ドイツのとある街、その裏通りを一人の男が歩いている。
「おやおや…こんな所にいちゃ危ないぜ、家はどこだい?送ってあげるよお嬢ちゃん。」
偶然迷い込んだ小さな少女を抱き上げ、家族とはぐれた場所を訊きながら通りを出て行く。
薄暗い裏通りから日の当たる大通りに出ると男の髪が日光を反射して金色に輝いた。
「え…と…こっちでいいのかい?」
「うん。お兄ちゃん、名前は?」
「そうさなあ、ジョーカーとだけ言っとこうかな?」
そういって空いた左手を使い、横長の眼鏡のフレームを押し上げる。
「あ、おかあさんだ!」
「よかったな、それじゃ、俺はこれにて」
少女をおろすと男は素早く|周辺の建物の壁面にカードを投げつけ、突き刺さったそれをよじ登り《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》、
「ありがとー!ジョーカーおにいちゃーん!」
「おう!もう迷子になるなよー!」
男の名はジョーカー。カード暗殺術、カーネフェルの使い手であり、同じくカーネフェル使いのオズワルドとは時に敵対してきた
好敵手でもある。40近い年齢差にもかかわらず、その卓越した能力は最盛期のオズワルドをも上回るかもしれない。
・・・・・
「おやおや、こんな所に珍客だ。」
再び裏通りにある安アパートに戻ろうとしていたジョーカーはそこに経つ中国人―堕龍を見て少しだけ驚いたような顔をする。
「なかなか貴族なお方と見受けられるが…そんなお方がこんな所になんのご用で?」
「オズワルド…と言う男のことを知っているな?」
「知ってるも何も、腐れ縁だよ、かれこれ11年になるかな?」
ジョーカーがそう答えるや否や堕龍は素早く、それどころか不可視にすら思えるような突きを繰り出す。
「っ!」
ジョーカーがとっさにカードで受けると
「俺の名は堕龍という。どうやら貴様で間違いないらしい。」
「へえ…一体誰の差し金だ?ジャックポット!」
周囲をカードで一掃する得意技を放つが堕龍は軽やかに避ける。
「雇い主に伝えとけ、俺を殺したきゃ自分で来いってな。」
「何を勘違いしている?俺は誰かに雇われてなどいない。」
それを聞いたジョーカーは目を丸くし、堕龍は追い打ちで
「それどころか、俺はお前を殺しに来た訳でもない。今のは軽い本人確認だ。」
「なーんだよ、それならそうと早く言えよ。」
で、何の用だ?と聞くジョーカーに堕龍は単刀直入、端的に質問する。
「ネスツの関連施設を知らないか?」
・・・・・
「本当に来るのかよ?」
「当たり前だ、龍がいる可能性があるなら俺はそこへ行かねばならない。」
分け前が減っちまうじゃねエか。とため息をつくジョーカーに対し、少しだけきまりが悪くなったのか
「俺は別に報酬目当てではない」
と言うと、
「それを聞いて安心したぜ。言っとくが、俺は俺、お前はお前だ。」
「わかっている。ん?ジョーカー、よほど人気があると見えるな。」
「らしいな。出て来いよ!」
そういわれて空港の柱の影から出てきたのは一見女性にも見える風貌の男。
「別にテメエに用がある訳じゃねエよ。ただ、気にいらねえ奴に似てるってだけでな。」
「それならそのまま立ち去ってくれると有り難いんだがなあ、紫苑!」
「さすがは脅威の人脈。俺のこともご存じだったって事か。」
「ああ、六年前、たしかに消えたはずのお前が何故ここにいる?奴が死んだから解放されたのか?
にしては、六年も力が持続してたか、あるいはお前がそれだけ弱ってたって事になるな。」
テメエ…と紫苑が睨み付けるがそれにも構わず
「アッシュ・クリムゾン、シェン・ウー、そしてあのオズワルド。お前を倒したのはこの三人だろ?正直言って、このメンツじゃ勝てないのも無理はないぜ。俺のライバルに、神器の力を奪った男、そして上海武神。とうてい一人で勝てる相手じゃない。分かったらさっさと消えてくれ。こちとらそうそうヒマな訳じゃないんだ。」
「バカにすんじゃねエ!」
そう叫ぶと紫苑が中国式のよくしなる槍を構える。
「やっぱりそう簡単に行かせてはくれないか…それにだ。遥けし彼の地より出ずる者達の残党、何処にいるのか聞かせてもらおうか!」
「にがしゃしねエぜ!」
ビュオ!
「フューッ。怖い怖い、全く、」
シャッ!
「黙ってりゃ美人の女性っつっても違和感ねえのにな。」
「っっ!てめえっ!」
シュババババッ!
「おおっと!こりゃ失礼、禁句だったか。」
(攻勢にあるのは紫苑だが、実際優位に立っているのはジョーカーだな、勝敗を分けるのはまず精神力だ。)
「危ないな!」
バキッ!ヒュッ!ズバ!ジョーカーがその長い足で紫苑の槍を蹴り上げ、それにカードを投げつけて綺麗に切断する。
「クソッ、テメエ!」
「そうだったな、素手での戦いも心得があるんだった。すっかり忘れてたぜ。」
ガッ、ゴツッ、バシッ、シャッ、ブゥン!紫苑が激しく攻め立ててはジョーカーが軽くそれをいなしていく。
(余裕のない者とある者ではどうしても発揮できる力に差が生まれる。あの口調、一対一での戦いに向いているようだな。)
冷静に分析する堕龍の前でジョーカーが紫苑の頭に掌底突きを見舞った。
「ファイブオブアカインド!」
(決まった!)
「見せてやるよ!」
そして両サイドからの斬撃。
「ぐああっ!?」
最後にショートジャンプからの一閃。
「カーネフェルの真髄を!」
「ぐっ…テメエ…」
「急所は外してあるが、参ったな。気絶してら。」
「とにかく出発するか。インドネシアのセブル島だったな。」
すたすたと歩いて行く堕龍に
「待てよ!売店ぐらい寄らせろって!せめて3セットはカード補充しときたいんだよ!」
と叫んで追いかけるジョーカー。
「…クソッ…」
それを動くこともできずに見送り、紫苑は毒突いた。
「相変わらず、口が悪いな、紫苑。」
「うるせエよ、そっちこそ、相変わらず寒そうな格好だな、牡丹。」
すぐ傍に現れた女性―牡丹に対して悪態をつく紫苑。しかし言われた本人はもう慣れているらしく
「まあ、な。しかしなかなか気に入るデザインがなくてな。」
と返す。
「よく言うぜ、全く。おい、ちょっと肩貸せ。あのジョーカーって野郎、かなりのやり手だ。お陰でまだ自力じゃ立てねえ。」
「しょうがないな。あとで槍も新調するんだろう?」
「分かってるじゃねエか。」
次回はバトルです。2000のCDドラマに出てきた研究所が舞台となります。
ではまた。