第二章「魔王と魔王」
「くっ、くそ! ちぃ、これでも勝てぬのか! 役たたずめ! 余がいくら出したと思ってるんだ!」
ーーそう。それはもはや日常と化した状況だった。パソコンの前で魔王は格闘をしている。単にネットゲームをしているだけの事だ。
何か聞き捨てならない言葉が入っていたような気がする。
「『いくら出した』ってのはゲームの中での通貨かなにかか?」
「ん? 確かにこのゲームではゲーム内通貨というものは存在する。しかし、それで手に入るアイテムはグレードが幾分落ちるんじゃ。強力なのは有料の課金アイテム、これくらい、昨今のネットゲームでは常識の分類じゃ」
いつの間にか、魔王は勇者よりも現代の日本に詳しくなったようだ。
あくまでも駄目な部分の。
「じゃあ、なにか。お前が買ったのはゲームの中での通貨の話じゃなくて」
「当然じゃ。余が貧弱な装備で満足すると思うか。有料アイテムじゃよ。有料アイテム」
「なぁ、魔王、お前は今無職だよな。この世界の言葉で言うところのニートだ」
「そうじゃ。余は現在絶賛無職中じゃ。最近テレビで「働いたら負け」と言っていた若者を見たぞ。つまりは働いてない余は勝ち組じゃ」
「開き直るな!」
ぐりぐり。
「い、いだい! や、やめるんじゃ」
「その金は俺が稼いだんだよ! ゲームのアイテムに課金しやがって!」
「や、やめろ! やめるんじゃ! 痛い」
「ぜぇ、はぁ・・・・・・・無駄につかれた」
誠司には途方もない徒労感に襲われた。
「まぁ、落ち着け勇者よ」
「これが落ち着いてられるか・・・・・・まったく」
「いいから、それよりこれを見て見ろ。余が買ってきたパソコンは情報収集に大いに役立っておるぞ」
「なんだって・・・・・・・またこの界隈で行方不明者が」
「うむ。しかも行方不明になったのはこの辺の高校ーー星城(せいじょう)高校の女子生徒らしい。これで何人目かわからない」
「この前、美咲ちゃんを襲ったみたいにモンスターが」
「いや、その可能性は低いじゃろう」
「なぜ?」
「明らかに作為的なものを感じる。これはある程度の知能がなければ出来ない芸当じゃ」
「ーーつまりは」
「何者かが、元いた世界、ユグドラシルから紛れ込み、犯行を行っていると考えるのが妥当なところだろう」
「でも何の為に」
「わからん。誘拐するのが趣味というわけでもないだろうし。恐らくは何らかの目的で拉致しているのかもしれん。モンスターでなければ、もしかしたらまだ生きているかもしれん」
「ーーだったら助けにいかないと」
「ーー嫌じゃ。そんなもの余は面倒くさい」
「何が面倒くさいだ。人命に関わるのに」
「勇者よ。貴様は余の本質を勘違いしている。余は魔王じゃ。そもそも、人の命を助ける義理などない。そう思わないか?」
「ーーそうだが」
「そうだ」
「そうかーーだったら」
勇者はパソコンのケーブルを抜き始めた。
「ま、待て! 何をする!」
「そういう事いうならこいつは中古ショップで売ってくる」
「ま、待て! 話し合おうではないか! 平和的解決を余は提案する」
「平和的解決?」
「ふ、不本意で面倒くさいが協力しようではないか。行方不明者の捜索に」
「ったく、最初からそう言っておけよ」
「まったく人使い、いや、魔王使いの荒い勇者よ」
魔王はそう言ってため息をついた。
「・・・・・・・それで」
勢いよく外に出たはいいものが勇者はその後の事をあまり考えていなかった。
「これからどうする?」
「貴様は馬鹿か。余を外まで連れ出しておいて、この考えなしが」
そう、勇者は叱責をされる。
「少しはその使えない脳味噌を使ってみてはどうだ? 失踪しているのは主に学生だ。しかも特定の学校、地域に絞られる。そこからは一つの推測が導き出される」
「推測?」
「恐らく、犯人は学校の関係者じゃ。そう考えるのが妥当なところじゃろう」
「・・・・・・しかし、何の目的で」
「その目的はわからん。だが、そう推測しておいた方が無難じゃ。ともかく、その学校とやらに行ってみる事にしよう」
ここでひとつ問題がある。普通、学校というものは制服というものを着ている。制服を着ていないと部外者という事が簡単にバレてしまう可能性が高い。そうなれば排斥される可能性もある。
「ふむ。そうか、だったら何とか制服を用意してこんか!」
「けど、どうやって」
「余がそんな事を知るか」
ーーとはいえ買っている余裕はない。時間以上に資金的に。もしかしたら専門の店、あるいは古着屋などで制服は販売しているかもしれない。
しかし、買っている余裕はない。主に資金的に。資金的に。
「意地でもその制服というものをゲットしてみせろ。これは命令だぞ」
そう魔王は凄みをきかせる。
「わかった。何とかする」
結局魔王は大家に泣きついた。説得は難航した。美咲には兄がいて、幸いな事に彼女と同じ高校、星城学園に入学していた為、制服があった。さらに美咲の制服のスペアを借りる事に成功した。
説得には難航したが、その必死の様子にしょうがなく貸与する事を決定した。
「ふむ・・・・・・・木偶かと思ったがやればできるではないか」
魔王とはいえ、酷い口振りだった。勇者がどれほど苦労したと思っているのか。とはいえ、今は口論になっている時間も惜しい。
「それより、早く着替えろよ」
「ふむ。そうするかの」
二人は公園にあったトイレで着替える。
「・・・・・・・ふむ。いささかサイズが大きいが」
そういって魔王は出てきた。外観からは普通の女の子にしか見えない。
しかし、普段のずぼらな格好とは異なり、制服というものは妙な魅力というものがあった。
「ん? どうかしたか? 勇者よ」
「・・・・・・いや。何でもない」
今は見とれている場合ではない。人命がかかっているのだ。
ともかく、二人は田村美咲の通う、そして恐らくは連続誘拐事件の犯人が潜むであろう、星城学園に向かう。
本当は書き上げて整合性をとって、それから皆様に見せるというスタンスがいいのかもしれませんが、やはり継続的に書いていこうとすると、部分部分で書き上げてアップしていくというスタンスがベストかと思います。
至らないところ多々ありますがお付き合い頂いている方、誠にありがとうございます。