偽物ハリー・ポッターの運否天賦   作:紺南

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場面転換のあまりの多さに、なくなく二話に分けることにしました。
今話は前話の続きから二つ目の課題までです。
次話で炎のゴブレットは終わりになります。


ハリーポッター(偽) 勝ち進む

扉の向こうには、ハリー以前に選ばれていた三人の選手がいた。

 

暖炉を見ながら立つセドリック・ディゴリー。

暖炉に背をあずけるビクトール・クラム。

ソファに座っているフラー・デラクール。

 

三人とも、部屋の隅にある暖炉の火によって、ハリーの眼には影になって映った。

ハリーが入ってきた音を聞いて、三人が同時にハリーの方へ振り向く。

一拍の間を四人が見つめ合った。

 

「なんでーすか?」

 

最初に口を開いたのはフラー・デラクール。

振り向いた時にシルバーブロンドの髪が揺れ、背後の暖炉のせいもあるのか、瞼の裏にその動きが強く残った。

 

ハリーは少し考えて答える。

 

「なにも」

 

そんな返しが来るとは思っていなかったフラーは、眉を顰めてハリーを強い眼で見た。

その表情は、先ほどマダム・マクシームがハリーに向けてきた物とそっくりだった。

 

「あー、ポッター?」

 

フラーの苛立ちを敏感に感じ取ったセドリックが間に入る形で口を開く。

その表情は、幼い子供に接するかのような微笑みが浮かんでいた。

 

「君がここに居るということは、先生から何か言伝があると思うのだけど?」

 

「ないよ。そんなもの」

 

「だって、それじゃあ――――」

 

君はなぜここに居るのか。

セドリックがそれを尋ねる前に、慌ただしく扉が開いた。

 

先頭にルード・バグマン。その後ろにダンブルドアと他二校の校長、バーテミウス・クラウチとマクゴナガル、スネイプが続いて部屋に入ってくる。

 

その中の誰よりも喜色に満ちた表情のバグマンが、声音にもそれを滲ませながらハリーの肩に手を乗せる。

 

「いや、驚いた驚いた。選手諸君。全く以て予想だにしなかったことだが、なんと、4人目の代表選手が選出された!」

 

選手三人の眼がハリーに向く。

ハリーは心外と言わんばかりに顔を顰めた。

 

「おー……。それーは、とっても面白い冗句でーすねー?」

 

フラーは同意を求めてクラムとセドリックの二人に視線を送った。

セドリックは困惑し、クラムは暗い表情でハリーを見つめる。

 

「いやいや、冗談ではない。先ほど、ハリーの名前が書かれた紙が炎のゴブレットから排出された。魔法契約により、ハリーは四人目の代表選手に選ばれた――――」

 

「少しよろしいですかな。そのことで、お話があるのですが」

 

話の途中、カルカロフが前に進み出て、バグマンに話しかける。

態度こそ媚びへつらうように腰の低い物だったが、声音には憤怒が見え隠れしている。

 

「確か、私が頂いた規則には代表選手は一校に付き一人と書かれてあったと記憶しておりますが、これは私の勘違いだったのですかな?」

 

「あー、いや、カルカロフ校長。それは貴方の言う通りなのだが――――」

 

「で、あるのならば、なぜホグワーツだけ二人も代表選手が排出されるのか、納得のいく説明をしていただきたい!」

 

もはや隠す気もなく、言葉の端に怒気が表れる。

バクマンが額に汗を浮かべるその隣で、マダム・マクシームとフラーが何やらひそひそと話しこんでいた。

所々ハリーの耳に漏れ聞こえているが、早口のフランス語なので何を言っているのかはわからない。大方、この状況への不満を言っているのだろう。

 

それらを視界におさめながら、ハリーはこの状況への答えを導こうとしていた。

所謂、『誰が、何のためにやったのか』である。

 

まず一つ目。

『誰が』

これに関する答えは既に出ている。ほぼ確実に、ヴォルデモート卿の企てだ。

 

では二つ目。

『何のために』

これもほとんど確実に、"ハリーを殺すため"。しかし、肉体を失くしてまでわざわざご苦労なことである。

ストーカーに似た執着を感じて、背筋に寒気が走る。

 

「ハリー」

 

囂々たる周囲を無視してダンブルドアがハリーに問いかけた。

青い、全てを見透かすような瞳がハリーに向けられる。

 

「君は、ゴブレットに羊皮紙を入れたかね?」

 

ハリーは手の中の羊皮紙をチラと見た。そしてダンブルドアの眼を見ながら即座に答える。

 

「いいえ」

 

嘘などは吐いていない。その証拠として、開けっ広げな心を提供した。

 

「上級生に頼んで入れてもらったかね?」

 

「いいえ」

 

その場にいるほとんどの人間が疑わしげな眼でハリーを見る。

苛立ちの頂点に達したカルカロフが「嘘だ。この子は嘘を吐いているぞ!」と叫んだ。

 

「この子が入れたに決まっている! もしくは、貴様らが入れさせたかだ!」

 

カルカロフの眼がスネイプ、マクゴナガル、ダンブルドアの順に向けられる。

前者二人は何も言わずにその言葉を拝聴している。ダンブルドアはカルカロフをチラリと見ただけですぐに視線をハリーに戻した。

 

「こんなことが許されていいはずがない! すぐにでも、やり直させるべきだ! もしくは、ダームストラング、ボーバトン共に二人目の代表選手が選ばれるまで――――」

 

「ところが、そうもいかんのだ。カルカロフ」

 

コッコッと義足を響かせ、背中に騒めきを背負いながら、ムーディは入室する。

 

「たった今、炎のゴブレットの火が消えた。次の対抗試合まで、もう火は着かん」

 

魔法の眼をぐるぐると回し、部屋の中に居る人間全員を眺めながら、ムーディは言う。

先ほどまでの勢いは何処へ行ってしまったのか、カルカロフは口を開けてムーディを見つめていた。

 

ムーディは傷だらけの顔を不気味に歪め、普通の眼でカルカロフを見る。

その奥に、好戦的な色が見て取れた。

 

「マッドアイ……? なぜ……?」

 

「『なぜ』 ほう。なぜときたか、カルカロフ。お前も偉くなったものだ」

 

不敵な笑み――――のようなものを浮かべて、ムーディは唸る。

しかし、好戦的な色を浮かべながらもそれ以上カルカロフに何か言うことはなかった。

代わりに、ダンブルドアが口を開いた。

 

「一体、どうしてこんなことになったのか、この場に居る誰にも分からんじゃろう」

 

ダンブルドアの言葉で周囲が再び静まる。

 

「ハリーの言葉の真偽は、今この場では重要ではない。もしかしたら、ハリー自身が年齢線を越えて名前を入れたかもしれぬし、わしが魔法を掛け違えたかもしれぬ」

 

マクゴナガルがそんなはずはないと異議を唱えたが黙殺された。

 

「重要なのは、ハリーを含めたこの4人が魔法契約に縛られ、対抗試合に出場せねばならんと言う事じゃ」

 

マダム・マクシームが何かを言いたげに口を開いたが、ダンブルドアの眼を見て思いとどまる。

結局のところ、この状況を打破する術を思いつかないのだ。

 

もう一度選出をやり直したくとも、炎のゴブレットの火はすでに消え、炎のゴブレットを介さずに新たに選手を選んでは試合の公平性に欠ける。

もしその選手たちが優勝してしまえば波も立つだろう。

 

マダム・マクシームだけではなく、カルカロフもダンブルドアも、炎のゴブレットの魔法契約を如何こうすることが出来ない。

出来ない以上、この状況のまま進めるしかない。それが最善だ。

 

例え文句があっても、言いたいことがあっても、虚しく響くだけだ。

 

「バーティ、なにか異論はあるかの?」

 

ダンブルドアが、今まで影薄く佇んでいたバーテミウス・クラウチに声を掛けた。

何か考え事をしていたクラウチは、ダンブルドアの声で我に返り答える。

 

「いや、私も同意見だ。結果を受け入れ、規則に従いこの4人で行うべきだ」

 

ハリーはバーテミウス・クラウチと言う人間を初めて近くで見た。

目の下には隈があり、げっそりとやつれている。どうやら、かなりの激務をこなしているらしい。

ダンブルドアが心配そうな視線を向ける横で、バクマンが続けた。

 

「バーティは規則のすべてを把握している。彼がこう言うのなら、こうするべきなのだろう」

 

不満顔の人間を無視して、バグマンは「さて」と胸の前で手を合わせる。

小気味の良い音が部屋に響いた。

 

「では選手たちに伝えねばなりませんな? 第一の課題の詳細を?」

 

期待に焦りつつ、バグマンはクラウチを見、クラウチは一度頷いて前に出た。

三人の選手たちの眼がクラウチに向けられる。

 

「最初の課題では、君たちの勇気が試される。絶望的な状況で、思いもしない状況で、君たちがどう対処するのか、対処できるのか。その資質を見させてもらう」

 

見た目と裏腹に、しっかりとした声で選手たちに説明する。

 

「従って、この場では課題の内容は教えない。課題が行われるのは11月24日」

 

そこで、不意にクラウチの眼がハリーを見た。対するハリーはクラウチを見すらしていない。

 

「課題を完遂するに辺り、君らは助言を乞う事も受けることも許されない。自分一人の力で、杖だけを頼りにやり遂げなければならない。また、選手には試合の性質上期末試験が免除される」

 

そこまで言い切って、クラウチは溜息を吐いた。

その顔には隠しようのない疲れが浮かんでいる。

 

「……他に、何か言うことはあったかな?」

 

「いや、それで全部じゃ」

 

クラウチは「そうか」と呟いて、また後ろに下がった。

明かりの届かない場所に下がったおかげで、ハリーから陰となり表情が窺えなくなった。

 

ダンブルドアが引き継ぐ。

 

「皆、今日はもう寝床に戻り休むと良い。それぞれ学友たちが待っておることじゃろう」

 

言われるまでもなく、ダームストラング、ボーバトンの校長が代表選手を連れて部屋を後にする。

フラーはハリーに見下すような目を、クラムは強烈な敵意を向けて出て行った。

校長両名に関しては言うまでもない。

 

「それじゃあ、僕らも行こうか? あの、寮に……?」

 

セドリックがハリーに言った。

その眼は好奇心で満ちていた。ハリーが年齢線を越えて名前を入れたものと思い込んでいるらしい。

帰りの道すがら、ハリーに詳しい話を聞きたいのだろう。ハリーとしてはそんなこと御免被るが。

 

ハリーは答えず、スネイプの毒々しい視線から逃げるように扉へと向かった。

ダンブルドアはああ言ったが、今夜グリフィンドール寮には戻らない方がいいかもしれない。

揃いも揃って祭り好きな連中だ。差して仲が良くもないのに、なぜか全員でお祝いの席を用意している恐れがある。そんな所にむざむざと出向くほどハリーは愚かではなかった。

差し当たっては必要の部屋に避難しよう。あそこはほとんどの生徒が知らない部屋だから隠れるには打ってつけだ。

必要とあらば寝室に直結する道も作れるだろう。

 

そう決めたハリーの足は一層早くなる。

ドアノブに手をかけた。

 

「ハリー」

 

しかし、扉を開き身体を半分退室させた所でダンブルドアが呼び止めた。

ハリーは振り向く。

 

「先ほどはああ言うたが、わしは君がゴブレットに名前を入れたのではないと信じておる」

 

ハリーは答えない。

少しの沈黙。少しの逡巡。スネイプの舌打ちだけが空気を揺るがす。

 

「何があろうとも、信じておる」

 

その真剣な瞳を前にして、ハリーは何と言っていいかわからない。

何か言おうとして、しかし結局は何も言えずにハリーは部屋から出た。

 

部屋の外、大広間に生徒は誰一人として残っておらず閑散としていた。

宙に浮かぶ蝋燭と、長机の上の引っくり返ったゴブレットだけが人の痕跡を残している。

 

背後で扉の閉まる音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、ハリーはトーストを齧っていた。

脇に日刊預言者新聞を広げ、リーター・スキーターの記事を眺めながら大広間に居た。

 

普段と違い、大広間にはほとんど人気が無い。

生徒は全員授業に出ていて、残っているのはハリーを含めてもたったの4人だ。

その三人に目をやると、揃いも揃って陰鬱な表情をしていた。項垂れて両手で顔を覆い隠していたり、イライラと貧乏ゆすりをしたり、むっつりと黙り込んでいたり。

 

これからの事を考えるとそうなってしまうのは必然だった。

だからハリーも特に何も思わず、新聞に目を向けて受けた覚えのない自分の取材記事を読む作業に戻った。

 

酷い記事だった。

どうやら、リーターの中でハリーは親の話になると逐一泣かずにはいられない人間らしく、5行に1行は泣いていた。

ヴォルデモート退治以降、ハリーの瞳が涙に包まれたこという事実はない。だから、この記事自体は嘘っぱちだ。

 

しかし、もし取材されていたら笑いながら「遺産を残してくれてよかったです」と答えるだろうから、考えようによってはこの方がまだましなのかもしれない。

少なくとも、読者にはハリーが悲劇のヒロインの様に印象付けられただろう――――ホグワーツの生徒は懐疑の眼を送るが。

そういう印象を持ってくれた方が、何かと優遇されてハリーにとっても悪い気はしない。

度が過ぎるのと、憐れみの視線を送られるのだけは勘弁願いたいが、しかしそれを補って余りあるほどのリターンが見込めるから、今のハリーにリーターを如何こうしようと言う気持ちはなかった。ただただ鼻で嗤うにとどめた。

 

新聞を畳む。

 

残っていたトーストを平らげ、朝食を取り終えたハリーは席を立った。

その音で、残っていた3人はハリーを振り向く。

気にせず、ハリーは大広間を後にした。手元の時計によればまだ集合時間には少し間があった。

 

どうするかと考えた末に、ハリーは校庭の湖に足を向けることにした。

そこからなら競技場にはすぐ着くだろうし、ほとりの木立に身を隠せば周囲にとやかく言われることもない。

最近はフォフォイのフォイがうるさいので、誰にも見つからずに一人で居たかった。

 

ハリーは大イカを眺めることに決めた。

 

 

 

 

「ハリー!」

 

遠くでハリーを呼ぶ声が聞こえた。

誰かと思ってよくよく聞いてみると、ルード・バグマンだった。

ハリーを見つけて呼びかけたと言うわけではなく、何の用事か探しているらしかった。

 

少し身を乗り出して見ると、若干半狂乱になりながらホグワーツへと向かって走っている。

時計を確認して、集合時間ギリギリ――――と言うよりも遅刻――――だと言う事が分かった。

 

立ち上がり競技場へと歩を進める。

 

競技場はワンワンと賑やかだった。

全校生徒がいるのだから当たり前だが、これからその面前でドラゴンを退治しなければならないと考えると少し気が重くなった。

ドラゴンと相対することにではなく、晒し者にされることにである。

 

どうせやるなら陰でこっそりとやりたい。しかし、どこぞの阿呆がハリーの名をゴブレットに入れてしまった。

その裏に居るヴォルデモート卿のおかげで野放しにしているが、本来なら31日の時点でお縄である。

感謝してもらいたいものだ。

 

選手の控室として用意されたテントの中には既にハリー以外の三人が集まっていた。

先ほど見たときよりも落ち着きがない。全員が、不安で一杯の気持ちを持て余しそわそわしていた。

 

ハリーは三人の視線を受けながらソファに腰かけて目を瞑る。

間もなく、マクゴナガルが様子を見にやって来た。テントに入り、ハリーの姿を見ると顔を顰め、すぐにテントから出た。

 

それから数分してようやくバグマンが現れた。

息を切らし顔を赤めて転げるようにテントに入ってくる。

 

「いやはや……、ハリー……。君は……まったく……」

 

何かハリーに恨みごとがあるらしい。

一通り口元で何かぶつぶつ呟いて、バグマンは懐から袋を取り出した。

 

「遅れて申し訳ない。ちょっとトラブルがね……。まあもう済んだ。さあ、この袋の物を一人一つ取り出してくれ。レディファーストだ」

 

覚束ない足取りでフラーの元へ。

フラーは恐る恐る袋に手を入れ、中の物を手に取った。

 

「ウェールズ・グリーン種。二番目」

 

次は隣にいたクラム。

 

「中国・火の玉種。三番目」

 

次いでセドリック。

 

「スウェーデン・ショートスナウト種。一番目」

 

最後にハリー。

 

「ハンガリー・ホーンテール。四番目」

 

気の毒そうな顔をハリーに向けて、バグマンは一歩下がった。

全員にこれから行うことを説明する。

 

「さあ、察しの良い子は気づいていると思うが、君たちにはこれからドラゴンと対決していただく」

 

セドリックの悲鳴のような声が聞こえた。

 

「もちろん、ドラゴンを倒せとは言わん。ただ出し抜くだけだ。競技場にドラゴンの巣が作ってある。その中に、本物の卵に紛れて金の卵がある。君たちにはそれを手に入れてほしい」

 

セドリック以外の選手は極めて冷静だ。

恐らくあらかじめ知っていたのだろう。規則など、どこ吹く風だ。

ハリーもハグリッドに教えられていたから人のことは言えないが。

 

「君たちの手にあるのが、これから戦うドラゴンのミニチュア。番号は戦う順番。さあ、一番目はディゴリー君だね」

 

セドリックは何を言っていいか分からず、パクパクと口を開ける。

 

「申し訳ないが、競技開始までそう時間がない。ホイッスルが鳴ったら競技場へ向かうんだ」

 

言って、バグマンは急いでテントを出て行った。

セドリック以外の三人が元いた場所に戻る。セドリックだけが非常に焦った表情でテントの中を歩き続ける。

 

フラーが憐れみの眼でセドリックを見た。

唯一ドラゴンのことを知らなかったセドリック・ディゴリー。

ハリーでさえ知っていたと言うのに、なぜ彼が知らないのか。人望も、仁徳もあると言うのに。

誠実さで知れ渡るハッフルパフ生が、アンフェアな試合に臨まなければならない。

いい感じに皮肉が利いていて面白い。

 

一、二分してホイッスルの合図が鳴った。

顔を青ざめさせ、意を決したような表情でセドリックはテントから出て行った。

三人は沈黙でそれを見送った。

 

 

 

 

 

 

ハリー以外の選手三人は、苦労こそしたが無事に――――命がと言う意味で――――課題を成し遂げた。

遠くから微かに聞こえるバグマンの声で、詳細は分からないまでもそのぐらいのことは知ることが出来た。

いよいよハリーの番である。ローブの中から杖を取り出し、ハリーはテントの外に出た。

 

競技場までの道中、ハグリッドの姿が目に入った。

あちらはハリーのことには気が付かなかったようで、マクゴナガルと何やら話し込んでいた。

何を話しているかまではハリーの知る所ではない。

 

声をかけることはせずハリーは先へと進む。そのまま柵の切れ目から競技場の中に入った。

 

途端、何百何千と言う視線がハリーを貫いた。

極力それを無視することに努めて、向こう側のドラゴンを見やる。

 

黒いトカゲの様な生き物が、両翼を広げながら後ろ足で立ち上がり、威嚇のため身体を大きく見せていた。

その眼は一切外すことなくハリーに注がれている。

 

ハリーはその眼を暫し眺めて、腹の下に敷かれている卵を見つけた。

数多くあるその中に、目的の金の卵が日の光を反射して光沢を放っている。

 

それから視線を逸らし、周りの状況を確認。

ハリーとドラゴンが睨みあうこのステージは、大小さまざまな岩が置かれており、凹凸がある。

これでは飛び回るドラゴンと違い、ハリーは移動するのに苦労するだろう。反面、岩の裏に隠れやすいメリットもある。

総合して平野よりはマシかと思われる地形であった。

 

大体の周りの状況を把握くしたところで、ハリーは杖を掲げた。

目標は岩の中で特に大きい岩。高さはハリーの身長より数十センチ、横幅に至っては三倍はあろうかと言う巨岩だ。

 

「『ロコモーター』」

 

呪文により浮いた岩をハリーは渾身の力を込めてドラゴンにぶち当てる。

ドラゴンが怯み声を上げ、解説のバクマンが何事か言っていた。

しかしハリーの耳にはドラゴンの声しか聞こえず、何を言っているのかはわからなかった。

 

ハリーを睨みつけたドラゴンは卵を自分の身体で隠す様にハリーに近づく。

ハリーとの距離が半分ほどまで縮まったところで火を吐いてきた。

 

それから身を守ってくれそうな手ごろな岩が近くになく、仕方がないから盾の呪文で防ぐ。

 

「『プロテゴ』守れ!」

 

千数百度の炎を身近に感じ、死の予感が近づいた。より強く、より深く身体に巻き付く。

炎を防ぎきった後、ハリーはドラゴンに妨害呪文をかける。

 

「『インペディメンタ』妨害せよ!」

 

それはドラゴンの皮で易々と弾かれる。

ドラゴンはより一層怒り、爪や尻尾でハリーを切り刻もうとした。

 

それを盾の呪文で防いだり、身を翻して躱しつつ、ハリーは少しずつ卵へ向かいやすい場所に移動する。

その過程で、ドラゴン自体を盾の呪文で防ぐことは出来ないと言う事を知った。

この先、役立つことはないだろう知識を脳裏に刻みつつ、ハリーは先ほど浮かした巨岩をもう一度ドラゴンの横っ腹に叩きつけた。

 

魔法の効果は薄くとも、大質量の物体を叩きつければ効くらしい。

それは出会い頭に確認済みだ。ドラゴンはハリーが入ってきた出入り口に向かってたたらを踏んだ。

その隙を縫って、ハリーは卵へ駆けだす。

 

しかし、いくら巨岩を叩きつけられようとも全長十メートル以上のドラゴンだ。

人間にしてみれば一回殴られた程度の効果しかない。

 

ドラゴンはハリーが卵に向かっていると知るや、跳ねるように移動してハリーへ追いつき、追い越し爪を立てる。

ハリーは咄嗟に身を沈めて躱した。

 

身動きの取れなくなった所に尻尾の一振りが襲い来る。

盾の呪文で防いだ。

 

ドラゴンが火を噴く準備をする。

再び盾の呪文を使い防いだ。

 

炎が止んだところで、ハリーはルーモス・マキシマの呪文を唱える。

目潰しである。これならドラゴンの暑い皮膚に遮られる心配もない。

ドラゴンが吠え声を上げて後退した。その隙に走る。

 

――――最初から目潰しをしていればよかったのだ。結膜炎とか。

 

心のどこかでそんな声がした。ちょっとうるさい。

ハリーはドラゴンの横を通り抜け、尻尾を掻い潜り巣の中へ。

 

そうして、金の卵を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

第二の課題は湖の中に縛られた大切な物を取り戻すと言う内容だった。

当日まで、一体何を奪うつもりなのだろうと首をかしげていたハリーだが、蓋を開けてみればペットの白梟だった。

それに特に思うことはなかったが、代わりにハグリッドの怒りが燃える。

 

どうやら、唯一の可能性を持つハグリッドを湖底に縛り付けることは危ぶまれたようだ。

あんな大きい物を担いで岸に上がるなど出来ようはずもない。やれと言われたら課題をボイコットしていただろう。

 

誰だか知らないが課題の内容を考えた人物にはお礼を言いたい。十中八九ダンブルドアが噛んでいるだろうが。

 

泡頭の呪文と脚の変化術を解き、ハリーは今しがた救出した梟をハグリッドに高々と掲げて見せつけた。

観客席に座るハグリッドの顔が強張り、周りの生徒たちは笑い声を上げる。特にスリザリンが騒がしい。

「なんだあれ?」「君の大切な物は梟かーい?」「寂しい人間だなあ!」

失礼極まりなかった。

 

自分の服を乾かし、ついでに梟も乾かして空へと放つ。

フクロウはすぐさま梟小屋へ向かって飛び立った。多分寝るのだろう。

 

駆けつけたマダム・ポンフリーに元気爆発薬を受け取りながら審査員席に目を向ける。

 

ほとんどの人間が高得点をかざしていた。

唯一、嘲笑を浮かべたカルカロフだけ他の審査員と比べて三点ほど低い。

友達がいないことがそんなに面白いのか。仲間を売ったくせによく笑えたものである。

 

しかし、いくらカルカロフが低い点数を付けても結果はかわらない。

物には限度と言うものがあるのだ。現時点での単独一位はハリーに決まった。

 

その事実に喜びはなく達成感もない。

何とも奇妙な感情を胸に、ハリーはマダム・ポンフリーに布団お化けへと変化させられていた。

 

 

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