【完結】 人間存在のIFF <改> 【IS×戦闘妖精・雪風】   作:hige2902

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第十一話 被相続人の夜

 約二年が経過したある日。

 沈みかけた太陽が名残惜しそうに空を朱に染めていた。山山の影が伸びる人気のない夏の田舎道を走る車が一台。

 運転モードはマニュアルらしく、一人の女性が運転していた。肩ひもの細いタンクトップにホットパンツ、長かった髪を肩でバッサリと落とした織斑千冬がハンドルを握っていた。

 

「千冬ねえ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃない。どこ行くの」 と助手に座る一夏が、後部座席に山ほど積まれた荷物を見て言った。

 

「ここで話しても実感はわかないだろう。箒もいるし大丈夫だとは思うが。ああ、束もいるな。面識はないだろうが、あいつはおまえと話をしたがってた。慣れればいいやつだよ」

「束って、束博士? 箒のお姉さんの。大丈夫って、何が?」

「話す相手がいなくて困ることはないだろう、ということだ」

「どういうこと?」

「ブリンクとナインの開発者、その上司と会うことになっているからな。みんな年上だ、失礼のないようにな」

 

「なんだか浮きそう」

「みんなおまえを買っている、話題には事欠かんさ。鼻が高いよ」

「なんでおれ?」

「おまえがいなければ地球型複合生命体を特定できなかった」

 

「よくわからないな」

「知りたければいろいろと聞いてみることだ。きっとこれから役に立つよ」

 

 ふうん、と一夏は左手に流れる景色を眺めて、久しぶりに再会したと思ったらこれだもんな、と心の中でひとりごちる。

 バーベキューをしに行くぞ、暇なら付き合わないか。

 突然の姉の言葉に、一夏はいまいち理由だとか状況を掴めなかったが、学園長という立場を考えれば聞かないでいた方がいいだろうと、とりあえず急いで準備した。

 一泊二日の予定だが、一応二泊三日ぶん用意しておけとのことだ。

 

 一夏はちらと姉を盗み見る。うきうきしている。アウトドアのイメージがないだけに意外だったが、しばらくして開けた草原に出るとその気持ちもなんとなくわかった。

 小さな湖にかかる桟橋とログハウス、話しに聞いていた大きなガレージ。今夜はバーベキューで、翌朝の予定はお弁当を持って山に探検、川で魚を釣ってお昼ご飯。夕食はその時の気分で。雨天、ガレージで機器を見学したり本を読んだり、ダラダラ。なるほど、楽しそうだ。

 

 近づくにつれ、扉のあけ放たれたガレージには数台の車が停めてあるのが見えた。普通車が一台と軍用大型二輪、これには見覚えがあった。それと一目でハイエンドとわかる艶やかな赤のオープンカーに、冗談だろ、と一夏は呟いた。

 

「赤いのは束のだな」

「なんで弾のバイクまであるんだろ?」

「いておかしいか? おまえの友人だろう」

「いやまあ、そうだけどさ……というよりあの車でよくここまでこれたなあ」

 

「束は天才だからな、だいたいなんでもできる」

「いやでも、うーん」

 

 一夏はいろいろと釈然としなかったが、ドラム缶を縦半分に切っただけのコンロに火を付けようと四苦八苦している弾と。隣にしゃがみこんで、扇子を煽いで空気を送っている外はねの青い髪の女の子を見るとどうでもよくなった。やってみたい、おもしろそう。

 弾が一夏に気づき、汗をぬぐった頬に炭をつけて、笑って手を振った。次いで青い髪の女の子も。車窓を全開にし、振り返す。

 

「青いのは更識だ、あんまりわたしの仕事のことは話すなよ」

「更識さんね。よくわからないけど、わかった。しかしパンクな髪の色だなあ」

 

 ガレージに車を停め、千冬はひとまず挨拶にいってくるからと、靴を脱いでガレージからログハウスに繋がるドアに向かう。

 一夏はあらためて内側から見渡すと大きなガレージに圧倒されたが、とりあえず荷物を出すことにした。

 預かった車のキーでトランクを開くと大きなクーラーボックス。中身はなんだろうとあけてみると、織斑家はお肉担当らしい。

 

「一夏、遅かったな」

 

 投げかけられた言葉に振り向くと、いつものバンダナを巻いた五反田弾。はじめましてと、隣には微笑んだ更識楯無。あ、はじめましてと返す。

 

「弾、ちょっとお前も手伝えよ。というか何でおまえがいるんだ?」

「いやおれもよくわからん、なんでなんだろ。束博士から招待状が届いたと言ったら、信じるか?」 と、弾。黒ずんだ軍手をはずして、せーので一夏とクーラーボックスを降ろす。

 

「博士の目にとまる、抜きん出た何かがあるんじゃないの?」 と楯無。いたずらっぽい視線を弾に向ける。

 

「まさか、こいつが? 更識さん、こいつは悪いやつじゃないけど、それだけだよ」 一夏は首をすくめて、同時に祈った。どうか弾の彼女じゃありませんように。もったいないほど美人だ。

 

「ひでえやつ。楯無さん、こいつの言う事は信じない方がいいぜ」

「楯無でいいわよ、織斑くん。わたしも手伝おうか?」

 

「重いのはクーラーボックスだけだから大丈夫。おれも一夏でいいよ……そうだな、弾は実家が定食屋だから、料理人として呼ばれたのかな」

「楽器やってるから、ミュージシャンとしてかもよ」 と、軍手をはめて弾。 「腕が鳴るぜ。そうだ楯無さん、おれのバンドに入らない? ボーカルあいてるよ」

 

「へえ、バンド。弾くんの担当は?」

「楯無さん、こいつのバンドはエアバンドだから……そうだ、おれも火を付けたい。あのドラム缶のやつ、もう遅い?」

 一通りキャンプに使いそうな道具を取り出し、思い出したように言った。

 

「コンロはあと二つ用意する予定だから大丈夫」 と、楯無。

「弾、軍手かせよ」

「火をつける役は取っといてやるから、先に箒さんに会ってこいよ」

「おっとそうだな、どこにいるんだ?」

「裏の畑か、いなけりゃ台所だな」

「勝手に入っていいのかな?」

「いいらしい。裏口から入ればすぐ台所だ」

「そっか、ありがと」

 

 一夏は小走りに駆けて裏に回る。こじんまりとした畑にはまるまるとした夏野菜がたくさん実っていた。茄子、とうもろこし、ピーマン。ところどころもぎ取った跡があり、食べる分の収穫は済んでいるようだった。

 すぐ近くの開けっぱなしの裏口を覗くと、一生懸命におにぎりを握っている千冬。箒と、うさぎ耳のようなカチューシャをした見知らぬ女性が台所に並んで野菜の下準備をしていた。仲よさそうに。

 それを見て、口元が緩んだ。

 見知らぬ女性が一夏に気づく。いつからいたんだ、声くらいかけろと恥ずかしそうに箒。千冬はおにぎり作りに夢中だ。

 なぜだかよくわからないが、来てよかったと、一夏は思った。

 

 

 一夏が畑に向かった後、弾は男手という事で、一夏と入れ替わるようにガレージにやってきたあなたの友人と湖で冷やしていた飲み物を引き揚げに桟橋へ向かい。残った楯無はキャンピングチェアを用意した。

 

「おお、冷えてる。夏でも湖の底は冷たいんですね」 と弾。

「力持ちだね」 辺りは薄暗いのでライトで弾の手元を照らして友人。

 

「いやこれくらい男なら当たり前ですよ」 はにかみ、台車へと缶や瓶を入れたカゴを乗せる。 「ところで、あの更識って子は誰なんです?」

「あれ、知らないの? まあ、ぼくも初対面ではあるけど」 ごろごろと二人で台車を押して、友人が意外そうに。

 

「いや、ここに向かう途中で歩いているのを見かけて、こんなところ……と言っちゃあ失礼ですけど……で一人歩いているのもおかしいから一声かけたんですよ。そしたら行き先が同じだったから乗っけたんです」

 ほー、へー、とニヤついた友人が言う。 「あとで聞いてみるといいよ。誠意を持って聞けば、彼女は嘘は言わないだろうから。信じてあげなよ」

 

「はあ、誠意ですか」

 

 よくわからなかったが、束博士が来ている時点でこのバーベキューのメンツはぶっ飛んでいるのだろうと、弾には予想はできた。

 たぶん彼女はIS乗りだろう。しかも更識という名前は、一般公開されているIS学園の生徒の名簿にもなかった。ということは国の中枢にかなり食い込んだ組織の人間だ。ここにいる大人はみんなそれを承知なのだと考えると、一夏の能天気さが少しうらめしい。

 

 二人が二往復ほどしてガレージ前に戻ると準備はもう整っていた。

 真夏だが、田舎なので少し肌寒い。

 辺りはすっかり真っ暗だったが、ガレージの照明の光度を上げれば問題なかった。

 

「遅いな。何かあったのか」 と、一同が揃った中、千冬が友人に言った。

「心配性だなあ。もうすぐ着くってさっき連絡があった……あ、ほら。あの車」

 

 友人が指さす。山道にぼんやりと、ヘッドライトが浮いていた。

 焼き肉のたれがないことに気がつき、慌てて買いに行ったあなたがようやく戻ってきた。助手席に仕事終わりの主任を乗せて。

 

 

 

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「いやあ申し訳ない」 とあなた。格好がつかない。

「わたしに連絡してくれればついでに買って来ましたよ」 笑って、千冬。

 

 もう二度と会わないだろうと思っていただけに、なんだか少し気恥ずかしい。

 

「ま、ちょうど準備ができたところです。ひとまず乾杯しませんか? 子どももお腹をすかせてるでしょうし、顔合わせはその後ってことで」 あなたと主任に、なみなみと注いだ銅のビールジョッキを手渡して、友人が言った。

 

「それもそうだな」受け取ってあなた。まわりを見渡す。まだ少年少女といった年齢の子の視線に気づく。

「じゃあ、乾杯」なんだかむず痒い。そういえばもういい歳、どころかこの場の最年長だ。

 

 主任は一気に飲み干すと、ひとまずシャワーを浴びてから食べることにした。

 全員の素性を把握している者はいなかったが、その間不思議と気にはならない。

 

 十分ほどで主任が戻り、それでは全員揃ったのでと、あらためて顔合わせをすることになった。

 年長者というわけであなたに白羽の矢が立ち、ついでに友人と主任も紹介する。

 こんな感じでいいかな? と千冬に視線をやると、今度は彼女が一夏、束、箒、弾と順に紹介した。

 

「きみが一夏くんか、ずいぶんとおもしろい考え方をするらしいな」 とビールを一口、主任。酔っ払いが絡む。一夏は謙遜でしどろもどろ。

 しかし、ユニークな考え方はあなたも聞くところだった。後でいろいろと話してみたい。

 

「なんだかいろいろと、本当にありがとう!」

 

 唐突に束が立ち上がって、あなたに握手を求めながら言った。呂律がやや怪しく、ちょっと姉さん恥ずかしいからと、箒にたしなめられる。

 

「まさか本当に博士と話せるとは思いませんでしたよ。光栄です」

 

 右手を差し出し、しかし天才というのはどこか変わっている。胸元が大きく開いたエプロンドレス、ウサギの耳をモチーフにした金属製のカチューシャ。たぶん、どれも深い理由があるのだろう。きっと。レーダーのように回転しだしたうさぎの耳を見てそう思ったが、聞く勇気はない。

 

「いや箒ちゃん、感謝してるのは本当だよ。わたしの証明式は、あくまでもFAFが地球型複合生命体を無視しないという前提のもとにあった。少しでも不利だとわかれば、FAFは自爆という形で降りるという選択肢を取ることもできた。つまりFAFの勝率を上げる存在が必要だったわけ。そしてその存在は中立で、わたしの証明式も成り立たせようとする意思を持ってなきゃいけない。そういう人物は貴重なんだ、ちーちゃんが欲しがるわけだね。ヤッホー、いい気分」

 

 ジョッキ片手に赤い顔の束を小突いて、箒が言った。

「妹の箒です。ISを造ってあの騒動を引き起こした張本人に代わり、みなさまには多大な迷惑を」

 

「いや、博士の行いは正しいと思うよ」 小さいのにしっかりしてるなと、あなたは笑っていった。 「FAFとジャムの存在は一刻もはやく証明しなければならなかった」

 ジャム敗北の過去情報喪失の件もある。

 

 頷いた楯無があとをついで言う。

「第二の脅威がいつ現れるかわかりませんからね。ジャムが証明され、ISが地球の対抗戦力として確定されたからこそ、第二の脅威は地球の侵攻を諦め、今が平和とも考えられます。お久しぶりですね、といっても半年ぶりくらいでしょうか」

 

「もうそんなに経つのか、妹さんは?」 とあなた。

「留守番です、来たがってましたけど。申し遅れました、わたしは行政組織、更識のものです」

 

「何それ? 公務員?」 トウモロコシに醤油を塗りながら弾。

「まあ、すごい警察みたいなものかなー」 とぼけた口調で楯無。

 

「気をつけた方がいい、五反田くん。更識はたぶん、なんでもやる。組織は強大だよ」 と実体験からあなた。千冬は苦笑い。

 

 その後、懐かしい面面が揃えば自然と昔話となり、答え合わせを兼ねた暴露話が始まった。

 まず、そもそもなぜ主任があなたを更識に売ったのかが議題となった。今ではもう笑いの種だ。

 

 主任に曰く、それが反対派の首輪を外す唯一の策で、更識に売ったのではなく買い取らせたらしい。

 

 日本で最高の実行力を持つ行政組織があなたを法拘束するなら、逃げ道を残すなどという行動はしない。反対派と繋がっている破棄基地や裏道の電気屋とのあなたの取引の証拠は更識が押さえ、管理する。その後身柄も、貴重なFAFとの接触者だ。FAFの存在が証明されたのだから、日本政府からの使者としても期待できる。

 これほどの要人ならば、軍閥といえども手を引かざるをえない。

 

「実際、あなたは危ういところでしたよ」と、麦茶を一口含んで更識。

 

 どうやらあなたの車を襲った四人組は軍の人間らしく、楯無が簪の連絡を受け取ってから、運送中のヘリごと接収したらしい。

 

「おまえまさか、わたしを疑ったりしてなかっただろうな」

 

 主任の目は座っていた。あなたは目を背ける。

 

 取り調べ施設の後、あなたは別の施設で二年前間の軟禁を受けた。

 といっても、運動は基本的に自由で、施設を出るときに請求書を渡されたが欲しい物は頼めば用意された。食べ物も学校の給食レベルで不満はなかった。

 たびたび更識が話にやって来て、誕生日にはケーキを持ってきたのには驚いたが。

 

「ケーキはまあ、端末の類の没収とクラウドやアドレスなんかのアカウント凍結の個人的なお詫びです。これも誠意ですね」 ひょいと弾が世話をしていたトウモロコシを、トングで自分の皿に移す。

 

「ひでえや、ちょっとみなさん今の見ました? 公務員が泥棒だ、現行犯。おれが育ててたのに」 と、弾。

「あちち」一口かじって楯無は、気にせずトウモロコシをふーふーやってから提案。「じゃあ半分こしようか」

「え、あ、それなら、うん……あちち……じゃあ今日のバーベキューは軟禁から解放されたお祝いなんですか?」

 

 弾はもうダメだな、尻に敷かれるタイプだ。一夏は半目で、からかわれている親友を眺めてそう思った。そして軍だとかの話を聞いても平然としている肝っ玉にツッコミたかった。

 

「いや、それがよくわからん」 と千冬。 「誰が企画したのか、とにかく集まった。ねぎらう対象から考えると、主催はなんとなく想像つくが……」

「なんだかよくわからないけど、すごいとこに迷い込んだんだなあ、おれ」

 

「本当はドイツの操縦者も招かれる予定らしかったんだがな、国の問題がいろいろとあってまた今度だ。新種の生命体とやらと話してみたかったが……」 主任が冷えたビール瓶を開けながら言った。 「替わりかわからんが、大量のビールを送ってくれた。残念だ、きっといいやつだよ。あはは。いまごろは向こうも、わたしが奮発した日本酒をやってるかもな」

 

「それでなくともこのメンツが揃うのは異常事態ですからね。そこでわたし、更識が監視の出番というわけです」

 

「そんなこと言っちゃっていいの?」 と一夏。ちらとまわりの大人を窺うが、だれも監視されていることに対してのリアクションはなかった。

 生徒に解説するように千冬が教える。

「こそこそと監視されては、どの組織が動いているかを探らなくてはならんからな。それに更識が動いているという事は、国内外問わず他の組織の動きの抑制を期待できる。だから呼ばれたんだろう。どうせ大したことは話さんし……まさか本当に来るとは思わなかったが」

 

「半分はプライベートですよ、定時はとうに過ぎてますから」

 

 それでいいのかと一夏は疑問に思ったが、香ばしいトウモロコシからふと焼きおにぎりが食べたくなったので、さっそく作ることにした。気づいた束と一緒になって、せわしない。

 

 これなんのお肉? と友人。くじら、と千冬が答える。箒が気を利かせて醤油を手渡す。

 おい、あれを開けろよ。と主任が言った。たぶん餞別がわりに持っていったボトルのことだろう。書斎に戻り、人数分のグラスを用意して戻る。まだ開けてなかった事に、言った主任が驚いていた。

 ショットグラスにとくとくと注ぐと、さわやかに甘い香りがたゆたった。シェリー樽を使ったウイスキーらしい。

 大人たちが小さく乾杯し、一口含む。独特の苦み、鼻腔を抜ける風味がすばらしかった。

 

 酔っ払った束が弾の量子格納についての質問に答える。

 人間がデジタルに介入するためのインターフェイスがコンピュータであるように。機械がアナログに介入するためのインターフェイスがコアらしい。

 人間がデジタル世界をディスプレイで認識し、マウスやキーボードでコマンドを入力してファイルを保存するように。機械はアナログ世界をハイパーセンサで認識し、コアでコマンドを入力して兵装を格納する。

 機械には機械の認識世界が存在するとのことだった。

 

 ほどなくしてコンロの木炭の火も弱くなり、そろそろおひらきといったところ。

 平和だ。一時は敵対していたに等しかったというのに、こうして酒を酌み交わせるとは思ってもみなかった。電子存在だとこうはいかないだろう、一度IFFで結果が出れば、永遠に敵だ。それは利点でもある。

 

 しかし逆に曖昧な人間存在のIFFは、こうして火を囲むことができるのだから、すばらしい気がする。ジャムも人間を真に理解できれば、人間存在のIFFを手に入れたかもしれない。雪風は少なくともそれを手に入れているはずだ。ひょっとすると共存の可能性も考えられる。

 

 あなたは夜空を見上げる、はっきりと天の川が見えた。フェアリィでは血のように赤いブラッディ・ロードなる不気味なものがあるらしい。それを眺めて一杯やる気にはなれない。

 地球にいてよかったな、とあなたは思った。

 

 その後はお決まりの花火だった、楯無が持ってきたそうだ。繰り返し使える、派手だが味気ないデジタル光花火ではなく。小さいが、ちゃんとした火薬を使うやつだ。弾の毛先が焦げたとかで盛り上がっている。

 あなたが二人掛けのキャンピングチェアでゆったりとその光景を眺めていると、千冬が焼きおにぎりを皿に二つ、一つどうですかと言って隣に腰かけた。

 

 ちょうど小腹が減っていた。いただきますと素手で取ると大葉が巻いてあり、あつあつだった。一口かじると香ばしくておいしい。たしかおにぎりは千冬が握っていたような。

 ややあって、千冬が静かに口を開く。

 

「これから、どうするのですか?」

 

 これから……これから。

 

 あなたは長いようで短いFAFの援軍、雪風の支援という役目を終えた。

 しかし思い返せども実感はわかない。特殊戦は情報の扱い方を心得ていた。その手腕は二年前の出来事は幻だったかもしれないとさえ感じてしまうほどに。

 

 

 

 まるでSF小説を読んでいるような、フィクションを体験したような、真実を疑似体験したような。

 

 

 

 I()nformation F()iction or F()act.

 この問いにさえ雪風は答えなかった。空想か、真実か。

 

 夜空を見上げ、呟くように。あなた。

 

「人間の脳に、魂に保存される情報の信憑性は、保障されない」

「魂を記憶装置とするなら、そうですね。それどころか時間の経過とともに劣化し、死とともに消える。ジャムはそこに目をつけ、FAFと地球の情報隠ぺい工作を逆手にとり、敗北の過去情報の喪失から復活の機会を狙った」

 

「かもしれない。まあ、FAFが手を打っている可能性もある」 少し気恥ずかしそうに笑って続ける。 「だから、わたしなりに過去のジャムの侵攻時代からの歴史をまとめてみようと思っています。ジ・インベーダーや破魔矢の作者も、本能的にそれがジャムに対する潜在的な対抗手段になっていると理解していたのかもしれない」

 

 情報をアナログに保存することは、不確定な情報を確定させるシンプルかつ有効な手だ。大昔はこれが当たり前だったが、デジタル保存の方法が確立されはじめると、利便性からそちらに比重が傾く。しかし人間は本質的にアナログな存在だということを今回の件で実感した。だからその人間の本質に則した保存法は必要だ。

 

「今回の件も?」

「そのつもりです。物理出版するのは実名などをぼかしたバージョンになるでしょうが、真実を記したものも、書いてみるつもりです」

 

「ぜひ、読んでみたい。完成したら教えてください。出版の際は支援しますよ」 水を一口含み、続けて言った。 「しかしなるほど、やはりあなたは生粋の地球人だ。()()()()が必要でしょう。真実を記すなら」

 

 ほがらかな口調に千冬の顔を見やると、微笑んだ彼女が。束の手により制限の外されたISの量子格納を利用したのだろう、どこからともなく取りだした一冊の古ぼけたハードカバーを差し出した。

 茶ばんでいるものの保存状態はかなり良く。これは? と、おてふきで手をぬぐってから受け取る。

 

 あなたはガレージから届く照明に表紙を照らす。そして()()()を確認すると、愕然として声を失った。

 

 その様子に気づいた友人があなたを見やると、みな、何事かと会話を打ち切り視線を向ける。

 辺りは虫の鳴く声と、花火と薪が燃える音に包まれる。湖面に静かに浮かぶ月と星。

 

 その夜、すべての謎が明かされた。千冬より差し出された本が、解だった。

 

 それは束が箒に手紙と共に送った資料と同じタイトルだった。

 作者名は見覚えが有った。自分がFAFの子孫なのではないかと調べる過程でログハウスとガレージの登記を遡った際に目にした、最初に建築した人物で。間違いなく軍属ではなかった。

 内容は、二回目の会談の時に千冬が語ったファーンⅡやレイフなどの記述のあるもので、ジ・インベーダーとは別の参考文献。

 その作者もおそらく、ジ・インベーダー作者と同様にFAFの要請を受け、事実をぼかすために改訂した。

 

<改>と銘打ち。

 

 あなたはタイトルを呟く。

 

「戦闘妖精・雪風」

 

 

 

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第十二話 装置

 

 

 

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