偽物ハリー・ポッターの運否天賦   作:紺南

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番外編になります。
正直これを投稿するのは迷いましたが、アズカバンが半分も書けていないので投稿することにしました。

前半は書き忘れていたことを補足的に。
後半に関しましては話半分にお読みください。設定は変わることがありますのでお含みおき下さい。


秘密の部屋 番外編

<秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、気を付けろ>

 

これは、先日ハリーが第一発見者として見つけた猫の死骸――――正確には石――――の傍らに書かれていた文である。

ティーンエイジャーらしい内容のその文は血か何かで書かれていて、悪者がやりましたと大々的に公表していた。

 

ハリーとしては、壁の向こうから漂ってきた気味の悪い蛇の声を追いかけて行ったらそんなものと遭遇してしまったものだから、余計に気味悪くて仕方がない。

 

しかも、運悪くそれを凝視している時に挟み撃ちする様に人が現れたのだからに二重に仕方がない。

おかげで、学校中がスリザリンの継承者はハリーであると言う認識の元で行動するようになってしまい、ハリーがよく利用する図書室なんかは全く人の気配がなくなってしまった。

 

その状況に喜んだのがハリーで、大喜びしたのが司書のマダム・ピンスである。

常日頃から図書室内で話す生徒にぶちギレはしていた人だが、まさかあそこまで大喜びするとは思わなかった。

調子に乗ったハリーが禁書の棚の閲覧許可を求めてしまい、すぐに喜びは怒りで上塗りされたが、それでも湧き出る上機嫌は隠しきれてはいなかった。

そこまで本が好きなのか、とハリーが驚きつつも妙に納得してしまった一件である。

 

さて、校内で最も静かな空間となった図書室でホグワーツの歴史と言う名の辞書をめくり、闇の魔法生物とか言う禁書すれすれの本を漁った後、初日に遭遇した黒馬について聞くためにハグリッドの家に訪れたハリー。

ロックケーキをがりがり齧りながらハグリッドに問うた。

 

「ああ……。そうか、ハリーはあれが見えるんか」

 

「そう、あれ、なに、てか硬っ」

 

ケーキにフォークが刺さらない。口の中に入れたケーキは噛み切れない。

果たしてこれは食べ物なのだろうか。名は体を表すと言うが表し過ぎだろう。

どうせならロックではなく、ケーキのほうを表してほしかった。

 

「あれはな、セストラルと言ってな。死と遭遇した者にしか見えん生き物だ」

 

「死を擬人化した覚えはないけど」

 

「いや、遭遇と言うか、まあ見るっちゅうかな。うん」

 

直接的な表現を避け、濁すハグリッド。ハリーとしてもハグリッドの言わんとしていることは分かった。

そのお礼に、余計な気遣いは無用だとハグリッドに分からせてあげることにした。

 

「そうかー。あのハゲが目の前で母さんと父さんを殺したから見えるようになったのかー。そうかー」

 

「……そうだな。辛いか? ハリー」

 

「全然」

 

嘘偽りなく本心からの言葉だ。

死んでしまった両親たちは、ハリーがホグワーツを卒業するのに十分すぎる量の金貨を遺してくれていて、最低限の親としての役割を果たしてくれた。

代わりに愛とか言うダンブルドアの好きそうなものは受けられなかったが、幸いにもそれほど歪みはしなかった。

まあ、元々歪んでいるだろと言われれば否定のできない所はある。

 

「ロックケーキ、まだあるが食べるか? うん?」 

 

「だから硬すぎて食べれないんだって――――あ、これおいしい」

 

「土産に包んでやろう」

 

何とか一口咀嚼したハリー。予想外の美味しさに口元がほころぶ。

ハグリッドのコガネムシの様な眼が労わるような光を灯していたが、ハリーがそれを気にすることはない。

 

このケーキ、何とかして食べやすいまでに柔らかくならないだろうか。

そんなことばかり考えていた。

 

 

 

 

蛇の仲間に動物を石に変えられる力を持った者はいない。

その事実に至ったのは、コリン・クリービーが石化して間もなくである。

壁の中、もっと言えば配水管の中を移動しているらしい蛇の存在に気づいていたハリーは、最近巷を賑わせている『スリザリンの怪物』もその蛇のことだろうと考えていた。

 

けれど調べの結果、動物を石化できる蛇と言うものはこの世界に存在せず、あえて言うならばメドゥ―サが一番近いと言う事が分かった。

メドゥ―サの髪代わりに生えている蛇に、見たものを石化させる能力があるそうなのだ。けれども、壁の向こうに居るのがメドゥ―サだ、なんてことはありえないとハリーは思っている。

 

もしメドゥ―サがスリザリンの怪物の正体なら、ハリーはもっと多くの蛇の声を聞いているはずだ。

髪の代わりと言うからには、頭部を覆いつくすほどの蛇が生えていなければならない。

まさか波平のごとく、頭頂から一本しか毛が生えていないなんてことはありえまい。もし1000年を生きている間に抜けたなんて言おうものなら、ハリーには最後に残ったその一本を引っこ抜く用意がある。

そんな冗談を思い浮かべてしまうぐらい有り得ない可能性だ。

 

しかし、時おり聞こえてくる誰かに向けた憎悪や殺意なんかを考えてみれば、その可能性も完全には捨てきれない。

「憎い……!」とか「殺す!!」なんて言葉が全て毛を持つ者への怨嗟だったのならそれほど笑いを誘う話もないだろう。

考えただけで笑いが込み上げる。久方ぶりに、ハリーは大笑いした。自分の考えで、自分以外誰もいない部屋で。

 

周りに誰もいなかったのはラッキーだったろう。

これがもし談話室や図書室、大広間、教室、寝室だったりしたら他の生徒の目に留まり、またあらぬ噂を流されていただろうから。

 

そして犠牲者には悪いが、もしスリザリンの怪物が考えの通りだったら、ハリーは蛇のことを誰かに教えることはせず、継承者だけ見つけて秘密裏に事件を終わらせるつもりだ。

さすがに、そんな可哀そうな怪物をどうこうするつもりはハリーにはない。これから先、寿命が尽きるまで永遠に抜け毛に悩んでほしいからだ。

 

死よりも酷いこと。それは各々の心の中にあるのだ。

 

 

 

 

 

 

「この、僕が! いつまでも顔も知れぬマグル如きの、ありふれた名前を使うと思うか!? 否だ!」

 

言うと、トム・リドルは己の名前を文字列にし空中に浮かべ並べ替えた。

 

「僕こそがヴォルデモート卿。この世に変革をもたらす絶対者だ!!」

 

ああ……。

ハリーは己の顔を覆ってしまいたくなった。多分今自分の顔を見たら耳まで真っ赤になっていることだろう。

なにあれ。ひどい。厨二病にも程がある。ティーンエイジャー。

トム、あれ何歳なんだろう。見た所15~6だろうか。ああ、真っ盛りだ。

ならば仕方がない。今もなお心にぐさぐさと来ているが。なに。あれぐらいの年の子には当り前さ。暖かい目で見守ろう。

いや、でもあいつ数十年経っても大して変わらないんだよな。

 

冷めた眼で見ることにした。

 

「また……、また『例のあの人』ってわけ!? いい加減にしろよもう!!」

 

白い子が何か言っている。

絶望の表情で、この状況に半ば諦めているようだが、ダンブルドアがそうは問屋が卸さない。

 

取りあえず、バジリスクの目は急行したフォークスに潰されたから勝機は出来た。

さて、蛇は温度で獲物を見分けるんだったか。それとも音で見分けられるんだったか。

その辺り判然としないのは、フォークス寄こすぐらいなら手前で来いよと言う思いが胸中を巡っているからだ。

 

とにもかくにも、白い子ことミレイ・フォーザンはバジリスクに追われどこかに走って行ってしまった。

次に会う時は肉塊か五体満足か。

 

どちらにせよあまり時間はない。ならば今行動するのみである。

 

ばしゃりと、箒から降りた際に足元の水が跳ね除けられた。

この場でそれに気づけるのは、生死の境をさまよっているジニー・ウィーズリーを除いてトム・リドルだけだ。

 

彼は目を細めて音がした辺りを凝視している。

ハリーは、今この瞬間にも呪文を発しそうな雰囲気を感じ取り、被っていた透明マントを脱いだ。

 

トムの目が見開かれる。

 

「やあ、トム。君が会いたい会いたいと患っていたハリーポッターだよ。取りあえず頭が高いからお辞儀しろよ」

 

「……ハリー・ポッター?」

 

信じられないと言った様子でトム・リドルは復唱する。

後半の言葉は丸々と頭に入ってはいないようだ。まあ、さして重要なことでもないしとハリーも二度は言わない。

 

「……ははっ。ははははっ!! 驚いた。驚いたよ。ハリー・ポッター! まさか君から出向いてくれるとはね。ああ、これも天が僕の味方してくれていると言うのか。今ばかりは神に感謝をささげよう」

 

「後で裏切られるからやめておいた方がいいと思うが」

 

トムは興奮し、ハリーは冷めていく。

対照的な二人を見つめるのはサラザール・スリザリンの像だけだ。

 

「そうか。ジニーは君がパーセルマウスだと言っていた。どうやって彼女らがここに来れたのか気になっていたんだ。君が扉を開け、彼女らを招き入れた。理由はもちろん、バジリスクの囮にするためだ」

 

「扉って言うか洗面台だよねあれ。ずっと思ってたんだけど何であれ女子トイレにあるの」

 

「そんなこと僕の知った事か。僕もあの構造には迷惑していたんだ。おかげで一人殺さなくてはいけなくなった」

 

殺した。嘆きのマートルのことだ。

まさか彼女も邪魔だったからなんて理由で殺されたとは夢にも思っていないだろう。

トムに代わり、深く深くお詫び申し上げる次第である。

 

「へえ。でも、やっぱり一人殺したのは軽率だったなトム。おかげでダンブルドアに疑われるし、一人身代わりを用意しなくてはいけなくなった。欲望を制御できずにやっちゃった結果がそれだ。酷く遠回りじゃないか。ここまでくると酷く滑稽でもある」

 

「ミレイ・フォーザンに聞いたのか」

 

苦虫を噛み潰したような表情でトム・リドルは唸る様に言った。

ハリーはその表情がおかしくて仕方がない。蔑むような顔で嘲笑する。

 

「ああ、トム。正直に言って、僕は今日君に会いに来たわけじゃないんだ。まさかスリザリンの継承者がヴォルデモート卿の記憶だなんて誰が思う? その日記の存在も、さっきここに来るまでは知らなかったよ」

 

もしあの日記の存在を知っていたらここまで大事件にはならなかっただろう。

 

一度でいいから、あの日記をチラリとでも目にすることが出来ていれば――――。

 

そう思ってももう遅い。全ての歯車はがっちりと噛み合い、成すべき場所へ向けて回り始めた。

あれはもう諦めるしかない。

 

「さて、トム。冥土の土産に君の質問に答えてあげよう。何か聞きたいことがあるはずだ。例えば……そう。どうやって、ハリー・ポッターはヴォルデモート卿を破り生き残ったのか、とかね」

 

「…………ああ。良く分かっている。まさしくその通りだ。ハリー、君はなぜ生き残った。なぜ僕が負けた。なぜ、誰よりも闇の深淵を覗いていた僕が……? 死を虐げ、全ての頂点に立っていた僕が。……その答えを君は知っているのか?」

 

トムの問いに、ハリーはせせら笑う。

それは不協和音の様に人を不快にさせる笑いで、聞いていて気持ちの良い物ではない。

 

「トム。トム、トム。本当は分かっているんだろ? 分かっていて知らないふりをしているんだろ? 理解したくないんだろ? それを理解してしまったら君は終わりだ。分かっているよトム。君のことは誰よりもね」

 

ハリーの次の言葉をトムは聞くことがなかった。

バジリスクが水辺から勢いよく顔を出し、水しぶきが雨の様に辺りに降り注いだ。

いつの間にか、近くにミレイ・フォーザンが戻ってきていたようで、その音を辿り、バジリスクはここに先回りしていた。

 

水が弾け、数m先を見ることも困難な中で、トムは聞こえなくともその言葉を理解した。

その口の形は、学生の頃にダンブルドアから嫌と言う程聞かされた言葉だったからだ。

 

『愛だよ、トム』

 

トムの杖から呪文が飛び出し、ハリーに向かって飛ぶ。

一度の瞬きの後、そこには誰も居らず何もなかった。

 

「ああ。ああ……。もう勘弁してよ……」

 

見れば、ミレイ・フォーザンがゴドリック・グリフィンドールの剣を持ち、半分泣きながらバジリスクと格闘を始めていた。

それを半分見ながら、残りの半分でトムは考える。

 

ハリーの言っていたこと、愛。

ふざけている。そんなものこの世界において何の役にも立たない。

トムは自答し、ハリーの言葉を一笑に伏す。

 

いつだったか、変身術の授業でダンブルドアが似たようなことをトムに言っていた。

別段気に入られていたというわけではないだろう。

恐らく、トムの考えに勘付き何とかして更生させられないかと考えての言葉だったはずだ。

 

その時も、今と同じように嘲笑い質問した。

 

『先生、本当に愛と言うのは役に立つのですか? 僕は分かりません。愛なんて、何の役にも立たない無用の産物としか思えませんが』

 

ダンブルドアは答えた。

 

『トム。役に立つ、と言う発想を持つ時点で君は愛の真価を理解していない。愛と言うのはこの世で類を見ない程複雑で、この世の何よりも恐ろしく、また美しい感情だ。いずれ君も知る時が来るだろう』

 

ダンブルドアの予言は当たらない。

終ぞ、トムは理解することも知ることもなかった。ヴォルデモート卿となった後も、恐らく今も理解していないだろう。

 

老人の戯言だ。そう決めつけて、その後は考えもしなかった。

まさかまた思い出すことがあろうとは。

 

トムは頭を振り、ミレイ・フォーザンを見た。

剣によってバジリスクは倒された。しかし彼女は毒に犯されている。もう数分も持つまい。

 

彼女が死に絶え、ジニーから命を搾り取った後、ハリーの元へ向かおう。そして、またゆっくりと話すつもりだ。あの夜に一体何があったのかを。

今度は愛などと妄言は許さない。事の仔細を鮮明に聞きだす。

 

トムは心にそう決め、ミレイの最期を見るために彼女の元へ。

 

フォークスが鳴き、トムの数歩前を行く。

不死鳥の涙に癒しの効果があり、それが数少ないバジリスクの解毒剤になることを失念していたトムは、後日、ハリーと見えることは出来なかった。

 

 

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