「やってきました河北省。っつーワケで案内頼むわ。」
「土地不案内か。少し不便だぞ?」
「いいんだよ。」
彼等がいるのは中国河北省、かつて飛族の里であり、今はネスツの流れをくむ施設が存在するポイントからおよそ2キロ離れた山中である。
「ところで、一つ聞くが、お前、山に登るときもスーツなのか?」
「身だしなみには気を遣うタチなんだよ。」
ジョーカーの少しトンチンカンな答えに堕龍は少しため息をついた。
「…しかしお前は人気者だな。」
「ああ、この感じ、紫苑か。出て来いよ!」
そう言われて現れた紫苑は前回のような黄色い中国服に青いズボンという出で立ちではなく、
黄色と青という基本カラーはそのままに素肌の上にジャケットを羽織り、ズボンもジーンズに替わっている。
「へえ、随分とイメージ変わったじゃないか。」
「テメエの口調がシャクだったんでな。」
ギャキイイン!ジョーカーが素早く斬りつけるがそれを槍で受け止めた紫苑が挑発するようにいう。
「人をイラつかせるたあ姑息な真似しやがって。この間の俺とは次元そのものが違うンだよ。」
「おいおい、中国の兵法書には怒らせてこれを乱せ。とか兵は詭道なり。とか、そういうのがあったんじゃないか?」
軽口を叩きながらもジョーカーは攻撃のペースをゆるめない。
「堕龍、お前は先に龍のところに行け。紫苑の狙いは俺だからな。」
「分かった。すまん!」
一言言い置いて堕龍は駆け出した。
・・・・・
「さてと、ここからあいつを狙撃すれば良いって龍は言っていたけど、正直物足りないわね。」
ライフルを構え、狙撃用スコープから堕龍を見つめているのは元ネスツ幹部であったミスティである。
「さあ、さようなら…」
そういってトリガーに描けた指に力を込めた瞬間、後ろから聞こえてきた声に思わずトリガーに乗った指を離してしまう。
「へえ、なかなか考えるじゃない?」
「!」
驚いて振り向いた先には金髪を右目の前に垂らした青年と青い髪を丁寧に整えた女性。
アッシュ・C・ブラントルシュとエリザベート・ブラントルシュがいた。
「ちょっと堕龍が心配だから見に来てみれば、案の定、ここからオバサンが狙ってたって訳だ。」
そういいながらアッシュは右手に緑色をした泡状の炎を宿す。
「悪いけど、邪魔はさせないよ。」
・・・・・
笑龍の前で一人の男が中毒症状を起こして死んだ。
「草薙京のクローン…ということはすぐ近くに龍が…」
奇しくも堕龍と同じ施設を目指していた笑龍はいま、竹林一つを隔てて堕龍の反対側にいた。
しかしその行く手に次々にクローン京が現れる。
「どうやら強行突破しかないようですね…」
・・・・・
パンパン。
シェン・ウーは両手についた埃を払いおとすように手を打った。
ここは堕龍たちのいる場所のすぐ近くにある繁華街の外れ。チンピラに喧嘩を売られ、返り討ちにしたところである。
「どいつもこいつも歯ごたえのねえ奴らだ。もっと骨のある奴は…」
と、一人ぼやくシェンの耳に近くを歩くチンピラの声が届く。
「なあ、聞いたかよ、あの山に鬼が出るって噂。」
「ああ、何でも黒い服を着た鬼で、体術がめっぽう強いって話じゃんか。」
「噂じゃ鬼退治にKOF参加者の麟が向かったらしいけど、どうなんだろうな。」
(麟っていやあ飛族じゃねエか。そいつが退治しようとする鬼ってのは!)
「おい、てめえら!その話、この上海武神にも聞かせてもらうぜ!」
・・・・・
「不甲斐ないな。よもや俺を追ってきた貴様もこの程度とは。飛族四天王最後の一人といえど、全く持ってつまらん。
なあ、麟?」
「く…」
さて、と…といいながら龍は倒れ伏す麟から視線を外し、
「ミスティやクローン京たちも使い物にならん奴らばかりだ。俺が出るまでもない相手を直接やらねばならんのだからな。」
そう言って龍が顔を向けた先には堕龍の姿があった。
「貴様の邪気、今ここで断つぞ、龍。」
「面白い。愚息がどこまで強くなったのか、見てみるのもまた一興だな。来るがいい。」
・・・・・
キャキィィンッ!紫苑が長い槍を右手一本に持ち替え、左手に握って子槍を突き出すと、ジョーカーはそれをトランプカードで刻む。
「やるじゃないか!」
「お褒めにあずかり光栄だな。だがちょっとこないだより弱くなってねえか?あん?」
「俺が弱くなったんじゃなくて君が強くなったんだろうに…っ!」
キィンッ!
一瞬の隙を突いたジョーカーの一閃が長槍を再起不能にすると紫苑は両手に大量の子槍を握りしめる。
「そろそろ飽きてきたな。終わりにするか!」
ダンッと力強くステップを踏み、一気にジョーカーの懐に入り込む紫苑。続けて両手の子槍を爪のように一閃しようとした一瞬、ジョーカーの瞳が眼鏡の奥できらめいた。
「残念!ここが俺にとってのジャックポットだ!」
ひゅばっ!と円を描くように放たれたカードで大きく弾き飛ばすと続けて至近距離まで近付き、頭を掴んで近くにあった気に叩き付ける。
「見せてやるよ!」
「ぐっ…この野郎!」
苦痛にうめきながらも両手の子槍を投げつける紫苑だったが、半ば苦し紛れの飛び道具も簡単に切り払われる。
「カーネフェルの真髄を!」
ひゅばばばばばばばばばばっ!ワンセット分の全てのトランプカードを抜群の殺傷力で投げつけると、最後に残ったジョーカーをぴらりと見せてニッと笑った。
「オズワルドだけが使えるわけじゃないんだぜ、JOKERはな。ご堪能頂けたかな?」
芝居がかった動作で一礼するとジョーカーは堕龍の向かった方角に向けて走り出した。
「どうする?まだやるのか?」
「牡丹かよ。ホントにドンピシャのタイミングで来るけど、まさかお前タイミング狙ってるんじゃねえだろうな?」
「決着がついたら迎えてやろうと思っただけだ。で、まだやるのか?」
牡丹の問いに紫苑は傷だらけの顔でふっと笑うと
「いや。なんか面倒になってきたな。ひっそり静かに暮らしていくのも、まあ悪かねえし、お前ンとこの隠れ家、住み込ませてもらうぜ。」
それを聞くと牡丹は名前の通りに花が咲いたように笑う。
「仕方のないヤツだな。まあ、歓迎してやろう。肩、貸そうか?」
「わりいな。」
次回、第六幕 龍と堕龍
よろしくお願いします。