「はあっ!」
「ふんっ!」
互いに繰り出される掌底を紙一重で躱す。堕龍は続けて長い足を半円を描くようにして振るうが、龍はそれを残像を残して躱し、後ろに回り込む。
「んーっふっふっふっふ…他愛のない…」
龍の鋭い突きが堕龍の背中を貫こうとしたその瞬間、堕龍は唇をつり上げて不適に微笑む。
「甘いな。」
瞬間堕龍の輪郭がぶれ、そのうちの一つが振り返って逆に貫手を放つ。
「ほう、多重幻影暗勁か。よもやこうも綺麗に使いこなせるとは…面白い…」
「ほざけ。」
ひゅばっ!ビッ!そして残る二つの幻影の繰り出した突きが龍の頬に切り傷をつくり、本体の後ろ蹴りが龍の顎をとらえた。
「プッ!」
空中から龍は麟の得意とする毒霧を吹き付けると、たまらずそれを躱した堕龍に吊し喉輪を仕掛け、片手で軽々と持ち上げて見せた。
「ぐ…かっ…!」
「どうした?俺を殺すのではなかったのか?案ずるな。苦しいのは最初だけ、すぐに気持ちよくなる。そしてそのままで地獄へ行くのだ。」
ドスッ!
「!!!!!」
「フン。存外に面白かったが、しかし俺を殺すことは出来なかったな。ン?」
背中から黒い袖に覆われた骨張った手を突き出しつつも、堕龍の顔は不適に笑んでいる。
「この…距離…なら…貴様も、避け、ようが…無いッ!」
己の足下に黒くわだかまる怨霊達の姿を認めた龍の顔がとたんに歪む。
「堕龍!貴様最初から…!」
「差し違えてでも殺すつもりだったのだ、共に地獄に堕ちようではないか、龍!」
その叫びに呼応するように耳を覆いたくなるような怨嗟の声を伴った怨霊達が一斉に吹き上がった。
「ぬあああああッ!放せッ!放すのだ!貴様ァァァッ!」
叫び声がだんだんと小さくなり、消えたときには地面に崩れ落ちた堕龍とその周りに散乱する龍の衣服の端切れだけだった。
「や…やったのか…?」
上体を起こした麟がきくと堕龍は息も絶え絶えに
「ああ、肉片一つ残さず…とはいかんまでも、脳と心臓は潰した。もう生きてはいないだろう…ガフッ、ゴホッ。」
大量の血を吐き出した堕龍を見た麟はその命が残りわずかしかないことを見て取り、きく。
「お前は、後悔して、無いのか?」
「無いといえば、嘘になるな。」
そう言って焦点を失いかけた瞳で見やったのはあちこちに傷をつくり、金髪に木の葉や小枝をくっつけたシェンと赤い服にいくつかの焦げあとと返り血をつけたアッシュ、そしてその隣にいるエリザベートだった。
「すまんな。蟹、驕って、やれなくて。それに、もう少しお前と旅をするのも、悪くなかったんだがな。相棒。」
更にその向こう、木々の間から出てきたジョーカーにいうと、彼は少しだけ肩をすくめて
「まあ、悪くはなかったぜ。」
と返す。いつもの飄然とした口調に少しだけ唇を緩めるといつの間にかいて自分の上に影を落とす女性に向け、申し訳なさそうに笑った。
「笑龍…か。お前が私を追っていたのは知っていたが、すまんな。龍とも戦ったし、このザマ、だ。」
「三太兄…」
今にも泣きそうな顔の笑龍に、そして次二輪に顔を向けて堕龍は言う。
「飛族の生き残りを、統一して、復興して、見せてくれ。あっちからも、見えるように…ジョーカー、一応腕は残っているから賞金首として売りさばくことも、出来るだろう。アッシュ、シェン、エリザベート、お前達といたのはほんのわずかな時間だったが、楽しかった…ぞ…」
そして目を閉じる。感極まった笑龍がその体に抱きついたとたん、堕龍は一度大きく目を見開いて絶命した。
「…え…?」
一瞬目を見張ったジョーカーがその異様な死に様に少しだけ声を荒げて
「お嬢さん…なんかやったか?」
と聞くと笑龍ははっとしたように自分の手の袖から出ている部分が彼の皮膚に触れているのに気付いた。麟もそれに気づき、
「うっかり毒に染まった部分で触れてしまったのか…未熟者め…」
と包帯に覆われ、毒を遮った右手で目を覆って嘆息した。
あとはもう一話、エンディングで終わりです。