立てる。質問という名ばかりの追及の波状攻撃に耐えきれなくなったミュゼが、ついに白旗を上げたのだ。これだけで、今日町に出てきただけの価値はあったと満足していた。このまま、城に直帰したらぐっすり眠りにつけそうだ。

 

「笑みが顔に出てるわよ。……根っから性格捻じ曲がってるわね」

 

どうやら隠しきれていなかったようだ。ミュゼとトビは魔王討伐後の数日と、それからたまに遭遇するくらいしか面識はなかったはずだが、それだけである程度の理解を得られていたらしい。

ミュゼは少し考え込むような仕草の後、彼を置き去りにして歩いていく。

 

「一応、感謝はしておくわ。形として何か渡しておくことにするから」

 

「そーですよ。表面だけの付き合いなら、そーいう体裁を整えとくっつーのも大事ですからね。親しーなら尚更です」

 

彼女はこれ以上の会話を続ける気はないようで、そのまま近くの店先の商品を真剣な眼差しで凝視している。トビもこれ以上この場に留まり続ける必要がないと判断したのか、来た通路を引き返していた。

 

ミュゼを追い詰めていた時の彼の表情は生き生きとしていたが、別れた今は重く沈んだような顔をしている。勿論、離れてしまったことが原因ではない。彼の脳裏には、先ほどの会話で別のことが浮かび上がってきてしまっていたからだ。

 

 

彼――トビの存在意義――理由。

 

彼がこの国に固執する訳を――。

 

 

セントクルス城の一角、見張り台や食料庫などがある別塔。その地下には牢屋があった。地下へ続く階段は石でできており、明かりも点々としかないことからも、どことない冷たさを感じた。この別塔は攻め込まれるような事態がない限り、使われることがないのもあって人がおらず、寂しさを助長させている。

そんな階段をトビは一人降りていた。カツンカツン……と、靴の裏が石を叩く音が虚しく反響している。そんな階段の途中、地上と地下牢のちょうど中間あたり。側面は壁で塞がれ、上も今通ってきたが人影は見えず、下に至っては真っ黒い闇が果てしなく広がっていた。そんな場所で彼は立ち止まった。念のため周囲を警戒した後、右側の壁に向かい合う。そして、一つの石レンガを奥へ押し込んだ。

 

するとどうだろう。ガチャリという機械のような音と共に、壁の一部が割れるように開いたのだ。隠し通路だ。その現れた通路に臆することなく、彼は足を踏み入れた。身体が完全に通路へ入り込むと、どういった仕組みなのか自動で壁が閉じてしまった。彼は完全に閉じるのを確認すると、通路の先へ進んでいく。

 

 

通路は不思議と寒くない。それどころか、適温に調整されていた。人が居ないはずなのに、である。周りの材質もさっきの石ではなく、上下左右の四面をタイル張りしてあった。確実にここは、さっきまでの空間と異なっているのは明白だった。変わらないのは、彼の足音だけが一定の間隔で鳴らされているだけである。その彼の顔も、何を思っているのか分からないくらいに無表情である。しかし、何も考えていないという訳ではないらしく、時折眉間に皺を寄せていることから、真剣過ぎて表情を作ることを忘れているようであった。

彼がここまで神妙な面持ちをするのは大変珍しいことだろう。たとえ、今から相手の首を落とすと覚悟した時でさえ、この表情は見ることができない。戦闘の時よりも、真面目なのだ。

 

通路の行き止まりにはガラス張りの扉が構えてあった。トビは深呼吸をしてから、その扉に手を掛け、勢い良く開く。町や城の一般的な扉は開き戸なのだが、ここの扉は引き戸だった。普通、開き方が分からずに一瞬困惑するものだが、彼は迷うことなくそれを横にスライドさせた。つまり、彼がこの場所を訪れたのは一度や二度ではないということだ。

 

 

部屋の中はまるで別世界だった。部屋の壁を覆い隠すかのように、大量の機械が並べられており、自動でそれぞれの役目を果たすべく作動していた。きっと少しでも触れたら、エラーを吐き出してしまう。それくらい精密なものだった。当たり前だが、彼はそれに触ろうなどと愚かなことは考えていない。

外では石炭を燃やして汽車を走らせている時代だ。ここの設備は、近未来、別世界と称してもおかしくないくらい異質だった。

 

そして、その部屋の真ん中には二つのベッドが置かれている。そのベッドを包み込むように、カプセルのような透明なケースが覆っている。周囲を取り囲んでいる機器は、そのベッドへ向けて複雑な配線をしながら、コードを伸ばしていた。床はそのコードだらけで、油断すればすぐに足を取られて転んでしまいそうだった。

彼はそれらを踏まないように跨ぎながら、片方のベッドへ向かった。軽やかに進んで傍に立つと、ベッドを見下ろす。そこには、病院服のような白い服を纏った年端もいかない少女が、死んだように眠っていた。歳はトビよりも十歳ほど若いだろうか。彼は目を閉じたまま開くことのない彼女へ、頭でも撫でるかのように優しく手を伸ばす。しかし、彼女の肌に直接触れることは叶わない。薄い透明なケースがその進行を阻む。数ミリの厚さしかないカプセル、強く殴りつければヒビでも入っていくだろう。目と鼻の先に居る彼女と、そんな分厚い壁に隔たれているのだ。届かない彼女に対して、透明なケース越しに優しく、頬から鎖骨まで指を這わせる。

 

暫くずっと眺めてから、大きくため息を吐く。そして、部屋の隅で座って本を読んでいた女に声を掛ける。

 

「……何見てんですか?見世物じゃねーんですよ」

 

乱暴な言葉に、彼女は読んでいたページにスピンを挟むと、隣の棚に置き、椅子から立ち上がった。よれてしまったスカートを手で正し、トビに向き直る。

 

「誤解されるようなレトリックはよして頂戴。私はずっとここに居たし、勝手に入ってきたのも貴方。ちなみに、彼女の面倒を見ているのも私」

 

「……ずーっとここに居て暇じゃねーんですか?」

 

「仕事だからね。それに本に囲まれているっていうのも悪くないものよ?」

 

改めて見ると、棚にはこれでもかというくらいの本が並べられていた。

彼女――イノリもハクジュンの成員だ。しかし、彼女は戦闘も諜報もせず、この薄暗い隠し通路の先の部屋に居るだけである。エンジニア、とでも言うべきか、彼女はここの機器の扱い、そして眠っている彼女たちの世話をしているのだった。ハクジュンの制服にネイビーのマキシ丈ロングスカート。恰好はハクジュンそのものだったが、不健康そうな気味の悪いくらいに色白な肌、戦闘など以っての他とでも言うべき筋肉の付いていないひょろっこい腕。どこをとっても、この役割以外任せられる気がしなかった。

しかし、この見たこともない機械たちを操れるのも、彼女しか居ないのも事実であった。

 

「ちょいと外に飛び出せば、この本の比じゃねーくらいの図書館もあるんですがね」

 

「欲しい本があれば貴方に頼んでるから問題ないわ。そのためにちょくちょく来てくれてるんでしょう?」

 

「違います。断じて違います」

 

「なんだ、私への熱烈なラブコールかと思ってたわ」

 

「おめでたい頭してやがりますね。読書以外にもその頭使わないと、そろそろ腐り落ちるんじゃねーですか?」

 

「……大丈夫よ。貴方の妹さんのためでしょ?」

 

「…………」

 

トビは黙ってベッドの方へ視線を移す。その中で眠っている彼女を見ると、胸が張り裂けそうになる。

 

もう何年も彼女が起きている姿を見ていない。

もう何年も彼に微笑みかけてくれる姿を見ていない。

 

――一体、彼女が何をしたというのか。

 

 

ずっと忘れることができない、今から七年前の6月21日。

普段通りに町を歩いていたカガリが、ふと突然、何の前触れもなく倒れたのだ。どれだけ揺すっても、少し強く肩を叩いても何の反応も示さない。急いで彼女をおぶって医者へ駆け込むと、正体不明の難病だと診断された。昏睡状態のままで何の手の施しようもない。その言葉を聞いて、彼は地面が崩れ落ちるような感覚に陥った。彼女は両親の居ない彼にとって、唯一無二の家族であったからだ。

打ちひしがれ、失意のどん底に居た彼へ手を差し伸べたのは、他でもない中央国セントクルスだった。治療法は見つからないが、死なずに済むように力を貸そう、と。当時のトビはカガリを失いたくないという一心で、その手を掴んだ。

……果たしてこれは救いの手だったのか、さらなる地獄へ突き落すための手だったのかは今でも分からないでいる。

カガリへの処置は現状のように、カプセルの中で延命させるというものだった。苦しみもせず、ただ眠っているだけの彼女は死んでいるも同然のようなものだった。呼吸に合わせて上下する胸の動きがなかったら、生きていると判断できないだろう。でも、彼はそれだけでよかった。このような状態でも、彼女は生きている。それだけで、彼は絶望せずにいられたのだ。

 

しかし、三か月が過ぎようとしていた時、急に国がカガリの処置は中止すると言い出した。何でもこの最新の機器には莫大な費用が掛かり、これ以上良心だけでその面倒は見ていられないのだという。勿論、彼はこれに猛反発した。だが、そもそも向こうに無償でやってもらっていたものなのだ。彼に反論する権利など、端から存在していなかった。これまで、この最新技術の上でカガリは生かされていたようなもの。それから突然放り出されたら、間もなく死んでしまうだろう。トビは自身のあまりの無力さに、ただ泣き崩れるしかなかった。

そんな彼を見て、国が"ある条件の元"でなら彼女の治療を継続しようと申し出てきた。

 

その条件とは、"ハクジュン"への加入――――。

 

 

「……そーですね。分かってんならてめーは、その腐りかけの頭使って、あいつの面倒見てやがってください」

 

「言われなくともそのつもりよ。それに腐りかけが一番美味しいって言うじゃない」

 

「食われなきゃただの廃棄物です」

 

「手厳しいわね。……あら、もう面会は終わり?」

 

出入り口へ向かうトビを見て、イノリが呼び止めるように声を掛ける。

 

「ここに居たところで何か進展があるとも思えねーですし」

 

「そうね。ここは"そういう場所"だから。昔からずっとそのまま。一歩たりとも前へは進まないスタティックな空間なの」

 

「……だから嫌いなんですよ、ここ」

 

「でも、来なければ彼女に会えない。意地の悪いアイロニーね。貴方がハクジュンに居る理由と同じくらい」

 

「……嫌いな理由の八割はてめーなんですけど。何か欲しいもんでもあります?次にいつ来るか分かんねーですが、覚えてたら持ってきてやってもいいですよ」

 

彼女は棚を見て、むーっと唸り声を上げると指で本の背表紙をなぞっていく。結局は本なのかと呆れていると、漸く決まったのかこちらに向き返る。

 

「じゃあ、『ローザンの歌』をお願い」

 

「何ですか、それ。本のタイトルですか?」

 

「そうよ。西方の叙事詩なの。かつての戦争を描いた物語なのよ」

 

「へー。何だか口ぶりからするに、既に内容知ってんじゃねーですか?」

 

「読んだことあるもの。でもね、一度読んだ作品でも、無性にもう一度読み直したくなる時があるのよ」

 

「そーですか。俺にはさっぱりですけど。どんなあらすじなんです?」

 

本になど興味なんてこれっぽっちもないと態度で分かるが、彼は社交辞令で問い掛ける。それに対して、彼女はきっぱりと言い放った。

 

「英雄も裏切者も死んじゃう話」

 

「……あらすじも何も結末じゃねーですか。けど、ざっくりしすぎて訳分かんねーですよ」

 

「結末なんて一つのメルクマールに過ぎないわ。実際に読んでみなきゃ、本特有の独自の世界観は伝わらないわよ。ここへ持ってくる前に、読んでみるといいわ」

 

「気が向いたらそーします」

 

「本当に読んで来たら、翌日には世界崩壊かしらね」

 

「勧めといてひでー言いぐさですね。けど、ぜってーに世界は崩壊しねーんで安心してください」

 

「そう、安心だわ。……貴方は――」

 

仲が良いのか悪いのか、テンポの良い皮肉の言い合いを続けていると、不意に彼女が言い淀む。顔を僅かに俯かせ、深く考え込んでいるようだった。

やがて、彼女は顔を上げることなく、続きの言葉を発した。

 

 

「――貴方は英雄と裏切者、どちらかしらね?」

 

それを聞いて彼はピクリと身体を震わせる。いつしかのハルピュイアの言葉が蘇ってきたからだ。またドロドロとした感情が腹の辺りを渦巻いていたが、その考えを払拭するように頭をガジガジと掻きながら首を鳴らす。

 

「どっちにしたって俺、死んじまうじゃねーですか」

 

「そうだったわね。本のこと、よろしくね」

 

「いつ来るか分かんねーですし、覚えてるかも分かんねーですが善処はします」

 

そう言いながら、入り口近くの配線をジャンプして避ける。しかし、帰るはずなのに着地してしゃがみ込んだ状態のまま静止している。不思議がって彼女が声を掛けようと口を開いたところで、ゆっくりと立ち上がる。だが、立ち上がるとまた動きを止めてしまう。

 

「何して――」

 

「あいつに伝言いーですか?」

 

堪らずに声を発すると、それに被せて制止するように彼が喋り出す。あいつとはカガリのことだろう。昏睡状態なのだから、伝えようも何もない。勿論、それを痛いほど一番実感しているのも彼なのだ。だから、イノリはあえて突っ込まずに、黙って彼の言葉に頷いた。こちらに背を向けているから見えるはずもないのだが、自然と身体がそうしていたのだ。

 

「……決心が揺らぎそーになったらまた来るから、それまで"お隣さん"と仲良くやっててください。……お願いしますね」

 

「分かったわ。絶対に伝えておく」

 

彼は彼女の言葉をしっかりと聞くと、躊躇いもなく部屋を出ていく。いつものように乱雑にではなく、静かに扉を閉めて。ガラス張りなので向こうが見えるが、彼の目は前髪に隠れてしまっていて、確認することができなかった。それでも、迷わず一歩ずつ踏みしめていることから、彼の"決心"とやらは回復したのだろう。

彼女は彼の姿が見えなくなると、再度椅子に座った。彼は自身が言う通り、自らの心が乱れると不定期にここを訪れていた。そして、カガリの様子を目に焼き付けると外へ戻っていく。そんな彼に、「気になるなら毎日訪れればいい」と伝えたことがあった。しかし彼は苦笑いをしながら、その申し出を断った。曰く、「毎日見ると、それはそれで決心が揺らぎそーになる」かららしい。

 

座ったものの、すぐに本へ戻る気にはなれなかった。両手を膝に置いて、天井を見つめている。そして、おもむろに目線を下げていく。まずは背の高い機械たち。何本もののコードが伸びていて、機械同士を接続していたリ、被験者の腕に点滴として繋がっていたりする。次に、背の低い機械。カプセル内の酸素濃度や温度を調整するためのもの。そして、最後に視界へ入ってきたのは二つのベッド。カプセル型の透明な容器に覆われていて、外部との接触はできないようになっている。片方のベッドにはトビの妹、カガリが横になっていて、もう片方にはまた別の女性が眠っている。彼の言っていた"お隣さん"とはこの人のことだろう。

イノリはまた目線を上にあげると、トビの出て行った扉の向こうを眺めた。もうとっくに姿は見えなくなっている。しかし、彼女の目には立ち去ろうとしている彼の背中が、まだ見えているような気がしてならなかった。

 

そして、ポツリと言葉を零した。

 

「……ごめんなさいね」

 

 

隠し通路から戻ったトビは、上への階段に足を掛けた。だが、どうしてだかその足を引いて、反対の階段へ進む。下り階段、向かう先は地下牢である。

 

一番下までおりると、目の前にえらく頑丈な扉が立ちはだかる。当たり前だが、投獄された者が容易く逃げ出さないようにするためである。だから、仰々しい錠前も外のこちら側に付いている。けれども鍵は掛けておらず、引けば開く状態だった。理由は中を覗けば分かる。

彼は重い扉を体重を掛けながら開く。開いた瞬間に、中からは気味の悪い空気が漏れ出てくる。淀んだ空気。ずっとこれに包まれていたら、それだけで気持ちが落ち込みそうだ。中に居れば尚更だ。頼まれても、こんな場所になど近付きたくもない。

さっき鍵が掛かっていなかったというのは、ご覧の通り、収容されている者が不在のためであった。下町に刑務所が設置されていることからも、ここが利用されるのは他国との戦争での捕虜や、国に反逆でもしない限り使用されない。何人か城に侵入した者を捕らえたと述べたが、それも下町の方へ移送していた。考えてもみてほしい。刑事施設が充実しているのに、わざわざ王国の兵士の人員をここに割くのは効率的ではないだろう。そのため、余程のことがない限りは、ここに収監されることはないはずだ。

 

彼は臆することなく地下牢を進むと、奥から二番目の牢の前で立ち止まった。勿論、誰かが居る訳でもない。牢の鉄格子の扉も半開きのままである。牢とは反対側の壁に寄り掛かりながら、じっと中を見つめる。ここの牢に、一番最近の罪人が閉じ込められていた。その罪人の顔を思い出すだけで無性にイライラしてくる。王宮の地下牢へ捕らえられた者の末路は、処刑、拷問されこの世を旅立つ。しかし、そいつは死ぬことなく、いまだにのんびりと生きながらえている。しかも生意気に、過去を隠しながら。

 

魔王を倒した勇者という功績すら隠して――。

 

 

ハクジュンに加入してまだ四年しか経っていないトビは、地下牢の看守代わりとして、度々収容された罪人の様子を見に行くことを命じられていた。看守不在の理由は、わざわざ一人のために人員を割きたくないというのと、相手がまだ未成年だからという訳だった。つまり、彼は兵士以下の役割を与えられていたのだった。それ自体はプライドなど投げ捨てた彼にとって問題ではなかったが、数時間おきに監視しに来るという命令は、非常に面倒でつまらないものだった。新入りの雑用のようなものだと割り切ろうとしていたが、それでも退屈なことこの上なかった。

 

気乗りしないまま、今日も地下牢の入り口を跨ぐ。設計上、ここから罪人の姿は見えないが、絶え間なく異音が聞こえてくるのでその存在が把握できる。

 

カツーン、カラン……カツーン、カラン……。

 

一定のリズムで鳴らされた籠った音。奥から二番目の檻に近付くにつれて、どんどんその音が大きくなる。

そして、罪人の姿が目視できるよりも先に、向こうから話し掛けてきた。

 

「……だから、気配消しても分かるっつーの」

 

その言葉にトビは大きなため息を吐いて、堂々と牢屋の中が見える位置まで移動する。

 

「何でバレちまうんですか?今日は地下牢の扉も開けっ放しにしてたんで、軋む音で気付かれねーと思ったんですけど」

 

「ドアの音うんぬんの前に、お前が入ってきたら分かんだよ」

 

「おっかしーですね。潜入任務並みに息殺して来てるんですけど」

 

「毎日毎日ずっと同じ場所に居てみろ。そんで、そこに毎日毎日ずっと同じ野郎が来てみろ。……嫌でも何となく分かんだよ」

 

「じゃー何やっても、てめーにはお見通しって訳ですか。すげーじゃないですか。仰天特技として、処刑される前に皆に披露して散っときます?本物の一発屋ですね」

 

「うっせぇ」

 

「……うるせーのはどっちですか。てめーのその騒音、聞いててイライラしてくるんですよ。近所迷惑なんで止めてくんねーですかね?」

 

話している間も、ずっと罪人は音を鳴らし続けていた。食事用の木製スプーンを壁にぶつけて落としては拾い、ぶつけて落としては拾い、を繰り返していた。スプーンが木製なのは投獄者を考慮してのものだった。けれども、決して良い方向にではない。陶器やガラス製だと割れて、その破片で罪人が自傷してしまうおそれがあった。鉄や銀は硬いので壁や地面を削られて脱獄されるのを未然に防ぎ、飲み込まれて自殺されないようにするためだった。そのため、木製のスプーンは意図して飲み込まれないよう、普通のものより大きめに作ってあった。

重罪人を処刑するのは、一種のイベントであり、住民にとっての見世物でもあったのだ。そのため、処刑の場より先に罪人に死なれては困るのだった。

 

だから、こいつに目の前で死なれる心配はないのだが、こうも煩いとトビが先に殺してしまいそうだった。檻の中の青年は何が面白いのか、壁にスプーンをぶつけ続けている。スプーンが回収できないばかりか、月に何回も壊してトビに交換を求めてきていたのだった。それに応じるつもりはなかったが、食事を運べば自然とスプーンの補充になってしまっていた。料理長に状況を説明して、徐々に減っていく木製スプーンの謎を解明して見せたが、彼は渋い顔をするだけだった。当たり前だが、木製スプーンもタダではない。食事は本来廃棄予定の腐りかけの食材や、使った食材の切れ端を使っているので費用は殆ど掛からないのだ。どんな形であれ、良い食材を使った料理が食べられているだけ幸せと思え、と恨めしく罪人に食事を運んでいる。

 

「暇なんだから練習くらいさせてくれよ」

 

「練習?」

 

「……あの憎たらしい王の顔面に風穴開けてやる練習」

 

どうやら子供がボールを壁打ちして遊んでいるような仕草は、投てきの練習だったらしい。しかし、やる気があるようには到底見えず、最低限の手首のスナップだけで投げている。身体を起こすのもだるそうに、角の壁に寄り掛かって座っていた。首すら左の壁に乗せて、翌日寝違えそうな姿勢をしている。

 

「熱心なのは構わねーですが、厳しい警備ん中やるつもりですか?無謀だと思いますけど」

 

「やれる、ように練習してんだろ?」

 

「てめーそんな努力家でしたっけ?鉄格子の中で改心でもしやがったんですか?それに、出されたら少なくとも後ろ手に縛られてると思いますよ。その練習、意味ねーと思いますけど」

 

「それはもう終わった」

 

そう言い放つと、両手を縛られていると仮定しているのか後ろへ持っていき、その状態でスプーンを投げる。それの行方は、一日中ぶつけて少し変色している壁の中心に当たって床に転がった。

その限定条件など、とうにクリアしていて、意味なく暇潰しがてらにスプーンを投げていたのだ。

 

「勿論、逆手も完璧だぞ?」

 

「……無駄に器用なこと習得しましたね。それで、本番もそのスプーンぶち当てるつもりですか?風穴どころか鼻血すら見れねーですよ?」

 

「それまでにどっかで、もっと殺傷力のある武器でも手に入れられたら、万々歳なんだがな。最悪無理だったら、これでもいいや。殺せなくても、笑い者くらいにはできんだろ?」

 

「一泡吹かせられたら、それでいーって訳ですか。……つーか、いーんですか?そんな人生を賭けた最期の作戦を俺に話しちまって。そんなん聞かされたら、絶対に成功しねーんじゃねーですか?」

 

「言ったところでお前、あの王様守る気あんのか?」

 

トビはその言葉を聞いてポカンと口を開ける。

数秒後、彼は壊れたように独特な笑い声を響かせる。図星だったからだ。事前に命令でもされていない限り、王が真横に居て防げたとしても、笑顔でその投てき武器の行方を見守るだろう。

 

「すげーですね。心ん中でも読めんですか?」

 

「毎日来て、こうやって本音ぶちまけ合ってんだから、分かんねぇのはさすがに鈍感過ぎんだろ。お前に忠誠心の欠片もねぇことはお見通しだっつーの」

 

「いやー、なんだかんだてめーとも長い付き合いになっちまいましたね。もう、何年ですか?」

 

「知らねぇよ。カレンダーでも持って来いって。……つーか、まだ出してくんねーの?処刑のためでいいから、いい加減出せって。このままじゃ、本当に大道芸人になっちまうぞ?サーカスのスプーン投げで、一世を風靡しちまうぞ?」

 

確かにおかしかった。この青年が投獄されてから、もう三年が経とうとしている。拘留するだけでも、こうして人件費や食事などの費用は掛かっている。ここまで長く生かしておくメリットなど無いはずだ。……それともこいつがあの男の息子だからか。

 

「俺が知る訳ねーじゃねーですか。わざわざてめーのお給仕さんやってるくれーなんですよ?知りたかったら、もっと上の奴か、飼い主様本人に訊いてください。尤も、そんな機会があれば、の話ですが」

 

「ねぇな」

 

「じゃー大人しくそこで芸を磨いといてください」

 

トビは背もたれにしていた壁を蹴り、それをバネにして出入り口へ歩き出す。これ以上、彼と話していても、時間の無駄だと悟ったからだ。それにどうせ、数時間後には嫌でもまた顔を拝みに来なければならない。青年も毎度のことなので、とりわけ引き留めたりはせず、日課のスプーン投げ作業に戻っていた。頭痛の時は絶対にこの部屋に入りたくないなと呟きながら、地下牢を後にした。

 

……これがゼード釈放、数か月前の会話である。

 

 

昔を回想したトビは、何故だか無性に腹が立ち、半開きだった鉄格子の扉を蹴りつける。ガシャーンと物凄い音を立てた後、勢いが殺しきれなかったのか、軋んだ音を漏らしながらまた僅かにその戸が開く。それでもイライラは収まらず、ガジガジと頭を掻く。この場所に居る限り、気持ちが晴れることがないと判断した彼は、脱力したまま地下牢を出ていく。

 

冷たい石段を上りながら、彼はふと考える。どうしてそこまで、ゼードのことを目の敵にしているのだろうか。さっきの記憶の中でも、口こそは悪かったが、そんなに険悪な雰囲気ではなかった。理由を考えてみても、これといったものは浮かばない。……ただ一つを除いて。

 

彼は堕ちる所まで堕ちた。殺される寸前まで。……しかし、彼はのし上がった。魔王を倒し、一般的な生活を送っている。自らが望まなかっただけで、本来ならもっと上の階級にも昇れただろう。つまり、彼は一度底辺を経験しながらも、陽の当たる場所まで戻っていったのだ。

対して、トビはどうだろうか。どれだけ足掻いたって意味がない。いつまで経っても底辺のままなのである。ゼードは魔王を倒すという明確な目標があった。トビの目標は何だろうか。……何もない。カガリの治療費を稼ぐために、ずっとハクジュンに属し、王国の言いなりなのだ。そのカガリも治る見込みはない。

彼女が眠っている間、彼は身を粉にして働いていた。どんな汚れ仕事であっても、命令さえ下されれば実行していた。せざるを得なかったのだ。そのうちに彼は、身体も心も返り血でどす黒く染まってしまっていた。仮に彼女が重い瞼を開いた時、その瞳に映るのは彼女の記憶の中の兄なのだろうか。それとも、薄汚れて手を血に染めた殺人鬼なのだろうか――。

 

いつまでこの生活を続ければ良いのだろう。心はとうの昔に壊れた。

だから彼は、操り人形のように何も考えず、ただ言われたことだけをこなす。

底の見えない泥沼にどんどん潜っていく。潜っていく間は、浮上する際のことなど頭にはない。

 

彼は現在と未来の見えない日々を過ごす。過去を遠い記憶にして――――。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

11月15日。惰眠を貪っていたトビは、爆発音で目を覚ます。寝ぼけながら耳を澄ますと、敵襲ではなく、どうやら花火の音のようであった。一安心した彼は、再びベッドで横になったが、どうしても二度寝する気分にはなれず、仕方なくそのままタンスに向かう。

緑系統のカーキ色のモッズコート、首元にはホワイトファー、インナーにはブロックチェックのブルーのネルシャツ。そして、シンプルなネイビーのデニムパンツ。着替えてから、衣服の重さにため息を吐く。こうして着込むと動きが一瞬鈍くなるため、この寒い時期は好きではないのだ。薄着のまま過ごすという選択肢もあるが、風邪を引いてしまっては元も子もないため却下だ。そのため、渋々と彼は多めに着込み、下に降りていく。

 

降りた調理場では、トビに気付かないほど忙しそうに、料理長が動き回っていた。その場で立っていても、どこかせわしない。隣のテーブルを横目で見ると、いつも王宮で出す料理の比ではないくらいの量が置かれている。料理が料理で見えなくなっているという、一瞬訳の分からない事態に発展していた。

彼は調理済みの食事の山を他所に喋り出す。

 

「何ですか、これ?一大イベントでもやるんですか?」

 

声を掛けてやっとトビの存在に気が付いたようだ。けれども動きを止めることなく、彼を一瞥しただけで手元へ目を戻す。

 

「知らないんですか?明日は魔王が死んで平和が戻った、一周年の祭りなんですよ」

 

日付を思い返してみると、確かにそうである。さっき安眠を妨害してきた花火も、きっとそれの準備か何かで試し打ちでもしたのだろう。しかし、一般には魔王を倒した勇者は公表されていないはずだ。だからおそらく、それを讃える祭りではなく平和が戻った祭り、という扱いなのだろう。

 

(平和……ねぇ。本当に世界は平和になっていやがるんですかね?)

 

調理場の窓から外を覗くと、ギリギリ城門の辺りが窺えるのだが、尋常でない数の人が集まっていた。中央国ともなれば、盛大な祭りが期待できるとでも思っているのか、普段より多くの人が訪れているのだった。その中には、当然地方の貴族なども居るだろうから、その影響で料理長が割を食っているのだ。

さすがにこのてんやわんやの状態の彼に、食事をねだるのは酷というものだ。もし求めていれば自暴自棄になって、持っている包丁が食材ではなく、トビを捌くことにもなりうる。そんなことは御免なので、そうはならないうちに調理場を後にする。

 

予想通り城内にも人が多く見られ、人口密度が半端ではないことになっていた。平時からして、お世辞にも居心地が良いと言えなかった城は、余計に息が詰まりそうになっていた。

だから、彼が逃げるようにしてセントクルスを飛び出していくのも、必然なのであった。

 

 

町を出たトビは、不意に立ち止まる。行き先など決めずに出てきてしまったからだ。暫く悩んだ後、彼はまるで悪戯を思いついた少年のような顔をして、再び歩き始めた。

 

目的地は"ヘーンフィオ"。

ゼードたちのピース依頼事務所のある町だ。あそこだけは、町民がゼードこそが魔王を倒した勇者であると知っている。本来ならば、隠蔽のために動かなければならなかったが、引っ越し早々ゼード本人が口を割ったり、2月くらいにミュゼが街中で公言してしまっているため、黙認という形を取っている。噂が瞬く間に町中に広がってしまったことや、同じ町民には遅かれ早かれ気付かれていただろうという、諦め半分の状態なのだ。

一応、町の外に情報を出さないよう必死で動いているみたいだが、町民全員を把握するのはさすがに困難なのであって、勇者記事案件の大半がここから情報漏洩しているらしい。"らしい"というのは、彼がその案件のために行動していないからだ。下された命令が、『勇者ゼードに関する記事、それを雑誌などに掲載されるのを未然に防ぐよう尽力すること』だったからだ。どこぞからジャクが情報をリークして、ハクジュンが動き出すものの、それ自体は命令されていない。言い訳がましいが、もっとはっきりとした具体性がなければ、その現場を目撃でもしない限り、彼は動かないのだ。

そんな彼に、ハクジュン内で異を唱えている者も少なからず存在している。しかし、頭であるイツキが、物臭な態度の彼を容認してしまっているのだ。何と言われても、『言われたことだけしていればよい』と述べるだけであった。頭であるイツキにそう言われてしまっては、わざわざそれに背く者など居なかったが、庇ってくれたトビ自身も鵺のような彼を薄気味悪く感じていた。

 

そんなヘーンフィオだからこそ、きっとゼードが祀り上げられて、げんなりしている姿が見られるはずだ。そう想像するだけで頬が弛んでいた。けれども、悪だくみとはそんな簡単にいかないものである。

陽が沈みかかって、町を橙色に染め上げている頃に到着したトビは、観察も兼ねて周囲を見て回った。明日が本番だからか、暗くなるにつれて一層町民の気合が上がっていくようで、異常な盛り上がりを見せていた。セントクルスよりも遥かに小さい町だが、住民の活気だけはここも負けずとも劣らない。気合を入れて巨大な山車を作る者、ド派手な衣装をこしらえる者、前夜から酒を飲んでできあがっている者――今のうちから、酒飲み連中に混じりたい気持ちもあった。しかし、彼がわざわざこの町を訪れた理由である、目的の人物が見当たらない。

片割れであるミュゼは、大通りで見掛けた。前後を町長とシスターに挟まれ、まるで連行されているかように歩いていた。モンスターに打ち勝った催しなのだから、皆の怒りの矛先を彼女に向けさせるのかと思ったが、どうやら違ったらしい。彼女は積極的に祭りの準備を手伝い、一人では持てなそうな巨木を軽々と持ち上げたり、魔法でオブジェの土台を作ったりと、甚大な活躍をしていた。強制的に働かされている様子もなく、能動的に取り組んでいた。周囲の人々も、奇異や蔑視の目で見ている感じは一切せず、一住民として彼女を受け入れているようだった。この状態に至るまで、どれくらいの苦労があったのかは、彼のあずかり知るところではない。

けれども、この彼女の笑顔が全てを物語っていた。

 

しかし、やはりどうしても、この祭りの主役である彼の姿を見つけることはできなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……やっぱ、ここに居ましたか」

 

セントクルスの南西にあるボイナウは、当時30人くらいの住民が存在した集落だった。過去形であるのは、ここは既に世界から忘れ去られた場所の一つであったからだ。もうここには誰も住んで居らず、20軒もなかった家は朽ち果てていた。

ただ一軒、自然に崩れ落ちたのとは異なる様子の家屋があった。壁や屋根は破壊されたように欠け落ち、裏の畑であっただろう空間は、ただの荒れ地になっている。そこにも破損した瓦礫が飛んで来ていて、土を被っている。

その家の中に、一人の"元"勇者が寒さを凌ごうと、小さくなって座っていた。天井も壁もないから風通しは抜群である。そのおかげで、遠目からでも彼の姿をしっかりと捉えることができた。

昨夜は結局、ヘーンフィオで彼の姿を発見できなかった。だから今日は、まさかと思いつつ町を出てここへ捜しに来たのだが、どうやら大当たりだったみたいだ。

 

「……何の用だよ。今、忙しいんだからどっか行け」

 

「すみません、お忙しいところ。大変申し上げづれーんですが、見た感じボケーっとしてるだけのてめーは、一体何をなさってやがったんですか?」

 

「瞑想だよ、瞑想。邪魔だから消えろ」

 

「これはこれは。人里から離れてこんな秘境でやるとは、随分本格的ですね」

 

「…………」

 

「あーっと、これは失礼。ここは元々てめーの家でしたか!秘境じゃなくて、故郷だったんですね」

 

ゼードは頭を三角座りの膝の間に入れて会話を続けていたが、やっと出してトビのことを睨み付ける。その顔は、心底嫌がっているようだった。

 

「何?何なの?わざわざここまで来て嫌がらせ?ツンデレなの?実は俺のこと好きなの?」

 

「超が付くくれー嫌いですね。今日はどこもかしこもお祭りなんですよ、知ってます?しかもそのお祭り、主役がてめーなんだそーですよ。普段、陰キャラなんですから、こんな時くれーは楽しんだらどーなんですか?」

 

「誰が陰キャラだ。盛り上げ上手の間違いだろ?……そういうのが苦手だからこうして逃げてきてんだろ?」

 

「そーですね。"家族"との思い出が詰まった実家に逃げ帰ってくるくれーですからね」

 

「…………」

 

「それにしても、ひでー有り様ですね。ボロボロじゃねーですか。他の住民にやられたんですか?」

 

「………………」

 

「やり過ぎなよーな気もしますけど、その他大勢の気持ちも分かりますよ。"人類の裏切り者"が住んでた家なんて――」

 

 

トビが言いきる前にゼードが飛び掛かり、短剣を突き刺してきた。トビは咄嗟にクナイを取り出すと、ゼードの一撃を食い止める。それでもゼードは引かず、力押しでその切っ先をトビへ向け続ける。トビも大人しく貫かれるつもりは毛頭ないので、上手い具合に刃と刃を噛み合わせて防いでいた。ガチガチと音を立て、刃物同士から火花を散らしている。

本当に火花が散っていたのは、二人の視線だったのかもしれない。

 

「……父さんの悪口を言うんじゃねぇよ……!」

 

「誰もてめーの父親の話とは言ってねーですよ?」

 

「話の文脈からしてそうだろうが!!」

 

ゼードはこれでもかというくらい怒りの感情を露わにし、鬼の形相で歯を食いしばっている。一方のトビは、本人でも驚くくらいに冷静だった。おそらく、ゼードが感情的になり過ぎたせいで、トビが冷めてしまったのだろう。煽ったのは自分であるのに、激昂する彼を見て、面倒であるとさえも思い始めていた。突っかかってくる彼が、煩わしいとさえも。

 

「……本当のこと言って何がわりーんですか?」

 

「お前に父さんの何が分かるってんだ!!」

 

「分かんねーですし、分かりたくもねーですね」

 

「じゃあ、その憎たらしい口を閉じろ!」

 

「黙ってほしーのはこっちなんですよね……。耳元でぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー。耳障りったらありゃしねーですよ」

 

「お前がんなこと言うからだろ!!」

 

「…………大体、今のてめーは何なんですか?」

 

「は……?何がって――」

 

突然、トビが防いでいたクナイを大きく横に薙ぐ。押し込んでいたはずのゼードは、軽々と弾き飛ばされ、地面を滑るように転がる。その衝撃で、持っていた短剣も手から離れ、家の壁に当たってカキンと金属音を鳴らす。拮抗しているようだったのは見た目だけで、実際はトビがゼードに合わせていただけだったのだ。

胸でも打ったのか、ゼードは倒れ込んで咳をしている。そんな彼を見下ろしながら、トビが棘だらけの言葉を浴びせ掛ける。

 

「てめーの腕は、軽い物を投げるだけに特化した、貧相なもんでしょう?だから普段は策略を巡らせて、真っ向勝負しねーよーにしてるんですよね?何で、俺に挑んできたんですか?まさか勝てるとでも思ってたんですか?だとしたら、おこがましーにも程があります。それとも、そんな重要なことを忘れるくれー、頭に血が上ってたんですか?

……どんな状況でも、自分の強みと弱みを理解しておかねーと、すぐに付け込まれますよ。典型的な例が俺です。馬鹿ですねー。弱みを見せびらかしたおかげで、俺はいまだに地の底を這いずり回ってます。けど、てめーは折角、そっから人並みにまで昇ったんです。そんな簡単にくたばっちまったら、俺が直々にもう一度殺しに行きますよ。生きたくても生きられねー人だって居るんです。感情で動いて死ぬ、なんてもったいねーことしねーでくださいよ」

 

トビは、自分が自分で何を言っているのか、途中から分からなくなっていた。ゼードへ軽蔑を語っていたかと思えば、いつの間にか自分語りをしていたのだ。どうしてこんなことを話したのか自分でも理解できない。

彼に対して、何を求めているのか。反面教師としてアドバイスがしたかったのか、死なないでくれと忠告したかったのか、それとも……自分を救ってほしいとアピールしたかったのか。

最後であったとしても、彼にそれを告げて何になるのか。悠々と暮らす彼には、どうすることもできないはずだからである。陽の光を浴びている彼には、光の届かない場所に居るトビの心境なんて分かるはずもない。……分かってたまるものか。

そんなうずくまったままだったゼードが、腕だけで上体だけ起こす。そして何故か、ニヤリと意地悪そうな笑顔を見せている。

 

「……ご忠告どうも。おかげで少し冷静になれた。今の言葉も心に刻んでおくさ。…………けどそれ、俺の一番嫌いなセリフだ」

 

「はあ?頭強く打っちゃいましたか?」

 

「『生きたくても生きられない人が居る』って言葉だよ」

 

「何かおかしーとこありましたか?」

 

「確かに生きたくても生きられずに死んじまう奴は居る。でも、だから死ぬな、ってのは訳分かんねーんだよ。命に優劣とか、価値の違いはねぇよ?ごもっともだ。

……けど、だからって命を一纏めにすんじゃねぇ。つまりは命を粗末にすんなって言いたいんだろうが、だったら生きたくても生きられない人を引き合いに出すなよ。お前自身の言葉で引き留めろよ」

 

「……結局のところ、何が言いてーんです?」

 

「自分が持ってる命の代わりはねぇってことだ。深い所に沈んで、悲観しながらもがいてる暇があんなら、少しでも上を見て見ろ。たとえ、今は何も見えなくったって、いずれ救いの手が伸びてくる。……適当なこと言ってる訳じゃねぇぞ?

誰も手を伸ばさなかったら、代わりに俺が伸ばしてやる。この貧相な腕を、な」

 

"元"勇者の言葉にトビは思わず、乾いた笑いを零した。いつものような、狂った独特な笑い方ではなく、ハ行らしき音が息と混じりながら口から漏れ出している。

 

「さっすが、"元"勇者様のゆーことは違いますね。人類を救ったてめーには楽勝なんですか?」

 

「別に人類を救ったつもりはねぇよ。顔も知らねー奴なんか助けたところで、俺にはこれっぽっちの意味もないだろ?」

 

「人助けに意味なんてあるんですか?」

 

「あるさ。顔も名前も、居場所さえも知らない他人が苦しんでたって、俺には関係ない。だって他人なんだから。……けど、どれか一つでも関わりを持っちまったら、それはもう他人じゃなくて"知人"なんだ。知り合いに嫌われるのは御免だからなー。

……だから俺は、苦しんでる"知人"のために魔王を倒した――」

 

「…………」

 

「――って、理由だったらかっこ良かったよな?」

 

「……はぁ?」

 

「ぶっちゃけ、俺が魔王城に乗り込んだ理由は父さんの敵討ちと、あのクソ国王をぎゃふんと言わせるためだったからな。んな、ご立派なこと考えてねぇよ。お前が監視してなかったら、確実に魔王よりも国王の暗殺に力入れてたわ」

 

そう言ってゼードは一人で大笑いする。

ついさっきまで、ゼードが魔王を倒せたのは、たまたま運が良かっただけで、他には何もないと思っていた。しかし、話を聞いてやはり彼は勇者としての素質があって、魔王を倒すだけの志があったのだと感じていた。

…………たった今までは。

 

 

ふと気が付くと、起き上がろうとしていたゼードを蹴り倒し、そこから殴る蹴るの暴行。痛めつけられながら彼は、「何で!?良いこと言ったじゃん!!?ねぇ、せめて何か喋って!!?」と叫んでいたが、無視して攻撃を続けた。

 

15分も続けると、気絶でもしたのか抵抗もなくなって静かになった。けれども、残念ながら死んではいないらしい。

ついさっきまで、「感情で動くな」と語っていたトビがこの有り様である。尻餅をついて息を整えると、行いを思い出して深く反省をした。急にブルーな気分に陥った彼は、重たい身体を引きずりながら城へ帰ることにする。床でゼードが伸びているが、放置したところで何の問題もないだろう。野犬にでも齧られたら、勝手に起きるだろう。起きなければ餌になるだけだ、と判断を下し、ボイナウの集落跡地を後にした。

 

 

城に戻ってきたトビは無言のまま、調理場の扉を開ける。祭りの置き土産である、大量の洗い物タワーを低くしていた料理長が、扉の音で彼の帰宅に気が付く。手を泡だらけにしており、鼻先にもくっつけていた。

 

「おかえりなさ――どうしたんです?随分とやつれてますけど。祭りで揉みくちゃにでもなりましたか?」

 

「祭りなんか行ってねーですよ。……精神的に疲れたんで、もう寝ます」

 

のそのそと、彼は自分の部屋が隠されているタイルの下まで歩く。許されるなら、このまま倒れ込んで眠ってしまいたい気分だった。料理長は洗い物に向き直り、見るからに高そうな食器を洗っている。彼も連日の大仕事で疲れているだろう。ここで眠ってしまったら、彼に迷惑が掛かる。しかし、自分の部屋は天井裏にある。跳んで、タイルをずらして、ベッドに潜り込む。この工程を思い浮かべただけで、気絶しそうになる。

トビが最後の気力を振り絞り、ジャンプしようと僅かに膝を曲げたところで、料理長が言ってきた。手は止める余裕はないのか、こちらに背を向けたままだ。

 

 

「そういえば、ついさっき"良い食材が手に入った"んですよ」

 

その言葉にトビは動きを止める。体勢的にきついはずなのだが、たった今まで感じていた眠気や疲れが、一瞬にして弾け飛んでしまっていた。

真剣な眼差しになって、料理長を見る。その背中は、自身の職務を全うするために働いている職人のものだ。

 

「そりゃー……いつの話ですか?」

 

「……半刻ほど前ですね」

 

「皆さんは、もー食べたんですか?」

 

「はい。皆さんご一緒に」

 

「……そーですか。おそらく誰か部屋に持ち帰ってると思うんで、俺も味見してきます」

 

「いえ。……トビさんの分も用意してあるので、見に行ったらどうですか?」

 

「…………りょーかいです。何が貰えるか楽しみですね」

 

トビは独特な笑い声を上げ、開けっ放しだった調理場の扉から出ていく。

誰も居なくなるのを感じると、料理長は深いため息を吐いた。呆れ、などではない。緊張の糸が切れたからだ。そして、手に泡をつけたまま、倒れ込む勢いで床に座る。座った、というよりかは脱力して、足に力が入らなくなったという表現の方が正しいだろうか。

 

今の会話は、実際に珍品が入荷してきた訳ではない。

 

 

一種の"隠語"なのであった。

 

 

トビは人目を気にしながら、ひときわ大きな扉の前で立ち止まった。頑丈で、大剣を突き刺しても向こうまで届かないどころか、突き刺さるかも怪しいくらい立派な扉。これこそが、セントクルス現国王、カルドレアの部屋だった。

彼は形式通りに、扉をノックするために叩く。一般のとは異なり、彼のは金貸しが自宅へ催促しにきたように乱暴な叩き方だったが。

 

「……入れ」

 

中から微かに声が聞こえる。厚い扉のせいなのか、そもそもそんなに大きな声を出していないのかは外からでは判断できない。しかし、こうして反応があるのは、滅多にないことだった。一度自室に籠ってしまったカルドレアは、外からどんなに声を掛けても、反応せずに無視を極め込むのだそうだ。そうなっては、自らの足で外に出てくるまでは、報告もままならないのであった。トビは、いつ出てくるかも分からない引き籠りを待っているのが非常にしんどいので、命令の報告は共に任に就いていた仲間や、無線を使ってジャクに丸投げしていた。

トビは言われた通りに、躊躇いなくその大きな扉を押し開ける。やはり頑丈だ。ある程度鍛えているトビでさえ、かなりの力を入れている。王様はどうやってここを開閉するのだろうか。その時だけ、人を呼ぶのだろうか。そんなつまらない考えをしながら、通れる分だけ開いて部屋に潜り込む。すると、今度は室内の豪華さに圧倒された。

一人で寝るにはあまりにも大き過ぎる天蓋付きベッド、鬱陶しくないのか頭のすぐ真上にまで垂れているシャンデリア、ベッドを囲むように設置して何の意味があるのかというデザインの凝った欄干。調度品の数々が豪華そのもので、正直トビにはその価値を理解できなかった。

 

「参りましたよ、飼い主様。ついに脱引き籠りですか?社会復帰でもするんなら手伝いますよ」

 

「口を慎め、トビ。……貴様を呼び出した理由は分かっているだろう?」

 

マホガニーとモケットで作り上げられたアームチェアから、カルドレアが立ち上がる。青を基調としたローブにマント、柄の短いステッキ、頭には王の証である黄金の王冠が乗せられている。ローブも高級感を出すためなのか、首元とマントの端にはトラの毛皮が施されていた。トビの首にもファーが付いているが、そんな値段の比ではない。

カルドレアはゆったりとトビを見下ろして、質問の答えを促す。元々釣り目なせいで、怒っているのか平時の表情なのか判別しにくい。今は後者だろう。いつも通りの国王だった。

 

「いーえ?皆目見当がつかねーです。命令通りに集めモンはしてますけど、他に何か用なんですか?それも……ハクジュン全体に伝えるくれーの」

 

「あぁ……。ついに"状況が整った"」

 

その言葉にピクンと身体を反応させる。それはつまり、漸く事態が動き出すということなのだった。あの不明瞭な命令、それがついに現実性を帯びるのだ。

 

これは、魔王侵攻以来の大きな出来事――。

 

トビにとっても、ゼードにとっても。

ましてや、人間界と魔界をも巻き込んだ事象――――。

 

 

 

「モンスターの娘、確かミュゼという名だったか。あれを連れて来い。

期限は………………"来年の1月まで"だ」




ここまでお読みいただきありがとうございます。

初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶりでございます。
碓氷 修夜です。

13.6話です。.6ってなんですか?番外編の後編ってなんですか?……突っ込みたいところは多々ありますが、一番の問題はそこではありません。


これにて、『勇者と魔娘の3年間』の1年目が完結です!!!

いやー、case:01の投稿が去年の10月12日なんで、ほぼこっちも丸一年ですか?……遅すぎますね。もっと、ペースを上げていきたいものですが。体調次第になってしまうので、確約はできないですね。


さて、今回の内容について触れていきましょう。前回みたく、日を追いながら解説というか雑談していきます。

まずは本文には書かれていないですが、モンスター殺人犯を見つけた10月2日。ゼードが逃がした犯人のその後のお話、ザックダランの刑事再登場でした。本編はcase:07の後になりますか。これがきっかけで、トビの闇が見えてきました。

次に、10月26日。本編はcase:12の辺りです。ミュゼと駄弁ったり、隠し部屋へ行ったり、地下牢で回想に耽ったりと濃い一日でした。本文が無駄に長くなった原因の七割がこの日のせいです。本来ならば、ミュゼとの会話も塩味に終わるはずだったのですが、口を開けば互いに悪口しか出てこないので、尺が長くなりました。「明日はゼードの誕生日だよ」「知らなかったわ」の二行で終わる予定だったのですが……おかしいです。本編で『親切な人が教えてくれた』と皮肉っていた、ミュゼ視点の話でもありましたね。
そして、隠し部屋。このトビ目線として主役級に扱った理由は、全てここに凝縮されています。彼は何なんでしょうかね?悪役のようでありながら、ダークヒーローにはなり切れない、そんな微妙なポジションのキャラです。
イノリも最初は普通に話していたのですが、何かイマイチキャラが弱いと思って直前に修正したのです。エンジニアな理系でありながら、本の虫という文系っぽさはどうしたら出せるのかな、と。語尾や口調を特徴付ければ簡単なのですが、安易にそういうキャラ出すと、こっちがイライラしてくるもので(笑 それに、その特徴付けしているトビと会話させていたら、こっちの気がおかしくなりそうだったからです。
結果、難しい横文字を使いながら話す、という形に落ち着きました。理系の論理的っぽさと、文系の無駄に難しい言葉遣いをする、というのがそれとなく出ていてくれたらうれしいです。しかし、私自身が横文字を得意としていないので、変な喋り方はしていないのになるべく出したくなくなりました(笑
文中で『ローザンの歌』という本が出てきましたが、元ネタは『ローランの歌』です。古フランスの叙事詩ですね。結末は書いてしまいましたが、彼女が言うように実際に読んでみなければ、本特有の独自の世界観は分からないと思うので、興味があれば読んでみてください。

そして、11月15日。本編はcase:13辺りです。残りの三割はこの日のせいです。ゼードが事務所に『ぼろぼろの身体』になって帰ってきた経緯ですね。ゼード君、主役っぽい部分は見せられましたかー(小声)
トビも自分自身のあり方に困惑しているようですね。
最後にはついにカルドレアからミュゼ誘拐のお達しが発令されました。こっから物語は大きく動いていくでしょう。

今回で語られなかったトビやゼードの過去が明らかになってきました。そして、会話中にちらっと出ていたミュゼがピース依頼事務所に居る意味。自らの父を倒した仇でもあるゼードと何故一緒に暮らしているのか。これまでの話だと、恋愛感情はどちらも持ち合わせていない様子?だったら一体何故。という理由が2年目で明らかになります。

露骨な宣伝もしたところで、"今回"の書きたいことは書き終えました。こっからは、『勇者と魔娘の3年間』の1年目を振り返りつつ、裏話をします。長くなるので、興味のない方は最後の方まで読み飛ばしちゃってください。



覚悟はいいですね?

まず大前提として、この作品を書き始めたのは「勇者モノ」が書きたかったからです。それだけ。ただ、勇者になって魔王を倒しに行く、というアウトラインは使い古されて、読み手も書き手も飽き飽きしてしまっていました。あ、別に否定している訳じゃないですよ?王道、そう王道です。私は、カッチカチの王道物は大好物ですし。
脱線しましたが、なので、ちょっと違った切り口として魔王不在の世界、その後の勇者の様子、ということで書き始めたのがこの作品になります。勿論、魔王を倒した後の世界を描いた作品もたくさんありますので、他者様の作品を漁ってみてください。そんな中で私は、"王道を異端として進む"ということがしたかったのです。私が天邪鬼なせいかくなものですから。
だから、主人公に剣や刀を持たせず、魔法も使わせない。殺伐な世界は終わったから、なるべく暗い話にはしない。勿論、魔王も復活しない。というテイストにしてみた訳です。
読んでいただいている友人にも「どうせ魔王が復活するんだと思ってた」などと言われたりもしました。復活しません。そうしたら、また戦争が始まってしまうでしょうから。平和主義でいきましょう(笑

次点の理由には「魔物・モンスター」が書きたいというものだったのですが……全然出てこない!おかしいです。こればっかりは、想定していませんでした。……ただ、ここまでは1年目なので、ね。

細かく書いていきます。
case:01……打ち込むのが面倒なので、次から○話って書きます。そもそも、『case:○○』って表記にしたのは、単純に第○話、って書くのが何か嫌だったからに過ぎません。それで、事務所なので一つの依頼って意味で『case:○○』になりました。

1話は、本当に導入なのでキャラや世界観をざっくり説明、そしてチュートリアル戦闘代わりにごろつきと戦いました。ただ、キャラクターを使い捨てにするのは嫌いなので、アニキなんかは隙を見てまた出してやろうとこの頃から思っていたものでした。

2話は、一風変わって特に何も起きない日常回。何も起こらない普段通りの生活が書きたかったんです。二人の距離感とか、舞台は日本じゃないですけど佗・寂の様子とか。……書きたかったんです。

3話は、また戦闘。『……旨いか、俺の肉は?なぁ、ワンころ』って台詞を言わせたいがために書きました(笑
他に言うことは…………特にないですね。

4話は、エイプリールフールネタがどうしても書きたかったのです。この日自体が伏線になるだろうと踏んで、です。初登場のレイグはこの作品では数少ない一人称で描かれるキャラクターです。そのくせ、扱いは酷いものです。ぞんざいに扱っているのは愛情の裏返しなのでご留意ください。私個人的に一番書き直したい話です。

5話は、魔界側の様子を書きたかったのです。……というか、そろそろ魔族側を出さんと、という。ミュゼとヴォルフは出てましたけど。魔族四天王という、もうネーミングセンス皆無な名前。それぞれのリーダーの名前の付け方も酷いですからね?機会があったら書くかもしれないですけど。この回で、魔王無しの魔界がどうなっているのか描写しました。

6話は、あっちでも書いてありましたが、当時同時連載していた『月影テールライト』を書き終えるまで投稿しなかったために三か月近く間が空いてしまいました。ロザやクレインについても6話の後書きに書いてあるので、こっちでは割愛します。

6.5話は、もう一方の戦闘でした。これも特に書くことないですね。ただ、書いてて楽しかったのは覚えています。

7話は……出てきやがったなトビ。そろそろ、ゼードの天敵であるキャラクターを登場させたかったのです。そして、そろそろゼードに負けてほしいな、と。主人公無双の作品も嫌いではないのですが、ゼードはそういった無双キャラじゃないなと思ったからです。彼は、格下には滅法強く、上の相手にはぼっこぼこにされるか辛勝するようなキャラだと思った次第です。ミュゼはもはや相手に格下しか居ないので……。

7.5話は、ロザ、ハインツが中心の話でした。こっから自由にロザが魔界に出入りできるようになった訳ですからね。ロザの前の世界についての構想もあるにはあるのですが、おそらくこの作品で見ることはないかと……。ということは、ロザは元の世界に帰れないのでは!?……言及は避けます。そっから話にあまり出てこなくなったクレインですが、ちゃんと(?)ロザの家には行ってます。……ただ、そろそろその不満も爆発しそうですね。

8話は、二人の苦手なものが明らかになりました。……怖がっている二人の姿が書きたかった、以上!シスターの初登場でもありました。この人は地味にキーパーソンなので追っていて損はないと思います。

9~11話は、グドとリディのお話でした。本来、これも前後編にしようと思っていたのですが、どうしても崖から飛び降りるシーン、四人が分断されるシーンが書きたくて尺が伸び、更にこの話のここで伏線立てられるな、などと調子に乗って立てまくった結果、三話分になりました。
後悔はしていません。長くなった分、感情移入がしやすくなっているのではないでしょうか?そうだったら嬉しいです。
……実を言うと、このお話は、某漫画作品に感銘を受けて若干オマージュ?リスペクト?した話でもあるのです。そんな、ここ同じじゃん!みたいなのはありませんが、若干設定などが似通っているのはそのせいです。
あと、いまだにこの三話分を『ツクリモノノ心編』とか『心編』、『盲目の人形師編』とかって自分の中でも決めあぐねているのですが……何か良いのありますかね?『○○編』って言えた方が、後々説明しやすいんですよね。……それくらい、伏線が立っているのです……うふふ。

12話は、さっきまでの三話分の長編の反動で無性に短編が書きたくなったのです。まぁ、ネタもオチもベター過ぎましたかね?何か味気ない話かもしれません。アニキ再登場。

12.5話は、ロザ魔界探索回でした。やっと魔族が書ける!と思ったのですが、結局新キャラは二人だけ。種族名も出してないですしね。ただ、アークェラは特徴が書いてあるのでなんとなく分かると思いますが。今更になって、何でこいつを女の子にしなかったんだろうと。絶対可愛い子が書けたなぁと自責の念でいっぱいです。私はキャラクターの性格を考えるときは、パッと頭に飛び込んでくるものと、アニメやゲームのキャラクターを思い浮かべながら決めるかのどっちかなのです。彼は後者で、その思い浮かべたキャラクターが男性だったので、それに引っ張られてしまったのかと思います。いやぁ、無念。

13話は、初っ端の『……最近所長の様子がおかしい。』という、ライトノベルのような書き出しがしたかったのと、最後に二人でお疲れ様をしてほしかったです。ただ、この回はそれに尽きるのではなく、ピース依頼事務所の二人の戦闘が書けました。やっとです。ずっと書きたかった(笑
……12.5話からこの投稿まで一か月ほど空いているのは、体調が悪かったからです。病気について語ってもいいのですが、ただでさえもう後書きだけで一話の半分くらいの文量になっているので、活動報告で機会があったらにします。

そして13.5話と13.6話。トビが暗躍しつつ、1年目で回収できる伏線を全部回収してくれました(笑
元々この二つを一話で済まそうとしていたのですから、私の構成力など当てになりません。その二つでさえ、真ん中で半分に分けたつもりが13.6話の文字数が29245字という馬鹿げた数字になってます。文章でも現実でも、尺を稼ぐのだけは得意なんですよ……。



さて、裏話はここまでにします。
……本当に後書きの文字数が酷いことになっているので。

今後についてなのですが、勿論2年目を執筆していくつもりです。ただ、その前に1年目の各話を修正してからにしたいなと思っているのです。今までも、書いてすぐに投稿、寝る、起きて見返すと酷いことになっていて、誤字脱字、日本語としておかしい部分の細かいサイレント修正はしていたのです。しかし、それとは別に表現の重なりや文章末尾で同じのが連発されていたりするのが気になって仕方がないので、それを修正したいと思います。
しかし、修正と言っても内容が変化する訳ではないので、わざわざ読み直したりする必要はないと思います。自主的に読み直してくださるのはありがたい限りですが。私の作品は自己満足6割、周りの反応4割のモチベーション比率なので、気になってしまったものは直させてください。社会人としてはダメな方向の努力ですよね(笑
おそらくないかと思われますが、大きな変更があれば活動報告等で連絡します。大きな変更がなくても活動報告くらいは入れると思いますが。

そのため2年目開始が少し遅れるかもしれませんが、ご了承ください。……ちょっと作品のためにやってみたいことを試したりもしてみるので。

あ、それと、1年目終了と述べましたが、1/3が終了したのかは分かりません。1年目はぶっちゃけると、各々のキャラクターの紹介を含めていたのでそこまででしたが、2年目は大きな騒動が起きるはずです。しかし、その騒動の合間に話がたくさん入れられると思うので、ボリュームは段違いだと思います。代わりに、3年目は物語の収束に話が一直線になってしまうので、脇道にあまり逸れられないかもしれないです。だから、厳密に今どのくらいなのかがちょっと分からないですね。
たとえるならば、『高校生活の3年間現象』です。1年生は初対面の相手と探り探りしてたり、上級生に囲まれて無意識に遠慮したりしていますが、2年生になると生活にも慣れ、後輩も出来て羽目を外します。しかし、3年生になると受験のために落ち着いてしまう、あの状況です。

だから、1年目この感じでしたが、2、3年目どうなるかは分かりません。何が起こるのかも、まだ把握できないのです。

けれども、確実に1年目よりも大きな事態が発生します。
楽しみにしておいてください。

さあ、長くなりましたが、これで本当に1年目が終わりました。
いつくらいになるか分かりませんが、早いうちに皆様と2年目で会えるように頑張ります。


それでは改めまして、ここまでお読みいただきありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。