偽物ハリー・ポッターの運否天賦   作:紺南

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ハリーポッター(偽)と秘密の部屋
ハリー・ポッター() 考える


ホグワーツが夏休みに入り、ハリーは一時的にダーズリー家に戻ってきていた。

魔法使い見習いとなったハリー。

ハグリッドのこともあり、少しは扱いも変わるかと期待しなかったわけではない。

しかし変わったところと言えばダドリーから恐怖の目を向けられることと小さな自室が与えられたぐらいで、その他では相も変わらない待遇を受けながら、ハリーは己の感覚よりも少々長い、二か月の夏休みを満喫していた。

 

そして夏休みも終盤に差し掛かったある日の晩。

ハリーは居間から堂々と盗んできた新聞を読みつつ、世界は平和だなどと嘯く。

今日も今日とて政治家の汚職や株価の値下がり、どこそこで殺人事件があったことしか載っていなかった。

 

それを三面まで読んだハリーは不意に新聞を放り投げ、ベッドに寝っ転がる。

目を閉じ、耳を澄ませてみれば階下からバーノンの大声と何かを復唱するダドリー。ペテュニアの甘ったるい猫なで声が聞こえてきた。

あまりに予想外の声――――特に最後の声音――――に笑いが込み上げる。

 

何でもこれから大口の得意先のお偉方が来訪するらしい。

家族みんなでその人たちのご機嫌を取り、あわよくば取引をいい方向に向かわせようということだ。

もちろん、ハリーは家族の一員ではないのでその場に居合わせることは出来ない。

おとなしく二階で寝ていろと言うのがバーノンの言だ。

 

ハリーにしても互いに干渉しないと言うのであれば是非もない。

バーノンの目の前で新聞を引っ掴み、ケーキと紅茶を一皿ずつ拝借して二階に移動した。

そしてケーキを摘まみつつ新聞に目を通していたのがさっきまでである。

 

既にケーキは食べきり、新聞には目新しい情報はなく、後は冷め切った紅茶を飲み干せばやることはなくなる。

ないのなら本当に寝てしまえばそれでいいのだが、何せ外はまだ夕焼け空。

寝るにしても些か早すぎる時間だ。

 

眠くなるまでの間、何十回と読み込んだ教科書をまた開くかと、ハリーがベッド下に隠した教科書を探った時、バチンッと大きな音を響かせながら、ベッドの上にそれは現れる。

 

「ハリーポッター! お会いできて光栄でございます、ハリーポッター」

 

「……そうかい? 僕は、あー。まあ、会えてうれしいよ」

 

いきなり降って湧いたそれに、ハリーは言葉少なめに対応する。

人間離れした小さな背丈にアニメのような大きな目、エルフのような長い耳を持ったそれ。

 

ハリーの不確かな記憶には覚えがある。

最近読んだ魔法生物の本では似たような形の物を確かに見た。

屋敷しもべ妖精と言うらしい。

 

そんなものがなぜこんな所に居るのか。どこかの常識を知らない魔法使いが家に遣わしでもしたのかと、ハリーは推測する。

その推測を支持するかのように、階下から足音が聞こえた。

 

どうやらバーノンが先ほどの音に疑問を持ち、確かめにやってきたらしい。

普段からダドリーがもっと大きな音を響かせているだろうに、よほど神経質になっているようだと、ハリーは原因のしもべ妖精の首を掴みクローゼットの中に押し込んだ。

クローゼットを閉じた瞬間に部屋のドアが開き、赤ら顔のバーノンが隙間から顔を覗かせた。

 

「さっきの音は何だ?」

 

「音って?」

 

「つい今しがたお前の部屋から鳴り響いた音だ!」

 

ああ、とハリーはなぞは解けたとでも言いたげに声を発する。

 

「これのことかな?」

 

バンッとハリーはクローゼットの扉を開けてから思いっきり閉めなおした。

 

「何をしている?」

 

「どうにも立て付けが悪くてね。荒療治で直そうとしてたんだ」

 

「もっと静かに直せ! これからお得意先が来るんだぞ!」

 

「じゃあトンカチ貸しておくれよ。すぐに直すから」

 

「誰が貸すか!」

 

バーノンは荒々しく階下に戻っていく。

その足音が完全に遠ざかったと見るや、ハリーはクローゼットを開け、ノックアウトされたしもべ妖精を外に出した。

 

「ああ、ごめんよ。頭に響いたかい?」

 

「へ、平気です。ええ、この程度平気で……」

 

フラフラと覚束ない足取りのしもべ妖精をハリーはニマニマと見る。

いきなり現れた非礼への、ちょっとした意趣返しである。

 

「で、君なんなの?」

 

冷めた紅茶を飲みながらベッドに座る。

しもべ妖精ははっと何かを思い出したようにハリーの顔を見た。

 

「そうです。ドビーはハリーポッターに言わねばならないことがございました」

 

「へえ、君ドビーって言うの」

 

「そうですドビーはドビーと申します」

 

どうやら屋敷しもべと言うものは一風変わった性格をしているようだ。

もしかしたらドビー一人が変なだけで、屋敷しもべ一般がそうだという訳ではないかもしれないが、ハリーのしもべ妖精への印象は変わった連中で固まりつつあった。そしてそれは差して間違ってはいない。

 

「じゃあドビー。君は主人からの伝言なり君個人の言葉なりをさっさと言ってくれよ。僕はこれから勉強するんだ」

 

「勉強。ハリーポッターは勤勉で在らせられます」

 

「勤勉って言うか、これ以外やることないし、やらなかったら微かな望みが繋がらないからなんだけど」

 

まあそれはどうでもいいと、ハリーはカップを置き、次にドビーが言う言葉に備える。

ドビーは若干言い辛そうに、けれどもはっきりとハリーの目を見ながら言った。

 

「ハリーポッターは今学期ホグワーツに戻ってはなりません」

 

「……なんだって?」

 

「ハリーポッターはホグワーツに戻ってはいけないのです」

 

この妖精風情は何を言っているのだろう。

不思議そうな目で、ハリーはドビーを見つめる。

 

「ホグワーツには罠が仕掛けられます。危険です」

 

「誰が仕掛けるんだい?」

 

「それは申せません」

 

それはないだろうと、ハリーは心中で思った。

いきなり現れ、ハグリッド曰く世界で一番安全なホグワーツは危険だと宣い、けれど誰がそうしているのかは言えない。

これではただの悪戯にしか思えない。というか悪戯でなかったら何なのか。

大方どこかのお貴族風味な家系の甘やかされた長男辺りの戯言だろう。思い当たるだけで一人いる。丸書いてフォイってやつだ。

しもべ妖精は主人の命令には逆らえないから、ドビーは嫌々やらされているのかもしれない。

見る限りでは大真面目でやっていそうだが、まあそう思っておくこととしよう。

だとすると、それに乗っかったふりをするのが一番楽だろうか。

ドビーは満足させて帰らせ、長男は悪戯が成功しそうなこともあって阿呆ながらも大喜びするはずだ。

 

ハリーは決めた。

 

「そうか。じゃあ戻らないよ」

 

「本当でございますか?」

 

「うん。何なら一筆書こうか。ハリーポッターは今学期戻らないって」

 

「いえ、そこまでして頂かなくとも、ドビーはその言葉が聞けただけで満足でございます。ハリーポッターはホグワーツに戻らない。そうするべきなのでございます」

 

「ああ、そう。ならいいや。用事が済んだなら、もうお帰り。僕は勉強するからね。何せ勤勉だから」

 

「はい。ドビーは決してハリーポッターのお勉強の邪魔は致しません」

 

じゃあ行動全般についても邪魔しないでほしいなあ、とハリーは思った。

ドビーは最後に一礼し、指を鳴らしたかと思うといなくなる。ドビーのいなくなった空間で、あれも魔法なのだろうかとハリーは一つ疑問を持った。

 

その疑問を解消するために教科書を開いたハリーの耳に、窓をこんこんと叩く音が聞こえる。

うるさいなと一分ほどそれを無視し、若干苛烈になった辺りでカーテンを開ける。窓の外には一羽の梟がいた。

嘴には手紙が握られており、魔法界の誰かからお便りだと言う事が察せられた。

ハリーはそれを受け取り、褒美を要求してほーほー鳴く梟を二~三撫でした後送り主を見る。

なんと魔法省からの手紙だった。あとダンブルドア。

 

こういう手紙に、普段健全善行素行良好な一般市民はドキッとしてしまうものだ。

ハリーも例にもれずドキッとした。ホグワーツでの校則破りを魔法省が罰する権限はないはずだと思いながら封を開ける。

中身は二通。どうってことなさそうなホグワーツからの便りは後回しにし、先に魔法省からの手紙を読んだ。

 

時節の句から始まり、次に難しい単語を使っての世間話。

さらに遠まわし遠まわしに本題。それらを簡単に要約、要らないところはばっさりカットしてしまうと「校外で魔法は使わないでね! お姉さんたちとの約束だよ!」と書かれていた。やけにノリが軽いのは要約以前の問題だ。

 

しかしながらそんな手紙を寄こされてもハリーとしては返事に困る。精々一言この場でぼやくことしかできない。

内容はつまり「使ってねえよ」だ。

 

ハリーは一言、そうぼやいてベッドに横たわった。

何だか勉学に対するやる気が猛烈に失われていた。

もしかして魔法省の未成年魔法使いによる魔法行使探知って杜撰なのだろうか。

そう思ってしまって、それを証明するかのような手紙を送られてしまって、『魔法省、無能』のイメージは酷く堅固な物となった。

 

 

 

後日、何を思ったか朝から突っかかってきたダドリーを鉄拳で沈めたハリーは、ロンドンに訪れていた。

目的はもちろん、昨晩警告文書と共に届いた『今学期必要な教科書』を揃えるためである。

これが警告文書と共に入っていると言う事は、おそらくこれを書いた人のすぐ近くにダンブルドアがいたのだろう。

そして多分、かなりの圧を掛けたに違いない。

「その子まだ二年生にもなってないんじゃけどー。まさか退学にするつもりじゃないじゃろなー? そういうことなら儂も考えあるよ。アルバスやっちゃうよ。全力で実力行使しちゃうよ」

とか何とか言っていたのではないだろうか。

 

……さすがにないか。そんな面倒くさいことするよりも杖振って二コリで解決しただろう。

その場合、ただ単に脅したか実力行使したかはダンブルドアのその時の気分による。

 

さて、バーノンその他ダーズリー家には何も言わずにここまでやってきたハリー。

途中の運賃は先学期のうちに換金しておいたお金で賄った。両親が遺してくれた遺産のおかげで懐が暖かいのだ。多少の無駄遣いは余裕で出来てしまうぐらいには熱々な懐だ。おかげで心に余裕を持て、ダドリーの嫌味を受けても拳で応対する程度の理性が残ってくれていた。

ハリーは死んでしまった両親に改めて感謝を述べた。

 

漏れ鍋でトムに挨拶し、マグルの格好と言う事で奇怪な物を見る眼を受けながら、ダイアゴン横丁の書店へ向かう。

しかしそこは外からでも分かるぐらいには人が群れを成していた。そこらの一軒家二つ分ぐらいの小さな店から溢れんばかりの、と言うか溢れていた人の山にハリーは気後れする。

 

あんな所には行きたくない。けれど行かなくてはならない。

成さねばならない。そう決めたら行動は早い。こう見えてもグリフィンドール寮生なのだ。やはりスリザリンにしておけばよかったと後悔もしている。

深呼吸混じりに溜息を一つ吐いて、ハリーは人口密度を高める行動を敢行し、人の群れをかき分けるように進んだ。

 

どうやら有名人が訪れていたらしいと言うのは、やっとの思いで必要な物を購入した後、道端に座り込んだときに気づいた。

店の中から「ギルデロイ・ロックハート!」のいけ好かない声と同時に黄色い声援が響いたのだ。

少し目を凝らして、イケメンと言えばイケメンな男が何やら得意げな表情で壇上に立っているのを見たハリーは、「けっ」と不機嫌さを露わに唾棄し立ち上がる。

 

あんなものに構っている暇はないと視線を外し、ポケットからホグワーツからの便りを取り出す。

買い忘れたものはないかと確認を終えてその場を立ち去ることにした。

 

前髪のおかげでまだ自分がハリー・ポッターと言う事には気づかれていないが、先ほど店の中で何人か見覚えのある顔を拝見した。

主に赤毛やらブロンドやらくせっ毛やら白いやらの連中だったが、それらに見つかる前に立ち去ってしまうのが賢明と言うものだ。

一応八割がた僚友なのだが――――一人はルームメイトでもあるのだが――――挨拶などするつもりはない。

仲がいいと言うわけでもなし。先学期には陰ながら見守ったりもしたが、彼ら彼女らにそう言う認識はないし、ハリーもそれを知らせるつもりはなかった。

見守ったと言えば聞こえはいいが、実際には厄介者を押し付けたに過ぎない。何だか色々と嗅ぎまわっていたグレンジャーに世間話と称して一方的に情報を与え、代わりに行動してくれるように仕向けた。

彼ら彼女らは中々優秀な人材であったようで、見事に事件を解決してくれた。特に報うつもりはないが、それ自体には感謝の念を抱いている。

 

だからこそ、今学期は是非とも適切な距離を保って過ごしたいのだ。特に、人外らしきハゲが関わる事件などは御免こうむりたかった。賢者の石にしてもクィレルにしてもである。

 

幸いにして、今の所なにかそう言う予兆はない。ならば関わることもないだろう。

唯一気になるのはどこかのしもべ妖精の警告騒ぎだが、あれも悪戯と決めつけていいと思う。

もしかしたらハリーの一挙一動を監視していて、特急に乗る直前辺りに変なことをしてくる可能性もあるが、その時は白い梟ことフクロウの出番である。

奴に場面場面に応じた手紙の一つでも運ばせて解決すればいい。普段から籠から出せ出せとうるさいから喜んでやってくれるだろう。

出そうにも手紙を送る友人の一人もいない飼い主の面目も保たれると言うものだ。所詮鳥畜生だから手紙の内容までは関知できまい。

 

何ならマクゴナガルを名指しで呼びつけてやればいいのだ。命を狙われていると手紙を出せば三秒で駆けつけてくれるだろう。

よしんば本人がこれなくても教師の一人は駆けつけるはずだ。スネイプとか何だかんだ言いながら全力で駆けつけそうだ。伊達に授業のたびに杖を向け合ってはいない。

 

それくらい、この世界でのハリー・ポッターには価値がある。何せ『生き残った男の子』なのだから。

 

多少の我が儘は効く。そうハリーは考えていた。

そしてそれはおおよそ正しい。もしハリーの身に危険が迫ればダンブルドアが黙っていない。全力で守ってくれるだろう。

何故ならハリーは生き残ってしまった男の子であり、死ぬべき場所は決まっているのだ。

それ以外の場所でハリーが死ぬことをダンブルドアは良しとしない。ハリーも良しとしない。

いや、出来ることなら死ぬこと自体を良しとしたくはないが、一度死んでおかないとハゲが死なないのだから仕方がない。

毛根云々ではなく、ストレス云々でもなく、はた迷惑なハゲがいたものだ。死ぬなら勝手に死ね。

 

そういうことで、最近何やら冴え渡っているハリーは今後のことを考えながら一旦ダーズリー家に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ホグワーツの学期はじめ。生徒たちがホグワーツへ向けて一斉に移動を始めるその日。ハリーは早起きをした。

バーノンやペチュニアすらまだ眠っている時間から朝食を作り始めたハリーは、出来上がったそれらをラップに包んで冷蔵庫にしまった。

 

そして『ホグワーツに行ってきます』の書置きを残して一匹を連れて家を後にする。

行きはフクロウのことを考えてタクシーを使った。すこぶる豪勢である。

 

タクシーの運転手を相手に少しの世間話をして、途中で試しと言わんばかりに魔法の話題を振り、互いに互いを鼻で嗤いながらの気持ちの良い旅順であった。

 

そうして出発時刻よりもかなり早い時間に9と四分の三番線に到着したハリーだが、何故か着いた当初は壁を潜り抜けられなかった。

何かの不具合か、それとも潜り抜けられる時間が決まっているのかと思ったハリーは一旦その場を離れる。

けれど、後続の魔法使いらしき人たちは順調に壁を潜り抜けていくのを見て、これは誰かの嫌がらせだと察したハリーは、変な被り物をした女の子の背中に背後霊のごとく接近し、壁を潜り抜けることに成功した。

 

これでもし潜り抜けられなかった時は壁に背を預け、全ての魔法使いを通せんぼするつもりだったから、犯人は引き際をわきまえていると言えよう。

 

そして利用した女の子は、鈍くも背後を振り返ることなく父親らしき変人と共にどこかへ消えていった。

一目で変人と看破できたのは来ているローブの色のおかげだろうか。さすがにショッキングピンクのローブは見たことがなかった。目に悪い。

 

あの女の子には、いずれ気づかれぬうちにこっそりお礼をしたいところだが、こうして客観的に見て近づくのが嫌になる女の子と言うのもそうそういない。

素材は良いと思うのだが身に着けている装飾品の数々で打ち消してしまっている。カブとかカーニバルで被るような帽子とか。

ホグワーツで苦労することになりそうな格好だった。

 

さて、潜り抜けた先には既に特急が鎮座していた。まだ黒煙を立ち昇らせてはおらず、朝早いこともあり見える人影もまばらである。

だがそのおかげで簡単に一つのコンパートメントを独占することも出来た。

この状況が崩れないようにお馴染みのてるてるぼーずも設置済みだ。昨年度の物よりも、ハリーの呪いの被検体となったことで禍々しさを増したそれは、瞥見しただけでは闇の某に見えぬこともない。

恨むなら不用意に写真を撮られたハゲを恨むと良い。あんなものを見つけてしまい、横を向けばてるてる坊主が置いてある状況では試さずにはいられなかった。

来年度は黒いマントを被せる予定であるから、そうなればまさしくあのヴォルデモート卿の完成だ。

 

まだ未完成と言えども、名前のおかげもあるのかそれは確かな効力を発揮してくれているようで、コンパートメントの前を通る人間はほとんど必ずと言って良い頻度でもって早足で通り抜ける。

観察してみれば、ほとんどの人間はてるてるぼーずを凝視していて、コンパートメントの中にいる人間がハリーだと知った後はかなりの驚愕を露わにしていた。

 

今年度はハリーが闇の魔術に卓越していると言う噂話が聞こえてきそうである。

まあ、間違ってはいない。

 

そんな人間観察もそこそこに、ハリーはすることもないから教科書を開いた。片手には杖も持っている。

ちょっとした実験だ。

 

数日前、魔法省から届いた冤罪による警告文書。ハリーは魔法を使っていないにも関わらず何故かハリーが魔法を使ったと魔法省側が誤認した一件。

さて、あれはどういうことなのだろうかと、ハリーは今まで空いた時間を使い考え続けていた。

 

その一件から分かる確かなことは、魔法省は魔法の行使は探知できるけど魔法を使った人間までは探知できないということである。

事実、あの時魔法を使ったのはドビーとか言うしもべ妖精であって、ハリーは魔法のまの字も使っていない。使おうと思ったことは数多くあれど、実際に使ったことは一度たりとてない。

ホグワーツで校外での魔法使用は厳禁だと教えられ、使った時の処罰にまで調べが行き届いていなかったから、決して使いはしなかった。

使うのならリスクとメリットを知り、法の抜け穴を探してからだと思ったからだ。

 

だというのに、魔法省はあの時ハリーが魔法を使ったと宣ってきた。

それを考慮して浮かび上がる可能性は、『魔法省は未成年若しくは魔法使い全般の魔法の行使を探知できる。けれどあくまで分かるのはどこで魔法が使われたかであり、魔法を使った本人までは特定できない』ことと、『ハリーの近くに魔法使いがいないことを知っている』ことである。

 

それら二つを合わせて考えられる仮説の内の一つ、魔法使い全般の魔法を探知できる可能性の場合、魔法省は魔法使いの居場所を常時補足する手段を持っていて、それは魔法が使われることで魔法使いの何かが魔法省に信号を送るという手段ではないか、というものがある。

もし仮にこれが正しいとして、そこには使った人間の特徴は不鮮明ながらも年齢に関しては鮮明になるような『何か』が盛り込まれているはずである。

ハリーに冤罪が吹っ掛けられたことを鑑みて、その『何か』は内外の魔法行使に阿婆擦れのごとく反応していると見るべきだ。

 

しかも、それはあくまでも人間に対してのみ有効で、しもべ妖精などはなっから眼中になく、妖精が使った魔法にのみ反応していたとすれば先の一件も頷ける。

頷けるだけで、次に出てくるのは不完全な制度を使い続けていることに対しての文句と、人間以外の生物を下等とみなしている態度に対する蔑みであるが、それでも頷けないことはない。

 

そしてこれもあくまで可能性の話であるが、ハリーはその可能性について、己にとって都合の良い一つの結論に達していた。

 

まずその可能性とは、大人の魔法使いが多く居る場所で未成年が魔法を行使した時、魔法省は果たしてその子に警告文書を送ることが出来るのだろうか、と言うものである。

 

そしてそれに対する結論は、まず出来ないだろうと、絶対にNOであるはずだと考えていた。

出来るはずがないのだ。ハリーの仮説が間違っていたとしても、冤罪が起こったこととそれによって得られた『確かなこと』は覆らない。

 

大人の魔法使いが近くに居れば、未成年が魔法を使っては罰せられることはないのだ。

この事実はハリーのテンションを上げるのに十分だった。校外で魔法の練習ができるのだ。

二か月と言う長い休暇を教科書を復習したり、本を読んだりすることにしか使えていなかった現状が改善される。

本格的に魔法の練習をするとなってはかなり多くの魔法を使うことになるだろうから、大勢の魔法使いがいる場所で行うのが好ましい。

となればダイアゴン横丁が一番だ。確か漏れ鍋の二階は宿屋になっていたはずだから、来年度の休暇はそこに泊まって魔法の練習に精を出そう。

 

考えれば考える程ハリーのテンションはうなぎ登りになる。

けれど高笑いするハリーの中の冷静な部分。生来からの慎重な部分がハリーに警告を発する。

 

"本当に大丈夫なのかい? 僕は心配だよ"

 

うるさい大丈夫に決まってるだろ臆病者は黙っていろ。

ハリーは二の句を次がせぬ勢いで制圧に掛かる。

しかしそれは軽々と受け流し続けた。

 

"ハリーハリー。ハリーポッター、よく考えてみようよ。確かに君の考えは一見して完璧だ。それに間違いはない。けれど、もしかしたらってことがあるじゃないか"

 

確かに言われてみればその通りだ。もしかしたらってことも考えられないこともない。

しかし可能性の話をしたら何時まで経っても話は終わらなくなってしまう。

これはハリーが何度も何度も考えて、時には最初から考え直して積み上げた、いわば確信である。

はっきり言って、今更どうこう言われようとハリーが考え直すことはない。ハリーはこれで良いのだと決めつけたらそれに向かって猛進する人間であるのだ。

 

"ああ、もしこれがダンブルドア校長の言葉だったら僕は諸手を挙げて賛成しただろう。疑うことなく納得していただろう。だけど考えて見てくれ。これは君の考えだ。組み分けの儀式のとき、君が唯一資質がないと判ぜられ候補にすら挙がらなかった組は何処だい?"

 

レイブンクロー。

頭の良い者たちの集まり。

 

"そうだ。レイブンクローだ。それはつまりどういうことか。はっきり言ってしまって、君は頭が悪いんだよ"

 

甚だ不愉快である。

ハリーは憤慨した。そうまで言うのならば見ていろとハリーは心中のそれにホグワーツ特急内で魔法を使うことを約束した。

特急とは言えまだホグワーツには程遠いキングスクロス駅。けれどその近くには大人の魔法使いがたくさんいる。

そこでならハリーの仮説の真偽を確かめられる。もし間違っていて、魔法省から警告が届いたとしても温情のある罰が課せられる可能性が高い。子供らしく、特急内で興奮してつい魔法を使ってしまったとでも言えばそれで済みそうですらある。

最悪でもスネイプ教授の罰則を受けるだけで済むだろう。望むところである。

 

実はそんな理由で早起きしたハリー。

運の良い事に、そのおかげで妨害も逃れられ、最近の女神はハリーににっこりと微笑んでいた。

その微笑みの裏にある悪魔の様な素顔が透けて見えていなければ、ハリーは無神論者から改宗していたかもしれない。

その時は英国らしくキリスト教を信仰していただろう。

しかし、今はてるてるぼーずを飾って闇の某に見立てていたりもするから、相も変わらず節操のない無信教である。

必要になれば神にも祈るし悪魔に魂を売り払いもする。結果のために手段は問わぬ。それもまたハリーの本質の一部だ。

 

 

話は戻り、コンパートメント内で教科書を開いたハリー。

開いた教科書は今年度『闇の魔術に対する防衛術』で使用する教科書。

別に先学期に習った呪文の復習でもよかったのだが、どうせ使うなら新しい呪文が使いたかった。

 

そこでまだ開いていなかった闇の魔術である。やけに冊数が多く、それら全ての表紙に「開けたくないなぁ」と思わせる何かを持っていた教科書だったが、どうやらその気持ちは正解だったようで、もし横丁から帰ったハリーが喜び勇んで、いの一番にこれを開けていたら床に叩きつけていただろうことは容易に想像できた。

 

中身はただの自慢ばかりの小説だ。

呪文云々、闇の魔術云々についてはほとんど触れられていない。

ただただ筆者の冒険について自画自賛を交えながら面白おかしく書いてあるだけだ。

少し読んでみたが小説としては面白い部類の物かもしれない。少なくともベストセラーになるだけの理由はあるだろう。

けれど教科書としては酷い物だ。

 

これを授業でどう使い、どう役立たせるのか全く想像できないのだから、今年の闇の魔術に対する何たらの授業は不安である。

 

ちゃんとした授業になるのだろうか。ハリーとしては昨年度のクィレルレベルの授業を期待したいのだが。

あの吸血鬼もどきは後頭部に人外を張り付けてはいたものの、授業に関しては真面目にやっていた。

ダンブルドアのおひざ元と言う事もあって、目を付けられることはしたくなかったのだろうが、それでもためになる授業であったことは確かだ。

最終的にそのクィレルは死んでしまったから、新しく先生を迎え入れることになるはずだ。

この教科書もどきたちは、その新しい先生の指定によって買わされている。

 

果たして、こんなものを教科書に指定する新任の教師は、今年の授業をその水準で行ってくれるのか。

思えば思う程。考えれば考える程暗闇しか見えない。

最悪、授業をボイコットすること何かも考えなくてはいけないなと、ハリーは憂いながら「ルーモスマキシマ」の呪文を唱えた。

 

 

 

 

 

 

ホグワーツにたどり着いたハリーを迎えたのは、退学書類を持った魔法省の役人ではなく、二年生以上の生徒たちをホグワーツに送り届けるために用意された馬車だった。

 

ただし、引いているのは黒い骨ばった馬の様な生き物であり、一目見ただけで魔法生物だと分かってしまった。

その死神の相棒の様な外見に戸惑い、乗るのを躊躇したハリーは、周りの生徒たちが意気揚々と馬車に乗り込んで行く様を称賛のまなざしで眺めていた。

誰一人、馬に視線すら向けずに笑い合い話し合いながら馬車に乗り込むのだ。

その胆力の凄まじさと来たらハリーの遥か上を行っている。ちょっと簡単には真似できない領域だ。真似したくもなかった。

 

そんな訳でハリーは馬車の順番から一人抜け、最後の最後までその場に留まった。

他の生徒たちの姿が見えなくなるまで馬の様子を観察し、最終的には乗るだけなら安全だと見て取って、最後に一つだけ残った馬車に乗り込む。

合席は青白い顔で何かに怯えているネビル・ロングボトムただ一人だけだった。

特に会話もない中で、馬車は進み始める。

 

がたんと馬車が石か何かを踏むたびにロングボトムの身体は必要以上に跳ねていた。

それを二~三度繰り返したところで、ハリーの悪戯心に火が点いた。

ハリーは身体を思いっきり左右に揺らし、馬車を振動させる。

 

案の定、過敏に反応したロングボトムは絶望の表情でハリーの顔を直視する。

口を半開きにして、涙目になりながらか細い声で「やめてよぉ」と低語した。

 

一瞬やめるか続けるか迷ったハリーは、乞われた通りに止めることにした。

弱い者いじめはあまり好きではない。何より、これ以上馬に刺激を送ってはどうなるか分かったものではない。

比較的穏やかな性格をしているらしいことは分かっても、何が逆鱗なのかはてんで把握していない。

君子危うきに近寄らずとはどこの国の言葉だったか。

 

ともあれ、なるべくそういうものには近寄らないのが賢明だろう。

それから、ハリーはホグワーツに着くまでの間、ロングボトムの一挙一動を楽しむことに終始した。

 

 

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