偽物ハリー・ポッターの運否天賦   作:紺南

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5000文字程度。
短いです。


ハリーポッター(偽) 悩む

リーマス・ジョン・ルーピンと言う人間が、今学期の新しい『闇の魔術に対する防衛術』の先生としてホグワーツに着任した。

 

ハリーが彼と出会ったのはホグワーツ特急内でであり、その第一印象は「昨年度のあれよりかは優秀そうな人物だ」であった。

実際、ルーピンは例年通りコンパートメントの扉に引っかけて置いてあった、てるてる坊主(ヴォルデモート君)のことを「闇の魔術が使われているのではないか」と睨むファインプレーもかましたりしたものだから、優秀であることは間違いなかった。

どの程度優秀なのかは、新学期が始まってすぐに生徒から人気の教師として名が挙げられるようになったことから察することが出来よう。

去年の「あれ」よりは別のベクトルで、かついい方向に人気だった。能力に関してもクィレルと比べて遜色ないどころか明らかに勝っていたから、ハリーとしても大満足な人選であった。

 

初めてまともな『闇の魔術に対する防衛術』の授業を受けることが出来たのだ。

ハリーは大喜び……かと言って、その授業全てが良い結果に終わったわけではない。

 

ハリーにとっての鬼門と呼べる授業は、ルーピンが受け持って最初の授業で行われた。

生徒の心を掴むためなのか、それともただ一番良いやり方だと考えただけなのか、最初から、座って教科書に噛り付くのではなく、立ちながら杖を持って、実際に経験する実技の授業だった。

 

相対するのはまね妖怪。低級の闇の魔法生物だ。

低級と言えども闇の魔法生物であることに変わりはない。

この魔法生物は、正面に立った人間の最も恐れるものに変わる特性を持っている。

 

下手をすれば大人の魔法使いであってもパニックになり退治できずに終わってしまう。

この授業はそんなまね妖怪の対処法を教え、実際にやってみようと言う趣旨だった。

 

退治の方法は至極簡単。

心を笑いで満たし、怖い物の滑稽な図を想像しながら「リディクラス」と唱えればそれだけでまね妖怪は混乱し、繰り返せばいつしか消えてなくなってしまう。

 

ルーピンは笑って、グリフィンドール生にそう語り掛けた。

ネビル・ロングボトムを筆頭に何人かがまだ不安そうな表情でその笑顔を見ている。

ハリーは後ろの方でまね妖怪が収まっているクローゼットを眺めていた。

その胸には、恐らくまね妖怪が変身するだろうイメージが好奇心の蛇を追いかけ走り回っていた。

客観的にそれほど自虐的な画もない。と言うかお前関係ないだろうと言う指摘は虚空に消え去った。

 

これからまね妖怪も同じ運命を辿ることになる。

 

「さあ、ネビル!」

 

ルーピンはこの中で最も怯えていたネビル・ロングボトムを指名。二~三言何かを話し、勢いよくクローゼットを開いた。

 

次の瞬間、そこに立っていたのはセブルス・スネイプ。

魔法薬学の教授にして、ハリーを始めとした生徒に嬉々として嫌がらせを行う教師の鑑だ。

 

「ロングボトム……」

 

スネイプはいつもの調子でネビルに話しかけ、そして言う。

 

「君の愚鈍さにはほとほと呆れたものだ。吾輩は何度同じことを繰り返せばいいのですかな? 仕方がない。君の薬の被検体には可哀そうなトレバーを使うことにしましょうぞ。今度は幼体化だけではなく先祖返りでもしてくれるに違いない。そう思わんかね?」

 

「り、りりいっりい、リディラクス!!」

 

恐怖の中で、詰まりながらの呪文は残念なことに間違っていた。

焦ったせいか、スネイプ教授の圧のかけ方が相変わらずの物だったからなのかは判断に困る。

 

しかし運よく間違った呪文が功を奏し、何故かスネイプが膨らみ始めた。

 

「ロングボトム。トレバー 先祖    暁  君に試  。き と   親 才  受         」

 

膨張するにつれ、段々と何を言っているか聞きとれなくなっていく。

最終的に4~5mの大きさにまで膨れ上がったところでルーピンが次の生徒を呼ぶ。

 

「次はロン! 君だ!」

 

「え、ぼく……あ、はい行くよ行くから蹴らないでくれよ」

 

さっさと行けと蹴られながら、ウィーズリーは前へと進む。

なおも膨らんでいたスネイプは、ウィーズリーを視界におさめた途端全く別の物へと姿を変えた。

 

蜘蛛である。

それもただの蜘蛛ではなく、全長が一~二メートルはあろうかと言う巨大な蜘蛛だった。

 

周囲の女子から悲鳴が飛び、男子でさえもその気持ち悪さに息をのんだ。

また、ごく一部の生徒からは「ロナルドォ!」と怒りの罵声が投げかけられた。

 

蜘蛛は鋏角をカチカチ鳴らして威嚇を行いながら、生徒たちに近づく。

ウィーズリーが泣き笑いを浮かべながら半分開き直ったように「リディクラス!」と唱えた。

 

蜘蛛は8本の足先にローラーブレードを装着し、バランスを崩してその場に倒れ込む。

その滑稽な図に固唾を呑んでいた生徒たちからは笑いが起き、ルーピンは称賛の言葉を送った。

 

それから、次々と生徒たちがまね妖怪を相手取った。

まね妖怪は様々な形に変化し、多様な滑稽な図を作る。

生徒たちの高揚は最高潮に達し、まね妖怪も段々と混乱してきている。

そろそろ終わりだ。

 

「さあ、次は誰だい? まだ呪文を唱えていない子は――――ミレイ、おいで!」

 

隅の方に隠れるように立っていたミレイ・フォーザンは、招かれるままにまね妖怪の正面に立つ。

その表情は緊張していて、既に余興と認識していた他の生徒たちとは違い、未だこの状況を恐れているようだった。

 

まね妖怪はフラダンスの衣装を着たマクゴナガルから、本日十数回目となる変身を行う。

それはこの場に居る生徒全員が見覚えのある姿になった。

 

――――クィレルだ。

 

ミレイの頬が引き攣る。

クィレルは無言で頭を覆うターバンに手を掛けた。

 

慌てて杖を引き抜こうとし、誤って杖を落してしまったミレイ。

拾い上げたときにはすでにクィレルの後頭部が曝け出されており、全員がそれを目にした後だった。

 

悲鳴――――と言うよりは絶叫に近い声が教室に響き渡る。

ルーピンですら言葉を失っていた。

 

あんなもの見てしまってはそうもなるだろう。それぐらい醜い姿なのだ。

何らかの生き物の様に寄生し生徒たちを見下ろすその姿。

 

幽霊の様で幽霊ではない。生きてはいないようで生きている。

幽霊以下のありとあらゆる生物に劣る脆弱な存在のヴォルデモート卿は、クィレルの後頭部に付着しながら低い声で宣う。

 

「殺せ」

 

その言葉が引き金になったのか、ミレイの理性の限界が訪れたのもそこまでで、一瞬後には次々に呪文が杖先から発射される。

跳弾し、跳ね返った呪文の一つがロングボトムに直撃した。

 

ルーピンは発狂したミレイを抑え込むので精一杯になり、ほとんどの生徒が巻き添えになるのは御免だと我先に出口へ殺到する。

例外は、ルーピンに加勢しようとしたハーマイオニー・グレンジャーとロン・ウィーズリー。

生徒の群れから避難するため遠回りに少し横にずれたハリーだけだ。

 

クィレルは、ミレイの放った呪文を一度は躱しこそしたものの、視界外から跳弾した呪文に当たり吹き飛んだ。

そして、丁度ハリーのいる場所に向かって滑りこんでくる。

仰向けに倒れたクィレルが見上げる形でハリーを捉え、姿を変え始めた。

 

ルーピンは、若干落ち着いたミレイに掛かりっきりでその事に気が付いていない。

出口に殺到した生徒の群れの最後尾に位置した数人だけがそれに気づいていた。

 

まね妖怪が変身を終えた後、気色の悪い物をさらけ出していたクィレルはもうどこにもおらず、代わりにあったのは靄と宙に浮かぶ右手首。

右手首は持っていた杖を真っ直ぐハリーに向けていて、それ以外は黒い靄に包まれ正体がつかめない。

 

奇妙な光景だ。しかし、これこそがハリーの恐れているもの。ハリーがこの授業を半ば傍観していた理由。

 

『アバダ――――』

 

誰の声なのか、靄の奥から聞こえてくる言葉。

声からは性別すら判然としない。若いか老いているかすら分からない。

しかしその声でようやくルーピンがハリーの方を向き、状況を把握した。

 

「ハリー――!!」

 

『――――ケダブラ!!』

 

轟音と共に緑の閃光が室内を包む。

あまりの眩しさ故に室内に残っていた人間のほとんどは目を覆った。

閃光をまともに受けたハリーは、光の中で平然とただ一言呪文を唱える。

 

「リディクラス!」

 

ポンッと軽快な音を鳴らしながら、まね妖怪は消える。

残ったのは耳鳴りと痛いぐらいの静寂。

 

最初にそれを破ったのはハリーで、次いで破ったのは終鈴である。

 

「まね妖怪ごときが死の呪文とか、おこがましすぎて本当に笑っちゃうよ。ああ、『ばかばかしい』ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

ホグワーツの校庭に植えてある木。

名を暴れ柳と言い、近づくものを無差別に攻撃する希少な植物だ。存在もその性格も現代では希少だ。

弱点は根元のこぶ。そこに触れられるとどういう原理か動かなくなる。

また、暴れ柳が植えられている場所にはホグズミードの叫びの屋敷に続く通路が存在していて、昔とある狼男のために用意されたものだ。

 

20年以上経った今ではその存在を知っている者はごく少数になってしまい、その内の一人であるハリーはそこを辿って叫びの屋敷へ向かっていた。

手には朝食の席からくすねてきた食料。足元にはどこかの巻き毛がペットとして飼っている猫が付き添っている。

この猫は普通の猫とは比べようもないほど頭が良く、人の言葉を理解しさらにはシリウスの「動物もどき」を見破った。

中々頼りになる猫だ。

 

通路を抜けた先は前述のとおり叫びの屋敷。

ボロボロで所々に引っかき傷が見られる内装に、床は埃に覆われている。

 

その中でも比較的無事なソファにその人は座っていた。

 

「やあシリウス」

 

「ああ、ハリー。いつもすまない」

 

ハリーがバスケットをシリウスに渡し、受け取ったシリウスは早速チキンに噛り付いた。

その側で猫が「ナーン」と鳴く。

 

暫くシリウスがチキンを咀嚼したりジュースを飲む音だけが場を支配する。

バスケットの中身を全て平らげた後、満腹感に浸っていたシリウスが問いかけた。

 

「……それでどうだ。見つかったか?」

 

「いいや。見つからない」

 

ハリーが答える。猫も同意する様に一言鳴いた。

落胆したようにシリウスが続けた。

 

「そうか……。もうホグワーツから逃げ出してしまったかもしれないな。脱獄してから時間を掛け過ぎた」

 

「それはどうだろうね。話を聞く限りそんな度胸なさそうだけど」

 

シリウスの探し人は、10年以上居続けた安息の地をそう簡単に捨てられる人間ではない。

常に自分の身の安全を一番に考える利己的な奴だ。今となっては唯一の帰ることの出来る地は命の次に大事なもののはずだ。

 

今はネズミの姿をしているからこそ、余計に大切なはずなのだ。

 

「まあ、今はとにかく探し続けるしかないね。まだ時間はあるし、幸いにもこっちには鼻の利く賢い奴がいるから」

 

ハリーの言葉は名指しこそされていない。しかし、それが自分のことだと分かっている猫はフンスと鼻を鳴らした。

任せろと言っているようだ。その様子を見てシリウスが笑いながら言った。

 

「頼もしいな。ああ」

 

撫でられるがまま目を細める猫。

それを横目にハリーの意識は思考の海へと入っていく。

 

考え事。どうするべきか。どうしたいか。近頃はそればかり考えている。

 

「ハリー?」

 

「……ん」

 

「大丈夫か? 心ここにあらずと言った感じだが」

 

「ああ、まあ大丈夫さ」

 

答えるハリーを心配そうに見つめるシリウス。

ハリーはそれに曖昧な表情を浮かべた。

やはり子供には荷が重すぎたかと、シリウスの顔が苦渋に染まる。

 

「少し休んだ方がいい。一時私のことは忘れて羽を休めなさい。ベッドに横になるか、もしくはホグズミードに行って楽しむか。そもそも君を巻き込んだのは私の――――」

 

「いや、いや。大丈夫。疲れてないし思いつめてもいないよ。それに無関係と言うわけでもないから」

 

大人らしい気遣いを見せるシリウスにハリーは反論する。

数か月前、シリウスに協力すると決めたのはハリー自身だ。

最初は遊びの範囲だったが、少々事態が深刻になってしまい、忘れようにも忘れることが出来ない所まで来てしまった。

 

まあ、ハリーがホグズミードへ行く許可をバーノンから取っていないと言う事もあるのだが。

抜け道からこっそり行くことは出来るが、友人の一人も思いつかぬハリーにとっては、そこまでして行きたいとも思えなかった。

 

「……そうか。しかし今日の所はもう帰った方がいい。あまり考え込むと突飛な方向に考えが突き進んでしまう。ぐっすり眠って頭をすっきりさせた方がいい」

 

「うん。まあ、そうだね。分かったよ」

 

ハリーは頷き、立ち上がった。

もうあまり考える時間は残ってないが、シリウスの言うことも一理ある。

それに、どうせ今どれだけ考え込んでも答えは出ないのだ。自分がどういう選択をするのか、その時が来て見ないと分からない。

 

「じゃあ今日はもう戻るよ。また来るけどね」

 

「ああ。そうしなさい」

 

戻ろうとするハリーに、シリウスの足元に居た猫は「ナーン」と鳴く。

どうやら、クルックシャンクスはもう少しここにいるようだ。

 

別れ際、「じゃあね」と一言言って、ハリーは暴れ柳に通じる通路へ戻る。

そのままホグワーツの校庭まで戻ったハリーを迎えたのは暴れ柳の手厚い歓迎だった。

それを魔法でやり過ごしたハリーは、誰もいない校庭を横ぎりホグワーツ城まで歩く。

 

道すがら、おもむろにローブの中から古い羊皮紙を取り出して二言程呟いた。

その言葉に反応して羊皮紙に浮かび上がったのはホグワーツの地図。所々に人の名前が書かれており、それは休むことなく移動していた。

 

ハリーはハグリッドの小屋に目を留め、そこに書かれている名前を見つめる。

 

『ピーター・ペティグリュー』

 

ハグリッドの名前に並んで確かにあるそれは、シリウスが血眼になって探している男の名であり、ハリーが協力して探している男でもあった。

常ならばとっくに告げているだろうに、今になっても忍びの地図の存在と、ピーターの居場所をシリウスに告げていないのには理由がある。

 

先日シビル・トレローニーが放った予言。

それは、とある日の夜、臆病風に吹かれた男が闇の帝王の元へ行き、復活を手助けするという内容の物だった。

 

いつものトレローニーが言ったなら一笑に付すような予言であっても、その時のトレローニーはいつもとは違い、まるで気でも狂ったかのような言動で予言をハリーに伝えていた。

 

彼女の過去の実績を鑑みて、それが信ずるに値するものだと悟ったハリーは、以来ピーターの存在を誰にも口外していない。

ただ、その時が来るのを待っている。

 

どうするべきか。迷いながら、結論は出ない。

 

その日は明後日まで迫っていた。

 




展開が雑。
潮時。
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