満月の夜。
空に広がる雲が、どういう理由か月を覆い隠そうとして、しかし己の薄さが故に隠しきれない朧月。
雲の向こうからうっすらと木々を明るく照らす光の眼下を、一陣の影を伴いながら一羽の梟が通り過ぎる。
何処から来たのか。
そのフクロウは、英国にはない白毛で、その姿は天に昇る月光と相まって、神秘の景色を慈しんでいた。
山を越え、谷を越え、人里離れた集落をも越え、そのフクロウは、ただひたすらに目的地へと飛び行く。
道中、同類の梟に話しかけられども応えはせず、同じく主の元へと急ぎ行く梟の群れを追い越し、目指すべくはスコットランド地方。
一度の休みはなく辿り着いたが先。
その眼に見えるは城。限られた者にのみ正体を明かす魔法の城。
ホグワーツこそが、主の待つ目的地だった。
城下にあるホグズミード。
今宵は、直前まで行われていた"祭り"の影響もあるのか、いつも以上賑やかな様子が窺える。
がやがやとあちらこちらに居る魔法使いたちは、そのほとんどが数人で集まって話をしているようだ。
ただ、祭り特有の喧々諤々たる様ではない。
本来なら似つかわしくない感情。驚嘆や愕然、悲壮感が垣間見えた。
と言っても、梟がそれを気にすることはない。
人の感情や考えなど、梟にとってはどうでもいいことである。
それら一切合財を無視して、もう少しだけ羽ばたいた後、城の一角に存在する部屋。
その窓べりへと降り立った。
コンコンと窓を軽くノックする。
いつもなら三~四回は繰り返さねば応答しない主は、この時だけはすぐに窓を開け、梟を招き入れた。
梟は何度か跳んで部屋の中に入る。
足の爪に掴んでいた荷物を主へと渡し、己は褒美を要求して「ホー」と鳴いた。
主は人差し指を立て、静かにのジェスチャーをした後、杖を振りジュースの満たされた一杯のコップを宙から出現させた。
それがどれだけの技なのか、梟には判然とせず分からない。
梟はただ与えられたコップに嘴を突っ込み、喉が潤うまで飲むことしかできない。
主は、手の中の物を弄びながら、その様子を見ていた。
年相応の、悪だくみが成功したような笑顔は、今はどこか邪悪さすら感じられる。
いつから、主はこういう表情をするようになったのだったか。
その短い生の大半を、梟小屋の中で過ごしていたフクロウには、そんなことは分からない。
出会った時からと言えばそうであったように思えるし、つい最近だと言えばそうだったようにも思える。
片方の目をジュースに向けながら、もう片方の眼でじっと主を見つめた。
不意に、主が口を開く。
「バーテミウスはどうなったかな?」
それは自分への言葉なのかどうか。
フクロウは、「ホー」と鳴いた。
「ああ、死んだか。残念だね。中々使える手駒だったのに」
まるでフクロウと会話しているかのように。
主の手の中で"石"が転がる。
二度、三度。掌の中で弄ばれた。
弄ぶのを止めた主は、暫し動きを止め目を瞑る。
数秒後。唐突に「ははっ」と笑った。
心の底から可笑しいと言わんばかりに、声尻に強烈な怒りを宿して。
「シリウスは死んで、バーテミウスも死んで、ピーターは役立たずだ。」
まさか、ハリー・ポッターの血を使い復活させるとは」
くるっと主は背を向けて部屋の中ほどまで歩く。
左手で顎を触り、右手でその肘を支えている。
「……新しい手駒が必要だ」
呟かれた言葉には、何の感情も籠っていない。
「リーマス? 彼はダメだ。分霊箱とまではいかずとも、闇の魔術に気付いてしまった。警戒されている」
ぶつぶつと呟く。
誰かに向けられたその言葉を、梟は何も言わずに聞いている。
「学生ももちろん駄目だ。臭いが付いている。動かせる場合が限られ過ぎている。
屋敷しもべ……。ドビーか。いや、あれもダメだ。ミレイ・フォーザンに懐いているからね。裏切られる可能性が高い」
主は言葉を重ねていく。
可能性を潰していく。
現状、最善の可能性にたどり着こうとしている。
「ヴォルデモートが復活した以上、僕には監視がつけられるだろう。動ける時間はごく少ない。
今のうちに打てる手を打っておかないといけない。じゃあ、どうするか。
……ああ、今まで通りそうしよう」
主は杖を振るう。
ベッドの枕元に、一つの瓶が出現した。
中では一匹の虫が音を立てながら飛び交っている。
コガネムシだ。
大きく太った一匹のコガネムシ。
それは、触角の周りに他にはない特徴的な模様が入っていたが、梟にとってはそんな物は関係ない。
ただの餌である。
フクロウはコップからゆっくりと頭を上げた。
知らず知らずのうちに、獲物を獲る際の前傾姿勢へと移っていた。
主は梟を面白そうに見ながら、おもむろにふたを開ける。
中から虫が飛び出てきた。そのまま逃げようとする。
一直線に窓へ――――フクロウの方に向かって。
フクロウは鳴き、威嚇する。
虫は止まらない。
何を恐れているのか、食べられるのも構わないといった風情と決死の覚悟を持って突っ込んでいく。
「『インぺリオ』服従せよ」
しかし、その覚悟は一つの呪文で無意味なものとなった。
器用にも主は小さな虫に呪文を当て、呪文に当たった虫は飛ぶことを止めて、その場に着地する。
もう動きすらしない。フクロウはコガネムシを捕食しようと近づいた。
それを主が制止する。
「中へ」
虫は言われたがまま瓶の中へと舞い戻る。
主はそれを見届けふたを閉めた。
瓶の中からは、もう一つの音も聞こえない。
フクロウは獰猛な眼で瓶を凝視する。
主は人差し指で瓶を傾けながら考えに耽っていた。
「もう少しだけ悲劇の主人公を演じることとしよう。
魔法省の動き次第だが、君には今まで通り書いてもらうことになるはずだ。本懐だ。文句はあるまい。
……情報が必要だ。君のコネと能力はさぞかし役に立ちそうだね?」
ハリーは愛おしそうに瓶を撫でる。
コガネムシはぴくりとも動かない。人形のようにそこに在る。
「それじゃあリーター。プリベット通りに着いたら外に出すよ。
それからは、前に話した通り行動してくれ。頼んだよ」
瓶を消失呪文で消したハリーは、その足でベッドに向いそのまま横になった。
眠気と疲労で瞼を半分閉じていたフクロウは、主のその行動を見て自分への頼みはもうないと悟り窓から飛び立とうとする。
――――ダンブルドア。あなたはどうする?
直前に呟かれた言葉はただの独り言。あるいは寝言である。
自分には関係ないと、フクロウの目指すは梟小屋。
旅の疲れを癒すため、そこでぐっすりと睡眠をとろうと、少し急ぎ気味に翼を羽ばたかせた。
どこか書き足りない感。
何か忘れてる気がする。
その内書き足すかもしれないです
追記
足りてなかったのはタイトルだったんだ!