ぼくのかんがえた さいきょーの かんたい   作:変わり身

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戦艦1

俺の務める鎮守府には艦娘が居ない。

 

いや、居るには居るのだが初期艦の五月雨さん一人だけ。深雪だとか敷波だとか、他の鎮守府では比較的出やすいと聞く艦娘でさえも配属されていないのだ。

 

まぁ俺が就任一週間も経っていないペーペー提督である事もあるだろう。

しかしだからと言って数日も経っているのに一人の艦娘も増えないなんて事があるだろうか。

 

無論、建造をしていない訳ではない。就任当日、新人らしく全資材30均一で工廠を回すという可愛らしい建造を行った。

 

しかし全てのドックに現れた数字は??:00:00。

分と秒数はキチンと動いているのだが時の単位が分からず、数字が延々とループするのだ。

 

ああこれ絶対バグってる――そう思い大本営に問い合わせてみたものの、返った言葉は『正常稼働中ですよ』。ふざけんな。

その後も必死に説明したが、幾ら言葉を重ねても聞いてくれず。最終的にクレーマー扱いされた事にブチ切れ電話機を大根おろしで摩り下ろしたのだが、まぁ当然の処置である。

 

仕方ないので建造中止しようにも、何故か妖精さんが言う事を聞いてくれない。

何でも「これほどやりがいのあるシゴトは ハジメテであります」との事で、何やら妙に張り切っており高速建造すらも「邪道である」と受け付けてくれなかった。

 

正直意味が分からん、分からんのであるが、可愛い物が大好きな俺は彼女達に屈し、結果ドッグは満杯状態のまま放置する事になった。

可愛いは正義であると同時、悪にもなるのだ。

 

ともかく、そうなれば残る方法は周辺海域での引き上げだ。

野良の艦娘を説得し、この鎮守府に来てくれるよう拝み倒すしかあるまい。

仕方なく唯一頼る事のできる五月雨さん単独で周辺海域に出て貰い、何とかSランクの勝利を収めて貰ったのだが――やはり何故か艦娘は現れなかった。

 

探せど探せど海上に見えるは敵ばかり。誰にも出会えず一人トボトボ帰還する五月雨さんを何度ガッカリと迎えた事か。

 

「うう、お役に立てず、すいません……」

 

しょんぼりしながらそう言うが、彼女に責はまったく無い。あるとすれば俺の運だ、きっと。

ともかくまぁそんな感じで一週間。艦娘が少ない以上やる仕事も無理も無く、一度か二度の出撃が終わった後は日がな一日五月雨さんとお茶するのが日々の日課となった俺であった。

 

何だろう、光子力鎮守府という意味不明な名前が嫌なのかな。ここに配属された提督も俺以外に居ないし、全く分からん。

 

 

 

 

もう一度しっかり妖精さんと話し合ってみたのだが、やはり作業を中止してはくれなかった。

工廠妖精のリーダー格であるウリバタケ班長&アイちゃん研究員が決して頷いてくれないのである。何でも今行っている建造はロマンの塊であるらしく、工廠に務める妖精としては絶対に逃したく無いのであるとか。

 

「せつめいするであります。せつめいするであります」

 

「こんなコトもあろうかと! こんなコトもあろうかとー!」

 

ロマン。成程、確かに良い言葉であるが、それはそれとして何とかなりませんかね。

頭を下げても、土下座をしても、土下寝をしてもまるで駄目。どこか狂ったような笑い声を上げながら一心不乱に溶接機を振るう班長達にあえなく敗北D判定。

あんなぶっ壊れた表情でも可愛いと思ってしまったあたり、俺もどっか壊れているのかもしれない。

 

「大丈夫です! 提督はしっかりした人ですよっ」

 

お茶を啜りつつの愚痴にそう返してくれる五月雨さんの何と心に優しい事か。

途中で捕まえた妖怪猫吊るしを肴に今日もやる事の無い一日を過ごしたのであった。

 

 

 

 

「提督っ! 工廠、動きましたよっ――!」

 

今日も今日とて閑職閑職。

執務室で妖怪猫吊るしと戯れていた所に半裸の五月雨さんが現れたのは、工廠を作動させてから17日後の事であった。

入渠中に知らせを受け取り慌てて走ってきたらしい彼女に上着を投げつけつつ聞いてみれば、埋まっていた工廠ドックの内の一つが99:59:59の表記になり、正常にカウントを刻み始めたらしい。

今更羞恥に震える五月雨さんを引き連れ工廠へと向かうと、そこには確かに動き始めた数字が見えた。日数にして4日と少し。

それだけ経てばやっと新しい艦娘が配属されると言う事か。

 

ようやくこれで鎮守府らしい鎮守府になる。五月雨さんと二人で喜びつつ、来るべきその日をウキウキしながら待ち続けた。

勿論ただ座していた訳ではない。演習や轟沈しない程度の出撃をこなし、海軍として最低限の義務を果たした上でだ。

 

まぁ五月雨さん一人きりであるので大した成果も挙げられず、演習先の艦娘達に「あの提督虐待してんじゃないの?」と心配される程の体たらくだった訳だが。

 

しかしそう言っていられるのも今のうちだ。きちんと艦娘を配備できれば、きっと健康的な鎮守府になる。

そうなれば誤解もきっちり解け、五月雨さんにも辛い思いはさせなくなる筈――そんな希望を支えに日々お茶を飲み、遂にその日がやって来た。

 

「新しい仲間、早く会いたいですね~」

 

全くである。

兎にも角にも建造完了。俺は傍らに五月雨さん、頭に妖怪猫吊るしと完全武装の様相で工廠への扉を押し開いたのである――!

 

 

 

「――こんにちは。ナデシコ級第2世代型戦艦。NS955B、通称ナデシコBです。よろしく」

 

 

 

ドックの中より現れたのは、銀色の髪をツインテールに纏め、未来的な服と装備を身につけた十代中頃くらいの少女だった。

何とも人間離れした美しさを持っており、妖精、という言葉が浮かんだ。いや、猫吊るしのようなちんちくりんでなく、神秘的なという意味で。

 

はて、にしてもナデシコBさんねぇ。花の名前とは珍しいが、そんな戦艦あったっけ。海軍の教科書には載っていなかったような。

うんうん悩む俺を他所に、五月雨さんはナデシコBに駆け寄り「よろしくお願いしますねっ!」と握手した腕を上下に振っている。どうやら初めての仲間に大層お喜びであるらしい。

まぁ、色々考えるのは後で良いか。俺は胸の疑問をすぐに忘れ、五月雨に続いてナデシコBさんを歓迎する。最初は目を白黒させていた彼女であったが、やがて静かに微笑んだ。

 

戦艦という事は火力に関しても頼りになるだろうし、長く待った甲斐はあったかもしれないな。

とりあえず詳しい話を聞くべく執務室へ案内しようとしたその時――くいくい、とズボンの裾を引かれた。見ればウリバタケ班長が今しがた空になったドックを指差している。どうも残りの資材を使って新しい艦娘を建造したいようだ。

 

まぁドックを遊ばせておくのは勿体無いとは俺も思う。思うけれども。チラリと未だ開発残り時間の不明ドックを盗み見る。

 

「こんなコトもー、こんなコトもー」

 

……いや、流石にもう無いだろう。

胸中に過ぎった嫌な予感振り払い、班長に30均一での建造を許可する。途端「えー」とガッカリした目で見られたが仕方なし。

 

資材に関しては五月雨さんの補給と入渠にしか使用しておらず余らせてはいるが、今この鎮守府に必要なのは頭数だ。なので短時間で建造が終わると噂の駆逐艦か軽巡を求めての命令だった、のであるが。

 

――残り時間 ??:00:00。

 

その数字を見た瞬間班長は喜びの咆哮を上げ、俺はガックリと膝を付く。

ナデシコBさんがそんな俺達を「ばかばっか」と言いたげな目で見ていたが、何か気持ちよかった。

 

 

 

 

「私、ナデシコBは本来ワンマンオペレーションシステムプランの為のデータ収集を目的としていました。ですので武装は少なく、戦闘における多様性には欠けています。あしからず。ですがグラビティブラストとディストーションフィールドは標準装備されており――」

 

とか何とか云々かんぬん。ナデシコBさんから伝えられたスペック情報はやたらめったら横文字が多く、それはもう難解を極めた。

 

おかしいな、これでも海軍での成績はそこそこ良かった筈なのだが何を言っているか半分も理解できない。おお、五月雨さんなぞ頭から煙を吹いておられるぞ。

鎮守府に配布されている図鑑にもナデシコBさんの項目は無いし、問い合わせようにも本営に繋がる通信機器は全て摩り下ろされている。一体誰だこんなよくわかんない事をしたのは。

 

まぁ謎が多い彼女ではあったが、五月雨さんと戯れている様子を見る限り悪い子では無いようだ。多少毒舌でクールではあるものの、そこにも悪意は感じられない。

ならば一先ず何かすげー戦艦と認識しとけば問題あるまい。性能も実戦を通して把握すれば良いと決断し、五月雨さんと共に早速演習に出撃を命じた。

 

……のだが、何故かナデシコBさんは気乗りしないご様子。

聞いてみれば、何でも自分では上手く「てかげん」出来ないのだそうな。

 

おお、戦艦らしい凄い自信である。俺は鼻白むどころかむしろ頼もしさを感じ、ならば実際に敵を相手にその力を見せて貰う事にした。

 

幸い(とも言ってられんが)俺の艦隊に許された出撃区域は鎮守府周辺海域のみ。余程の下手を踏まないかぎりは轟沈する事もあるまいだろうと慢心し、五月雨さんを旗艦に据えにこやかに送り出す。

 

『あの、初めての出撃で緊張しているかもしれませんが、一緒に頑張りましょうねっ!』

『分かりました。では程々に』

 

オペレーター担当の妖精さんを通じて届く会話を聞く限り、二人の相性もそれほど悪くないと見える。

善き哉善き哉。妖怪猫吊るしと一緒にうんうんと頷いていると――レーダに敵影の反応。どうやら駆逐イ級と接触したらしい。

 

数は2体。五月雨さん一人でも問題無いレベルだ、これならば肩慣らしには丁度いいだろう。俺はナデシコBさんに一発かまして貰おうと指示を出した。

 

『単横陣ですか。なら一回で済みますね』

 

すると彼女はそう呟くと己の艦装を構え、一歩前に出る。

安全装置の解除だろうか。カシャン、カシャンと装備の各所から何かが外れ空気が漏れる音が響き――最後に胸元にある逆三角形の飾りのシャッターが開かれ、そして。

 

 

『――グラビティブラスト、発射』

 

 

――瞬間、音が消えた。

 

 

まずイ級に向かい一筋の光が奔り、一瞬遅れて空間が歪む。耳をつんざく高音が辺りに轟き、射線上の海面が激しい飛沫を撒き散らし左右に割れ、不可視の死道を形成する。

当然その直撃を受けたイ級達がただで済む筈も無く、その身は捻れ、潰され、引き千切られ。明らかなオーバーキルで持って爆散。欠片一つ残さず粉微塵と消えたのだ。

 

『……えっ』

 

そんな呆然とした五月雨さんの声は、一つに戻る海の轟音の中に消え。後には飛沫の落ちる雨音が鳴り続けるだけだ。

そうしてそれを成したナデシコBさんは静かに一言、通信妖精を通した先の俺へと問いかけた。

 

 

『敵、殲滅を確認。このまま進軍しますか?』

 

 

――その声に失禁しなかった事は勲章ものではあるまいか。

 

俺は妖怪猫吊るしと抱き合いガクブルと震えながら、ひたすら首を上下に振る事しか出来なかった。

 




なーんにも考えずどうぞ

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